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第13話 迷子は、どっち?







 どしん。どしん。

 地面は振動を止められない。


 アンジュの足先で約一時間半程かけ、辿り着いた場所。




 ここは────



『 巨人の台所 』 である。





 見渡す限りの大、大、巨大、超巨大。

 ボクの目にする全てが、規格外。

 行き交う全ての者が巨人たち。



「これは……まさに、摩訶不思議だ」



 置いてある岩鍋は、ボクが数百人入れそうな大きさ。

 住んでいた家並の大魚。

 何年かかっても食べきれそうにないカボチャ。



 同じ世界の住人であることを忘れてしまいそうになる。



「ふふっ。ジェイス、変なことを言うのね」



 アンジュさまの肩にちょこんと座るボク。その隣にはペンドラゴンも便乗し、乗っている。



「……いや、目に入るもの全てが新鮮で……圧倒される、というか……」


 急に都会に出てきた田舎者になった気分だった。


「それに、こんなにたくさんの巨人族の方を見るのも初めてです」


「でしょうね。巨人族は自分たちの土地から出ないで暮らしているから」


 行き交う巨人たちをすり抜けながら、進むアンジュさま。その度に視線が激しく揺れる。


「他の民族の土地で暮らすのは、骨が折れるみたい。だから、巨人族は他民族との交流もないわ」


「……巨人族、という民族がいるのは知識としてありましたが、実際に目にしたのは……アンジュさまが初めてです」


「でしょ?私もあの日まで他民族を見たこともなかったわ」


 ボクを見る目が細められた。

 どことなく、嬉しそうなお顔。



 そのアンジュさまの微笑みが、ボクの身体を火照らせた。



「グルルリュゥ……」

(何だ、この群れは、気持ち悪い……)



 アンジュさまの肩に力なくダラリと身体を垂らす、ペンドラゴン。目がグルグルと回っているように見えた。



「大丈夫?ペンドラゴン?」


 ペンドラゴンへと声を投げるが、ボクの声はガヤに掻き消された。




 ───ドンッ!!



 身体が後ろへと逸れた。

 滑り台のようにアンジュさまの背を滑る。


 突然の浮遊感。

 地面へと落下する感覚。


 身体が空を割く。



「……え?」



 アンジュさまの横顔がどんどん遠ざかる。



 ズ、ズルッ────




 ボクの頭上に静かに追走する白銀。



「え、それは、無理──!?」











「……すまないね。お嬢さん」


「いえ、この混みようですもの。怪我がなくて良かったわ」


 荷物を抱えた老婆に突撃されたアンジュは目元を和らげた。

 通路にひしめき合う巨人たち。

 この間にもアンジュの肩に、誰かがぶつかった。


「孫と離れちゃってねぇ……どうしよう、かしら?」


 眉根を寄せ、困ったように顔を手に乗せる老婆。


「まあ、それは大変。私も一緒に探してあげる」


 アンジュは老婆から荷物を攫うと、老婆の手を引いた。


「え、良いのかい?」


「もちろんよ。ねぇ、ジェイス」


 その問いに答える者は、いなかった。

 だが、アンジュは気にも留めず歩き出した。




 アンジュの目には、路地の端に蠢くモノは視界にも入らない。







 頭を幾度も下げる老婆。その隣には幼い少年。バイバイと手を振る少年にアンジュは声を掛ける。



「もう、勝手に行っちゃダメよ」


「はーい」



 バツが悪そうに笑う少年の背を見送りながら、アンジュは老婆に会釈した。



「……すぐ、見つかって本当に良かったわ。ふたりもそう思うでしょ?」



 答えは一向に来ない。



「もぉー無視とか、酷いわね」



 アンジュはジェイスが居る左肩へと視線を向けた。



「あ、あれ?……ジェイス?ペンちゃん……?」



 居るはずのふたりの姿が、ない。


 慌ててその場をクルクル回りながら姿を探す。が、影ひとつ見当たらない。



「……うそ。……私、 落としちゃった……?」




 天を仰ぐ。

 青い空に向かってアンジュは声を穿った。



「どこ行ったのよっ!?


