第44話 また合同合宿 1日目
「~~~~♪」
バスに揺られながら、六花が機嫌よさそうに鼻歌を歌っている。
「でゅふふ……うぇっぷ……」
そしてその横では、車酔いをしながらも冨和ちゃんが薄い本を読みふけっていた。
「はわわわわ……」
さらには何故か、美弥子が部長の膝の上でおろおろしていた。
沙条先生は、バスの一番後ろを独占してごろりと横になっていて、生徒会の美月さん、黒野さん、向井さん、そして、空、楓、部長が一緒に「ダウト」をしていた。
里井は、部長の膝の上の美弥子をみて目を細めていて、最後に僕は、というとそんな皆を納める位置に立って、写真にぱちりと収めた。
それに気付いた部長が僕を見る。
「なんだ、写真を撮るなら君も写りたまえ……、真子、それダウト。そして向井、君はアウトだ」
僕のほうを見ながらも的確にダウトを見抜き、さらには座席の下に身を潜り込ませようとした向井さんを冷静に止める辺り、さすが部長というべきか。
そんな僕の腕を六花が引っ張る。
「ほら、文君も一緒にやろ! 私とペアね!」
「分かったから、離してくれないと転ぶんだけど……」
こうして、僕たちは旅の目的地である合宿旅館に着くまで、皆で楽しく過ごした。
◆◇◆
「くぁ~~~~~~」
「うぇっぷ……。ぎもぢわるい……」
「亜衣ちゃん……、大丈夫?」
結局ずっと寝ていた先生が大きく伸びをして、完全に車酔いをしている冨和ちゃんがしゃがみこんで何度も嘔吐き、六花が優しくその背中を摩っていた。
「やれやれ……大丈夫か? 亜衣君……」
部長がため息をつきながらチェックインを済ませて戻ってくると、僕と先生に部屋の鍵を渡した。
今回、合宿に参加するメンバーもかなりの人数になったので、男子と女子、そして先生という部屋割りになっている。
「さて、一度部屋に荷物を置こう」
部長の合図で歩き出そうとしたとき、美月さんが待ったを掛けると、くるりと向井さんを振り返った。
「向井。両手を前に出しなさい」
「はい!」
何故か嬉々として両手を前に差し出す向井さん。美月さんはどこからともなく手錠を取り出すと、そのまま「がちゃり」と向井さんの手首に取り付けた。
「あの……会長?」
戸惑う向井さんを無視した美月さんは、手錠から伸びている鎖の端を黒野さんに渡す。
「黒野……、彼をしっかり見て置いてくださいね。去年のようなことにならないように……」
去年も合宿に参加した僕たちは、思わず納得してしまった。
そう、去年の合宿では、それぞれの部屋に分かれる際、ナチュラルに向井さんが女子部屋に侵入し、見事にたたき出されたのだ。
今回のこの処置は、そのことを踏まえてということだろう。
黒野さんも了承したとばかりに頷いて鎖をしっかりと握る。
なんだろう……。
鎖を持つ黒野さんと、それに引っ張られる向井さんを見てると、これから刑務所に服役する人みたいに見えてきた。
ともあれ、旅館の仲居さん案内の元、部屋の前にたどり着いた。
「それじゃあ、三十分後にビーチに集合だ」
部長たちと別れ際にこのあとのことを軽く打ち合わせしてから部屋に入った。
「さて、それじゃあ早速着替えるか。おい、向井……お前も……?」
黒野さんが途中で言葉を途切れさせたことを不思議に思って僕も振り返ると、黒野さんが握る鎖に繋がれていたはずの向井さんの姿がなかった。
床には外された手錠が落ちていて、ご丁寧に、外された手錠に手紙がくっついていた。
それに目を通した黒野さんが、頬を引きつらせながら手紙をぐしゃりと握り潰した。
何が書いてあるんだろう……。
気になって読んでみた。
――いざ逝かん! 理想郷へ! あばよ、とっつぁん!
簡素だけど、十分に何が起こったのかを理解できる内容だった。
つまり向井さんは、どうやったのか手錠を外し、去年と同じように女子の部屋に侵入したのだ。
「あの野郎……」
黒野さんが物凄い怒気を発すると同時、隣の部屋からドタバタと暴れまわる音と、女子たちの怒鳴り声が聞こえてきた。
『向井! あなたはどうしていつもいつも!』
『あふん♪』
『手錠抜けまで身に着けていたとは……、侮れんな!』
『おぅふ♪』
『あなたには失望しましたよ』
『うゃん♪』
『向井さんのエッチ!』
『みょん♪』
『っ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!』
『みぎゃあ♪』
どすんばたん!
