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第11話 幸せの味、崩れる黄金






「……ジェイス」



 こもったお声。

 眉間に皺が出来ておられるアンジュさま。



「あ、どうしました?」



 家(野営地)に下ろされたボクとペンドラゴン。

 ペンドラゴンは地面に足を付けた途端、キョロキョロと辺りを見渡している。



「ちょ、ちょっと、ね。……斬新な香りがね、」



 地に膝を付けたアンジュさま。

 ボクを傷付けないようにオブラートに包むように仰っておられます。



 あ、匂いに慣れてしまって気が付かなかった



「アンジュさま、すみません。今、身体洗って来ますっ」



 ボクは小川へと走り出した。



「あ、ペンちゃん!」


 アンジュさまの声がする。

 ボクの後を追うようにペンドラゴンも地を蹴った。







 空に大きな月が浮かぶ。



「つ、冷たい」



 足先を流れる水流に漬け込む。

 足から電気が走ったようにぶるっと身体が震えた。

 月光のお陰か、暗い夜もこの辺りは明るい。



「ペンドラゴンは、まだ川には入らない方がいいよ」



 川岸までボクについて来たペンドラゴン。鼻先を水面スレスレまで近付けているペンドラゴンへと声を投げた。



「服も洗わないとなぁ。そしたら……服がなくなる。どうしよう……?」




 裸でアンジュさまの前に

 現れるわけには……いないし



「ガルルゥア」

(別に全裸でも、構わぬぞ)


「え?ペンドラゴン……乾かしてくれる、の?」


 ボクは勢い良くペンドラゴンへと向き直る。


「グルゥ……」

(は?私が何故、そんな事を……)


 お互いに見合う。


「ありがとう、ペンドラゴン。早く洗っちゃうね」


 ボクは岸に置いてあった服を素早く手に取ると、全てを川に浸けた。


「……ガゥゥ」

(……ったく、仕方ない)




 バシャバシャ。

 服を擦り合わせ汚れを落とす。



「まあ、石鹸が無いからこんなものかな」



 服を広げ、月光に当てる。

 多少、緑色が薄くなった。



「匂いは取れたと、思うけど……」



 クンクンと匂いを嗅ぐ。



 ……いや、取れてない

 何か、臭う……


 ボクの身体も……クサイ……?



 ───バシャンッ!




 川の中を漂うボクの服。

 それを水中で眺める。



 バシャ。



 髪を伝い水がポタポタと落ちる。




「……次は必ず、石鹸持って来よう」



 浮かぶ月に誓った。





 水面を漂う服を掴み上げ、手首を捻る。

 ジャーと水面を叩く。



 水気が切れた服を落ちていた枝に垂れ下げた。

 その枝を両手で持ち上げる。


 ぷるぷると動く枝。

 雨のようにポツポツと地へと滴る雫。



「……じゃあ、ペンドラゴン。お願いします」



 物干し枝を持ったまま、ボクは丁寧に頭を下げる。



「グフッ」

(今回だけだ、ぞ)


 咳払いをするペンドラゴン。

 縦長の瞳が鋭く変わり、白銀の身体が月光を反射させる。

 首を引き、口が開かれた。



「バフゥゥゥゥゥゥ────ッ!!」



 ペンドラゴンの口から白き炎を噴く。

 その美しい白炎にボクは魅入られた。



「……なんて、綺麗な炎なんだ……」


 無意識に出た言葉。

 ボクは手元の枝や自分の服のことなど忘れ、ペンドラゴンの美しさに目を奪われていた。



「ガフッ」

(こんな、ものか)


 ボクはペンドラゴンを凝視する。

 熱い視線に気付いたペンドラゴンは、気怠そうにボクを見返す。



「……ペンドラゴン」



 ボクは手に持っていた枝をそっと地面に置くと、一気にペンドラゴンの傍へと距離を詰めた。



「なんて、君は……」


「ガルル?」

(何だ、貴様……文句で、も)


「最高……だよ」


「…ガルガァ……?」

(……私が、───最高?)


