第15話 口内ミッションからの、副産物
「お。ちょっと……」
───臭う、かも
鼻から息を吸うのを、辞めた。
ボクは今、巨人 マリオさんの口内におります
ザラッとしてヌメヌメした舌の上。
か細く開いた口先から光が入ってくる。
照らされた口内。
羅列した歯たち。
ところどころ、隙間に挟まった何か。
「ひと仕事終えたら……歯磨き、教えてあげようかな?」
その前に歯ブラシを創る?
いや、フロス?
いや違う、レンガが最優先
喉の先へと足を進める。
足が動く度に、靴底がヌチャ。ぬちゃっと音を立てる。
舌の裏からせり上ってくる粘り気のある液体に行く手を阻まれる。
「あっ?!」
足が、取られた。
ズルッ、
────ベチャッ!!
「──くっ?!」
思いっきり腰を腰を打ち付けた。
しかし、その衝撃は全て舌が吸収してしまう。
身体は痛くはないが、
「服が、びしょ濡れだ」
手についた涎を払う。
飛び散る液体。
匂いは嗅がないようにする。
『 ……ドジね。ウジウジ虫 』
かつて、言われた言葉が蘇る。
バカにした目とともに。
「───全く、その通りだね」
膝に手を付き立ち上がる。
行く先は闇そのもの。
入り口には、垂れ下がる巨大なオブジェ。
その先に何かが見えた。
白いような細長い異物。
「……ターゲット発見」
ボクは勢い良く駆け出した。
喉奥へと辿り着くと、姿を現すターゲット。
自分よりも何倍も太い骨が喉の壁に突き刺さっている。
「……ここからじゃ、届かない」
ボクの足先には道はない。
あるのは崖。
その先は……胃へと直通ルート。
息を呑む。
『 お前には、無理だろ?──ウジウジ虫 』
『 ははっ。あははは。出来るわけないわ 』
ボクを卑下し、蔑む嗤い声が頭に響く。
この場に存在しない過去の亡霊がボクを抉ってくる。
顔が俯き、指先が震え始めた。
「……ボク、は」
「「「 ────ジェイスっ!! 」」」
ボクの名を呼ぶ声に、顔が前を向く。
光が差した方へと向き直る。
唇の向こうに見えた、美魔女さま。
「「「 さっさと、帰って来なさ───い! 」」」
その声に、亡霊たちの声が打ち消されていく。
「───了解です。アンジュさま」
ボクの瞳に光が宿った。
ターゲットから距離を取った。
改めて、しっかりと見定める。
助走をつけても、跳んだとしてもギリギリ届くか分からない。
それでも、
「アンジュさまが待っているなら」
───やるしかない!
腕を前に出し、軽く手を握る。
そして、少し前に屈む。
息を整え、前を見据えた。
───ピィロロロロ!
図ったのように鳥が、鳴いた。
それを合図に、ボクは舌を蹴った。
激しく舌を足で打つ。
唾液と軟さで安定しない足場。
滑りそうになりながらもボクは走った。
崖に差し掛かる。
視線はターゲットを捉えたまま、ボクは力いっぱいに踏み込んだ。
浮遊する身体。
下はボクを飲み込もうとする暗黒。
腕を伸ばし、手を刺す。
ターゲットに指先が触れた。
や、やった……?!
喜んだのも、束の間だった。
────ガッグン!
浮遊していた身体が、落下を開始した。
髪が舞い上がる。
暗黒がボクを向かい入れようと待っている。
このままだと、マズイ……
ボクは縛ってある髪を引いた。
─────その瞬間、
「ハア、ハァ、ハクシュ────ンッッッ!!!」
圧縮された空気が筒を通る。
その圧に押され、ボクの身体が上昇した。
ふわっと埃のように舞うボク。
この奇跡をボクは、幸運に変える。
両手を伸ばす。
ガッシッと掴み、身体を引き寄せ絡みつく。
「ガァァァァオオオオ!!!」
ペンドラゴンの咆哮が鼓膜を揺らす。
縛った部分に力が加わる。
ボクは必死にしがみつく。
───ギュ、ギュ。
髪ロープが引かれる度にターゲットの全貌が露わになっていく。
ずぽんっ!!
見事、引き抜かれた魚の骨。
抵抗が無くなったおかげで、ボクとターゲットは口から迸る。
飛び出たボクを受け止めた温もりある掌。
急に外に出たせいか、陽の光が眩しい。
「「「うぉおおおおおおお!!!」」」
鼓膜が破れそうな程の歓声が上がる。
「ゴマ人が、やったゾ!!」
「良かったな!マリオっ!」
賞賛とマリオへの安堵の声が響き渡る。
地面に落ちた魚の骨。
マリオは自分を苦しめていたモノを眼下に眺めた。
「こ、こんなちっぽけな骨で、俺をここまで苦しめるとは、な……」
辛そうだったマリオの顔が和らいだ。
「……良かった。助けられて」
その様子を眺め、ボクは胸を撫で下ろした。
「ええ。本当に、良かったわ」
落ちてきた声音。
ボクはその声の主へと身体を向き直す。
そこに居られたのは、
「……アンジュさま」
少し目頭が赤く、涙目なアンジュさま。
もし、かして……
ボクのことを
「おかえり、ジェイス。そして、お疲れさま」
小首を傾げながら、微笑まれるアンジュさま。
ボクにとって、この上ない
ご褒美でございます
「……あ、の…」
ボクはゆっくりと振り返る。
声を掛けたのはマリオだった。
「……お礼を言う。ありがとう」
「いえ、大事にならなくて本当に良かったです」
「その、なんだ……お礼をさせて欲しい。何か欲しいものはある、か?」
「お礼なんて別に……」
「ジェイス、何か貰っておきなさい。巨人族は義理堅い種族なの」
アンジュさまから忠告が入った。
「そうなんですね。う──ん」
特に欲しいものなんてな……ん?
あれって!?
あの日のサイモンさんとの会話が呼び覚まされる。
「ジェイス、泥や砂利だけじゃダメなんだ。レンガには繋ぎとなる──」
サイモンはおもむろに掴んだ。
掴んだ、それは......
「ただ干した が入るだけで頑丈なレンガになるんだ。スゲーだろ。弱くても色々な素材が集まれば、強固になる。覚えとけ!」
「その腰に巻いているモノは何ですか?!」
ボクは指を差し、身を乗り出した。
「こ、コレか?コレは……藁だぞ?」
そうだ!藁だ!
レンガの繋ぎに必要な素材!
「それ、下さい!!」
ボクは鼻息を荒くし、叫ぶように告げた。
その熱量にマリオは若干引き気味である。
「……あ、構わねぇよ。腐るほど、たくさんあっから」
「本当ですか、ありがとうございます」
ボクは頭を下げた。
その後ろでパタパタと宙を飛ぶペンドラゴン。
「ガルルァ」
(我は?)
ペンドラゴンもお礼を言ってくれて、ボクは感無量です。
「ガルルルゥゥ」
(我の分のお礼を忘れてるぞ!)
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