第40話 男女逆転祭り
「なぁ、里井……」
「何だい? 西村君……」
「どうして……、こうなったんだろうな……?」
「それは僕も聞きたいところだね……」
「……………………」
「……………………」
「「はぁ……………」」
僕は里井と同時にため息をつきながら、自分たちに何があったのかを思い出すことにした。
◆◇◆
事の起こりは、先日、僕と里井がいない時に部長たちがガールズトークをしたという話を聞いたことにある。
その時、僕と里井は部長たちがひらひらの可愛らしいドレスを着て、おしゃべりに花を咲かせたと聞いて、つい想像して大笑いしてしまった。
今になって思えば、それが今回の事件の発端になったんだろう。
ともあれ、それから数日後の今日。部長は全員が部員全員が揃った状態の時に、こう切り出した。
「今日は、真子の家でお茶会を催すことになった。全員、すぐに出かける準備をしてくれ。そのまま家に帰れるように、荷物も持っていくこと」
完全に寝耳に水の僕と里井は、若干困惑しながらも言われた通り片づけをして、部長たちに続いて校門に向かい、そこに待ち構えていたものをみて驚愕した。
一目で高級と分かる艶やかな黒と、通常の倍以上はある長い胴体をもつ車体、つまりはリムジンがあったのだ。
本物の執事さんに促されるままに乗り込むと、既に美月さんが乗っていた。
「いらっしゃい。今日は楽しんでくださいね」
何やら含みを持たせたように微笑んだのが怖い。
僕と里井が曖昧に頷くと、車は静かに動き出し、そのまま美月邸へと向かった。
「真子……、首尾の方は?」
「ええ……、上々です」
という道中の部長と美月先輩のやり取りが気になったり、何故か六花と冨和ちゃんが僕と里井を見てにやにやしたりと、いろんな思惑を乗せたまま、やがて車は静かに美月邸の玄関前に滑り込んだ。
車から降りて、目に飛び込んできたその豪奢なつくりの家に驚いていると、美月さんが玄関の戸を開けながら僕らを振り返る。
「どうぞ、遠慮なく上がって?」
促されるままに玄関をくぐった僕と里井は再び驚愕した。
何せ、玄関の入り口の両側にずらりとメイド服を着た人と執事服を着た人が並んで、声をそろえてこう言ったのだ。
『ようこそ、おいでくださいました!』
それだけでもびっくりなのに更に驚いたのは、メイド服を着た人が何故か男性ばかりで、逆に執事服を着た人は女性ばかりだったのだ。
「あの……美月さん……」
なんだかいやな予感に駆られた僕が立ち止まって美月さんに声を掛けようとしたときだった。
いきなり僕と里井を囲うように周りのメイドさん(の格好をした男の人)たちが集まると、一気に僕と里井を担ぎ上げる。
「へっ?」
「えっ?」
突然の事態についていけない僕と里井は、まるで波にさらわれるように拉致され、どこかの部屋へ押し込められた。
「……………………?」
「……………………?」
僕と里井はお互いに顔を見合わせた後、とりあえず部屋から出ようとドアに手をかける。
だけど……。
――がちゃがちゃ
ドアはご丁寧に外側から鍵をかけられたらしく、びくともしなかった。
「参ったな……」
「困ったね……」
僕たちが諦めてソファに座っていると、少ししてドアの鍵が開けられ、部屋にメイドさん(の格好をした男の人)が数人入ってきた。
「お二人ともお待たせいたしました。どうか、こちらのお召し物にお着替えください」
そう言って差し出してきたのは、紺色のワンピースと白いエプロンドレス、そして白いヘッドドレス。
つまり、その服を差し出している人たちと同じメイド服だった。
「あの……、これを着ろと?」
恐る恐る訊ねる僕に、彼らは無言で頷く。
「あの……、これってメイド服……ですよね?」
里井の問いに、同じように無言で頷いた彼らは、「さぁ」とばかりに僕達に明度服を押し付ける。
そのあまりの迫力に、僕たちが戸惑いながらも受け取ると、彼らは部屋のドアを閉めてにやりと笑った。
「初めてお召しになるものでしょうから、我々がお手伝いさせていただきます」
その台詞に、思わず固まる僕たち。
「へっ? じょ、冗談ですよね……?」
顔を引きつらせながらそう訊ねると、彼らはとてもいい笑顔でこういった。
「遠慮は無用です! さあ!」
何故か手をにぎにぎさせながら、じりじりと迫ってくる彼らの迫力に、僕たちは思わず後ずさりをしてしまう。
「あ、あの……、ちょっと……、待っ…………………、あっ~~~~~~~~~~~!」
程なくして、僕と里井の悲鳴が部屋の中に響いた。
◆◇◆
「うぅ……、もうお婿いけない……」
泣き崩れる僕に、里井が同情するしたように、僕の肩に手を優しく置く。
その同情が今はありがたいよ……。
服を剥ぎ取られてメイド服を強引に着せられた僕達がさめざめと泣いていると、部屋を軽くノックして、執事服を着た美月さんが顔を覗かせた。
「お二人とも……、準備はできましたか……って、あらあらまぁまぁ!」
美月さんが僕たちを見て嬉しそうに笑う。
「お二人とも……よくお似合いですよ」
微妙にくすくすという笑いがもれているあたり、本気でそう思っているのかどうか怪しいものだけど、今はそれをおいておいて、感じていた疑問をぶつける。
「あの……、何で僕たちはこんな格好で、美月さんはそんな格好なんですか?」
「あら……、どこかおかしかったかしら?」
きょとんとしながらその場でくるりと一回転する美月さん。
正直、とても可愛いです。
「あら、ありがとうございます」
どうやら思ったことが口に出ていたらしく、美月さんがうれしそうに微笑んだ。
対する僕はといえば、自分の失態に気付いて顔を赤くする。
……じゃなくて!
