第45話 また合同合宿 2日目
合宿二日目。
朝早くに目が覚めた僕はせっかくだからということで、一人のんびり露天風呂に浸かっていた。
あ……、念のために言っとくけど、今の時間帯は混浴でもなんでもないし、男湯と女湯を間違えたりもしてないからね!
だから、一人で入ってるときに女の子が入ってきてなんていううらや……トラブルは怒らないんだからね!
……僕は誰に向かって言ってるのだろう……。
しかも無駄にツンデレ口調……。
僕は顔に思いっきりお湯を掛けた後、大きく息を吐いた。
「ふぅ~……」
それにしても、朝一に露天風呂を使うのは気分がいいな……。
「~~~~~~~♪」
何となく気分が乗って適当に作曲した鼻歌を歌っていると、
「ずいぶんご機嫌だね? 西村君……」
相変わらず胡散臭い笑みを浮かべながら、里井が露天風呂にやってきた。
「里井か……。お前も随分と早起きだな?」
「まぁ、たまには……ね?」
そのまま湯船に足を突っ込もうとした里井に待ったをかける。
「湯船に入る前に掛け湯をするのは常識だろ?」
そう言いながら、僕は手近にあった桶を掴むと、それをお湯でいっぱいにする。
そして、里井に対してにやりと笑うと、
「僕が掛けてやる!」
そう言いながらお湯を思いっきり里井に向かってぶちまけてやる。
――ざばぁっ!
「わぶっ!? 何をするんだい!? 西村君!」
「何って掛け湯だよ」
苦情を言う里井にひらひらと手を振ってお湯に浸かりなおそうと、身をかがめた瞬間。
――ざばぁっ!
僕の頭に大量のお湯が降り注いで、一瞬パニックになる。
どうにか落ち着いて振り返ると、空になった桶を持ったままにやりと笑う里井がいた。
前髪からぽたぽたと水滴が落ちるのを少しだけ眺めた後、僕はゆっくりと桶を掴む。
「里井……、僕に勝負を挑むか?」
「先に仕掛けてきたのは君だろう?」
里井が不敵な笑みを浮かべ、僕を挑発する。
「ほう……、そうか……。ならばその挑発。全力を以って答えてやろう!!」
「望むところだよ!」
そして僕と里井のお湯の掛け合いが始まった。
最初はまるで恋人のじゃれあいのように穏やかだったものが、徐々に苛烈を極めていき、最終的にはお互いがボロボロになるほどの戦いへと変じていた。
「はぁ……はぁ……。やるな……、里井……」
「そっちこそ……、中々じゃないか、西村君……」
「くくくくく…………」
「ふふふふふ…………」
「それじゃ、そろそろ決着を付けようじゃないか」
「そうだね……、お互い残りの力も少ないことだし……」
「ならば!」
「いざ尋常に!」
「「勝負!」」
お互いに、お湯が満たされた桶を手に距離を詰める。
しかし、いきなり里井が体勢を崩し、そのまま顔面から床に激突しようとした。
「危ない!」
僕は咄嗟に里井の手を引いて、彼の身体を支える。
「西村君?」
「まったく、気を付けろよな」
「ふふふ……ごめんね」
「ふぅ……、本当に無事でよかった……」
「西村君……」
「里井……」
僕達はお互いに見つめあった後、少しずつ顔を近づけ……、そうして………。
◆◇◆
「ストーップ!」
僕は冨和ちゃんの発表を強引に止める。
ちなみに今は生徒会と文芸部はそれぞれの合宿を行っており、それ以外のメンバー(空、楓、美弥子)は揃って釣りに出かけた。
「でゅふふ……、せ……先輩。今、ちょうどいいところだったのに……」
そう文句を言う冨和ちゃんを見てみれば、鼻からぼたぼたと鼻血を出していた。
「うん、途中で何となく嫌な予感がしてたけど、これ、完全に僕と里井のベーコンレタス話だよね!?」
「でゅふふふ……、一見受けに見える西村先輩が、里井先輩を攻める……。でゅふふふふふふふふふ……。い、意外性があって萌える!」
くわっと目を見開いて危ないことを口走る後輩。
駄目だこいつ。早く何とかしないと……!
