第35話 文芸部DE大喜利
「本日はテストを行う!」
部室に顔を出した部長が開口一番、そう宣言した。
「「はっ?」」
僕と六花がぽかんとした表情で訊きかえし、里井は相変わらずにこにこと気持ち悪い笑みを、冨和ちゃんは我関せずとばかりに暢気に薄い(BL)本を読んでいた。
部長は特に反応を返さない冨和ちゃんを少しだけ呆れるように見た後、気を取り直して説明を再開する。
「テストと言っても、定期テストや模試のようなものではない。そうだな……例えば……」
部長は少し考えた後、ホワイトボードに何事かを書いてこちらを振り返る。
「いーゆーは何の略か?」
六花がきょとんとしながら読み上げると、部長はそのまま六花を指名する。
「はい、六花君! EUとは何の略か答えてみたまえ」
「え? え? えぇっと……」
六花はおろおろしながら必死に考えを巡らせた後、何かを思いついて、口を開いた。
「え……、ええ加減うちを子ども扱いせんといて!」
「何で関西弁!?」
僕は六花の思わぬ回答に、思わずツッコミを入れてしまい、部長はまさかのボケ回答に大爆笑していた。
ふと見れば、里井も冨和ちゃんもツボに入ったらしく、必死に笑いを堪えようとしていた。
やがて、笑いが収まった部長が、にじんだ涙を拭いながら六花に親指を立てて見せた。
「六花君、正解だ!」
「やった~!」
もろ手を上げて喜ぶ六花は、何故か僕にVサインを見せた。
それを適当にあしらいながらも、なんとなく部長のやりたいことを理解した。
「つまり、その問題みたいに、普通に応えるのではなくて、面白おかしく回答しろということですか」
「うむ、その通りだ。ちなみにこれは、小説を書く上で必要な発想力を身に着けるための訓練だ!」
「うわぁ、そうなんですか」
ばばんと胸を張る部長に、六花が尊敬の眼差しを向けるけど、騙されてはいけない。
部長は絶対にそんな高尚なことは考えていない。
僕が疑惑に満ちた視線を部長に送ると、部長はふいっと目を逸らした。
「さ、とりあえず、始めるぞ。ちなみに無回答をした場合は、罰ゲームだからな」
部長が誤魔化すように、持ってきたプリントを各自に配布する。
全員に行き割ったことを確認した部長が一つ頷く。
「制限時間は三十分。それでは、始め!」
その宣言と同時に、僕たちは問題に取り掛かり始めた。
――かりかりかりかり
静かな部室の中で、ひたすらペンを動かす音だけが聞こえる。皆がテストに集中している証拠だ。
ただし、こういう時に限って、何でもないことがすごく面白く思えてしまうこともある。
例えば……。
「……でゅふっ」
静まり返った部室に、冨和ちゃんの特徴的な笑い声が漏れた。
「……………………ぷっ」
誰かが耐え切れずに吹き出し、そして笑いが全員に伝播し、その結果、全員が爆笑の渦に叩き込まれ、笑い転げた。
「冨和ちゃん、いきなりどうしたのさ?」
どうにか笑いが収まった僕が訊いても、冨和ちゃんは「でゅふふ」と笑うだけで答えってくれそうにない。
ただ、その眼は怪しく輝いていて、とても嫌な予感がする。
主にBL的な意味で。
な、何を想像してるんだろう……。
僕が嫌な予感に襲われていると、部長がぱんぱんと手を叩いて空気を引き締める。
「ほら、制限時間まであまり余裕はないぞ」
おっと、いかんいかん。さっさとこれを終わらせてしまおう。
僕は慌てて、再びテストに集中する。
だから気づかなかった。
部長がにやりと笑っていたことに。
それはようやく場が静かになって、再び皆がテストに集中しだしたころのことだった。
「にゃふん♪」
妙に弾んだ声で部長がつぶやいた途端、またもや全員が一斉に吹き出した。
「ちょ……、部長……! あはははは! なんで部長が……くっくっく……、じゃまを……はっはっは……」
必死に抗議しようとするけど、可笑しさが邪魔をして上手くいかなかった。
