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第10話 新たな友






「はぁ、はっ、はぁ……」



 ボクは走った。喉が、痛い。

 以前、マジカルんステッキの元となる木を探し回った際に見付けた、生い茂る草原へと足を急いだ。



 青々と元気に育った野草たち。

 そこにポツポツと生えた背の高い剣のような葉。



 あの頃は、もう見たくもないと思っていたのに

 今になって、こんなにも……



 胸が躍るとは思いもしなかった。



「薬草園の雑用が、ここでも役立つとは」



 そうボヤくとボクは、テキパキと薬草を摘んでいく。摘み取ったところから、懐かしい匂いが鼻へと運ばれてくる。



「く、クサイ……」



 鼻を中心に皺が寄る。

 鼻から息を吸うのを止めたが、匂いを頭が記憶して一向に消えてはくれない。



「ドラゴンの鼻が悪いといいけど……」



 そう、願った。


 ある程度収穫した後、続いては小川へと足を向けた。透明度の高い水。キラキラと光る川をしばらく眺める。



「布が無い、な。仕方ない……」



 ボクはシャツを脱いだ。 シャツを手に取ると、冷えた水の中へと突っ込んだ。


 水を吸い、重くなるシャツ。

 シャツを引き上げると、ボクは指を使い締め上げた。



 ギューッと手首を捻る。

 滴る水。落ちた水滴が川へと還っていく。



「……よし。戻ろう」



 下着姿のままボクはペンドラゴンのもとへ一秒でも早く戻りたい一心で足を動かした。









「……お待たせ、ペンドラゴン」



 両膝に手を乗せ上半身を支えた。肩で息をしながら、ボクは声を掛けた。


 だが、ペンドラゴンは動かない。



「ペン、ドラゴン……?」



 宙に上がったボクの声。

 ペンドラゴンは身動きひとつしない。



 胸がヒヤッと冷えていく。

 ザワつく心臓がドクドクと早鐘を打つ。





 ボクは狼狽えながも、手を伸ばした。

 触れた先から感じる弱い鼓動。


 長く息を吐いた。



「……良かった、驚かせないでよ」



 目を瞑ったままのペンドラゴンの顔へと言葉を投げた。

 鋭く尖った睫毛が微かに揺れたように見えた。



「ペンドラゴン。冷たいのが当たるけど、大丈夫だから」



 ボクが事前にお伺いを立てたが、ペンドラゴンは何も反応しない。


 ボクは肯定と判断し、濡らしたシャツを白銀の身体に添えた。


 ビクっと揺らした耳先。



「驚いたよね……。血で汚れた身体を綺麗にしよう」



 極力優しく触れるよう努めた。

 一回拭いただけで、白いシャツが真っ赤に変わる。



「先に血止めした方が、良いかも」



 ボクはそう判断し、シャツをイモの葉の上に置いた。

 漂う嫌な香り。

 屁こき蟲が何十と集まって濃縮されたような匂い。


 この匂いにはさすがのペンドラゴンも、鼻をヒクヒクと動かした。



「クサイよね……。でも、これが傷に良く効くんだ。だから、我慢してね」



 ペンドラゴンの上腕をそっと撫でた。

 ボクの手の温もりが気持ちがいいのか、身体の筋力が緩んだ。



 傍にあった大岩に薬草を適当に千切り、大きめな石で押し潰す。繊維がボロボロになるまで、徹底的にじごく。


 緑液が染み出し、繊維がズダボロになった葉がまとまる。それをペンドラゴンの翼膜の患部に乗せる。これを何回も繰り返す。


 願いを込めて。


 傷が癒え、早く元気になるように



 汗が垂れる。

 拭う手が指先が緑色に。ペンドラゴンの傷を全て塞ぎ終わる頃には身体がほぼ緑色へと染まっていた。

 薬草の独特な嫌な匂いもすっかり気にもならなくなった。





「……ペンドラゴン?」



 ボクは汚れた手とシャツを洗いに行ってペンドラゴンのもとに戻ってきた。夕陽に染まる白銀が茜色を映し出す。




「─────荘厳とは、まさに


 ……君のことだね」



 傷付いた翼を広げるペンドラゴン。

 そこにあった傷はもう綺麗に塞がっていた。


 首を上げ、片方の金色の瞳でボクを静かに見つめてくる。



「さすが、飛龍《ドラゴン》族。回復力が予想以上だ……」



 ポカンと口をあけあ、翼を舐めるように見る。

 傷など無かったようだ。




「グヌヌヌ────ゥ!?」

(は?お前の力だろ?!勝手に治しやがって!!しかも、私の名前はペンドラゴンではない!!)