 ──────私のペットたち!!」







 アンジュの声は虚しく、この場に響いた。










 ⅩⅩⅩⅩⅩ








 アンジュの肩から落下したジェイスとペンドラゴンは運良く、ペンドラゴンの三倍の大きさの雑草の葉の上に落ちたお陰で九死に一生を得た。


ふたりは路地の端で身を寄せあっていた。




「ぺ、ペンドラゴンッ!起きて、起きてってば!」



 ひんやりとした白銀の鱗の身体を強引に揺する。それでも、ペンドラゴンはピクリとも動かない。

 この状況にも関わらず、悠長に寝息をかいているペンドラゴン。



「いい加減に起きて、アンジュさまを探さなきゃ……」


 アンジュさまが消えていった方角へと視線を送る。彼女の姿はもう見えなくなった。


 ボクの長すぎる堪忍袋の緒もそろそろ限界だった。



「これは……もう、緊急事態だから。ごめん、ペンドラゴン」



 ボクはペンドラゴンの顔へとにじり寄る。ヒクヒクと動く鼻先。ボクはペンドラゴンの耳へと顔を近付けた。


 口先を尖らせ、細く息を吐く。



「ふう───っ」


 目が剥いた。

 金色の瞳が大きく開かれた。


「ふぎゃぁぁぁぁぁああっ!!」

(な、なにやつ─────!!)


 ペンドラゴンは四肢をバタバタと暴れさせる。



「ペンドラゴン、ボクだよ?ボク!」


 落ち着かせるようにペンドラゴンの顔を両手で押さえるが、目をキョロキョロと動かし、今にもホワイトブレスを吐き出しそうだ。



「ガルルルぁぁあ……ガァ」

「我をどうするつもりだ?!……ん?」



 金色がボクを捉えた。



「……ギュルルアッ!」

(……な、何をする!?下僕その1ッ!)



 息が荒いペンドラゴン。

 鋭く光る眼光。



「そうなんだ!アンジュさまと分かれてしまったんだ!早く、アンジュさまのもとへ行かないと……」


「ガルッ、───アグルゥゥ」

(は?下僕その1、──ナゼ我が)


「え、良いの?ペンドラゴン乗せてくれるんだね!ありがとう!」


「グガアッ、ガルルルゥゥゥゥ」

(貴様、下僕の分際で高貴な我に乗ろうと申すかっ!?)


「ボク、ひとりじゃ……何もできない。君がいなきゃ、ボクはここで、……野垂れ死んでしまっただろうね」


 ボクはペンドラゴンの背によじ登った。


「……君も、ボクの救世主。命の恩人だ」


「…………ガルルルガァ」

(…………下僕、そんなにも、我を)



 ペンドラゴンは翼をはためかせた。

 翼に風がまとう。


 銀翼の身体が宙に浮く。

 ペンドラゴンの一回の羽ばたきだけで、高く舞い上がる。


「ガルルルァァァァァァッ!」

(見ろ、下ぼ……いや、ジェイスッ!)


 その場にいる巨人たち全員が見上げた。


「グオオオオオオゥゥゥゥ!!」

(これが、我の力だぁ!!)


「す、すごい!さすが、ペン───ん?」



 巨人たちの目が妖しく光る。

 ボクたちに向けて差された指先。



「アでぇ?……羽トカゲじゃでねぇ?」


 ひとりの巨人の言葉に皆の目が更に際どく変わる。


 背筋を伝う汗。

 ピリピリとした気配を身体が感じ取る。


 これ……ヤバい、かも……?


「ペンドラゴン、逃げ────」


 ボクはペンドラゴンの耳に呟こうとしたが、その声は無情にもねじ伏せされた。




「「「オリャァ───!!捕まえろっ!!」」」




 野太い雄叫びが、巨人の台所にコダマした。



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