第17話 : 予想外の敵が来た!終わり
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アリヤはただ微笑んだ。体を後方へ投げ出す——その身を自由落下させる。数瞬の間、互いの目が交錯する。魔物は通り過ぎる。攻撃は空を切った。
アリヤは舞うように落ちていく。魔物は向きを変える——追撃する。
「はっ……愚かが!」
魔物が急降下する。アリヤが地面に届く直前——
アリヤはただ見つめている。
魔物が迫る。もう少し。もう少し——
「捉えたぞ!」
アリヤの人差し指が天を指す。
魔物が顔を上げる。
先ほどまで肩を組んでいた影たち——崩れ落ち始める。黒い剣を手にしたまま。数十の影。同時に落下する。
ビュン!ビュン!ビュン!
「しまった——背中を狙われたか!」
ドン!ドン!ドン!
砂塵が舞い上がる。
魔物はアリヤを右手で掴むことに成功する。しかしその翼は——先の攻撃でかすり傷を負っていた。血が滴る。
しかししばらくすると——その傷は癒えた。
「だからどうした?」魔物が笑う。「その程度の小細工で俺を罠にかけられたとしても——全ての傷は再生できる。たとえ百回攻撃されようともな!」
「そうか。」アリヤは笑う——魔物に掴まれたまま。「では……千回ならどうだ?」
突然——
ビシッ!ビシッ!ビシッ!
黒い影たちが——地面から湧き出る。見渡す限り。魔物を取り囲む。
魔物が再びアリヤを見た時——
アリヤは影へと変わっていた。溶けて水となる。そしてさらりと逃れていく。
シュルル……
「無駄だ!」
魔物は翼を広げる——空へ飛び立とうとして。
ジャキーン!
剣が——翼を切り裂く。
「いっ!」
振り返る。口から火花が散る。
「ならば——全て燃え尽きよ!」
ウオオオオ!
炎が噴出する。目の前の全てを焼き尽くす。地面は黒く焦げる。木々が燃える。熱気が立ち込める。
しかし——
「なぜ……なぜ数が減らぬ?!」
黒い影たちはまだ取り巻いている。減らない。動じない。
魔物は紫色の火の玉を作り出す。投げつける。爪で四本の斬撃を空中に描く。何度も何度も。
ドン!ガキン!ドン!ガキン!
目の前の黒い影たち——減らない。
魔物が攻撃をやめる。左胸を押さえる。息が荒くなり始める。
「どうした?息切れか?」アリヤの声がどこからか聞こえる。「ならば……今度はこちらの番だ。」
「どこだ?!その人間はどこにいる?!」
「左だ」とアリヤ。
魔物が左を見る——
ビュン!
剣閃が右から襲う。
「おっと、悪い悪い……」アリヤの声が小さく笑う。「私の左、という意味だった。」
「殺してやる!」
「右。」
魔物は左に構える——左から来る攻撃を辛うじて防ぐ。
ガキーン!
攻撃が次々と襲いかかる。左から。右から。上から。下から。
魔物は圧倒され始める。
「馬鹿な!まだ声の主を特定できぬ……まるで自分の頭の中から直接聞こえているかのようだ……」
ふと立ち止まる。
「まさか——!」
魔物は目を閉じる。
その想像の中に——円を描く魔法陣が見える。自分の周囲を覆っている。
『なるほど……そういうことか……』
魔物は手を伸ばし、何かを掴む。周囲が絡まっているように感じる。引っ張る。引っ張る——
パチン。
目の前の全ての黒い影が——消え去る。
残ったのは五つの影だけ。
魔物はますます激昂する。全身を炎に包む。五つの影を一匹ずつ片付けていく。
ビュン!ガキン!ビュン!ガキン!
影たちは地面に倒れる。液体と化す——そしてどこかへ流れていく。
魔物はその跡を追う。目を凝らす。その液体は一本の木の下で止まる——そう遠くない場所に。
「しまった……バレたか。」
「そこにいたか。」
魔物が飛翔する——全速力で。
シュッ!
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爪と剣——激突する。
アリヤは魔物の爪を力の限り受け止める。魔物は翼を使ってアリヤを押し込む——その足は地面を離れている。
ガキーン!