 俯いていた顔を引き上げる。

 ボクの顔を見たペンドラゴンは目を見開き、黒目を大きく広げた。


「凄い、本当にすごい!身体も綺麗なのに、吐き出すドラゴンブレスも最高ッ!!かっこいい!なんて、素晴らしいんだ」



 興奮し、いつも以上に熱が入るボク。ペンドラゴンを驚かせてしまったようで、彼の瞳が点になってしまった。


「ペンドラゴン?大丈夫……?ごめん、驚いたよね……」



 一歩後ろに下がる。

 自分が全裸だったことに今更気づく。


 転がっていた枝を踏み付け、乾いた音が鳴った。

 その枝に引っ掛けてある服を手に取り、腕を入れる。

 パリッと乾いた服。まだ暖かく、冷えた身体に丁度良かった。少し、焦げていたけど。



 これも、味。だね



「ペンドラゴン、本当にありがとう」


 そうお礼を口にすると、ペンドラゴンは照れたように視線を逸らした。



「グルルゥ……」

(調子が狂う)



「着替え終わったし、アンジュさまのもとへ帰ろうか。お腹も減ったし……」


 まだ視線を合わせてくれないペンドラゴンに投げ掛ける。


「ペンドラゴン?」


「ガルルァァ」

(貴様が、そこまで言うなら)



 ペンドラゴンはアンジュさまのいる方向へと足先を向けた。視線はまだ合わない。


 だけど、ボクはペンドラゴンと通じ合えると信じてる。









 水浴びと洗濯を終え、ボクたちはアンジュさまの待つ家(野営地)へと足を動かしている。



 風に乗ってくる香りに、お腹が刺激されてしまう。ペンドラゴンもお腹が減ったのか、鼻をヒクヒクさせている。



「ペンドラゴンも、お腹減ったでしょ?」



 ボクのペースに合わせて歩いてくれるペンドラゴン。そのことが嬉しくて、つい、ほくそ笑んでしまうボク。



「ペンドラゴンは優しい、ね」


「ガル……」

(煩い……)


 そっぽを向き、数歩先を行ったペンドラゴンを見守る。そんなボクたちが帰ってきたことに気付いた美魔女さまが手を振っている。



「おかえりなさい。さぁ、ご飯にしましょ!」



 月下の下に佇むアンジュさま。

 その神秘的な光景にボクの足が止まった。


 裏表がなく素直なその笑みにボクの心が、解れた気がした。





 家(野営地)に戻ると焚き火の周りにどっさりてんこ盛りの唐揚げが用意されていた。


 アンジュさまはボク専用のお皿に甲斐甲斐しく、お食事プレートを作ってくれるようです。



「ジェイスは……お米二粒で良いかしら?」


 アンジュさまが鍋の蓋を開ける。

 炊き上がったばかりのお米。

 湯気の時点ですでに美味しそうです。


「あっ、アンジュさま。今日はお腹が減ったので、三粒で。唐揚げは……」


 目の前にある唐揚げを見つめる。

 一個一個がかなりの大きさである。もちろん、ボクの口に入る大きさではない。


 ボクの頭の二倍だ。



「八等分して頂けると嬉しい、です」


「分かったわ。ペンちゃんは?」



 アンジュさまがペンドラゴンへと視線を移した。ペンドラゴンは特に何も言わず、鼻先で唐揚げの匂いを嗅ぐ。



「ペンちゃんは初めてかしら、ね?今日の唐揚げは今朝、ジェイスを襲ったビックドナルードで、作ったの」


「……かなり、大きい個体でしたよね?」


 ボクは今朝の超大型ビックドナルードを思い返した。


「そう?これが普通だけど」


「……え、普通、なんですか?」


「ええ。巨人族の土地では、生物や植物はこんなもんよ?」


「植物も?でも、木は大きくないですね」


「そうなの。不思議よね。はい、ジェイス」


「ありがとう、ございます。アンジュさま」


 出来上がったプレートを受け取る。

 鼻をくすぐる唐揚げの匂い。数種類のスパイスの香りが食欲をそそる。


「ペンちゃんは唐揚げだけで良いかしら?ご飯も欲しかったら言って頂戴ね」


 てんこ盛り唐揚げをペンドラゴンの目の前に置いたアンジュさま。取り皿はナシのようです。


「カルル……ガルァ」

(こんな匂いの強いものを、食せ……と?)


