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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
アルセリアスでの茶木栽培
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語られた過去の裏切り


 私がシオへの不信感を深めていたとき、カナンヴェーグの監視から外れていたレントナードの声が辺りに響いた。

 アルセリアス家門から出してあった騎士さん頑張ってよ。


 私のシリアスな気分全部持ってかれたよ。


「俺は貴族だぞ!」

「貴族なら、魔法でも使ってみろやぃ」


 同年代くらいに見える背丈の子供達と何やら問題を起こしている様子。


 レントナードを貴族として扱うな。タテス行きは労働力としての参加。そう伝えられていても大人はある程度遠慮するもの。


 でも、子供は容赦ないね。恐らく今日であれば酷い態度をとっても咎められないと分かってやってる。タチが悪いな。


 まぁ、たまにはこういう触れ合いも悪くないんじゃない?

 世の中色んな人がいて、行動や接し方も十人十色。レントナードに足りてないのは経験と他人を思いやる気持ちとかそんなんだろ。きっと。


 知らんけど。


 見てろよ。お前らなんか直ぐに泣いて謝らせてやる!! 的なこと言って張り切って呪文を唱え出したのだけど……。


「大地を焦がす……灼熱の業火を……」


 って、ちょっとまって、レントナードさん??

 私は魔法に呪文必要無いから詳しくないけど業火って穏やかじゃ無いよ。地獄の炎だよ?? 広範囲魔法っぽくないですか?

 今、みんなで耕した畑をとんでもない魔法で焦がす気か?!

 煽り耐性ないからってお前も子供相手に容赦ねぇな!!

 場合によっては水魔法をっ……。




 発動しなくても良かった。っぽい。


 うん。結果としてレントナードの魔法は発動しなかった。意図的なのかは分からないが、もしそうだとしたら少しは成長した?


「ほら!! 魔法なんて使えないじゃんか!」

「バッちゃの言ってた通りだ」

「俺だって使えるのに」


 ケラケラ笑う子供達。内一人が手のひらの上に水の塊を出してみせた。


 子供達は発動しないのが初めから分かってたっぽいけど、もし発動していたらただで済んでない。それを思うとヒヤヒヤする。


「何で!! いつもは出来るのに!」


 魔法の発動停止は意図的でなかったようで混乱しているレントナードの頭にカナンヴェーグの拳が落とされた。非常に痛そう。とても痛いのだろう両手で頭を抱えている。

 これは……泣いて謝るのはレントナードになったな。


「人に向けて、ましてや自らの一族の治める領民に向ける魔法ではない!!」

 

 やっぱり結構ガチ目の呪文だったらしい。

 頭を押さえつけられて謝罪をさせられるなんて散々だったな。自業自得だけど。


「して、カルナ殿。レントナードを制止しようしたワシを引き止めたのは初めから発動しないとわかっていたからとお見受けしますが、どういう事か説明をいただいても?」


「簡単な事ですや。いつか……まではわかりかねますが、こちらの領主家の御令息は以前にこちらの御令嬢に牙を剥いた事がおありでしょう」


 まぁ、うん。つい昨日の事だけどね。


「故に精霊様達が御令息を嫌っておいでなのです。協力などしないと」

「では、今後も魔法は使えぬと?」


 もしかしたら、昨日、レントナードが燃えたのって、拘束していた植物を焼切ろうとしたんじゃなくて精霊がレントナードを……??


 ゾクッとした。普通の人には見えない精霊による反逆攻撃やボイコットして魔法を使えなくする行為は、人間側からしたら命に関わる呪いだ。


「いいえ、もとより勝ち気で喧嘩っ早い性格や割り切りった気持ちのいい性格を火属性の精霊様は好みますから……御令息が全ての精霊様に見放されたわけではございません。ですが、呪文を唱えた魔法が小さな威力で発動するでもなかったところを見ますと、御令息は火を恐れていらっしゃるのではないでしょうか」


 勝ち気で喧嘩っ早い性格……は間違いないな。多少の事を軽く笑い飛ばせるカナンヴェーグやアルクザードなどに言える"セテルニアバルナらしい性格”がまさに火の精霊の好むそれだろう。


 それに火を恐れるのも仕方ない。昨日全身大火傷を負ったのだ。怪我が残ってなくても、本人が怖いと意識していなくても、無意識下で火への恐れがあってもおかしくはない。その火を他人にぶつけようとした神経は疑うけどな。