 勢い良く金色の双眸がボクを射抜く。



「え、お礼なんていらないよ。ボクがしたくて、したことだから」



 真っ直ぐとこちらを向くペンドラゴン。

 ボクは向き合いながら、肩を竦めて片手をヒラヒラと振る。



「グルゥ……」

(……礼など言うものか。しかし……)



「さあ、キミの。ペンドラゴンの世界にお帰り」



 目元が緩んだ。

 半日も一緒にいなかったが、別れは少し寂しい。



「ガルルガ……」

(恩を忘れるほど、私は愚かではない……)



 ペンドラゴンは翼を閉じ、その場に座り込む。

 鼻先をボクの顔まで持ってくる。

 美しい金色がボクの顔を映した。



「……ペン、ドラゴン?」



「ガルっ、ガグルルゥ─────」

(だから、私の名は─────)






 ドン。


 ──────ドン!



 地が跳ねた。

 聞き覚えのあるお声。




「ちょ、ジェイスっ!!」



 ボクのもとへ急ぐ足音。



「……アンジュさま!」



 ボクはアンジュさまを迎え入れた。

 無意識に口角が上がる。


 そこにあったアンジュさまのお顔色は蒼白で、眉を寄せておられます。


 手には、ボクの創ったマジカルんステッキ。



 どこ行くのも、一緒なんですね

 創ったかいがありました



 ホッと胸が温まる。

 そんな中で、アンジュさまはボクをヒョイっと持ち上げられました。



「ジェイスっ!貴方って子は、また襲われてたのね!!」



「え!?ち、違いますっ」



 マジカルんステッキをペンドラゴンへと向けるアンジュさま。



 いや、色々と違うって!

 アンジュさま!



 慌て過ぎてボクの唇から言葉が紡げない。



「この羽トカゲちゃん、私の魔法を味わいたいのね!」



 あ、アンジュさまっ!?

 羽トカゲって、、、ドラゴンご存知ない?!


 あと、魔法は使えないです、よ────!



 あわあわと唇が震える。



「あ、アンジュさまっ、お、落ち着いて──」



「私のジェイスを、傷付ける者は許さないわッ!」



 ペンドラゴンへと向けた瞳。

 キリッと鋭い眼光のアンジュさま。




 ─────トクン。



 えっ……

 アンジュさま……



 ボッと顔が熱をあげる。

 目の前の以外のことがどうでも良く思えてきた。




「グルルゥ……ガゥゥ」

(いや、私……敵意ないのだが)



 助けを求めるようにボクへと視線を投げるペンドラゴン。



「あ!……もうっ!ジェイスは諦めなさ─い!羽トカゲちゃん」




 これ……ボクの力で収束出来るか、な




 アンジュさまとペンドラゴンを交互に見やるボク。


 息を吐く。

 一気に辺りの空気を吸い上げたボク。


 うん。と頷くとボクは口火を切った。



「アンジュさま、あの子は羽トカゲではなく……ペンドラゴンです」



「ハグゥ!?」

(いや、違うだろ?!)



「ペンドラゴン……?何、それ」



 ペンドラゴンへと向けていたマジカルんステッキの先が地へと向く。


 眉がつり上がるアンジュさま。



「ボクの……友達、です」



 アンジュさまの前で俯くボク。



 ペンドラゴン……

 勝手に友達って名乗ってごめんなさいっ



「グヌゥ…ガゥ」

(友、か…)



 チラッと上を向くボク。

 アンジュさまはペンドラゴンをずっと睨むように見ておられます。




 沈黙が続く。


 風に乗る木の葉たち。



「……ジェイスの、友達は……私の友達、よね」



 小さな声が空から降ってきた。



 眉間に皺を寄せ、難しい顔を浮かべるアンジュさま。



「あ、そうなるかも……です」


「そうね!ごめんなさいね、ペンドラゴン……いや、ペンちゃん!!」



 アンジュさまの声が一段と明るく変わる。

 いつものように眩しい笑顔がそこにあった。



「なら、話は早いわ!ジェイス、ペンちゃん。お家に帰ってご飯にするわよ」



 そうハッキリと言い切ったアンジュさまは、軽々とペンドラゴンを持ち上げ、ボクを肩に乗せ、ボクたちのお家(野営地)へとスキップしながら家路へと急いだ。




「ガルルゥガァァァァァ───」

(だから、ペンドラゴンじゃなーい!!)




ペンドラゴンの言葉の意味を理解出来る者は今のところ、この地上にはいなかった。



お読み頂きありがとうございます。

ブクマや評価頂けると嬉しいです!

次回もお楽しみに☆

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