第50話 文化祭 準備編
「それじゃあ、文化祭一日目でやるクラスの出し物でやりたいものを挙げてください」
文化祭実行委員兼クラス委員長がそういうと、クラスのあちこちから様々な意見が出される。
委員長はそれを黒板に一つ一つ書いていく。
演劇、喫茶店、お化け屋敷といった定番のものから、休憩スペース、展示などといったやる気の無いもの、果ては自主制作映画や、ギネスに挑戦といった変り種まで。
そうしてあらかた出揃ったところで、今度は投票。
メモ帳が配られ、やりたいものを一つだけ書き、教卓に置かれた箱に投じていく。
全員が投票を終えたところで、委員長が一つ一つ読み上げ、補佐の女子がそれぞれの項目に「正」の字を書き足していく。
やがて……。
「最後は演劇……っと。……というわけで、今年のクラスでの出し物は演劇に決定しました」
ぱちぱちとまばらな拍手が発生したところで、六花がもっともな疑問を上げた。
「でも、演劇で何をやるの?」
六花の疑問を聞いたクラスメイトの間でざわめきが起き、それぞれ好き勝手にやりたい演劇を上げていく。
「白雪姫!」
「ベタだねぇ……」
「ロミオとジュリエット!」
「それもベタ……」
「半分の○が昇る○」
「ラノベだよねぇ!?」
「文学少○シリーズ!」
「またラノベ!?」
「とある魔術のそげぶ!」
「タイトル違ぇ! つか、ラノベはダメだろ!」
「ガン○ム00」
「どうやって再現するの!?」
「え~、私はSE○Dのほうがいいな。アス○ン×シ○はジャスティス!」
「ベーコンレタス!?」
「だったらコード○アス!」
「それもアウト!」
「え~……、じゃあもう桃太郎でいいよ」
「急に幼稚園のお遊戯レベル!?」
「ふふふふ……僕は……」
「お前は黙れ里井」
「酷っ!?」
ちなみに次々出てくる意見にツッコミをしているのは僕だ。
でも、そろそろ息切れしてきたので、がっくりと机に突っ伏す。
もう嫌だこのクラス……ボケが多すぎる……。
僕がだらだらと突っ伏しながら回りの様子を見ると、クラスメイトたちは一通りボケて満足したような顔をしていた。
本当に自由ですねあんたら!
ともあれ、いつまでもボケていてもしょうがないと判断したのだろう、クラスメイトの誰かが出した意見が採用されることになった。
すなわち。
――家族をテーマにしたオリジナル
「さて、それじゃあ最後に、この演劇の脚本を書いてくれる人、挙手をお願いします」
そんなこと言われて手を上げるような人間は、よほどの自信家で無い限りいないだろうと思っていたら、委員長とばっちり目が合ってしまった。
……あ、いやな予感。
そして、その予感は的中する。
「ちょうどいい。脚本は文芸部に任せます」
里井の胡散臭い笑顔が固まり、僕と六花が必死に抗議するけど華麗にスルーされて終了。
結局僕たち文芸部員三人組が書くことになってしまった。
◆◇◆
しばらくして、部室に集まった僕たち三人は額を突き合わせて、演劇の脚本について話し合っていた。
「で? どうするよ?」
僕の問いに、里井も六花も頭を悩ませて奇妙な唸り声を上げる。
「とりあえず先に設定だけでも作ってみないかい?」
里井の考えに同意した僕たちは、必要と思われる役柄を上げていく。
「とりあえず、両親と子供一人は最低必要だよな」
「兄弟姉妹はどうするんだい?」
僕と里井が唸っていると、六花が手を上げて要望を言う。
「私、ペットもいたらいいと思う!」
「人がやるの!? ……いや待てよ……、ありかもしれない」
六花の意見にツッコミをしかけたところで考え直す。
「配役が多すぎてもだめだけど、少なすぎても面白くない。それに僕たちにこんな面倒なことを押し付けたんだ。それくらいはやりかえす権利があるはずだ」
「今、さらっと本音が漏れたね」
里井のツッコミは華麗にスルーだ。
「とりあえず、おおざっぱに両親と子供一人は確定として、兄弟姉妹やペットなんかは脚本の流れで必要になったら出すってことでいいんじゃないか?」
「うん、それでいいと思う!」
六花が元気に賛成し、里井も頷いた。
「それじゃあ、後は脚本だけど……。誰が書く?」
僕が六花と里井に目を向けると、二人とも揃って僕から目を逸らす。
うん、正直僕も同じだ。
できれば脚本なんてものはやりたくない。
「でも、だからと言って僕に押し付けるなよ?」
僕が釘をさすと、二人とも「ぐっ」と唸った後、渋々といった様子で視線を戻した。
「さて……、誰が書くか……」
僕がぼやいた時だった。
「ほう、君達は今年は演劇をやるのか……。楽しみだな、亜衣君」
「でゅふふ……、え……、演劇でBL……。西村先輩と里井先輩のカップリング……。でゅふふふふふ……」