とりあえず冨和ちゃんにツッコむのを諦めた僕が部長に視線を向けると、部長は顎に手を当てて何かをぶつぶつと呟いていた。
「ふむ……。次回作はBLものというのもありだな……。試してみるか?」
部長までその気だった!
「ちょっ!? 部長!?」
「む? 何だね、文隆君?」
「何で部長までBLを書こうとしてるんですか!?」
「いや、なに。私もそろそろ新しいジャンルに挑戦してみようかと思ってな……」
「やめてください!」
「何故だ? 君はBLを嫌っているようだが、食わず嫌いはよくないぞ? それを証拠に直重君を見たまえ。さっきから平気な顔をしてにこにこしているではないか……」
「うふふふふ……」
「里井! お前もか!」
もう何を言っても無駄だと思った僕は、畳の上に寝転がる。
程よい冷たさが心地いい。
「まったく……、だらしがないぞ、文隆君? 執筆は終わったのか?」
「あ~……、終わりましたよ~」
だらだらしながら、執筆し終わった小説を部長に提出する。
しかし、
「書き直し!」
部長は受け取った瞬間に、僕に書き直しを要求してきた。
「理不尽!?」
今日も僕のツッコミは絶好調だ……。
うん、言ってて悲しくなりました。
その後、昼過ぎまで活動をつづけてから生徒会の人たちと、遊びに行った三人と合流した僕たちは、お土産を見て回ったり、温泉に突撃したり、美味しい夕食に舌鼓を打ったりしてすごた後、何故か男子の部屋に集合していた。
「これから肝試しを行う!」
どこからか持ち込んだホワイトボードに、でかでかと「肝試し」と書いた部長が堂々と宣言した。
「コースは、この宿の玄関前から出発して、すぐ側にある山道を登り、まっすぐ行ったところにあるお寺にある印を取って帰ってくる。それだけのコースだ」
それだけなら何の問題もないかなと思った矢先、美月さんがにこにこと笑いながらルールを追加した。
「ただそれだけじゃ面白くないと思いましたので、今から脅かす役をくじ引きで決めたいと思います」
途端、一部からブーイングが発せられるが、部長はそれを華麗にスルーして、どこからともなくくじの入った箱を取りだした。
「それじゃあ早速抽選だ。紙に印が付いていた人が脅かし役だ」
ぶーぶー文句を言う人もいたけど、結局部長の言葉に従って大人しくくじを引いていく。
やがて、全員がくじを引き終わり、脅かす役が決まった。
「よし、脅かす役は、沙条先生、黒野君と向井君、そして六花君だ。これから私たちは別室で待機する。四人はそれぞれの持ち場と、どういう風に脅かすかを決めて、位置についたら携帯に連絡をくれ」
そう言って、部長が地図を先生に渡した後、残りのメンバーは揃ってぞろぞろと別室へ移動した。
その後、暇つぶしにトランプで遊んでいると、やがて部長の携帯が着信を告げ、準備が整ったことを知らせ、僕たちは宿の玄関前まで移動する。
「それじゃあ、ペアを決めよう」
そう言って部長が取りだしたのは四本のひもだった。
部長はその中心部分を纏めて握りこむ。
「それじゃあ、それぞれの紐の端っこを握ってくれ。おなじひもだった人がペアだ。用意はいいか?」
全員がひもを握ったことを確認した後、部長が真ん中を握っていた手を放し、ペアが決定した。ちなみに真ん中には番号も書かれていて、自動的に出発する順番も決定した。
一番手は僕と部長ペア。二番手が里井と美弥子、三番手は空と美月さん、最後が楓と冨和ちゃん。
「それじゃあ、まずは私達からだな」
力強く進み始めた部長に続いて、僕も山道へ入っていく。
さてさて、一体何が待ち構えていることやら……。
そんなことを考えつつ、山道を歩いて少しした時のことだった。
少し前の茂みが揺れたかと思うと、突然六花が飛び出してきた。
「うらめしや~だよ~、たべちゃうぞ~」
「「………………………」」
「…………?」