仕方なく、里井に抗議を任せようとしたけど、里井もよほどツボに入ったのか笑い転げており、頼れそうになかった。
六花は言うに及ばず、冨和ちゃんも必死に口を押させて笑いをこらえている状態でそれどころではない。
どうしようもないと判断した僕は、取り合えず笑いが収まるのを待つことにした。
そして数分後。
やっと笑いが落ち着いたところで、改めて部長に抗議する。
「部長、残り時間が少ないとか言っておきながら、何で邪魔をするんですか!」
「すまないな。ついかっとなってやってしまった。反省はしてる。だが、後悔はしていない!」
「何にかっとなったんですか!?」
「いや、亜衣君が一言で笑いを取ったことについ嫉妬して……」
「そんなことに嫉妬!?」
「そんなことにとはなんだ! 私は何事にも常に全力を以って当たる! そう、それが例え笑いの道であろうとも!」
胸を張って熱く語る部長に、六花が「お~」とか言いながら感動して拍手をする。
僕はそれを見てため息をついた。
ダメだこの人、早く何とかしないと……。そう思った時だった。
「はい、テストしゅ~りょ~」
そう宣言しながら、部長がぱんぱんと手を打った。
「え? えぇ~!?」
驚いた僕は慌てて時計を確認すると、確かにすでに三十分経過していた。
慌てて振り返れば、僕以外の三人は既に記入し終えていたのか、息を吐いたり背伸びをしたりしていた。
「それでは、答案を回収しよう」
部長がそう言って、答案用紙を回収しようとするのを、僕は慌てて止めた。
「ま、待ってください部長!」
「ん? どうした? 文隆君……」
「後五分! 後五分だけ待ってください!」
「何だ? 解き終わっていなかったのか? まったく仕方ないな、君は。ツッコミばっかりしてるからだぞ?」
「誰のせいですか! じゃなくて……、さすがに罰ゲームは嫌なんで最後まで回答させてください」
「………………まったく……、仕方ないな……。待つのは今回だけだぞ? 急ぎたまえ」
「ありがとうございます」
部長の言葉にどこか引っかかるものを感じたけど、とりあえず部長の許可を得て、急いで残りの回答を記入していく。
そして、五分後。
「できた……」
どうにかすべてを記述し終えた僕は、部長に答案用紙を渡す。
部長はそれを受け取ると、にやりと笑って、ホワイトボードに何事かを書いていく。
よく見れば、それは珍妙なこのテストの問題だった。
「よし、全員分の回答が出そろったところで、始めよう。まずは第一問。問題は「ワシントンD・CのD・Cとは何の略か」という問題だ。ちなみに正しい答えはコロンビア特別区、英語ではDistrict of Colmbiaとなるわけだが……、さて、皆の答えを見てみよう……」
奇妙な緊張感で全員がごくりと喉を鳴らす中、最初の犠牲者の答案が選ばれた。
「まずは文隆君……。文隆君が考えた、D・Cの意味は………………〈デ○ズニー・C〉」
里井と冨和ちゃんが失笑し、僕は恥ずかしさのあまり机に伏せた。
「わ、私は文君の答え好きだよ!」
慌てたようにフォローを入れる六花に癒されていると、部長が次の問題を読み上げる……。
「って、ちょっと待ってください部長! 何で回答を読み上げたのが僕だけなんですか!?」
「だって、作者が書くのが面倒だと……………………」
『……………………………………………………』
部長がメタな発言をして全員が押し黙った。そんな中で僕は部長に頭を下げる。
「…………部長……、我がままを言ってすいませんでした」
「あ、ああ、いや。こっちこそすまなかったな……」
そのまま微妙な空気になりかけるのを六花が敏感に察する。
「さ、さあ部長。部活が終わるまで時間がないんですから、早くやっちゃいましょう」
その発言に部長も気を取り直して、回答発表を続ける。