部長の声と、相変わらず妄想が暴走している冨和ちゃんの声が聞こえてきた。
「そうなんです、部長。あと冨和ちゃん。演劇でもそんなことしないからね」
とりあえず冨和ちゃんにツッコミをしたあと、「でも……」と言葉を続ける。
「実は脚本を僕たち文芸部員が任されたんですけどね……、誰が書くかでちょっと悩んでまして……」
「なるほどな……。それならいっそのこと、君たち一人一人が脚本を書いて、クラスメイトに投票してもらえばいいじゃないか」
僕たちは、部長の提案に一瞬きょとんとした後、お互いに顔を見合わせていった。
『それだ!』
こうして僕たちはそれぞれで脚本を書くことになった。
◆◇◆
そして一週間後のクラスで。
「それじゃあ、今から脚本候補を印刷したものを三種類配ります。読んでみて、自分がやりたいと思った脚本に投票してください」
クラス委員の説明の後で、僕たちはそれぞれ書いた脚本を配っていく。
ついでに、里井も六花もどんな脚本を書いたのか知らなかったので、それぞれ一部ずつもらっておく。
ぱらぱらと興味本位でめくってみる。
まずは六花の物から。
それにしても六花の奴は随分少ないな。
『昔々、あるところにおじーさんとおばーさんがいました。おじーさんは山へタケノコ狩りに、おばーさんは川へお魚釣りに出かけました』
……何だか〈日○昔話〉みたいな出だしだな……。
大丈夫か?
そう思いながら読み進めていく。
『しばらくして、おばーさんは竿がぴくぴく震えているのに気が付きました。おばーさんが「えいや!」と竿を引くと、なんと美少年が連れました。おばーさんは美少年をお持ち帰りして、おじーさんと離婚し、幸せに暮らしました。 おしまい♪』
『まさかの展開!?』
六花の脚本を読んでいたクラスメイト全員がツッコミをする。
「えへへ~。意表をついたでしょ?」
『突きすぎだよ! 昔話みたいなほのぼの展開から急転直下だよ!』
「それじゃ、皆、これを一緒にやろうよ!」
意表を突けたことで満足げな六花がそう提案するけど、クラスメイトの反応は違った。
『却下』
「えぇ~っ!?」
六花はぶーぶーと文句を言うけど、これは仕方ないと思うな。
さてと……、次は里井か……。
僕は、脚本を読み始めた。
「時は今から三百年後の世紀末。科学技術が発展しきった世界は、徐々に崩壊の兆しを見せていた。これはそんな時代に生きるとある家族の物語である」
おお、何だかSFチックな出だしだな。
これはあれか?
世界が崩壊する中で描かれる家族愛なのか?
僕は期待しながら先を読み始めた。
『「お父さん、お母さん、おはよう」
娘が挨拶すると、既に食卓に着いていたロボット(胸に父と書かれている)がマグカップに注がれたオイルを口に運びながら、キッチンのロボット(背中に母と書かれている)が何かを高速で切り刻みながら挨拶を返した。
『おはよう、娘』
娘が席に着くと、母がオイルが満たされたマグカップと切り刻まれた導線を出そうとして転んでしまい、マグカップの中身を父に思いっきりぶちまけてしまった。
「あらあら、ごめんなさいあなた」
謝る母。
それに対して父は、笑って受け流した。
「何、別にかまわないさ。これくらい、高速クリーニングモードを使えばね」
「さすがお父さんだね、お母さん」
「ええ、そうね」
『あはは、あはは、あはははは……』
ロボット一家は今日も平和である』
『最初の壮大な設定はどこ行った!?』
「ふふふ……、壮大なSFと見せかけてのほのぼのロボット家族。びっくりしたでしょ?」
『ギャップがありすぎてびっくりしたよ!』
「それじゃあ、僕ので決定……」
『してたまるか!』
クラスメイト全員に否定され、里井ががっくりと膝をついた。
ぶつぶつと何か文句を言っている気がするけど、無視する。
結局、僕が書いた脚本を文芸部員全員で手直しをして採用することになった。
そうして、練習を何度も繰り返して、とうとう文化祭当日を迎えた。
果たしてこのクラスで上手くいくのか……、とても不安です。
~~おまけ~~
部長「ところで文隆君」
文隆「どうかしました、部長?」
部長「いや、なに。君たちの書いたシナリオのうち、里井君と六花君のものは分かったが、肝心の君の内容が分からないのだが……」
文隆「ふっふっふ……。さすがの部長も僕の渾身のシナリオは分からないみたいですね」
部長「ぬ? 私に挑戦するというのか? いいだろう、その挑戦、受け取った……。というわけで君の性格から分析すると、物語は奇抜なものよりも王道を選ぶだろう……。それでいて君が過去に読んだ作品を加味すると……恐らく主人公は少女! そして家族をテーマにしているとなると……」
文隆「わ~っ!? ネタバレはやめてください!!」