隣の部屋から物を投げたり、向井さんの快楽が混じった悲鳴が聞こえたり、誰かが罵ったり、向井さんの快楽が混じった悲鳴が聞こえたり、思いっきり何かを殴る音が聞こえたり、向井さんの快楽が混じった悲鳴が聞こえてきた。
そのまま少しすると隣の部屋が静まり返った。
そして、僕たちの部屋の電話が着信を告げる。
――ぷるるる……、ぷるるる……
今回もまた、電話の近くにいた僕がゆっくりと受話器を取り上げ、耳に当てる。
「も、もしもし……?」
『もしもし、文隆君か?』
「ワタシ、フミタカチガウネ。ワタシ、ポン・チョイミンイウネ。オネエサンバンゴウマチガエテナイアルカ?」
『その声はどう聞いても文隆君の物だし、思いっきり胡散臭い中国人の日本語じゃないか』
「ワタシ、ジョン・スミスイイマス。アメリカカラキタデス」
『こらこら、急に人種が変わったぞ? まぁいい。それよりも君達はビーチに行く準備はできたのか?』
「へ? あ、ああ、まだです……」
『そうか。私たちはもうすぐ終わる。君達も急ぎたまえ』
「分かりました……」
『ではな……』
「あ、ちょっと待ってください部長!」
電話を切ろうとした部長を、僕は慌てて引き留める。
『ん? 何だ? 私達の水着に着替えるシーンを実況中継して欲しいのか?』
「違います! そうじゃなくて! あの……む……む……」
『私の胸のサイズを知りたいと? それは流石に恥ずかしいな……。仕方ない、いいか? 上から……』
「言わなくていいです! じゃなくて! 向井さんはどうしたんですか?」
『向井? ああ、あいつなら窓の外に吊り下げておいた。ついでにパンくずなんかも巻き付けておいたから、そのうち鳥のエサになるだろうな。いわゆる鳥葬というやつだ』
「…………そうですか……」
『……? まぁ、何でもいいが、早めに準備してくれよ? それじゃ』
ぷつっ、つー……、つー……。
電話が切れたので受話器をゆっくりと戻すと、
「それで、向井はどこに?」
黒野さんが訊いてきたので、窓の外を指さしながらついでに覗き込んでみた。
すると、部長の言う通り、向井さんは女子たちの部屋からつりさげられており、体中を海鳥に突かれていた。
「痛い痛い! これはただ痛いだけ! 愛情がなくて気持ち良くない! こんなの嫌だ!」
何とか逃れようと身をくねらせながら暴れまわる向井さん。
そんな暴れてると……、と僕が思った矢先。
――ぶちっ
そんな音を立てて、向井さんを吊り下げていたロープが切れ、向井さんは落下してしまった。
まぁ、下は柔らかい砂浜だったから大丈夫だろう。
そう思うことにして、僕たちはさっさと着替えると、ちょうど部屋を出たところの部長たちと合流し、ビーチに向かった。
ちなみに沙条先生はというと、「暑い、めんどい、怠い」ということで、部屋に籠るそうだ。
ともあれ、早速ビーチに繰り出した僕たちは、いつの間にか合流していた向井さんも交えて ビーチフラッグをしようとして思いのほか砂浜が熱くて断念したり、ビーチバレーをしているはずなのに、最終的になぜかボールのぶつけ合いになってしまったり、楓がどサザエを大量に発見して、皆でサザエ狩りに興じたり(宿の厨房に渡して、夕食に壺焼きにしてもらった)、砂浜に埋められた向井さんの頭の隣でスイカ割をしてみたりと、少し危ないこともやりながら、思い思いに楽しんだ。
それからしばらくして、夕食を取った後、再びビーチに繰り出した僕たちは、あらかじめ用意していた花火で遊び始めた。
「わぁ~~」
「綺麗です」
六花と美弥子が微笑みあいながら花火を眺め、部長、美月さん、黒野さん、向井さん、楓でロケット花火を打ち合って遊んでいる。
……あの、皆さん。そうやって遊ぶのはいいですが、こっちにまで飛ばさないでいただけませんか!?
僕が抗議すると、何故かみんながにやりと笑って、一斉に火のついたロケット花火を僕に向けてきた。
嫌な予感がして、じりじりと後ずさりする。
「あの……、何でそんなものを僕に……?」
「愚問だな、文隆君。ロケット花火はこうやって遊ぶものだ。日和見など、私が許さん!」
「使い方が間違ってますよ!」
そろそろ本格的に危なくなってきたので、くるりと後ろを向いて全力疾走!
『逃がさん!』
全員追っかけてきやがりましたよ、コンチクショウ!
直後、次々と放たれたロケット花火を、僕は必死によけながら悲鳴を上げた。
「ぎゃ~~~~~~~~~す!」
よい子の皆は真似してはいけませんからね!
~~おまけ~~
文隆「また生徒会メンバーと合同合宿ですか……」
部長「なんだ? いやなのか?」
文隆「そういうわけではないんですが、なぜ生徒会メンバーは後輩たちを連れてこなかったのかなって?」
部長「ああ、彼らは単純に今回のスケジュールに都合が会わなかったかららしい。決して真子たちが暴走するのがいやでと言うわけではないようだ」
文隆「ああ……そういうことですか(何かを察したような目)」