「もはやただの人ですね」

「傷口に塩を塗るでない」


 エリーゼ……。

 可哀想。流石に可哀想よ。


「もとより、アルセリアスの領主は精霊様に好かれておりませんから。御令息は直接の血の繋がりが無いからこそ火の精霊様がそばにいてくださるのです」


「待て、弟が精霊に好かれて居ないとは……」

「そのままの意味でございます。過去の行いで精霊様に見放された血。故に私どもタテスは領主一族と距離を置いていたのです」

「お婆様!」


 言い過ぎだと止めるように割り込んだのはアルセリアス邸で庭仕事をしていた灰色の髪の青年だ。


 アルクザードが言っていたタテスの出身者って彼の事だったんだな。


 ひとまず、アルセリアス邸から来た面々に聞かせる話ではないな。


「休憩は終わりだ。各自作業に戻ってくれ」


 麦茶に群れていた者たちも散り散りに畑に戻っていく。レントナードもアルセリアスの騎士が連れてってくれた。


 残ったのはカナンヴェーグ、私、エリーゼ、カルナ、庭師のみだ。


「して、奴は一体……何をしたというのだ」


 聞くのが少し怖い。多分私が来る前の事だ。精霊に嫌われるとすればリザに何かしたか……、セテルニアバルナらしく無い振る舞いに愛想を尽かされたか。


「ランジェ……今はユズリハと言いましたか。過去ではその地に生まれた者は尊い方を祀る役目をもっておりました。故に貴方様の奥様もその御令嬢も濃い色を持って生まれ精霊様に慕われていたはずです。慕っている者への攻撃、それ以前に他者を陥れる野心を火の精霊様は嫌いますから……。それに加え誠に失礼かと存じますが、過去に亡くなられた貴方様のご兄弟二名の死にも領主は関わりがあると……精霊様は申しております」


 カナンヴェーグの眉間の彫りはどんどん深くなっていく。娘に起こった悲劇、過去に失なった兄弟の死因、耳にした事は全て信じたく無いだろう。


 けど、精霊など居らず全てはカルナの出まかせだとは言えない。レントナードについてのカルナの言葉は概ね事実だったし、カナンヴェーグ自身、精霊の存在を感じた事があるから……。


 カルナの口から語られなかった他者を陥れる野心については、嫌でも何となく分かってしまう。

 ティア姉さんの母親が混沌の女神に魅入られたと神殿に密告し、あわよくば彼女と共に過ごしていた無属性をもつ才能の塊だったエルトディーンを陥れようとした。


 最終的にな狙いはセテルニアバルナで、後継(兄弟)が一人になればカナンヴェーグの弟が家を継ぐ事もあっただろう。しかし、カナンヴェーグには敵わなかった。


 だからその周りから崩していく事にしたのかも知れない。


 これが事実だったら、いや、事実なんだろうけど……。コレは相手が精霊じゃなくても嫌われるわ。


 ドロドロだよ。

 農作業の休憩時間に聞くにはヘビーだよ。

 

 しかも、タテスの人間、みんなこの事知ってるんだろ。そりゃ、領主家に敵対するに決まってる。


 カナンヴェーグは迂闊ではないから、血の繋がった弟とはいえ、アルセリアス領主にネヴェルディアとリザの軋轢を伝えてはいないだろう。


 これがポロリとでもこぼしていたら、隙に付け込まれて陥れられていたかもしれない。


 リザ側は信じる事を罪とされている点アドレンス国内では不利な立場だものな。


 

「恐らく今現在、領主様は以前のような強力な魔法は使えないでしょう。だから屋敷に引き篭もり、入婿である貴方様の御孫様に領中を駆けずり回らせおるのです」



 これ、どう対応するのが正解なんだろう。


 今、カナンヴェーグは複雑な心境だろうね。だって終わってしまった事はどうする事も出来ないし、自ら弟に手をかけるわけにもいかない。孫(アルクザード)、が大事なら領に制裁を加えるわけにもいかないもの。


 かと言って許せる事でもない。


 話が明るみに出れば、どうしたって家紋の恥だ。ぶつけどころの無い怒りは心の中に押し込めるしかない。お顔がすごく恐い。


 まぁ、過去の罪を立証しようにも証拠が普通の人には見えない精霊の証言だけではこちらが不利。


 アドレンスに精霊信仰はないのだ。


 …………。

 なんで、カルナはこんな踏み込んだ内容を私たちに話したのかな。


 カルナの狙い、タテスの狙いはなんなんだろう。セテルニアバルナ本家と分家の対立?

