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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
アルセリアスでの茶木栽培
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 何が起こっている??


 目の前の光景に自分だけが異空間から突然現れたかのように溶け込めないでいて、処理しきれない情報をただ現実だとインプットするしかない現状。


 茶畑に大蛙の姿はなく弾け飛んだように散らばる肉片と鮮血。蛙の血って赤かったんだね……。なんて、そんなのどうでもよくて……。


 大蛙に攻撃した子供が最初に飲み込まれた子供の元で泣き散らし、私の元にはエリーゼが駆け寄り私の名を呼ぶ。


 危機は去った。


 そうなのだろうけど異常な速度で脈打つ心臓も覚えのない光景も私を混乱させるばかりだ。


 だって、甜菜を振りかざしただけ。それが激しく飛び散ったのは覚えてる。


 力の入らない体は恐怖に震えた時の激しい鼓動とはちがい、オーバーヒートを起こしたかのような異常な熱を持つ。


「リヒノ様!」


 呆然とする私を揺さぶるエリーゼ。しっかりしろとも言いたげで、反応を示さない私に対する心配と不安と疑念。


「リヒノ様……ですよね?」


 他の誰かに見えたか?

 飛び散る肉片に再び目をやる。全く身に覚えはないがこの場でこれが出来るのは私だけ……だろうな。風、いや、水かな。断面が切り傷じゃないもんな。


 単純な水攻撃ではなく、蛙の体内の水を操って肉体を破壊したとしか思えない。


 騒ぎを聞き駆けつけたカナンヴェーグが辺りを見回し危機的状況にない事を判断すると何があったを目撃者から情報を聞きとる。

 

「何故貴女は大人しくできないのです」


 シオはエリーゼを下がらせて、いつものあの不快そうな顔で私の額に手を伸ばす。


 パシッ!!


 伸ばされた手を弾いた。毎度、シオが触れた時に意図せず意識を落としている気がする。フォイフォイが拠点に来た時も、誘拐事件の時も、アルセリアスに来る途中でも。


 そして記憶が曖昧になって目覚める。

 

 手を弾いたのは不信感と不快感から。

 私が別の人間にでもならない限り大蛙を殺す事は出来なかったはず。でも、現に大蛙は肉片になり食べられていた子供も救出されている。


 それが出来るのはリザしか考えられない。私があの時そう願ったのだから。いずれ私が完全に消えてリザに身体を渡す事になっても別に構わないけれど、何も知らされないのはあんまりだろう。


 トルニテア人に知られて都合の悪い事があるのはわかるが、私はそんなに口が軽い性格じゃない。しかも、勝手に巻き込んだうえに、いずれ消えて無くなる人間だぞ?

 

 軽く見るのも大概にしろよ。


 自分の体に起こる事くらい把握しておきたい。それは当然のことだろう?

 シオは私の疑問に答える気は無く、無言のまま睨み合いが続く。


「大人しくしていなさい。こうして睨みつけていても何も変わりません」


 はっ。答える気なんてないと?

 脈はさっきから激しくなるばっかりで治る気配がない。怒りの感情をこんなに強く抱いた事がかつてあっただろうか。その怒りを自ら他人にぶつけるなんてした事がないかもしれない。


「……んだよそれ」

「少なくとも……扱いきれない力に翻弄されて感情をコントロールできない貴女に話す事などありません」


 リザの力のせいでイライラしてるって?

 それこそ私に非はないだろ。


 もう一度コチラへ伸びる手を払おうとして今度は手首を掴まれた。不快感でいっぱいなのに激しい脈と怒りの熱は何故か改善されていく。

 シオは癒しの魔法は使えないはずなのに何をした??


『色々とこの地の人間から情報を耳にして思うところはあるでしょうけれど、貴女には関係のない話です。そもそも、精霊の言葉は全てが真実ではないのですから……』


 頭に響くリザの声。あぁ、この仕様やめてくれ。関係ないとか……関係ないはずないのに、リザの幼い少女の様な声は怒りをぶつけるにぶつけられない。


 リザはさっき戻ってきた。それは間違いないんだな?


