【白金王子と灰色狼編】 余話
ヴィルヘルムは、第四次ノッセル回廊会戦における戦勲、ならびに自身の中央軍司令官就任に伴い、下記の者たちに対し、その功績を称えて勲章を授与するとともに、中央軍編入のための調書および人物評価を記した。
砲兵隊を指揮したシャルロッテ・フォン・アイゼンドルフ中尉には、『一等王国攻勢勲章』を授与し、大尉へ昇格させるものとする。
同人は、戦場における砲撃戦果のみならず、常に陣頭に立って部隊を鼓舞し、砲兵隊の士気維持と戦線の安定に多大な貢献を果たした。その功績は今次会戦において極めて顕著であり、疑いの余地はない。
よって、中央軍砲兵隊の指揮官の一人として登用する。
なお、王国は、会戦中に紛失した臼砲6門に対する補償として、新たな野戦砲10門をアイゼンドルフ家に贈呈するものとし、今後の砲兵育成の糧とされたい。
ただし、会戦終結後における同僚ジークハルト・フォルラート中尉との私的闘争による負傷については、王国軍として戦傷の認定および補償を行わないことを、ここに改めて明記する。
歩兵隊を率い、我が戦闘団中、最も果敢に敵陣へ突撃した勇気と名誉を高く評価し、カール・フォン・ミュラー少尉には『王国突撃功労勲章』を授与し、中尉へ昇格させるものとする。
本来は騎兵であるにもかかわらず、その不利を承知の上で歩兵として前線に立ち、確認されている限り最も多くの敵兵を撃破した事実は、同人の卓越した勇気と闘争心を如実に示すものである。
また、指揮下部隊に留まらず、周囲の兵士をも鼓舞し、戦闘に対する強い意志を率先して示したその姿は、ローゼンベルク王国軍人の模範とすべきものである。
よって、白兵戦闘中に破損したドライゼン小銃3丁に対する弁償義務を免除する。
今後は中央軍騎兵隊の一員として、その闘争心をもって軍務に励むことを期待する。
エリック・グルーバー少尉については、戦場における指揮下部隊への秩序ある統制、ならびに負傷兵および敵軍投降者に対する模範的処置を高く評価し、『二等王国攻勢勲章』を授与、中尉へ昇格させる。
同人の優れた指揮統率は、王国軍指揮官の模範とすべきものであり、自軍兵士への配慮と戦線維持への貢献において、これを上回る者は見当たらなかった。
また、戦闘終結後も敵味方の別なく負傷者救護の指揮を執り、敵兵からも支持を集めた点は、特筆すべき資質である。
よって、中央軍歩兵部隊の指揮官として編入するものとするが、将来的には、その統率能力を内政分野においても発揮させることを視野に入れる。
ヨハン・フォン・リッテンベルク少尉は直接戦闘には参加していないものの、野戦司令部と前線部隊間の連絡手段を確保し、迅速かつ正確な情報伝達および分析を行った功績により、我がローゼンベルク王国軍の勝利に大きく貢献した。
これをもって『王国戦功功労勲章』を授与し、中尉へ昇格させる。
中央軍においては司令部付要員として、司令官および司令部の円滑な任務遂行、ならびに情報分野における職務を担当させるものとする。
加えて、共和国軍に対する停戦協定申し入れの使者としての働きも賞賛に値するものであり、貴官の献身に対し、最大限の敬意と感謝を表する。
今次会戦における陰の最大功労者は、おそらく彼女であろう。
ソフィア・フォン・ホーエンフェルト主計少尉は、その真摯な職務姿勢と優れた遂行能力、ならびに数学および兵站分野における豊富で熟達した知識と洞察をもって、共和国軍の兵站状況ならびにノッセル要塞に駐留する敵戦力の規模を精緻に分析した。この分析は彼女でなければ成し得なかった功績であり、戦後に判明した共和国軍兵士の実数と照合した結果、その誤差が一割未満であったことは、驚嘆に値する事実である。
よって、同人には『王国後方功労勲章』および『王国軍務功績勲章』を併せて授与し、戦時特例をもって二階級特進とし、主計大尉に任命する。あわせて、中央軍幕僚部における兵站部門の長としての地位を確約するものとする。
