第49話 中二病再び
一部、即刻忘れたい記憶もできてしまった夏休みがあけて少ししたある日のこと。
いつのものように僕たちが部室でだらだらと過ごしていたときのことだった。
「ずばん!」と勢いよく扉を開けて部長が入ってきたかと思うと、唖然とする僕たちに向かって無駄に腕組みをしながらこういった。
「待たせたな諸君! 地獄の果てより……私は帰ってきたぞ!」
部室の空気が一瞬固まる。
「………………………………………………は?」
部長の意図がつかめない僕がぽかんとしながら首を傾げると、部長は顔全体を真っ赤にさせた後、咳払いをして何事も無かったかのように自分の席に着いた。
そして、顔の前で手を組んで重々しく宣言した。
「というわけで、今日は皆に中二病を発症してもらう」
『………………………………はい?』
これが僕たちの共通見解だった。
とりあえず、我に返った僕が部長に説明を求める。
「一体どういうことですか?」
そこで部長はにやりと笑った。
「君たちの小説には中二病的な要素が少なすぎるんだ。だから、今日はその訓練をする!」
そういえば、一年位前にも同じようなことを言ってましたね。
僕と里井がなんとなく懐かしく思っていると、部長はホワイトボードにでかでかと「中二病」と書いた。
「いいか? これからこの部屋では中二病的な発言以外の一切を禁止する! 違反したものは罰ゲームを行ってもらう!」
そう言って部長が取り出したのは箱だった。
「罰ゲームの内容はこの中にあるものを一つ引いて実行してもらう! なお、罰ゲームのくじの製作は生徒会メンバーに一任したので私も知らない!」
激しくいやな予感がする罰ゲームだった。
これはなんとしても避けないと……。
僕が沿う決意している間にも部長の説明は続く。
「さらに、各自一分以上しゃべらなかったものもアウトとみなし、罰ゲームを実行してもらう!」
部長が僕と里井を見てにやりと笑う。
ちっ!
前回の手を使おうとしたのに、さすがに先読みされていたか。
「ルールは以上だ! 何か質問はあるか?」
ホワイトボードに書き連ねられたルールをじっくりと見て、僕はある点に目を留め、部長に確認する。
「部長、適用範囲はこの部屋の中ですよね?」
「……? それがどうかしたか?」
「いえ……なんでもないです」
「ああ、しまった。一つルールを書き忘れていた」
そう言って部長は再びホワイトボードにルールを書き足していく。それは、
「十五分以上、継続してこの部屋から出てはいけない」
部長が再びにやりと笑い、里井と冨和ちゃんから恨みがましい視線が飛んできて、僕も自分の失態に歯噛みした。
「ほかに質問はないか? それでは制限時間は部活終了時刻まで! スタート!」
こうして僕たちのこっ恥ずかしい時間が始まった。
◆◇◆
部「これより、人類中二病化補完計画を始める」
僕「部長、総員戦闘準備完了です」
部「うむ。それでは六花君。君の魂のすべてを見せたまえ」
六「え? ええっ? えと……、ええっと……、あの………………」
皆『はい、アウト!』
六「えぇっ!?」
いきなりアウトになって驚く六花は、頬を膨らませながらも、部長が差し出した箱に手を突っ込んでくじを引く。
「えっと……、メイド服に着替える? よかった……、そんなにひどいのじゃなかった」
心底ほっとしたような顔をする六花は、だけど、きょろきょろと辺りを見回す。
「あれ? でもメイド服ってあるんですか?」
部長はその疑問ににやりと笑うと、どこからともなくメイド服を取りだす。
「問題ない。この箱を受け取るときに、各種衣装も受け取っている!」
なんとも用意がいいことで……。
僕がため息をついていると、部長はメイド服を六花に突き出した。
「さぁ、着替えたまえ、六花君。あ、男子諸君は直ちにこの部屋から退去するように。準備ができたら呼ぶ」
僕と里井はやれやれとばかりに立ち上がり、部屋を出る。
少しして、部長の愉悦に染まった声と六花の悲鳴、そして冨和ちゃんの特徴的な笑い声が聞こえてきた。
一体、着替えるだけで何が行われているんだろうか……。
やがて、部長が「入っていいぞ」と声を掛けてきたので、僕と里井が揃って中に入ると、そこにはメイド服に身を包んだ六花が恥ずかしそうに立っていた。
「え……えへへ……、似合う?」
スカートの裾を少し持ち上げ、恥ずかしそうにしながらもポーズをとる六花に僕はサムズアップを返した。
「よし、では続きを始めよう」
そう言って部長はナチュラルに自分の膝に六花を乗せて席に着く。
六花もすでに諦めているのか、大人しくしていた。
それに苦笑しつつ、全員が席に着いたところで、部長が合図を送って再開させる。
部「それでは……」
里「部長!」
部「何事か!?」
里「風が呼んでいるので、ちょっと行ってきます!」
部「そうか、|無事に戻ってくるんだぞ?《時間を守るんだぞ?》」
――里井退出――
僕「(里井め……、早速逃げやがった!)」
部「亜衣君。君の全てを見せてくれ」
冨「でゅふふふ……………。み、右手が……! 右手がうずく……! ダメだ! 今はまだ……」
全『……………!?』
冨「くぅっ! 仕方ない! 爆ぜろ! 砕けろ世界! 必殺! 「私の妄想世界」!」
全『本物の中二病だ~~~~~~~~っ!』
冨「でゅふふ……、全員アウト」
全『しまった!』
冨和ちゃんの完全な電波発言についついツッコミをしてしまい、その結果、僕、部長、六花の三人が同時にアウトになってしまった。
くっ、やるな、冨和ちゃん……。
僕たちは冨和ちゃんが差し出す箱に手を突っ込み、それぞれの罰ゲームを引いて、それぞれに書かれていたものを発表する。
「僕は……お嬢様ドレスを着る……だと!?」
まさかの女装だった!
