第14話 巨人に食われました
「ゴラァ、待ちやがれっ!」
ガラの悪い声が爆ぜた。
目を光らせ、意気揚々と迫り来る───大量の巨人!
ボクたちを捕まえようと、巨人たちは手を伸ばす。
魚の骨?のようなものを口に咥えた男が、ペンドラゴンの尻尾の先に触れた。
や、ヤバい……
このままだと、捕まってしまう
暴徒と化した巨人たちは止まる気配はない。
風で髪と服がなびく。
後ろを警戒しつつ、ボクはペンドラゴンに声を放つ。
「ぺ、ペンドラゴン!?もっと、もっと、高く─」
ボクを何気なくチラ見したペンドラゴン。
「ガルゥ」
(無理だ)
「さすが、ペンドラゴンッ!」
「ガフッ?!」
(な、なぬっ)
ボクは翼の付け根を指に力を込めた。
「ガウゥゥゥアアア!」
(どうなっても知らぬカラなっ!)
翼膜が風を切り、空を掴む。
また一段、高く飛び上がる。
空を裂きながら突き進むボクたち。
障壁など何もない、解放された世界。
「なんて、清々しい……空だろう」
目を伏せ、風を感じる。
頬を撫でる疾風。
喧騒などボクの耳には届かない。
「……気持ち、いい」
今の状況を一旦、頭の端に追いやった。
この心地良さをボクは一生忘れたりはしないだろう。
「う、ウガッ!?!」
地上から突如として鼓膜を突き刺した。
ボクは下へと視線を送る。
さっきの魚骨の男が喉を押さえながら、膝を地に付けていた。その周りを他の巨人たちが囲む。
「おい、どうしたんだ?!マリオ!?」
モジャモジャ髪がマリオの肩に手を乗せ、顔を覗き込む。
「グハッ、ゴホッ!!」
咳き込みながら太い指を口に入れるマリオ。
「苦しいのか?!おい、返事しろ」
顔の中心に寄る皺。
マリオの口から垂れる涎。
片方の手に土が着く。
「ペンドラゴン、降りよう……」
ボクは静かにそう告げた。
「グヌゥ?」
(正気か?)
「うん。……連れて、行ってくれる?」
宙に浮かんだボクの声。
金色の瞳が細められた。
「……ガグウ、ガルルルア」
(……ふん、今回きりだ)
ペンドラゴンは翼を翻し、旋回した。
そして、首を下に落とす。
風が抵抗し、ボクの身体を押し上げる。
ボクは身を屈めた。
バサッ。
───バサッ。
巨人たちの目線に停空するペンドラゴン。
大きい瞳がボクたちを捉える。
聞こえてくるのは、マリオの苦しむ声だけ。
「……ウガッ、ふぅ……あふぃ」
皆の視線がマリオへと移る。その眼差しは不安げにまつ毛を揺らす。
もう、彼らはボクらの存在など眼中にない。
「どうしちまったんだ!マリオ?!」
群衆の中から上がる声。
周囲が、ガヤガヤと騒ぎ始める。
「もしかして、……」
ボクはマリオの周りを舐めるように眺める。
「やっぱり、無い」
ペンドラゴンの首元をトントンと手のひらで叩く。
「グヌゥ」
(なんだ)
気怠そうに顔を擡げたペンドラゴン。
「ペンドラゴン、マリオさんの所に行って欲しい。このままだと、……危ないかも」
「グゥゥウ……ガヴゥ」
(我たちの方が、……ったく)
ペンドラゴンは大きなため息を吐いた。そして、翼を動かした。
マリオの前まで一直線に飛んだ。
相変わらず、喉を押さえながら嘔吐くマリオ。
地面には垂れた液が海になっている。
滝のように流れる口水。
「……早く助けなきゃ」
口から出た言葉。
ボクは、ペンドラゴンの背に足を掛けた。
「マリオさん!!───今、助けますから!!」
ボクはここ一番大きい声を発した。
マリオはボクへと視線を上げると、小さく頷く。
「ガルルル」
(放っておけば良いものを)
ペンドラゴンが何か言ったようだが、ボクは顔を上げた。
「あの人のなら……」
息を大きく吸い込む。
「そこのロン毛のお兄さん!!髪の毛を一本ボクに下さいっ!!お願いします!」
「え?!オレか?」
肩をビクっと震わせると、お兄さんは指に髪を絡めブチッと引っこ抜いた。
その一本の髪をボクに手渡す。
ボクの小さな手に乗せられた髪という名の頑丈なロープ。
ボクはその髪ロープを自分に巻き付け、縛る。
「マリオさん、ボクが口の中に入ります。嫌かもしれませんが、我慢して下さい」
目を伏せたまま、マリオは小刻みに首を縦に振る。
ボクを迎えに来た武骨な手。
そう告げるとボクはその手へと飛び降りた。
「ペンドラゴン、こっちの端を持っていて」
「……ガゥガゥ」
(……なんで、我が)
「ありがとう。君の活躍、期待してるから」
「ガウッ……グゥゥ」
(なっ、……承知した)
「ボクが合図したら、引っ張りあげて欲しい。頼むよ、ペンドラゴン!」
ペンドラゴンは瞼を伏せた。
「人命救助と、いきますか」
ふたつの指先が繊細にボクを摘みあげる。
空を向いた顔。
暗い大きな口の中。
その中にボクを静かに入れるマリオ。
皆がそれを固唾を呑んで見守る中、金切り声が天から落とされた。
「うそっ!止めてよ!!」
ボクは声の主へと顔を向ける。
そこには、自分の頬に爪を立てるようにして、悲痛な表情を浮かべる彼女が立っていた。
あっ、アンジュさま
バクっ。
ボクの視界は暗闇に閉ざされた。
「イヤァァァァァァァア!!ジェイス!!!」
その叫びはボクの耳にはこもって聞こえた。