我が師にして、我が参謀とも言うべきヘルマン・フォン・シュトラウセン准将には、『王国作戦功労勲章』ならびに『参謀功労勲章』を授与したい。
同人の戦略分析および作戦立案こそが、ローゼンベルク王国軍勝利の基軸であったことは疑いようがない。
よって、少将への昇進をもって中央軍幕僚部の長に任じ、今後も司令官を補佐し続けることを切に願うものである。
また、同人の戦略構想および教育方針が、将来の王国軍にとって極めて有益であることが実証されたと判断し、今次会戦の功績をもって王立士官学校学術長への推薦を行う。
あわせて、今後の王国軍全体における作戦立案および戦略構想を統括する専門機関の設立を視野に入れた、軍制改革の必要性を強く認識するものである。
そして、戦闘分野において最も顕著な功績を挙げた人物として、ジークハルト・フォルラート中尉の名を挙げることに、一切の疑義はない。
同人には、我が王国において最上級の名誉たる『騎士候勲章』を授与する。この勲章は、単独で王国貴族への叙勲に値する功績を挙げた軍人にのみ授与されるものであり、カルノヴァ=ストリェッツ共和国との長き戦争において、実に17年ぶりの栄誉となる。
もっとも、同人は貴族位への叙勲を望まなかったため、その代替として、家族に対し、褒章に相応しい恩賞を贈呈するものとする。それは平民二人が生涯にわたり不自由なく生活できる額であり、一家の生計を担う同人を、今後も王国軍に留めるために必要かつ惜しみない贈与である。
なお、私の配慮を欠いた、複雑かつ高度な文面の通達書によって、彼の帰還を待つ家族に対し、戦死の誤解を与えたことについて、ここに改めて謝罪の意を表したい。
同人は、今後も王国軍にとって、そして私自身にとっても不可欠な人材である。どうか信頼をもって、彼を任せていただきたい。
今次会戦における功績、ならびにその類稀なる戦闘能力と卓越した戦術眼を高く評価し、階級を大尉へ進めるとともに、中央軍において独立した戦闘行動を可能とする『特別強襲大隊』を新設し、その指揮官に任命するものである。
また、今次会戦に貢献した共和国人ヤン・ピレツキの証言に基づき、彼へ情報を提供し、結果として我がローゼンベルク王国軍の勝利に寄与するに至った共和国軍工兵将校カジミェシュ・シモンスキ大尉については、事情により公に王国から表彰することはできない。加えて、それは同人の立場を危うくし、ひいては侮辱ともなり得る行為である。
よって、同人に対しては、負傷に対する適切な治療および保証金の支給という形で責任を果たし、戦傷の治療が完了するまで王国がその身柄を保護するものとする。その後、捕虜解放の手続きに従い、共和国へ引き渡すこととする。
また、ヤン・ピレツキの証言により、シモンスキ大尉が誠実かつ信頼に足る将校であると判断できる点を考慮し、内戦が勃発した共和国内において、ヤン・ピレツキが偽装身分として扮する「パトリク・ミハウスキ二等兵」の保護役に就かせることが適当であると判断する。
これは、我が王国が次に共和国に対する対外政策を実施するまでの間、当該人物が生存し、任務を継続できるだけの最大限の担保とする意図によるものである。
伝え聞くところによれば、シモンスキ大尉は王国軍野戦病院において、「パトリク・ミハウスキ二等兵」の安否を自ら確認しているという。この点からも、同人が、現地潜入工作員として任務に就くヤン・ピレツキの保護役として最も適任であると判断する。
なお、捕虜解放の実施は、両名を同時とするのが望ましい。
以上をもって、第四次ノッセル回廊会戦における功績の評価ならびに、今後の我が施策に関する展望を取りまとめた文書とする。
――ローゼンベルク王国宮廷部保管文書『第132号』より抜粋




