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第56話 スキー旅行 前編

 クリスマスパーティから少ししたある日のこと。

 部長から電話がかかってきた。


『文隆君、実は真子からスキーのお誘いがあってな。よかったら皆でどうだということなので、君にも連絡を入れたのだが……。君はどうする?』

「美月さん……。受験生がスキーって……」

『ああ、君の言いたいことは分かるが、何でも彼女たちはその辺は気にしないらしい。実に彼ららしいではないか』


 電話の向こうでくつくつと部長が笑う。


「まぁ、本人達が気にしないというのならいいですけど……。それで? 日程によってはいけないかもですが……」

『ふむ……少し待ってくれ……。日程は明日から二泊三日。道具も全て貸し出してくれるらしいし、真子の家が所有してるスキーリゾートらしいので、費用は掛からないらしい。さすがは真子といったところだな』


 さすが富豪で知られる美月家。

 まさかスキーリゾート施設を所有してるとは……。

 でも、まぁ、そういうことなら……。


「分かりました。参加します」

『参加してくれるか。ならば、明日の朝七時に学校の校門前に集合だ。必要なものは着替えとある程度のお金だろうな。後は……そうだな。個人的に必要だと思ったものを持ってきてくれればいい。それでは明日。遅れるなよ?』


 そして部長が電話を切り、僕は早速準備を始めることにした。

 道具類は全て貸してくれるみたいだから、着替えと必要なものか……。

 頭の中でリストを作成しながら、必要なものをかばんに詰めていく。

 後は親に伝えればいいかな。


 そんなわけで……。

「あ、明日から泊りがけでスキー行ってくるから」


 夕食を食べながらさらりと伝える。

 それに対する両親の反応も実にあっさりしたものだった。


「そうか。気をつけてな」

「お土産よろしくね」


 面倒が無いからいいんだけど、もう少し心配とかしてくれないものだろうか。

 まぁいいか……。

 僕が軽くため息をついていると、妹の真魚(まお)がぷくっと頬を膨らませる。


「え~、お兄ちゃんずるい! 私も行きたい!」

「ダメだ。というか、お前受験生だろ?」


 そう、妹は現在中学三年生。

 受験真っ只中だ。


「そもそも成績があまりよろしくないお前が、僕と同じ高校に入ろうとするのなら、相当の努力が必要だから遊んでる暇は無いはずだろう? それに、受験生がスキー行ってどうするんだよ。普通は自分からそういうのは避けるべきだろう?」


 僕が懇々と説明してやると、真魚は拗ねたように頬を膨らませながらもしぶしぶ納得した。


「むぅ……。分かったよ。それじゃあ、お土産お願いね」

「はいはい」


 とりあえず妹の頭を軽くぽんぽんと叩いておいた。




◇◆◇




 翌日。

 集合時間の少し前に校門につくと、すでに僕と美月さん以外の全員が揃っていた。

「おはよう、文隆君。君は相変わらず時間ぎりぎりだな」


 部長が呆れたようにいう。


「別に遅刻してないからいいじゃないですか」


 そう抗議すると、黒野さんが首を振る。


「西村。遅刻してないから言いというわけではない。常に不測の事態を想定して、時間に余裕を持って行動することが大切なんだ」

「……分かりましたよ。黒野さんがそういうなら気をつけます」


 僕が降参とばかりに手を上げ、部長がにっこり微笑んだ。

 そうこうしているうちに、美月さんが例のリムジンに乗って現れる。


「お待たせしました。皆さん、どうぞ乗ってください」


 促された僕たちが、ぞろぞろと車に乗り込む。

 それにしても……。

 これだけの人数が乗ってもまだ余裕があるとか……。

 どれだけ大きい車なんだか……。

 ちなみに、今回のスキー旅行の参加者は、文芸部員、新旧生徒会、それに美弥子を加えた総勢十二人。

 今回、空と楓は用事があるらしく不参加、沙条先生は実家に帰ったとかで不参加らしい。


 それはともかくとして、皆で和気藹々としながらも車は進み、出発から三時間ほどで今回の目的地である、美月家所有のスキーリゾートに到着した。

 僕たちはまずはホテルに荷物を預け、早速道具類をレンタルする。


 ちなみに、僕、六花、黒野さん、向井さん、新生徒会長の雪路綾女(ゆきじあやめ)さん(雪路さんと呼んでいる)、それに新生徒会書記の松野桐久(まつのきりひさ)君(松野と呼んでいる)がスノーボード。