「まあ!美味しいだって、たくさん食べてどんどん大きくなるのよ!ペンちゃん!」


 これまた小高い丘のように盛ったご飯をペンドラゴンの前に置いたアンジュさま。


「ギュル……ガルルァ」

(いや、食べてないし、私はベジタリアンなのだが、)


「ああん、そんなに褒めてくれなくてもいいのに。……もう、特別よ?」



 アンジュさまはおもむろに何かを取りに行かれると、手に何かを乗せて戻って来られた。



「これはビックドナルードのジャーキーよ。さすがに全部唐揚げってのはナンセンスでしょ」



 はい、とペンドラゴンの前に差し向けられたジャーキー。



 ペンドラゴンはアンジュさまの無言の圧力をもろに浴びております。

 さあさあと言うようにアンジュさまがジリジリとにじり寄る。



 根負けしたペンドラゴンはバクっとジャーキーを口に突っ込み、嫌そうな顔しながら噛み砕く。


 次の瞬間、重たい瞼を跳ね除け、瞳を輝かせた。


「ウグァァァァッ!」

(美味ぃぃぃ!)



「美味しいでしょ?」



 口端を上げたアンジュさま。

 ブンブンと激しく首を縦に振るペンドラゴン。



「ペンちゃんの胃袋掴んだわ」



 ガシッと指を握り込まれるアンジュさま。



 ふたりを眺めながらボクは、アンジュさまのお手製の唐揚げを口に放り込む。


 噛むとジュワーと口に広がる肉汁。

 鼻に抜けるスパイス。

 噛めば噛むほど旨味が増してくる。



「美味しい……」



 ボクも、胃袋掴まれてます



 心が、温かい。

 目の前でわちゃわちゃし合っている、アンジュさまとペンドラゴン。この他愛もない時間がボクには、かけがえの無いものに思えた。




「……幸せ、だなぁ」



 大きい米粒を更に頬張りながら、ボクはこの幸せな時間を噛み締めた。








 ⅩⅩⅩⅩⅩⅩ








「この馬鹿者どもッ!!」



 頭ごなしに怒号を浴びせられた。

 任地から帰って来た俺たちを待っていたエルフの上官 バルドル将軍。


 制服をキッチリと着こなし、長い黒髪を風に靡かせる彼の眉間には、かなり深い皺が刻まれていた。



「将軍……、なぜここに……」



 俺は驚きのあまり声を発した。



「依頼主から連絡が入った。お前ら……任務を途中離脱したそうだな」



 バルドル将軍の眉が跳ねた。



「……それは、」



 俺はバルドル将軍から目を背けた。

 返す言葉もみつからず、奥歯を噛み締める。



「頭が高い!一同、そこに直れ!!」



 セイフティ官庁前の石畳に俺たちは膝を付けた。行き交う同僚たちの好奇な目が俺たちを見下ろしていく。


 屈辱的、だった。

 容赦なく落ちてくる罵声。



「なんで簡単な任務ですら完遂できないんだ!!」



 怒りを抑えられず、右往左往するバルドル将軍。

 靴底が石畳を蹴り上げる。



「それより、ぐすん。バルドル様……私の髪が」



 鋭い眼光が俺の背後に注がれた。



「見苦しいッ!!!そんな小汚いモノを我に見せるな愚か者めっ!」


「ハヒッ、酷い……バルドル様」


「喋るなアバズレ!」


 鼻を啜る声がこの場に響く。


「全く……ジェイスが居なくなって、気持ちが落ち込んでいるのも分かるが、それとこれは別だ!!」



 バルドル様が俺の胸にある黄金を指を差した。



「国王陛下自ら授与された者たちが、なんというザマだ!!」



 怒鳴り過ぎて肩が上下に揺れていた。

 普段から身だしなみには気を使われているバルドル将軍の長い髪が乱れに乱れている。



「……謹慎だ」


「え……今、何と」



 バルドル将軍を見上げた。逆行でバルドル将軍の顔色は伺えない。微かに唇が動くのが見えた。



「デスポワール隊……ジェイス・ドミニクの行方が確定するまでの間……謹慎処分を言い渡す」


「……な、」



 隣に居たサリアが思わず、声を出そうとしたが、バルドル将軍はそれを許さなかった。



「異議は聞かん!さっさと我の前から散れッ!」



 それだけ言い放つとバルドル将軍は、俺たちを威圧した。


 俺の身体は小刻みに振動した。

 指を折る。


 立ち上がると俺は頭を下げ、バルドル将軍に背を向けた。


「……グラッド…」


 そう声を掛ける仲間にも耳を傾けず、俺は足早にその場を後にした。


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