第55話 破壊のクリスマス
クリスマス・イヴを目前に控えた、終業式の日。
学校に登校した僕が、上履きに履き替えようと自分の下駄箱を覗き込んだときだった。
ひらり……、と何かが落ちた。
「ん? なんか落ちたな……」
拾い上げてみると、それは一通の封筒だった。表面にはこう書かれている。
――西村文隆様へ
「っ!? これは……!?」
途端、僕の体に衝撃が走る。
僕は逸る気持ちを抑えながらゆっくりと封筒を裏返す。
ハートマークのシールで封をされた封筒。
しかし裏面には何も書いてなくて、差出人が誰かはわからない。
僕が震える指でゆっくりと封筒を開封しようとしたときだった。
「やあ、どうしたんだい、西村君?」
「うひゃあっ!?」
突然背後から声を掛けられて、思わず悲鳴をあげてしまった。
そのときに封筒を落とさなかったのは僥倖といえるだろう。
ともあれ、僕が焦りながら後ろを振り返ると、そこには相変わらずの胡散臭い笑みを浮かべた里井が立っていた。
その顔を見た瞬間、僕は大きく息を吐いた。
「ふぅ……。なんだ……。里井か……。朝っぱらから無駄に人を脅かすな」
「酷い言われようだねぇ……」
里井は苦笑を返した後、ふと僕の手に注目する。
「あれ? 西村君、何を持ってるんだい?」
ちっ!
気付いたか、目ざとい奴め。
だが、これをこいつに知られるわけにはいかない。
というわけで、とりあえず誤魔化すことにした。
「里井、そういえばもうすぐクリスマスだけど、お前はどうするんだ? やっぱり美弥子と過ごすのか?」
去年は部長の家でパーティーしたけどと付け加えると、里井は去年のカオスなクリスマスパーティーを思い出したのだろう、苦笑いをした。
「去年のパーティーは酷い目にあったからね。できれば去年みたいなことは勘弁してほしいところだよ。今年はそうだね……。部長からお呼びが掛からなかったら、美弥子の家のパーティーに出席することになるだろうね。婚約者として」
「部長が、この年に一度のイベントを見逃すと思うか? 受験勉強も就職活動も必要ないあの人が、この騒げる機会を見逃すとでも?」
「だよねぇ……」
そうこうしているうちに、教室に着いた僕たちはそれぞれの席に向かい、荷物を置く。
その際にかばんの中にこっそりさっきの手紙を入れておくことを忘れない。
後でこっそり見よう……うん。
それからやがてホームルームが始まり、チャンスだと判断した僕はこっそりと手紙を開いて、そこに書かれた内容を読んでいく。
――西村文隆君へ
――今度のクリスマス・イブに私、美月の家でパーティーを行いますので、是非ご参加ください。
――なお、プレゼント交換も行いますのであらかじめ用意していてくださいね。
――美月真子より
読み終わった瞬間、僕は机に頭をぶつけ、「ごん!」という音が教室中に響いて一斉にみんなが僕に注目する。
僕は慌てて周りに何でもないと誤魔化した。
クラスメイトや先生はしばらく不審な目で見ていたけど、やがて、気にしないことにしたのか、いつもの授業風景に戻っていく。
まぁ、空や楓、六花と言った友人たちはそれでもどこか不審そうな目で見ていたけど……。
それは気にしないことにして、僕はもう一度手紙に目を落とす。
……うん、てっきりラブレターだと思った僕がバカでした。
ただ、これだけは言わせてください。
………………紛らわしいことをするな!