「いや、そうじゃなくてですね。何でこんな格好をしているのかと聞きたいのですよ!」
美月さんは「ああ、そういうことですか」と納得してくれた後、微笑みながら理由を話してくれた。
それによると、どうやら今回のことは部長が企画したらしい。
なんでも、前回、自分たちがひらひらのドレスを着たことを僕達に笑われたのが相当悔しかったらしく、僕達に女装させることを考えていたのだそうだ。
そこで美月さんに相談したところ、せっかくだから男女を逆転させてみてはどうかという話になり、それに六花と冨和ちゃんも同意して、今回のイベントになったのだそうだ。
「まったく……はた迷惑な……」
僕がため息とともに言うと、美月さんはくすくすと笑った。
その後、美月さんに案内された場所には、すでに執事服を身に纏った部長、六花、冨和ちゃんがいた。
三人とも、もともとの素材がいいためか、執事服を着ていてもまったく違和感が無い。
「お二人を連れてきましたよ」
美月さんの声に、三人がいっせいに僕と里井に注目する。数瞬後……。
『……ぷっ…………、あっはっはっはっは!』
三人は一斉に吹き出して、大笑いを始めた。僕と里井がそれに耐えていると、笑いすぎて涙がにじんだ部長が、必死に笑いをこらえようとしながら言った。
「く……くくくくく……、ふ……、二人とも……よく似合ってる……、ぶふっ! ……じゃないか……ぷすす……」
六花もそれに頷く。
「うん! ……ぷぷぷぷぷ……文君……か……、かわいいよ! あはははははは!」
冨和ちゃんに至っては、笑いながらも興奮した目で僕と里井を見つめる。
「せ……先輩達の女装メイド……キタコレ! でゅふふふふふふふふふ……」
美月さんはというと、必死に僕たちのほうを見ないようにしながら、改めて今回の趣旨を説明し始めた。
「では、改めて今回の趣旨ですが、ただ男女を逆転するだけじゃなくて、今回は私たちでとあるお方たちをもてなしてもらおうと思います。あ、安心してくださいね。皆さん、よくご存知の方たちです」
むしろ、全然知らないほうがよかった気がする。
そんな僕の思いは当然のように無視されて、事態は進んでいく。
「それでは皆さん、私についてきてください」
言われるがままに、美月さんについて行ってたどり着いたのは客間。
「失礼します」
完璧な所作で入室した美月さんに続いて僕達が中に入ると、そこには生徒会副会長の黒野さん、生徒会書記の向井さん、僕らのクラスメイト兼友人の空と楓、そして極めつけに、僕ら文芸部の顧問、沙条先生がいた。
彼らは、美月さんに続いて入ってきた僕たちの姿を見ると、一瞬の沈黙の後、盛大に笑い出した。
くっ! この格好を皆に見られるとは……。
その後、先生や楓に写真を撮られたり、何故か僕と里井に飛び掛ってきた向井さんを叩きのめしたり、空と黒野さんが心底ほっとしたような顔をしていたので、美月さんにお願いして二人にも同じ格好をさせたりして、ようやく僕たちは解放された。
後日、先生が取った写真を持ってきて、恥ずかしさのあまりもだえてしまったのは別の話だ。
~~おまけ~~
文隆「うぅ……もうお婿いけない……」
部長「何を今更……。大体キミは婿に行くのではなく、嫁を迎える立場だろう? 西村家の長男なのだから……」
文隆「そんなことはどうでもいいんです! 僕が言いたいのは、無理矢理女装をさせられて辱められたってことです!」
部長「そんなことを言うなら私だって男装したぞ?」
文隆「部長たちは似合ってたんだからいいんです! でも僕なんて……」
部長「ああ……その……なんだ……。気にするな!」
文隆「その雑な慰めが返ってつらい!」




