第36話 遊園地
頭上を縦横無尽に走るレールの上を、コースターが猛スピードで駆け抜けていく。ドップラー効果を残しながら悲鳴とも歓声とも取れる声を上げる人々。
遠くに目を向ければ、巨大な観覧車がゆっくりと回り、ゴールデンウィーク真っただ中な今、そこかしこに人が溢れている。
そう、ここは言わずと知れた遊園地。
その入場口から入ったところで立ち止まり、数あるアトラクションを眺めて、興奮した顔をするのは六花と部長。
二人は、『わぁ~』と歓声を上げると、満面の笑みを浮かべ、部長の命令で来ていた美弥子を引っ張って早速アトラクションへと突撃していった。
そもそも、なぜ文芸部員が揃ってこんなところにいるのかというと、ゴールデンウィークに入る直前の部活で、部長がこんなことを言い出したのが原因だった。
「せっかく部員が増えたのだ。どうせなら親睦会もかねて、ゴールデンウィークにどこかへ皆に出かけたいな」
それに目を輝かせたのが六花だ。
六花は一も二もなく賛成すると、勢いよく手を上げて部長に提案した。
「部長さん! 部長さん! 私、遊園地行きたい!」
そして六花に甘い部長が、これを承諾してゴールデンウィークのもっとも混むタイミングなのにも関わらず、遊園地へ行くことが決定されたというわけだ。
「さて、僕たちも三人を追いかけるか」
回想を終わらせて、取り残された里井と冨和ちゃんにそう提案をして、部長たちを追いかけようとした瞬間だった。
――ぴ~んぽんぱんぽ~ん
園内放送を開始するチャイムが鳴り響き、続いて落ち着いた女性の声のアナウンスが聞こえてきた。
『伊吹学園、文芸部員の西村文隆様。伊吹学園、文芸部員の西村文隆様。文芸部部長、五十嵐瑞枝様とお連れ様が、迷子センターにてお待ちです。至急、お越しください。繰り返します。伊吹学園、文芸部員の西村文隆様……………』
早速迷子になっていた!
僕は里井と冨和ちゃんと一緒にため息をつくと、迷子センターに保護されている部長たちの回収に向かった。
数分後、無事に部長たちを回収した僕たちは、ジェットコースターに乗りたいという六花のリクエストを受けて、そこへ向かいながら部長たちを説教していた。
「何で入場早々迷子になるんですか!?」
「だって……楽しみだったんだもん……」
六花がシュンとしながら答える。
「右に同じく!」
部長が悪びれずにいう。
部長、あなたはもう少し六花を見習って反省してください。
だけど、部長は僕の言葉を無視して、美弥子の手を引っ張ってどんどん先へと進んでいく。
僕はため息をつくと、二人を見失わないように注意しながら付いていくことにした。
そんなこんなでジェットコースターに辿り着いた僕たちは、行列に加わりながら乗る順番をどうするか相談する。
ちなみに組み合わせは、部長・六花、里井・美弥子、そして僕・冨和ちゃんだ。そこはかとなく、組み合わせに作為的なものを感じなくもないが(組み合わせのくじ引きは部長が作った)、ともかく、それぞれのペアの代表でじゃんけんをして乗る順番を決定することにした。
そして、数度に渡るあいこの嵐の後、順番が決定した。
そうこうしているうちに、順番がやってきて、先ほど決めた順番(部長・六花ペア、里井・美弥子ペア、僕・冨和ちゃんペア)にコースターに乗り込んでいく。
係りのお兄さんが安全バーの確認をした後、発車ベルが鳴り響き、ゆっくりとコースターが動き出した。
「部長さん! 見てください! 人があんなに小さい!」
「ふむ、そうだな。やはりここはこのセリフを言うべきだろう。『ふははははは! 見たまえ! 人がごみのようだ!』」
ゆっくりと坂をのぼりはじめるコースターの一番前ではしゃぐ部長と六花。
しかし、次第にコースターが坂の頂上に近づくにつれ、言葉数が少なくなり、頂上に着いたときには完全に押し黙ってしまった。
そして……。
「いぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁあああああっ!!」
「のぉぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふ……」
「あわわわわわわわわわわわわわわわわわ……」
「ぎゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~す」
「やめてくださいごめんなさいわたしがわるかったからゆるしてくださいおねがいしますすいませんもうしわけありません……」
意外にスピードがあって、全員が悲鳴を上げる(一部笑い声だったり、ひたすら謝罪だったりしたけど)。
そうしてあっという間に、コースターが終点についたときには、全員がよろよろしながらコースターを降りる羽目になった。
特に六花、美弥子、部長のダメージは大きくらしい。
「はう~~~~……」
美弥子はぐるぐると目を回していた。
「きゅ~~~~……」
六花は顔を青褪めさせている。
「うぇっぷ……」
部長は口を押えていた。
これでは次のアトラクションにいけないと判断した僕たちが近くのベンチに座って休憩を取っていると、再び園内アナウンスが響いた。
――ぴんぽんぱんぽ~ん
――間もなく、園内中央広場にて、ヒーローショーを開始いたします
「ヒーローショー!?」
ヒーローショーと聞いた途端に、それまでグロッキーだった六花が目を輝かせた。
「ほほぅ、面白そうじゃないか」
なぜかヒーローショーと聴いた瞬間に部長が復活した!?