『えぇ。ですが、一次的です。むしろ今回の事でリザ様のお帰りが遠のいたでしょうね』


 あぁ、だから不快そうな顔をしてたわけね。ハイハイ。リザ様信者乙。


「此処の片付けはタテスの者に任せてひとまず宿泊先に戻りましょう。大蛙が現れた理由と貴女が勝手に決めた角兎の養殖の件、カナンヴェーグとアルクザードに話をつめなくてはならないでしょう」


 はい。そうでしたね。

 勝手に甜菜を栽培しようとした上、角兎の養殖まで提案してましたね。砂糖を作ろうと思って手にしていた甜菜は弾け飛んだし、帰ってやる事も無くなったからそうするしかないでしょうね。


 身体の調子が元に戻ったのでシオの手を振り払う。


『短くとも、2、3年は貴女の体は貴女の物でしょう』


 だから、急いで死に支度をする必要は無い。そういいだけなシオは私に背を向けて歩き出す。


「…………」


 知りたいのはそれだけでは無いけど、多少なりとも安堵している私は大人しくシオの後を追った。







(レントナード視点)



 父上に自分を認めさせる。


 そう意気込んでタテス入りしたと言うのに、やった事と言えばシャベルを持って土を掘り返すことばかり。その上父上は不在となればやる気が失せるのも当然のこと。


 母上もお爺様も普段から父上の仕事を「貴族のやる事では無い」と非難するけれど、屋敷のどの従者も婿入りして後から屋敷に来た父上の方を慕っているのは普段生活していて肌で感じていた。


 だからこそ父上の仕事には興味があったのに、ポッと後から現れた元平民とリズが息子の自分より贔屓されて父上と仕事をすると聞いて腹がたつのは当然のことだろう。


「貴族はこの様な労働を普通はしない。代わりに領民が働くことで成り立っている。謙る必要は無いが、感謝を忘れてはならん」


 不満に対して父上の祖父であり、お爺様の兄である曾お祖父様に諭されながら植樹を続け、休憩時にはタテスの生意気な子供と口論する。


 火の魔法が発動しなかった事に衝撃をうけ、落ち込みもしたが、休憩が終われば大人しく作業にもどった。


 夕方には作業は終わり、自ら植樹した茶木がリヒノの魔法を受けてメキメキと成長する姿に皆が言葉を失う。


 自分より数歳年上なのに自分よりも小さい女子。先程、得意だった火属性の魔法さえ使えなかった俺とは比べる事も憚れる。


 癒しに水の魔法。緑を扱う事に長け、火と珍しい氷の魔法まで。どう足掻いても届かないような存在。


 コツン


 小指の爪よりも小さな小石が側頭に当たって地面に転がった。


「避けろよバーカ」


 休憩時に揉めた子供が視線の先にはいて……。貴族の俺を侮辱してくる?


「お前たちの方が馬鹿だ!」


「へっ、俺らの方が有能ですぅー」

「違うんなら捕まえて見ろやぃ」

「べー」


 湧き上がる怒りに任せてソイツらを追いかけた。


 のだけど……。


「待て!!」


 制止は追いつきたいからの言葉じゃない。目の前に見たこともない魔物が居たからで、危ないからで……。


 距離があっても恐怖に茫然としてしまう。

 


 すべてが一瞬だった。

 一人が大蛙の腹の中へ。

 より一層深まる恐怖。

 木の根が大蛙を縛りつけたと同時に水攻撃が発動。

 強靭そうな木の根を引きちぎり飛び上がる魔物。

 それは、リヒノの目前に着地して舌を伸ばす。

 弾け飛ぶ作物。

 一度引いた舌が再び伸びた時……。


 大蛙が弾け飛んだ。


 目を疑う光景。その中に一人立っているのはリヒノで大蛙の腹の中にいたはずのナナキは地面に伏せている。

 リヒノはナナキに歩み寄りその体を癒す。


 危機が去りホッとする反面、忘れられない。その瞳の深い赤が。遠目からでもわかる気味の悪さを感じる微笑みが…………。

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