「んん! さて、第二問に行こう。第二問の問題は、「最近は六四六年だと言われている、六四五年の大化の改新のごろ合わせを答えよ」という問題だったが、この問題の面白回答は……、亜衣君に決定だ!」
部長が冨和ちゃんの回答をホワイトボードに書き出す。
そこにはこう書かれていた。
――無事故の世づくり邪馬台国
「大化の改新は!? 何で邪馬台国!?」
「でゅふふ……」
腐女子の後輩はにやりと笑い、部長はしたり顔だ。
「いやぁ、途中までは普通だったから油断していたところで、まさかの邪馬台国だからな。見事にやられたよ……」
部長の褒め言葉ににやりと笑う冨和ちゃん。
どうもこの子、案外油断ならないようだ。
僕が冨和ちゃんへの評価を検めている間に、部長はどんどん先へ進む。
「それでは第三問だが……、「鎌倉幕府ができた年号を語呂合わせで答えよ」という問題だ。ちなみに最近になって改訂されて、「いい国作ろう」から「いい箱作ろう」に変わったわけだが……。この問題の面白回答は……六花君だ」
そう言って部長は六花の回答をホワイトボードに書き出し、僕がそれを読み上げた。
「いいくにだったなぁ邪馬台国……ってまた邪馬台国!?」
まさかのかぶりだった!
「いや、本当に私もびっくりしたよ。先ほどの亜衣君の回答の後でまさかのこれだからな。ついついベストアンサーに選んでしまった」
「いえ~い」
六花が嬉しそうにVサインをするので、僕はとりあえず六花の頭を撫でることにした。
そうこうするうちに、回答発表は続く。
「次は、第四問。「人類初の有人宇宙飛行に成功したロシア人、ガガーリンの言葉を答えよ」という問題だが……。この問題の面白回答は直重君だ!」
そして、部長がホワイトボードに書き綴った里井の回答とは……!
――邪馬台国は青かった……
「また邪馬台国!? というか、青かったの!?」
僕のツッコミににやりと笑って返す里井が憎たらしい。
そんな僕の心情をよそに、部長の解説が始まる。
「いや、まさかここにきて三連続で邪馬台国とは夢にも思わなんだ。実は君達、打ち合わせをしていたとか言わないよな?」
部長の問いに、僕を除く三人が一斉に手を振って否定する。
『ないない』
「そうか……。しかし、偶然とは恐ろしいものだな……」
部長は感慨深げに頷いたあと、「さて」と前置きをしてから、全員を見回した。
「いよいよ、最後の問題だ。最後の問題は「君達の弱点を一つ答えよ」という問題だったわけだが……。何とこれは全員が見事に同じ答えだった」
何だか低い声を出しつつ、部長はホワイトボードに僕たちの答えを書いていく。
そこには。
――部長
と書かれていた。
「これはどういうことかなぁ!?」
若干涙目になりながら叫ぶ部長。
それに対して……。
「や、部長の突発的思いつきが……」
と僕が答え、
「部長は僕の上を行く腹黒さですから……」
と里井が笑い、
「でゅふふ……、部長はカップリングできない……」
冨和ちゃんが何とも微妙なことを言い、
「だって、部長さん、いつも私に抱き付くから……」
六花が納得できる答えを言った。
「…………うわあぁぁん! 後輩たちがいじめる! 私は……私は……きらわれものだったんですねぇ~~~~~~~!」
部長は叫びながら、某パン屋の奥さんのように走って行ってしまった。
『……………………』
それをぽかんとして見送った僕たちは、某パン屋の旦那のように叫びながら追いかけた。
『僕は(私は)大好きだ~~~~~~~~~~~~っ!』
~~おまけ~~
文隆「そういえば部長……」
部長「何だね、文隆君?」
文隆「前も言いましたけど、何でこの作品はK○YというかCL○NN○Dネタが多いんですか?」
部長「それは作者が鍵っ子だからさ! 鍵っ子とはいわゆるKE○作品を愛する輩のことだ!」
文隆「なんか、安直な使い回しばかりな気がします……」
部長「文隆君、それは言わない約束だ!」