「でゅふふ……。ヒーローカップリング……。キタコレ」
冨和ちゃんが怪しげに笑う。
「あ、あの……、私も……見てみたいです……」
そして美弥子までもが控えめに主張した。
僕と里井はお互いに顔を見合わせると、やれやれとばかりに賛成して、全員で中央広場に向かうことにした。
広場に着くと、そこは子供連れの家族で賑わっていた。
さすがに高校生は僕たちしかいなくてかなり浮いていたけど、部長や六花、冨和ちゃんには関係ないらしく、美弥子のてを引っ張って、一番前の席を確保していた。
本当は、僕も里井も後ろの方がよかったけど、女子全員で手招きしているので諦めることにする。
やがて、男子と女子でテンションに大きな差がある中、いよいよヒーローショーが始まる。
内容はこういうところでやるような、ありきたりのものだった。
司会のお姉さんが会場の子供たち(プラス女子高校生)に挨拶しているところで、悪役が乱入。司会のお姉さんが、会場の子供たち(プラス女子高校生)と一緒にヒーローを呼び寄せるという内容だ。
で、まぁ大方の予想通り、登場したヒーローたちにぼこぼこにされた悪役たちが、会場の子供たちを人質にしようと、ステージから降りてくる段階になった。
「さぁて、人質を選んで来い!」
「イー!」
「キー!」
「みー!」
親玉の命令に従って、手下たちが舞台から降りてきて、人質となる子供たちを物色し始める。
子供たちは泣き叫んだり、逆に喜んだりと、可愛い反応を返し、どこかしら微笑ましい……のはいいんだけど……。
「はいはいはいはい! 私! 私!」
懸命に手を上げて、自己主張する六花。
「む。 六花君だけに任せておけるか! 私も立候補しよう!」
部長が無駄に凛々しく手を上げ、怪人たちはどうしようかとおろおろする。
そして、怪人たちが選んだのは……。
「私……ですか?」
きょとんとする美弥子だった。
怪人にステージに連れていかれて戸惑う美弥子を見て、六花と部長が本気で悔しがる。
ちなみに冨和ちゃんはと言えば、ステージ上のヒーローと怪人の親玉を見て、興奮したように、はぁはぁ言っていた。
きっとBL的なことを想像しているのだろう。
ともあれ、数人の泣きわめく子供たちと一緒にステージに連れてこられた美弥子は、おろおろとステージ上からこちらを見ていた。
許嫁の里井はというと、ただ笑ってひらひらと手を振っているだけ。
いや、そこは応援してやれよ。
僕がそう思っている間に、ショーが再開される。
人質を取られ、手が出せないヒーローたちに対して、悪役たちが攻勢に出る。
選ばれなかった子供たちと、六花は懸命に声を張り上げてヒーローを応援するが、ついにヒーローたちはステージ端に追い詰められてしまう。
普通のシナリオなら、ここでお姉さんと一緒に皆が応援して、謎のパワーを受け取ったヒーローたちが逆転するという茶番が繰り広げられるのだろうけど、今回はそうならなかった。
「うぎゃあっ!」
突然、人質を取っていた怪人の手下が鳴を上げ、全員がそちらに注目する。
そこには、怪人をステージの床に投げ飛ばした美弥子が、鋭い目つきで怪人たちを睨み付けるという光景があった。
「え……?」
司会のお姉さんが戸惑った声を上げる中、事態は進んでいく。
美弥子は手近にいた怪人を再び投げ飛ばして子供たちを解放すると、そのまま流れるように親玉に近づき、親玉の腕を取って片手を相手のお腹に添え、軽やかに投げ飛ばした。
「ぎゃあっ!」
予め録音されたものではない、役者本人の悲鳴が聞こえ、ステージ全体……否、会場全体が静まり返る。
それを見た里井の一言。
「ああ、やっちゃった……」
どういうことかと説明を求めると、美弥子はどうやら護身術として合気道を習っているらしく、その腕前は不良なら五人くらいに囲まれても、あっさり勝てるレベルだという。
美弥子の意外な一面に驚いていると、ステージ上で固まっていた司会のお姉さんがヒーローたちに、「今よ!」などと無責任に呼びかけ、我に返ったヒーローたちが、倒れ込んだ悪役にとどめを刺してステージは終了した。
その後でスタッフに呼び出された僕たちは、彼らに必死で謝ることになったのだけど。
そんなこんなで、お昼ご飯を食べ、お化け屋敷で悲鳴を上げ、ジェットコースターにリベンジしてぐったりして時間を過ごし、最後に全員で観覧車に乗ってから、遊園地を後にした僕たちは今、帰りの電車に揺られている。
僕の肩には六花が頭を預けながら寝ており、反対側の座席に座る里井の肩には、同じように美弥子が頭を預けて寝ていて、僕と里井は思わず苦笑した。
後日、美弥子に遊園地のスタッフからヒーローショーに出ないかと連絡が来たと聞いたときには、文芸部員全員が大笑いした。
~~おまけ~~
文隆「部長! 部長!」
部長「どうしたのかね、文隆君?」
文隆「今回、僕は重大なことに気付きました!」
部長「いったい、どうしたと?」
文隆「今回美弥子が披露した合気道は本来、相手の力を使う武術のはずなのに、美弥子は自分の力で悪役の人を投げ飛ばしています!」
部長「はっ!? そういえば!?」
文隆「つまり美弥子が今回使ったのは合気道ではなく、単純な腕力なのでは!?」
部長「外見に寄らない力持ちの美弥子君……。それはそれで……」
文隆「あ、部長的にはありなんだ……」