ふぅ……。
最後にため息をついて手紙を机に放り込んだ僕は、先生の話に耳を傾けることにした。
その後、終業式の時に空たちに理由を話すと苦笑いされた。
そうして、終業式を終えた僕たちは、その後教室で通知表を受け取り、それぞれの部活に向かった。
◆◇◆
それから数日後のクリスマス・イブ。
あらかじめ連絡されていた通り、学校の校門前に集合したパーティー参加者(文芸部全員、新・旧生徒会、空、楓、沙条先生、美弥子)が初顔合わせとなる面々で挨拶をしていると、僕たちの前にリムジンがゆっくりと止め、清楚なドレスに身を包んだ美月さんが姿を現した。
「さぁ、皆さん。乗ってください」
優雅に微笑む美月さんに促されて車に乗り込む。
そうして辿り着いたのは、豪奢な様相をなす美月邸。
初めてこの美月邸に来る美弥子が思いのほか驚かなかったので理由を聞いてみると、どうも見慣れているらしい。
ブルジョアですね!
ともあれ、屋敷の使用人たちに案内され、まずは皆が正装に着替える。
ちなみに向井さんは流石に使用人たちがいる前で堂々と覗きをする気は起らなかったらしく、今回は大人しくしていた。
ついでに言えば、最初僕たち男に用意されていたのは女性もののドレスだったけど、さすがにこれを切るわけにはいかないと全員で猛反対して事なきを得た。
何はともあれ、全員が着替え終わり、パーティー会場に案内される。
「こちらで少々お待ちください」
そう促されてはいった部屋はだだっ広くて、何故か天井から壁、床に至るまでビニールで覆われていた。
改装中なのかとも思ったけど、いくつかの丸テーブル以外道具も置かれていないし、何より改装中の部屋でパーティーを行うわけでもないだろう。
だったら一体……?
何だか嫌な予感が頭をもたげてきていることを感じつつ待っていると、やがて、僕たちが入ってきた入口と反対側の扉から女性陣が到着し、男性陣全員が「ほぅ」と息を吐いた。
女性人たちは、決してきらびやかではないものの、それでもどこか気品を感じさせるドレスに身を包んでいた。
まぁ、ドレスを着なれていない現生徒会長や六花、冨和ちゃんはおどおどしていたけど。
そして、女性陣の到着と同時に、両方の扉から次々と料理が運ばれ、あっという間にいくつものテーブルが料理でいっぱいになった。
さらに気付けば、いつの間にか僕たちの手にはジュース(沙条先生にはシャンパン)が満たされたグラスが収まっていた。
いつの間に……。
内心でその仕事の速さと無駄な隠密性に驚いていると、美月さんがグラスを掲げた。
「皆さま、本日はようこそお越しくださいました。こころばかりではありますが、ささやかな料理と飲み物をご酔いさせていただきました。今宵は存分に楽しんでください」
さすがはお金持ち。
ずいぶんと様になるスピーチで雰囲気を盛り上げ、そして……。
「メリークリスマス!」
『メリークリスマス!』
美月さんの言葉に合わせて全員でそう言った後、宴が始まった。
いくつものテーブルに満載された料理に舌鼓を打ち、(主にメイドさんたちや執事さんたちの)周到に用意された余興を大いに楽しみ、先生が三年生たちと一緒に酒を飲み、酔った部長と美月さんが六花と美弥子を追い掛け回したり、何をどうしたらそうなったのかは分からないけど、向井さんが高い天井からいつの間にか吊り下げられていたり、興味本位で酒を飲もうとした僕を、皆が全力で止めたりしながら、楽しい時間を過ごしていった。
そうして、パーティーが最高潮になったころ、部長がいつの間にかマイクを手にこう宣言した。
「それでは諸君! プレゼント交換会を始めようではないか!」
それに続くように、美月さんもマイクを手に場を盛り上げる。
「今年のプレゼント抽選方法は…………、風船割りです!」
その宣言と共に、再び屋敷の使用人たちがわらわらとあらわれ、僕たちに刀身がゴムでできたおもちゃの刀を渡し、それぞれの頭に風船を括り付けていく。
ちなみに、彼ら使用人も同じような装備を身に着けている。