 それによる領主の失脚?

 でも、庭師はカルナの言い過ぎを止める仕草があったしカルナの独断?


 …………分からん。


 分からんし、ここで話を変えてしまっても良いかな??

 変えちゃうよ??


 だって、耐えらんない。私だって、さっき結構ショッキングなことあったんだからな。

 カナンヴェーグほどじゃないけど。


「(さっき、子供が魔法を使っていましたが……タテスでは、皆魔法が使えるのですか?)」


「皆、と言うわけにはいきませんが、ある程度使える者がいます。昔、アドレンスが建国された頃は民も当然のように生活に魔法を取り入れていたと聞きます。貴女様ほど多様ではなかったでしょうけれど」


 リザへの信仰を持っている土地の住民が濃い色を持っていたように、ネヴェルディアに惑わされていないこのタテスの住民も濃い色を持って生まれてるって事何だろうね。


 それで大地に魔力があって精霊が力を持っていて魔物を排除してくれる……?

 

 ふと思う。


「(此処は魔物は出ないのです?)」

「無論出ますよ。普段は角兎などの小型なモノが多いですが、時折強力なモノも現れます。今は時期的に大蛙ですね。冬の間大人しくしていた大蛙が繁殖の為に動き出すんです。泉に産卵するのですが」


 手を前に出して庭師の言葉を遮った。

 

 …….カエル??

 泉に??


 え、うん。

 泉に行くシオ達について行ってたらカエルの魔物と戦闘があったかもってこと?


「…………」


 食べられない事もないので毎年卵を駆除する量を管理して……とか、聞きたくねぇ。


 魔物を全部駆除せずにある種の共存を図ってるのは素晴らしいんだろうけど聞きたくない。爬虫類の話なんか聞きたくない。


 今、シオ達が大きなカエルと戦って、カエルの卵を処理しているのを想像しただけで恐ろしい。蛇だし蛙は好物なんですか?? 


 ホントやだ。

 お留守番組でホントよかった。



「(蛙……やめて、角兎の養殖はどう? 角を切ったら大人くなって管理がしやすいし、繁殖季節が決まってないうえ成長も早いから……)」


 ベンジャミンは化け物ばりに大きくなりすぎたけど、普通サイズの角兎ならベンジャミンほど飼料もいらないはず。


「魔物を家畜として管理するんですか?!」

「(肉は食べれて魔石も取れる。魔石は砕いて土に還せば大地が枯れる事もない)」


「突飛なことを考えますなぁ」

「角を落とした角兎が人を襲わないのはセテルニアバルナで飼育しているからわかりますが、繁殖が可能かまでは確かめていいませんよ」


 エリーゼの言う通りなんだけど、やってみないことにはわからないじゃん?

 でも、自分でやるのはだるいじゃん?

 それこそ、いつ消えるかわからない私が色々やり残して消えたら迷惑かかるし。



「(試しに角兎の養殖をしてくれるなら、素敵な作物を授けましょう)」


 紅茶を美味しく広い世代に楽しんでもらうには砂糖が必要。砂糖が高価とあれば作ればいい。北の大地でも育つ甜菜を。


 みなさんご存知の大根のような根に糖分を蓄えた植物でほうれん草の仲間だ。砂糖を取った残りの部分は人の食用に向かないから角兎の飼料にもってこい。

 皆、トルニテア野菜になれてるからアクの強いビートの葉や絞りカスも食べれるかもね。


 私の作った地球の植物がトルニテアの植物にどう影響を与えるか分からないから、同じ畑の一角で育てたり、輪作の提案はできないけれど……。


 養殖する角兎は年中その辺で調達できるから食料が乏しい時期は飼料の負担を減らすために養殖をやめてもいいと思う。


「それは長を交えて後に話し合いの時間を設けましょう」


 えぇ。もし許可が出たら優先的にお砂糖くださいな。なんて思いつつ……深い皺を刻んだままのカナンヴェーグと共に作業に戻った。

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