僕の罰ゲームを聞いた瞬間、冨和ちゃんが興奮する。
「でゅふふ……西村先輩の女装、キタコレ! グッジョブ私!」
一方の部長と六花はというと、必死に笑いをこらえている。
とりあえず、部長に渡されたお嬢様ドレスを受け取ると、トイレで着替えてくることにした。
少しして、恥ずかしさでいっぱいになりながらも、部室に戻った瞬間、
『…………ぷっ! あははははははははははは!』
盛大に爆笑された。
ぐぬぬ……。
僕が羞恥心を押さえて自分の席に着く間に、今度は部長が箱に手を伸ばす。
「さて、では私の罰ゲームは……」
部長が引いた紙を開き、中に書かれていたものを読み上げる。
「なになに……、誰かにツンデレ。なお、録音して生徒会長に聞かせること……おぉふ……」
部長ががっくり項垂れた。
僕は素早く携帯の録音機能をオンにすると、部長に向かって突き出す。
「ほら、部長。早く早く」
部長は忌々しそうに、僕の携帯をにらんだ後、ゆっくりと口を開いた。
「か……、勘違いしないでよね! 別に文隆君の女装が似合ってるとかそんなこと思ってないんだからね! むしろ、若干残念な感じになってるのが面白いとか、そんなこと全然思ってないんだからね!」
最後にぷいっとそっぽを向くおまけつきだった。
しかし部長……、何も僕をネタにしなくても……。
僕が部長にネタにされてへこんでいると、最後に六花が書かれているものを読み上げた。
「えっと、私のは…………? 生徒会書記をドSな顔で思いっきり踏みつける?」
誰が書いたのか一目瞭然の命令だった!
「えっと、向井さんを踏んでこればいいの?」
六花はきょとんとしながらも立ち上がり、生徒会室に行こうとする。
それに待ったをかけたのが部長だった。
「待ちたまえ、六花君。文隆君に付いて行ってもらいなさい。私の……つ、ツンデレボイスも真子に聞かせないといけないしな」
部長の羞恥心が混じったにやりとした笑いを見て、僕はその意味を直感する。
僕の今の格好はお嬢様ドレスを着た女装状態。
そんな僕を六花の付添に指名するということはつまり、生徒会メンバーに僕の今の姿を見せるということ。
僕が抗議しようと部長を見ると、部長は目で訴えてきた。
「(私もツンデレボイスを真子に聞かせなくてはいけないのだ。君も恥ずかしい思いをしてくるといい。部長命令だ)」
「……? 文君、早く行こうよ」
六花が僕の袖を引っ張る。
チッ! 逃げることはできないか……。
僕は腹をくくると、六花と並んで生徒会室に向かった。
結果?
言わなくてもわかるだろう?
生徒会室に入って僕を見た瞬間、皆に盛大に笑われましたよコンチクショウ!
後で黒野さんに同情的な目を向けられましたけどね!
ちなみに、向井さんは意外にドS顔が様になっている六花に踏まれてご満悦の様子で、美月さんはくすくす笑いながら部長のツンデレボイスを聞いていた。
そうして僕たちが部室に戻って、一言もしゃべらずにぐったりとしていると、ようやく里井が部室に戻ってきた。
「ただ今戻りました……って、どうしたんだい、この状況は……?」
部室のカオスな様子を見て、里井が首を傾げた瞬間、里井以外の全員が目をギラリと光らせて宣言した。
『はい、アウト』
「えぇっ!? それはないんじゃ……」
『問答無用』
抗議をバッサリと切られた里井は、渋々差し出された箱に手を突っ込み、一枚引くと、その内容を読み上げた。
「えっと……、魔法少女っぽくポーズを決めながら「ティロ・フィナーレ」と言って写真に収める………………えっ?」
里井がだらだらと脂汗を流す。
僕たちは里井を包囲すると、じりじりとにじり寄る。
「あの……ちょっと待って……………? 皆、怖いよ?」
どうにか逃げようと後ずさりをする里井だったけど、すぐに部屋の隅に追い詰められ、逃げ場をなくす。
そして……。
「ひぃっ!? あの………、ちょっ……、待っ…………………、あっ~~~~~~~~っ!」
夕暮れに染まる部室の中に里井の悲鳴が響いた。
その後、膝をついて項垂れる魔法少女の格好をした里井、お嬢様ドレスを着たまま机に突っ伏す僕、メイド服を着たままぐったりとしながら部長の膝の上に座る六花、ツンデレボイスの感想がメールで届いて頭を抱える部長、何事もなかったかのように薄い本を読み始める冨和ちゃんという、かなりカオスな状況になったところで、部活終了のチャイムが鳴り、やっと僕たちは解放された。
この日以降、文芸部の中で、この日のことはタブーに指定された。
~~おまけ~~
文隆「いやぁ、まさか一年前のネタをここに来てまた持ってくるとは思いませんでしたよ……」
部長「うむ。思いつきでやったことなのだが、中々に面白かったな。これはこれで小説のネタになるかもな……」
文隆「僕は酷い目に遭っただけですけどね……」
部長「そういうな。私だってなれないツンデレをさせられたんだから……。とはいえ、人生は何事も経験だ。今という時を楽しもうではないか」
文隆「部長……」
部長「と言うわけで、もう一度女装をだな……」
文隆「だが断る!」