そうこうする間にも部長と美月さんによる説明は続く。
「今回は、皆の頭に取り付けられた風船を割って、中に入った番号と同じプレゼントを受け取る仕組みだ」
「ちなみに使用人たちに付けられた風船はスペシャルです。あの風船を割ることができた方は、美月家が用意した豪華賞品を受け取れますので、チャレンジしてみてくださいね。ただし、彼らはとても強いので注意してください」
「なお、自分の風船が割られた場合は罰ゲームを受けてもらう」
「風船はいくつ割っても構いません。割った分だけプレゼントを受け取れます。でも安心してくださいね。一人に最低一つずつはいきわたるようにしますので」
そこで二人は一度言葉をとぎらせ、互いに頷きあう。
そして……。
「「それでは、プレゼント交換会、冬の陣! 始め!」」
どどんと和太鼓の音が響き、プレゼント交換会という名の戦争が始まった。
セオリー通り、与しやすそうな人間から狙う人、自分の腕を信じて果敢に使用人たちのスペシャルを狙いに行く人、我関せずとばかりに料理を楽しむ先生(部長と美月さんに狙われて反撃していたけど)。
そんな中僕はと言えば、里井と空と三つ巴の状態になっていて、動くに動けない状態だった。
「空……お前……、俺を狙うか……」
「当然だ。戦に情けは無用だ」
「そう言う西村君だって僕を狙ってるじゃないか。そんなに僕のが欲しいのかい?」
「そう言う誤解を招く発言はやめろ!」
ツッコミを入れつつ、里井に向かって斬りかかっていく。
が、その隙を空が見逃すはずもなく、空の刃が僕に迫っていた。
僕はその刃を紙一重で躱す……が。
「えいっ!」
後ろから迫っていた六花に風船を割られてしまった。
悪戯が成功したかのように「にっしっし」と笑う六花にため息をついてから、僕は審判役を務める部長の元へ向かい、罰ゲームのくじを引く。
出てきたのは……。
「エヴ○ンゲリ○ン初号機(新劇場版)のコスプレ」だった。
「え?」
戸惑う僕を、そばに控えていた使用人が強引に連れ去り、あれよあれよという間に着替えさせられる。
そして、気が付けば僕は全身紫色のロボットの姿をしていた。
もはやあきらめムードのまま会場に戻ると、どうやら他にも罰ゲームを受けた人がいるらしく、某兄弟合体するドリルを使うロボットに成りすました人が「ギガァド○ルゥンブレィィィィクゥゥゥウウウウ!」と叫びながらドリルで突貫していたり、某英雄王のように金ぴかの鎧を着た人が鎖をぶんぶん振り回しながら高笑いしていた。
なんだこのカオスは……。
僕が呆れていると、いつの間にか背後に立っていた部長が、「ぽちっとな」とか言いながら僕の首筋のところにあった隙間に何かを差し込んだ。
その瞬間、僕の意識は途絶え、気が付けばパーティー会場がボロボロになって、全員が倒れ伏していた。
後日聞いた話では、突然「うぉぉおおおおおおん!」と雄叫びを上げながら暴走した紫色のロボットが暴れまわったらしく、しかもそれだけじゃなくて他にもロボットのコスプレをした人たちも暴れまわったらしい。
それを聞いて後で美月さんに謝罪したところ、どちらにしてもあの部屋は建て替える予定だったから気にするなと言われた。
うん、本当にすいませんでした。
~~おまけ~~
文隆「そういえば部長」
部長「どうかしたのか、文隆君?」
文隆「この作品、作中でよく高校生の部長たちがお酒を飲むシーンが出てきますよね?」
部長「ああ……そういうことか……。そうだな……作者のしりぬぐいをしなくてはな……」
文隆「まったく面倒ですね……。それじゃ、僕から……。「※この作品はフィクションです。作中に登場する人物・団体・その他のものは現実とは一切関係ありません」」
部長「また、この作品はフィクションであるため、作中の表現で未成年の飲酒シーンが登場しますが、実際の飲酒は二十歳以上になってからでお願いします」
作者「……ほんと、すんません……。なにとぞ誤解のなきようよろしくお願いします……」