僕たちが特に反応を返さないので、六花はことりと首を傾げた後、もう一度両手を軽く持ち上げる。
「うらめしや~だよ! おばけだよ!」
必死になって僕達を驚かせようとしている六花を見ていると、何だか和む。
部長に同意を求めようと、部長を振り返ると、部長は興奮したような顔で六花を見た後、おもむろに六花を抱きかかえた。
「わわっ!? 部長さん!?」
いきなりのことに戸惑う六花を小脇に抱えた部長は、そのまま脇道に入ろうとする。
「こらこらこらこら! どこへ行こうって言うんですか!」
僕が慌てて止めると、部長はゆっくりと六花を降ろした。
「一生懸命私達を驚かせようとする六花君があまりにもかわいくて、ついお持ち帰りしそうになってしまった……」
「部長……、六花が泣いてますよ?」
「むっ? すまなかったな六花君……」
えぐえぐと泣く六花をどうにか慰めてから、僕たちは先へ進む。
しばらくして、前方に懐中電灯のような明かりがゆらゆらとしているのが見えた。
「油断するなよ? 文隆君」
「分かってますって」
僕たちが慎重に足を進めていると、突然、僕たちの横合いから「わっ!」とすごい声を出しながら黒野さんが飛び出す。
「きゃあっ!」
「ぎゃあっ!」
部長が意外に可愛らしく、悲鳴を上げ僕に抱き付いてくる。その瞬間を狙って、黒野さんがぱしゃりと写真を撮った。
少しして落ち着きを取り戻した部長が、僕から離れて歩きながら、悔しそうに顔を歪める。
「くっ、まさか、こんな古典的な罠に引っかかるとは……」
「あれには僕もびっくりしました」
部長の言葉に、僕も苦笑を返し、先へと進む。
ちなみに、光がゆらゆら揺れていた場所では、懐中電灯を持った向井さんが木に吊り下げられていた。
一体何をやってるんだ……。
「さて、いよいよお寺なわけだが……」
境内に辿り着いた部長が、周りを警戒しながらゆっくりと歩を進め、僕もそれに習う。
「沙条先生……ですよね?」
「うむ。ここまで先生を見なかったからな……。サボってるだけならいいのだが……」
「油断はできませんね」
そんな会話をしつつも歩き続け、結局何事もないまま印を手に入れた。
二人して拍子抜けした顔をしている時だった。
「てめぇら……、やっときやがったか……」
ドスの効いた低い女性の声が聞こえ、僕と部長がゆっくり振り返ると、そこには恐ろしい存在がいた。
真っ白な特攻服(どこから手に入れたのか気になる)に身を包み、マスクで顔を覆い隠した沙条先生だった。
先生はゆっくりと手にした木刀を振りかぶると、勢いよく振り下ろす。
幸い外れたものの、木刀の直撃を喰らった木がめきめきと音を立ててへし折れる。
「「ひぃっ!?」」
短い悲鳴を上げて、僕と部長は一目散に駆け出し、わき目も振らずに宿へと戻ってきた。
全力疾走と恐怖で荒くなった息を整えている間に、里井が「どうだった?」と聞いてくる。
僕と部長は一度だけ顔を見合わせた後、声をそろえてこう言った。
「「沙条先生に注意しろ!」」
その意味を理解できないのか、里井は首を傾げると、そのまま美弥子と一緒に山の中へ入っていった。
それからしばらくして……。
「い~~~~~~~や~~~~~~~~~っ!」
「わぁぁぁぁあぁあああっ!」
美弥子と里井の悲鳴が響き渡り、待機していた残りのメンバーがびくりと体を震わせた。
……やっぱりあの先生は怖いよね……。
~~おまけ~~
文隆「いやぁ……定番の肝試しでしたけど、まさか最後の最後にアレがくるとは……」
部長「ああ、私もびっくりだ。別の意味で肝を試されたからな……」
文隆「結局あのとのペアたちも全員先生のところでかなりびびったらしいです……」
部長「アレは仕方あるまい……。ちなみに今回黒野君が取った作戦は作者が小学校の頃のキャンプで肝試しをしたときに、実際にやられた手段だそうだ……」
文隆「……どうでもいいですね……」




