第47話 そうだ、バイトをしよう! 前編
「お金が無い……」
まるでどこぞのドラマのタイトルのようだけど、これは誤魔化しようの無い事実。
僕は今、重大なお金不足に悩まされていた。
理由は簡単。
元々お小遣いをそんなに多くもらっていない上に、夏休みには合宿、プール、夏祭りと遊びまわって、お金を大量に使ってしまったのだ。
別に今すぐ必要というわけではないけど、まだまだこの先もお金を使うことを考えると、少々心もとない。
「さて、どうするか……」
僕は財布と貯金箱(小さいころに「とんかつ」と名づけた豚さん型)を前に、脳内議会を開催する。ちなみに議員は全て僕だ。
「それでは会議を行う。議題は「お金が無い」だ」
「何打そのふざけた議題は……。まぁいい」
「はい! お金が無いなら使わなければいいと思います!」
「それはダメだ! 今は貴重な夏休み。まだイベントは残されているのだぞ」
「お小遣いを前借するというのは?」
「非常手段で遭って、リスクを考えるとできれば推奨できない!」
「だったら~、妹に借りてみれば?」
「そんなのは兄の沽券にかかわるだろ!」
「貴様! いまさら兄の沽券などあると思っているのか!?」
「どういう意味だ?」
「愚問だな。バレンタインのチョコも奪われ、弄られる醜態を晒しているのだぞ?」
「ぐっ!」
「うふふふ……。なさけな~い」
「オカマは黙れ!」
「何ですって!?」
議会は混乱して機能しなかった!
というか、何で僕の中にオカマが混じってるんだよ!
自分に突っ込みを入れた僕は、ため息をつくと一人ぼやいた。
「うん、バイトしよ」
とりあえず、バイト情報誌をもらってくるかな。
◆◇◆
着替えた僕がバイト情報誌を求めてコンビニに入ったところで、
「おや? 西村君じゃないか……」
「里井……」
何故か里井とばったり会ってしまった。
「奇遇だね。こんなところで」
いつもの胡散臭い笑みを浮かべる里井。
「それはそうだけど、お前の家はこっちからは遠いはずだろ? 何でこんなところに……?」
僕がそう訊くと、里井は持っていたビニール袋を掲げて見せる。
「美弥子がこのアイスをどうしても食べてみたいというからね。うちの近くのコンビニに買いに行ったはいいけどおいてなくて……」
「なるほど。それでアイスを探して彷徨っているうちにこんなところまで来てしまったと……」
得心がいった僕が言葉を引き継ぐと、里井は苦笑しながら頷いた。
「お前も、あの子には振り回されてるみたいだな」
「まぁね。ここ最近は美弥子も部長たちと接するようになってから、いろいろ積極的になってきたみたいでね。前の引っ込み思案だったころに比べればいいことなんだろうけど……」
「お前でも苦労するんだな」
僕の言葉に再び苦笑した里井は、「ところで」と話題を変える。
「君はどうしてここに?」
「ん? ああ、ちょっとバイトでもしようかと思ってさ。バイト情報誌を取りに来たんだ」
「何でまたバイトなんか……?」
「いやぁ、ちょっと遊びすぎて財布が寂しくなってきたからな。お小遣いの前借とかはできればやりたくないし、だったらバイトしたほうが早いと思ったわけだ」
「ふぅん、バイトか……」
何やら里井が思案顔になっていると……。
「あれ? 文君? 里井君?」
「おや? どうしたんだ? こんなところで」
六花と楓が僕と里井に声を掛けてきた。
「やぁ、粟飯原さん、九条さん、こんにちは」
里井が二人に向かって片手を上げると、六花が嬉しそうにそれにハイタッチをした。
お前らそんなに仲良かったっけ?