 残りの、部長、美月さん、里井、美弥子、新生徒会副会長の高藤渉君(たかとうあゆむ)(高藤と呼んでいる)がスキーの装いだ。


 ともあれ、準備を終えた僕達が、一緒についてきた使用人さんからリフト券を受け取り、早速リフトに乗ろうとしたときのことだった。


「お前ら、少し待て」


 黒野さんが皆を呼び止める。

 皆がいっせいに黒の産に注目する中、黒野さんは僕たちに呆れるように言った。


「まずは準備体操が先だろう!」

『えぇ~』


 何人かが文句を言うのを無視して、黒野さんは準備体操を始める。

 それに倣うように高藤や六花、美弥子がはじめ、ほかのメンバーもしぶしぶでは歩けど準備体操を始めた。

 そうしてようやく準備体操が終わり、黒野さんも満足げに頷いたので、全員が一斉にリフトに突撃した。

 少ししてリフトから降りた僕たちは、早速ゲレンデを滑走し始める。

 ちなみに、リフトから降りるタイミングを逃してそのまま逆戻り、なんてベタな失敗をする人はだれ一人としていなかった。


 それはともかく、何故か向井さんが美月さんに、そして松野が雪路さんに飛び掛って迎撃され、二人揃って雪ダルマになりながら斜面を転がり落ちたり、六花と雪路さんがボードをそり代わりにして遊んでたり、部長と美月さん、里井、美弥子が競争したりしながら、午前中は目一杯遊んだ。


 そして昼食としばしの食休みをはさんだ後、まだ滑り足りないという部長、美月さん、僕、黒野さんは再びリフトに乗り、ほかのメンバーは麓で雪合戦をしたり、雪ダルマを作ったりして遊ぶことになったときに、事件は起こった。


 すべり足りなかった僕達が、リフトを降りていざ滑ろうとしたときのことだった。


「……? 真子、そこは?」


 部長が僕たちのすぐ傍にあった雑木林を指差す。


「え? ああ、そこは別のスキー場との連絡通路です。地元で道に詳しい人間じゃないと行き来できないですし、斜面が急すぎるので、普段は立ち入り禁止にしてるんですよ」

「ふぅん……。そうか……」


 部長がそうつぶやいたときだった。


 ――ごうっ!


 突然突風が吹き、辺りの雪が舞い上げられる!


「っ!?」


 一瞬、視界が白銀一色に染まる。

 そして、そんな中。


「うわっ!」


 部長の短い悲鳴が聞こえた。

 幸い、突風はすぐにやんだので、僕は気になって部長に問いかけながら視線を向けた。


「……部長?」


 すると、部長が雑木林に向かって滑り落ちていくのが見えた。

 どうやら突風に煽られて体勢を崩して、そのまま転がってしまったみたいだ。


「っ!? 部長!」


 すでにボードを装着していた僕が慌てて追いかける。


「文隆さん!」

「ダメだ!」


 美月さんと黒野さんの制止の声を振り切って、僕は部長を追う。

 何とか止まろうとするも止まれずに滑っていく部長を追いかけて雑木林に入り込み、ようやく追いついて部長を止めたときには、もうだいぶ林の奥のほうへと入り込んでいた。


「はぁ……、はぁ……。だ、大丈夫ですか、部長?」


 荒くなった呼吸を整えながら訊くと、部長も型で息をしながらうなずいた。


「ああ……、どうにか無事だ……。それよりも、大分滑り落ちてしまったな……」

「そうですね……。とりあえず戻りましょう」

「そうだな……」


 そうしてそれぞれボードとスキー板をはずして斜面を登ろうとしたときのことだった。


「っ!?」


 部長が息を飲んでその場にしゃがみこみ、左の足を押さえた。


「部長? 足を……?」


 僕が訊ねると、部長は気丈に笑って首を振る。


「いや、これくらい問題ない。気にするな…………っ!」


 そう言って立ち上がろうとするも、やはり相当に酷く捻ったのか、再びしゃがみこんでしまう。


「部長……やっぱり……。とりあえず、助けを呼んでみますか……」


 そう言って携帯を取り出すも、山の中ということもあり、圏外。

 試しに、叫んでみたけど、反応が返ってくることはなかった。

 こうなったら……。

 僕は覚悟を決めると、ボードを雪につきたて、部長に背中を向けてしゃがむ。


「部長、僕が背負って行きますから。乗ってください」

「文隆君……、しかし……」

「気にしないでください。その足じゃ歩けないんですし」

「……仕方ない。君の言葉に甘えることにしよう」


 部長は少し葛藤していたようだけど、やがて素直に僕の背中にゆっくりと体を預けた。


「それじゃ、しっかり捕まっていてくださいね」

「うむ」


 部長の腕がしっかりと僕の首に回されたことを確認してから立ち上がり、ゆっくりと斜面を登り始める。


 ――ざくっ、ざくっ


 背中に部長の、想像以上に軽い重みを感じながら、一歩一歩ゆっくりと上っていく。そんなときだった。


 ――ずるっ


 踏み出した足の下にある雪が滑る。


「「っ!?」」


 体勢を崩した僕たちは、悲鳴をあげる暇も無く、そのまま斜面を転がり落ちていった。


(続く)

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