自分に出来る事とできない事
シオのみが残るようにカナンヴェーグに言われ、シオはどう切り抜けるのかと思いながら与えられた部屋で一晩明かした私。
翌朝も考える事は昨日と対して変わらない。サクッとやる事やってサクッと帰ろう!
もう、それだけだよ。
茶葉の摘み方、お茶の作り方、保存の仕方。メモと共に実演を交えて伝えていく。お茶製造専用の施設は今は無いけれど今後必要に応じて作られてゆく筈だ。
にしても、静かだな。
一通り伝え終えて一息ついていた私は思う。
昨日あんなに騒ぎ立てていたレントナードも、シオからいくらか話を聞きだしただろうカナンヴェーグも。
シオはいつも通りツーンと澄ました顔をして平常運転。
私も大人達の仕事を用意された椅子にかけて静かに眺める。別にコレで上手く行けばお金も入ってウハウハとか考えてないよ。
バッ!
背後に立つ人の気配に私は勢いよく振り返った。私のパーソナルスペースに入り込んで来そうな人間はすべて視界の中にいたからだ。
私に影をかけたのはレントナードに付けられた護衛。その隣にはもちろんレントナードがいるわけで……。
『何のようです』
「…………お前は、なんでなんでも出来るんだ」
「…………」
や、なんでも出来るわけじゃない。しかしながら、子供のレントナードから見たらなんでも出来るように見えたかも知れない。まるで小さな子供が大人は万能でいろんな事が出来ると思っているように。
私に問いかけたレントナードは少し俯き気味で暗い表情をしている。いや、少し……怯えている? 指先が少し震えているようにみえる。
『出来る事もあれば出来ない事もある』
能力的にはリザの力で出来ない事なんてそうないだろうけど、精神的な問題で私に出来ないことは山ほどある。
生き物を害する度胸も無ければ、他人の体温が嫌いで人と当たり前に接する事も出来ない。
それから身近なところで言うとトルニテアの食べ物を食べる事が出来ない。
「それでも俺よりたくさんの事が出来る」
『レントナードより長く生きてる』
「お前と同じ年になったって同じようにはなれないだろ!」
そりゃそうだろ。お前は私じゃない。
それに、片手の指の数程しか離れてないと思っているかもしれないけど、日本で育った歳月もあるからな。確実に三倍は生きてるからな。
なんで私がコイツのお悩み相談を受けてやらねばならんのだ。チラリと護衛に視線を向けると彼は気まずそうに視線を逸らす。
『……当たり前の事だろう。なりたい自分に成れる能力を持っているとは限らない。兎になりたいと望んでも私は兎にはなれない。レントナードも全属性の魔法を扱いたいと思っても出来ないのと同じ』
「そんなのわかってる」
『じゃあどうなりたい? 父親に認められたい? レントナードの場合、母親の望む姿と父親の望む姿は違う。どちらも……なんて、都合の良い選択はない。折衷案はきっと中途半端で何者にもなれない』
「…………」
でも、どんな自分になりたいとしても
『なにより自信を取り戻すのが先だろうけど』
私には精霊の姿は見えない。けど、精霊に嫌われて、更には火を怖がって魔法が使えなかったら貴族としての自信が持てないだろう。
このままずっと魔法が使えなかったら?
強い者を慕うアルセリアスの領民を将来統治する事ができる?
無理だな。
『出来ることからやればいい。まずは自分の為に、余裕があれば他人のために。労働人員としてタテスに来たとはいえ、今後レントナードが製造業をするわけじゃない。ただ、どんな工程があって、どれだけの人員や設備が必要なのか学ぶ事は悪い事じゃない。いずれはアルセリアスの大事な産業となるはずだし、自らが管理することになる領地の事業なのだから』
アホなりに素直さも持っているレントナードは私の書いた言葉を読んではうなづいている。本当に理解できてるかは定かではないけれど。
なんて、期待はしていないけど。まだ幼い故に完全に見捨てて放置するのは可哀想な気もするんだよね。
なにか無いものか。
自信を取り戻せる上に、簡単。且つ、其れが労働であり、アルクザードがレントナードを褒めるような…………。
そんな仕事があれば与えてやったら良いんだろうけど…………。
そんな都合よく良い仕事はないだろうし。
『………………』
「………………」
お茶関連はあらかた終わったし、あとは角兎……。
『角兎の生捕くらいは出来る??』
…………のか?
で、
結局、日暮れ前に数人で角兎の生息地に狩りに出た私は一時的な檻代わりに土壁の囲いを作り皆の作業を傍観。生捕にできず仕留めてしまって今晩の肉を作ってしまっている者も多いよう。
強いものほど手加減が難しいのかねぇ。上手くいかない様子。普段仕留めてばかりなのだから気絶させる程度の衝撃っていうのもよく分からないだろう。
家畜として飼うのだから外傷は無い方がいい。私なら植物系の魔法で脚をとるかな。
アルクザードとレントナード二人の親子間の交流がもてる良い機会になったんでないかな。
協力しながら角兎を追いかける姿も悪くは無い。
「…………貴女はアレに慈悲を与えるんですね」
『まぁ、一応、子供じゃん? 選べもしない置かれた環境が全てなんだから。機会を与えてみるのは良いんじゃない?』
シオに話しかけられて、心の中で返事をする。周りに人は居ないけど一応な。
『それより、お前さん昨日どうやってカナンヴェーグをやり過ごしたよ』
気になっていた事を聞いてみる。朝から二人を観察していたけれど一切の変化が見られなかったからおかしいと思ってたんだ。
「一部の不都合な内容は忘れてもらいました」
「……………………おい」
衝撃的な返答に一時思考停止した。
まさかだけど、お前さん他人の記憶を操作出来るの??
「……無属性魔法の一種ですね」
とは言っても、同じ無属性が使えるカナンヴェーグがそう言った記憶操作ができるとは思えない。
「まぁ、異空間収納なんかよりは高度な技術ではありますね」
失敗したら廃人とかなりそう。ってか、記憶操作が可能なら私も操作された身に覚えがある。あり過ぎて腹が立つ? いや、怒り通り過ぎて怖いわ。
『お前さん罪悪感とかないの?』
「まぁ、ありませんね」
あっけからんとすました顔で答えるシオにかなり引く。マジで。怖いわコイツ。人として。コイツ人じゃねぇけど。
「あったところでそれが何になると言うのです。目的のための手段に感情を向けるのは合理的ではないでしょう」
理に叶ってない……とな。
シオにとって他人を配慮する気持ちは邪魔な感情なのだろう。
シオの目的がリザの復活だから、私という存在も手段の内のひとつ……。だからこそ、了承もなく私をトルニテアに強制召喚したんだが。いや、シオが目的の為には手段を選ばない系だと分かってはいたけど……。
こういう人、敵にしたく無いわー。
いつも近くに居るし、目的は一緒だけど私の味方とは言い難いもんな。
ただ、敵でも味方でもどっちでも良いんだよね。ぶっちゃけ私そのうち消えるだろうし、トルニテアやアドレンスがどうなろうと関係無いっちゃないもの。
私の自己中も大概だわ。
あと数年。あと数年だけ自分の都合の良い関係であればそれで。
『あと暫くよろしく頼むよ』
「面倒を見切れる保証はありませんね」
ふぅ。と息を吐くシオはいつもの"仕方ない"という表情より少しだけ目元が緩んで見えた。