「ふう……」アリヤの顔に笑みが浮かぶ。「まさか……魔王の将軍と呼ばれるお前が、これほど簡単に騙されるとはな。」
「ふん……」魔物も笑みを返す。「俺が魔王の将軍だと知っていたのか?」
爪をさらに押し込む——アリヤの喉元へ。
ギリ…ギリ…
「知らぬわけがないだろう?」アリヤが圧力に耐える。「お前は来ていきなり、勇者以外は皆殺しにすると言った。そしてずっと力を抑えていた。」
アリヤの手首からわずかな雷光が走る。
「だから聞いている……お前の真の目的は何だ?」
「最初に言ったはずだ。」魔物の声は冷たい。「俺は自己紹介に来たわけではない。お前が知る必要もない。」
さらにアリヤを押し込む。
「おお……では死にに来たのか?」アリヤが笑う。「実に立派な使命だな。」
魔物の顔から笑みが消える。
魔物の足が地面に着く。渾身の力で——アリヤを前方へ投げ飛ばす。
ドカン!
アリヤはどうにか耐える。しかし再び魔物の方を見た時——
爪の一撃が——自分に向かっている。速い。致命的だ。
アリヤは剣を盾にすることしかできない。
ガキイイイイイイーン!
その攻撃がアリヤの体をかすめる。血が——飛び散る。しかし彼は倒れない。
「お前はさっきから喋りすぎだ。」魔物が手を掲げる——アリヤの胸を貫かんとして。「だから今は……黙っていろ。」
アリヤは片手を挙げる——魔物に向かって。
「無駄だ。」魔物が笑う。「お前の手口はもう見切った。」
「イリュージョン——」
「今こそ——死ね!」
「——レニャップ。」
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ウリンを閉じ込めていた幻影の球が——消える。
彼の目はすぐに魔物を捉える——遥か前方に。
ウリンは石から剣を抜く。
ジャラッ。
一振り——白い強烈な斬撃が高速で飛翔する。
ビュウウウウウン!
魔物に向かって。
「なに?!」
魔物は翼を広げる——羽ばたこうとして。
「真上だ」とアリヤ。
その言葉に魔物は止まる。上を見る。
何もない。
魔物の頭が再び前に戻った時——
その斬撃は既に目前だった。
「そ——そいつはあああああっ!」
ドオオオオン!
その斬撃が——魔物を両断する。
残った体が——地面に落ちる。
ドサッ。
ウリンも地面に崩れ落ちる。
「ウリン!」
「ウリン君!」
全員が駆け寄る。ウリンの体を包んでいた白い帯が——消え始める。ゆっくりと。溶けるように。
「ヒール。」
その時——ロジャーとヴァニアがようやく到着する。
「おい!そこの連中!怪我人はいるか?!」ロジャーが叫ぶ。
「いる!」ハーマンが叫び返す。
「ロジャーさん!」アリヤも叫ぶ。「ルディがパンツを濡らしました!」
「おい!これは雨だ!雨だ!」ルディが抗議する。
「なに?!」ロジャーは遠くて聞こえない。
「何でもありません、ロジャーさん!」ルディが叫ぶ。
「はははは!」アリヤが笑う。
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魔物の残骸から——紫色の光が溢れ出す。空中に浮かぶ。
しばらくして——その光が飛び去る。
ビュン!
アリヤの背中へ。
ズバッ!
一瞬で——アリヤの首が項垂れる。その手から紫色の火花が散る。
バチッ…バチッ…
「はははは……」アリヤが笑う。
「死ね。」
その直後——
巨大な魔法陣が彼らの立つ地面に現れる。
「敵か!」ロジャーが剣を抜く。
「どこだ?」ヴァニアが周囲を見渡す。
アリヤの顔が上がる。
「俺は——」
ジャキイイイイイン!
雷撃が——全身から放たれる。
バチッ!バチッ!バチッ!
しばらくして——魔法陣は消える。
アリヤが地面に倒れる。その体から煙が立ち上る——細く、白く。
「何が起きた?」ロジャーが驚く。「まさか敵にやられたのか?!」
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陽がようやく沈み始める。
日が変わろうとしていた。
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✦ 治療室にて ✦
アカデミー入学試験から2日が経過しました
ウリンは横たわっていた。右腕には白い包帯が巻かれている。呼吸は整っている——深く、静かに。
その隣で——リナリアとクラリッサが座っていた。誰も話さない。ただ青ざめたウリンの顔を見つめている。
夜風が静かに吹く。湿った土の香りを運びながら。
クラリッサは口を開いた——そしてまた閉じた。
リナリアは動かない。その手は毛布を強く握りしめている。
外では——コオロギの声が聞こえ始めた。
淡いランタンの灯りが部屋を照らしている。ハーブの香りがまだ空気に漂っている。包帯が壁際の小さなテーブルに散らばっている。
突然——ウリンの指が動いた。
パキッ...
