第46話 夏だ! プールだ! 赤フンだ!(え?)
いろいろとカオスだった合同合宿から帰って数日後のある日。
午前中にある程度夏休みの課題を片づけて、リビングでのんびりと甲子園の中継を見ていた時のことだった。
――ぴりりり……
甲高い音を立てながら、僕の携帯電話が着信を告げる。表示された発信者の名前は部長。
何だか嫌な予感がしつつ電話を取ると、「今すぐに部室に集合!」とだけ一方的に伝えられて電話が切られた。
相手に一言もしゃべらせない電話なんて斬新だと思う。
それはともかくとして、呼び出された以上、行くしかないわけで……。僕はため息をつきつつ、着替えてから炎天下の中を学校に向かった。
「ちわ~。三○屋で~す」
某海産物一家によく配達をする酒屋さんっぽく言いながら、冷房の効いた部室のドアを開けると、既に僕以外のメンバーが揃っていて、部長がにやりと笑う。
「遅い! 罰金だ!」
「どこのハ○ヒさんですか……」
早速ボケををかましてきた部長にツッコミを入れてから、僕は自分の席に座って用件を聞く。
「それで? 一体何の用で呼び出したんですか?」
「うむ、実はな。せっかくの夏休みなんだからプールにでも行こうと思ってな……」
「今からですか!?」
「そんなわけないだろう? いくら私でもそんなことはしないさ」
「ですよねぇ~」
「それにせっかくのプールだ。どうせなら一日中楽しみたいだろう?」
「それもそうですね」
「というわけで、明日の朝九時に駅前に集合! 遅れた者は全員分の昼食を奢ること!」
「だから、どこのハル○さんですか、あなたは」
僕がツッコむと、部長がやれやれとばかりに肩をすくめた。
「君はツッコミがワンパターンだな」
「まさかの駄目出し!? ていうか、それを言うなら部長のボケもワンパターンじゃないですか?」
「そんなわけないだろう? 君は私を誰だと思っているんだ?」
「誰って……部長?」
「おいおい、いくらなんでも褒めすぎだろう? 現役女子高生にしてプロのラノベ作家であり、文武両道超絶美少女とは……」
「そんなこと一言も言ってねぇですよ!? どんだけ自分を持ち上げるんですか!?」
「六三四メートル?」
「スカ○ツリー並み!?」
「間違えた。三七七六メートルだった」
「富士山レベル!?」
「じゃあ、八八四八メートルで!」
「エベレスト!? ってどんだけ持ち上げるんですか!」
「だから、五十万メートルだと言っているだろう」
「まさかの大気圏!? …………もういいです」
さすがにツッコミ疲れて、僕は机に突っ伏した。
「とにかくそんなわけだから、各員遅刻厳禁だ! あ、後直重君は、美弥子君を連れてくること! 以上! 解散!」
そうして僕たちは三々五々帰宅した。
◆◇◆
翌日。
集合時間十分前に集合場所に着くと、何故かみんな既に揃っていた。
僕の顔を確認した部長が、びしっと指を指してくる。
「遅いぞ、文隆君。予告通り昼食は君の奢りに決定だ」
「いやいやいや! ちょっと待ってくださいよ! 集合時間まではまだ余裕がありますよ? 遅刻じゃないですよねぇ!?」
「確かに集合時間には間に合った……が、この中で一番遅かった。ゆえに君の奢りだ」
「そんなルール聞いてませんよ!」
「言い訳は見苦しいぞ、文隆君。「忍者は裏の裏を読むべし」だ」
「ナ○ト!?」
僕が部長にツッコむと、里井が乗ってきた。
「僕は火影になる男だってばよ!」
「忍びの里はありません!」
さらに冨和ちゃんが続く。
「拙者は忍者になるでござるよ、にんにんでゅふふ……」
「いまどきにんにんいう忍者は時代遅れです!」
そしてついには六花までも。
「忍法、文君体当たりの術! えい!」
「痛い! そしてそれはもはや忍法じゃありません!」
と一通り文芸部員がボケて僕がツッコんだところで、全員の眼が美弥子に集まる。
「え? え?」
全員に注目され、おろおろする美弥子。
それでも僕たちが見続けていると、やがて……。
「え……えと……、か、隠れ身の術!」
顔を真っ赤にしながら、里井の背後に隠れてしまった。
『かわいい……』
美弥子の小動物的行動に癒された僕たちは、ちょうどホームに滑り込んだ電車に乗り込んで、隣町にあるレジャープールへと向かった。
その後、最寄駅から出てる直通バスに乗り換えて、プールに辿り着いた僕たちは、入場券を買ってゲートをくぐると、男女それぞれの更衣室の前でたちどまる。
「恐らく君達の方が早く出てくるだろうから、分かりやすいところで待っていてくれ」
部長の言葉に頷いた僕たちは、そのまま男子更衣室に入っていく。
そうして里井と並んで着替えている時だった。
僕の隣でカバンから水着を取りだした里井に、僕は思わず目を見張った。
「……おい、里井……」
「なんだい?」
「それは何だ?」
「やだなぁ……、水着に決まってるじゃないか」
「そうじゃなくて。何でそんなものを持ってきてるんだよ!?」
そう言いながら僕は里井が持っていた水着――真っ赤な色で、長い幅広の布に細長い紐が付いている、どこからどう見ても赤い褌――を指さす。
里井は特に気に留める様子もなく、慣れた手つきで褌を締めながら答える。
「何でって言われても……。僕はこれが好きだからさ」