まぁいいや。
「それで? 二人は何してたんだ?」
僕が訊くと、六花が嬉しそうに楓の腕を掴む。
「私たちはデートしてたんだよ。羨ましいでしょ?」
「あ~、はいはい。羨ましい羨ましい」
「む~!」
僕が適当に流すと、六花は小動物っぽく頬をぷくっと膨らませた後、ことりと首を傾げる。
「あれ? そう言えば二人は何してたの?」
僕がその疑問に応えようとするよりも早く、里井がにやりと笑う。
「僕たちもデート……」
「お前は黙れ里井!」
全てを言いきる前に頭をはたいて、里井の言葉を強制的に止める。
「酷いよ、西村君……」
抗議の声を上げる里井を無視して、状況を説明した。
「こいつは美弥子のパシリ、僕はバイトをしようと思って情報誌を取りに来たところだよ」
「ほう、文。君はバイトをするのか?」
楓が興味深そうに訊く。
「まぁね。ちょっとここ最近、やたらとお金を使ってたからね。短期間のバイトでもしようかと……」
僕が答えると、六花が何故か目を輝かせた。
「私もバイトしてみたい!」
それに習うように、楓もしたり顔で頷く。
「そうだな、たまには労働に従事するのも悪くない」
そして流れに乗るように里井も言い出した。
「そう言うことなら僕もやってみようかな」
そんなわけで、僕たちは場所をファミレスに移して、次いでとばかりに空を呼び出してバイトの相談をすることにした。
◆◇◆
それから少しして空が合流し、更に里井の帰りが遅いと電話をしてきた美弥子も成り行きで合流することになり、六人となった僕たちはファミレスでいくつかの情報誌を広げて、あれこれと相談していた。
「あ! 私ケーキ屋さんでバイトしたい!」
六花の希望に美弥子も頷く。
「私もそれがいいです!」
楓も乗り気のようで頷いているが、僕たち男子は否定的だった。
「そういうのはあんまり……なぁ?」
「そうだね、女の子だけならまだしも、僕たち男も一緒となると……」
「俺もできれば勘弁してほしいかな……」
「むぅ……」
六花が少しの間、頬を膨らませて僕たちを睨んでいたけど、楓の「これなんかどうだ?」という声を聴いて、すぐにそっちに興味を戻した。
その後も、ああだこうだと意見を出し合っていたけど、中々これといったものが見つかることはなかった。
「中々いいのがないね……」
疲れたのか、興味が薄れたのか、机にだらしなく突っ伏しながら六花がぼやく。
「そうですね……」
まだ情報誌をぱらぱらとめくりながら、同意する美弥子。
「まぁ……あぐっ、焦らず……もぐ、ゆっくり……ごくん、決めればいいさ。あむ……」
「あ~っ! 楓ちゃんだけずるい! 私も! 美弥子ちゃんは?」
「あ……、それじゃあ私も……」
いつの間にかパフェを食べていた楓に反応した六花と美弥子がパフェを注文する。
それを微笑ましさと呆れが混じった眼で僕が見ていると、情報誌をつまみあげた空が何気なく訊いてきた。
「というか、そもそもバイトの条件はないのか?」
「あ~、出来れば短期間で稼げるものがいいな。下手に長期間のバイトにしちゃうと、学校が始まった後も面倒だし、夏休みの残りを全部バイトにつぎ込むのもな……」
「そうか……」
僕の答えを聞いて、更にぱらぱらと情報誌をめくっていた空の指が突然止まる。
「ん? なぁ、文隆? これなんかどうだ?」
そう言って空が見せてきた物を読み上げる。
「何々? 交通量調査のアルバイト。期間は二日間で、日給八千円……。となると、二日間で一万六千か……。へぇ、悪くないな……」
里井も同じ意見のようで、横でうんうんと頷いている。
「どれどれ?」
パフェを食べ終えた楓が僕から情報誌を取り上げ、六花と美弥子にもよく見えるようにしてやる。
「うん、悪くないんじゃないかな」
「そうですね、これなら初めてでも大丈夫かも……」
楓と美弥子が頷きあう。
「ふぁふぁふぃふぉふぉふぇふぁふぃい!」
口いっぱいにパフェを詰め込んだ六花が何かを言っている。
「六花、食べ物を口に入れたまま話さない。食べるか話すかどっちかにしなさい」
僕が軽く窘めると、六花は僕とパフェを交互に見た後、パフェにスプーンを突き立てた。
って食べるんかい!
その後、あっという間にパフェを食べつくした六花も同意したので、僕たちは交通量調査のバイトをすることに決め、早速申し込みをすることにした。
担当者といくつかのやり取りをして、二日後とその次の日にバイトをすることが決まった僕たちは、意気揚々とファミレスを後にした(ちなみに、女子三人のパフェ代は僕たち男子が持つことになった)。
そして、僕たちの初めてのバイトが始まる。
なお、当日に履歴書を持参してほしいと言われ、持っていったときにひと波乱あったのはまた別の話。
~~おまけ~~
文隆「さてさて、こうして僕たちはバイトをすることになったんだけど……」
里井「どうかしたのかい?」
文隆「おまえさ……、このメンバーで無事にバイトを終わらせることが出来ると思っているのか?」
里井「…………無理だね。絶対に何かしらのトラブルが起きる……」
文隆「だろ? しかも部長たちにこの事態を知られてみろ……」
里井「……うん、部長たちには絶対に黙っていよう……」
文隆「ああ……」