ウリンの目が開き始める。ゆっくりと。かすかに。そして——彼らの方を見つめた。
「ウリンが起きたわ!」クラリッサが叫ぶ。
「ウリン!」リナリアが近づく。
「ウリンくん!」クラリッサはすぐにウリンのベッドのそばに駆け寄り、その手は毛布をぎゅっと握りしめる。
ウリンはすぐに起き上がる——ベッドの上に座る。呼吸はまだ少し荒い。胸の包帯が上下する。
「何が...起こったんだ?」
「実はあなた——」リナリアが説明しようとする。
ガチャ。
ドアが開く。
「お前は『ラスト・デスティニー』を経験した。」
アレックス——足を踏み入れる。その足取りは確かで、落ち着いている。ウリンの前に立つ。その目は鋭く見つめる——裁くのではなく、観察するように。
「何だって?」ウリンは瞬きをする。
「それは、お前が意識を失った後も...剣がお前の目的を継続した状態だ。」
アレックスは脇のテーブルの水差しからコップに水を注ぐ。澄んだ水が流れる——ジャブジャブ... ——そしてそのコップをウリンに渡す。
「飲め。」
ウリンはそれを受け取る。無言で。
アレックスはベッドの脇に立ち、腕を組む。
「お前が魔王軍幹部と戦った話は聞いている。」
ウリンは水を飲む——そして止まる。
「じゃあ...あの時のモンスターは魔王軍幹部だったのか?」
「そうだ。」アレックスがうなずく。「アリヤの話した詳細から、我々は結論づけた——速度、力、賢さで評価するなら...彼は普通のモンスターではない。さらに言えば、この種類のモンスターのデータは存在しない。」
ウリンは沈黙する。
手の中のコップを強く握りしめる。中の水が微かに震える。
「すまない...」ウリンは頭を下げる。「弱すぎて。」
「あなたのせいじゃないわ。」クラリッサが遮る。その声は断固として、しかし優しい。「あなたは敵に狙われている状態だったのよ。戦いは避けられなかったんだからですわ。」
ウリンは拳を握りしめる。
手のひらの包帯が——きつく締まる。
『またあんなモンスターと戦えるのか...俺に?』
静寂。
ランタンの灯りが揺れる。窓の隙間から夜風が吹き込む。
ウリンは顔を上げる。リナリアを見つめる——そしてクラリッサを。
その目が——変わる。もう迷いはない。もう怖れはない。
『いや。必ずできる。もっと厳しく練習すれば...明日から。』
彼はコップを強く握りしめる。水は一気に飲み干された。
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✦ 別の場所にて ✦
とても暗い場所で——光の一切ない場所。
星もない。月もない。音もない。
ただ闇だけがある。濃く。冷たく。
壁もない。天井もない。ただ終わりのない虚空——意識と魂が混ざり合う場所。遠くからアリヤの心臓の鼓動が聞こえる。規則的に。生きている。絶え間なく。
シュワッ……
一筋の紫色の炎が——中心で燃え上がる。
周囲を照らす。長い影が見えない床の上で踊る。石もなく、土もない。ただ闇が遠ざかり、退いていく——まるでその紫の炎を恐れているかのように。
その炎の中から——声がする。
しわがれ声。重く。傷に満ちて。
「俺は……」
炎が瞬く——一瞬だけ大きくなる。宿主の魂の壁を手探りするように広がる。隙間を探す。弱さを探す。
「……まだ死んではおらぬ。」
炎が弱まる。闇が再び忍び寄る——ゆっくりと空間を飲み込みながら。アリヤの心臓の鼓動はまだ聞こえる——しかし今は別のものが混じる。囁き。かすかに。とてもかすかに。
『待っていろ……』
隅で——影の隙間で——一対の赤い目が燃えている。
まだ待っている。
再び蘇る、その時を。
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つづく…
午後には別のアップデートがありますので、しばらくお待ちください。(╹▽╹)