「いやいや。お前普通の水着持ってるよな!? 合宿の時使ってたよな!? 何でそれなんだよ!?」
「だって、褌は日本男児の水着だよ?」
「……………もういい」
ツッコむのにつかれた僕は、もはや何も言うまいと心に決めて水着に着替えると、褌姿の里井と共に更衣室からプールに出た。
当然、周囲の目が里井の褌に集まるが、里井はそれを気にした様子もなく、普段通りだった。
まったく、どういう神経してるんだか……。
僕が里井に呆れていると、少しして女子更衣室から、着替え終わった部長たちが姿を現した。
「やぁ、待たせたね」
シンプルな黒いビキニに身を包んだ部長が爽やかな笑みを浮かべる。
「えへへ~」
六花はワンピースタイプで腰にフリルが付いた水着を着て満面の笑みを浮かべ、
「は……、恥ずかしい……」
冨和ちゃんは学校で使っているスクール水着を着て、六花の陰に隠れるようにしている。
「…………」
もじもじしている美弥子は、白いシンプルなワンピースタイプに麦わら帽子をかぶっている。
「どうだ?」
そのしなやかな肢体を惜しげもなく晒す部長が、何故かポーズを取りながら訊いてくる。
「あ、ああ……、似合ってるんじゃないですかね?」
若干どもりつつ応えると、部長は少しだけ不満そうな顔をした後、軽く首を横に振ってから里井に注目した。
「ところで、直重君。君はなぜ赤褌なのだ?」
部長の質問でやっと里井の格好に気付いたのだろう、六花が驚きの声を上げる。
「わわっ! 本当だ!」
「むふ~~~~っ! 赤フン! キタコレ!」
冨和ちゃんは何故か興奮した目で里井をガン見し、美弥子はというと、頭を抱えて僕に「すいません」と小声で謝った。
ああ、美弥子も苦労してるんだな……。
僕と美弥子でため息をついていると、里井は堂々と部長の質問に答えた。
「日本男児なら赤褌! 基本でしょう?」
「それはお前だけだ」
とりあえずツッコミを入れておいた。
何はともあれその後、いろんな意味で衆目を集めながらも、僕たちはプールを楽しむことにした。
流れるプールで冨和ちゃんが水死体みたいな姿で流されて大騒ぎになったり、サーフィン体験で部長が見事に乗りこなしたり、ウォータースライダー初体験の美弥子がすごくはまって何度も滑ったり、部長と六花が食べ物屋に突撃して迷子センターから呼び出しがかかったり(引き取った後は説教タイムをしてあげた)。
とにもかくにも、散々楽しんでそろそろ帰ろうかという時のことだった。
「ねぇねぇ君達、かわいいねぇ。俺たちと遊ぼうぜ」
頭の悪そうな男たちが、頭の悪そうなことを言いながら部長たちをナンパし始めた。
「悪いが、私たちはもう帰るところだ。頭の悪いナンパをするなら他を当たってくれ」
辛らつな言い方でナンパを撃退しようとする部長。
しかし、ナンパ達も諦めない。
「そんなこと言わずにさ。俺たちと夏を楽しもおうぜ」
そんなことを言いながら、男の一人が部長の肩に手を伸ばした瞬間。
伸ばされた手を掴んで反転した部長が、男に見事な一本背負いを決める。
受け身を取るうことも知らない男が背中から落下して気を失うと、その仲間たちが色めき立つ。
「てめっ! 何しやがる!」
「よくもシゲちゃんを……」
三流のセリフを吐きながら掴みかかろうとする男たちは、次の瞬間に自分に起きたことを理解することはできなかっただろう。
全ては一瞬だった。
後ろを向く部長に掴みかかろうとする男たちの前に、冨和ちゃん、六花、美弥子が立ちふさがる。
美弥子は半身になると、男の突進をいなして、勢いそのままにプールまで投げ飛ばした。
冨和ちゃんはというと、どこからか取り出した辞書を男の顔面に投げつけ、ひるんだすきに六花と一緒に男の股間を蹴りあげ、地面に沈めた。
部長は観衆たちの拍手に答えた後、ニヒルな笑みを浮かべながら、颯爽と立ち去っていった。
え?
僕は何をしていたかって?
取り合えず、係員の人に連絡してナンパ男たちを回収させましたよ。
◆◇◆
「まったく最後の最後で面倒事に巻き込まれるとは……」
疲れて眠る美弥子に膝枕をしながら、部長がため息をつく。
「まぁ、でも楽しかったんだからいいじゃないですか」
お互いにもたれかかりながら眠る六花と冨和ちゃんを微笑ましく見ながら僕がいう。
「そうですよ、部長。それに、こういうハプニングがあると文芸部らしいじゃないですか」
「……それもそうか」
にこにこ微笑む里井に、部長が心の底から頷いた。
「ところで里井……、さっきから気になってたんだけど……」
「なんだい? 西村君?」
「いつまで褌履いてるんだよ!」
「ふふふふふふふふ……」
「笑いごとじゃねぇよ!」
やっぱり平和に終わらなかった!
~~おまけ~~
文隆「まったく……。着替えを忘れたのならそうと早く言えばよかったのに……里井のやつめ……」
部長「どうかしたのか、文隆君?」
文隆「ああ、聞いてくださいよ、部長……。結局、里井は着替えを家に忘れてきたらしいです……」
部長「ああ、それで帰りの電車でも赤フンをはいていたのか……。しかし、彼はプールに行くときは普通の格好ではなかったか? 帰りもそれを上から着ていけばよかったのでは?」
文隆「あ……」
部長「まだまだ青いな、キミも……」




