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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
アルセリアスでの茶木栽培
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100年前の子供



 食事を終えた後の一室。

 アルクザードとカナンヴェーグ、エリーゼにシオ、それから私。5人が言葉を交わしているのだが……。


 よっぽど私の提案が理解不能というか想定外すぎたのだろう。アルクザードは深く息を吐き出していた。


「また突飛な事を……」


 頭を抱えるんじゃない。アルクザードの方がよっぽどとんでも人間だよ。私は人の家のお庭ボコボコにしたりしないもの


 私が提案してるのは食肉用に兎を養殖しようって、ついでに甜菜を栽培して食料にならない葉や砂糖を取り終わった根部分を飼料に利用しようって本当に合理的な提案だよ。


 お肉が欲しい期間だけ養殖して、取れた魔石は売り払わず大地に返す。そうしないとアルセリアスの大地が枯れるからそれだけは注意だな。そんで、領外からのお金を稼ぐ方法として甜菜から作られた砂糖と紅茶。


 どちらも高級品だし、紅茶に関しては他所にないものだ。必然的に市場を独占できる。


 しばらくしたら他領にも茶木ばら撒いて、色んな環境で育ったお茶を楽しめるようになればいいと思う。


「しかしな。ベンジャミンはウェンディ殿が躾けていたからこそ大人しかったのではないか?」


 …………カナンヴェーグの意見は否定できない気もするけど、ベンジャミンの飼い主は私です。ウェンディが乗り回して遊んでいるけど主人は私です。ちゃんと私の言うことも聞いてくれるかは分からないけど噛みついたりはしないよ。


「……あの豚の様な角兎はコレの魔力を取り入れすぎて丸々と肥えていますけど、民が育てる分には過剰な魔力が与えられる事もないでしょうから通常の大きさで飼育できるでしょう」


 シオめ、ベンジャミンを豚呼ばわりしやがった。


「アレはアレで旨そうだけどな」

「違いない」

「お二人ともおやめ下さい。リヒノ様が悲しまれます」


 セテルニアバルナ出身の二人は完全にベンジャミンを食料として見ているな。私よりベンジャミンが可哀想だわ。帰ったらしこたま草を生やしてやるからな。


「まぁ、そうだな。大きくならないのであればタテスの民なら管理ができるだろう。角も切り落とすとなれば、怪我の危険も随分減る…………が、しかし、角を切ってしまうのは魔物といえ心が痛むな」


 平民でありながら魔法が使える者がいるタテスだからこそ出来る。けど、オスの象徴を切り取ると思うとなんとも言えない気持ちになるようだ。


 私には分からない感情だな。


「角兎については其方に任せます。テンサイについては苗と砂糖を取る技術は無償で提供しますが、タテスの民により生産された砂糖の一部をユズリハに献上する事と優先的にカナンヴェーグの商団と取引をする事をコレは望んでいるようです」


「妥当、というか……悪くない条件だな」


 私は砂糖が欲しいし、技術を教えたり苗をつくるのに元手がかからないからな。

 そんなに稼がなくてもセテルニアバルナは金持ちだし、自分で作る手間を省けるのだから無問題よ。

 よその町にも同じ条件で……とはいかないだろうけど。


 とにかく、やる事済ませてサクッとユズリハに帰ろうぜ。


 明日はお茶の作り方を伝授して、甜菜の苗でも用意しよう。そんで、明後日には帰る。よし。そうしよう。そうしよう。




(シオ視点)



 カナンヴェーグ、アルクザード、エリーゼにヒノ、そして私。5名による会議を終えた後にカナンヴェーグから残るように言われたのは私のみ。


 今日を振り返れば必然か。

 彼の疑心の多くはヒノではなく私に向いている。ヒノは何も知らないのだから彼の目は確かだ。


 結果、ウェンディに非人道的と言わせる私の計画を話す事は無くとも、秘匿している事実を幾らか伝えなければカナンヴェーグも納得はしないだろう。


 タテスにおいての誤算はシイナの存在だった。タテスに着いてすぐに、アレは口に出さずとも私が何者なのか理解していたのだから。


 私が人の姿を捨てて百数年、300年はゆうに生きる長命の森の民が人であった頃の私を見知っていてもおかしくはない。ただ、人目に触れる人生を送ってはいなかった故に、私の顔を見知った者がいるとは考えもしなかったのだ。


「アークアートル様であらせられますね」

「…………なんの事でしょう」


 泉を確認に行った道中、シイナの放った言葉にとぼけた返事を返した。今は捨てたその名は聞くだけで不愉快だ。

 シイナの丁寧な言葉使いと柔らかな表情は、明らかに領主家の人間であるアルクザードと会話する際のような張り詰めた空気をまとっていない。


「見紛うはずはございません。伝え聞くダリス様と変わらぬ容姿、一度拝見すれば忘れる事などできないのですから」

「貴方の勘違いでしょう」


 ダリスという名も聞きたくはない。リザ様が最も愛した人間。アドレンスを作った初代の王でありながら、リズ故に歴史から消された存在。


 アドレンスに残されている書物には、アドレンスの初代王はリザ様とダリスの子の名が記されているが、リザ様とダリスについては一切触れられていない。さらに、その妻はネヴェルディアで初代王に多くの力を与えた……という記事が国民の知る歴史。


 ダリスの死後どれだけの歳月が経とうとリザ様が彼を思わない日は無かった。共に生きる選択をしなかった彼がいつまでもリザ様に愛されているのが私には受け入れがたく、憎くもあった。


 泉へ辿りついた後、多く生み付けられた大蛙の卵を排除。大蛙を食料として管理しているタテスの住民からは非難の声が上がったが、角兎と違い人間が管理できる類の魔物ではないのだからアルクザードの指示は間違いではない。


 これから茶木栽培に活用する泉の魔力を吸い出されてしまっては思うように苗が育たない可能性もでてくるのだから。


 卵の排除により大蛙の襲撃を受け、討伐するも一部人間が苦戦し取り逃す。

 一匹逃げおうせたとて今年の繁殖はもう無理だろうと深追いはせず、村に水を引く設備の確認を済ませてタテスに戻る。


 シイナの視線は全て無視し、カナンヴェーグへの報告をする。そこで聞く、私が不在の間にあった出来事。頭が痛くなるほどにタテスの住民は面倒でならない。


 そして、生き残っていた大蛙が畑を襲撃。私のいない所でのリザ様の帰還。


 ヒノからの拒絶。



「して、シオ。其方の隠し事を話す気にはならんか?」


 アルクザードからの報告でアークアートルと呼ばれた事も聞いているようだし、アークアートルが何者なのかもシイナから聞き取り済みのようだ。



「シイナの言う世迷言を信じるおつもりで?」


 100年も前に生贄にされた子供が生きていると? 


 誤魔化すな。とばかりに強い眼光が私を見てくる。


 あぁ……。


 本当にどうでもいい。

 始まりの神もトルニテアもアドレンスも。ネヴェルディアでさえ。


 リザ様さえ居れば。



 本当にそれだけでいいのに。


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