第34話 新入部員歓迎会!
「次の日曜日、新入部員の歓迎会をやるぞ」
部長が部室に顔を出すなり、いきなりそう告げてきた。
「そうですか~」
「分かりました」
「でゅふふ……」
しかし、それに対する後輩三人の反応は淡白なもので、部長は不満げに頬を膨らませる。
「ちょっと君達。反応が薄すぎやしないか? とくに亜衣君。君の歓迎会なんだぞ?」
「た、楽しみです……でゅふ……」
伏し目がちで、なおかつ視線を部長から逸らす冨和ちゃん(こう呼ぶことに決めた)は、端から見れば、まったく楽しみだと思っているようには思えない。
部長もそう思ったらしく、若干頬を引きつらせていたが、すぐに気を取り直すように宣言した。
「当日は、朝十時に私の家に集合すること。料理などは適当に私が作るので問題ない。なお、当日はサプライズゲストが来る予定なので、覚悟しておくように!」
はて、サプライズゲスト?
先生のことかな? などと思いながら、とりあえず脳内のスケジュール帳に予定を書き込んだ。
◆◇◆
それから数日後の日曜日。
約束通りの時間に部長の家を訪れると、里井と冨和ちゃんが先に来ていた。
「この間、冨和さんと僕が帰る方向が同じだということが分かってね。部長の家を案内することになったんだ」
「そうか。うん、それはいい。後輩想いのエピソードだからな。だが……」
そして、僕は冨和ちゃんをびしっと指さした。
「冨和ちゃん! その恰好は何!?」
僕に指摘されて、冨和ちゃんは首を傾げる。
「……? ど、どこか変?」
本気で分かっていないようだ。
僕は説明を求めるように里井に視線を向けると、里井は苦笑しながら肩をすくめた。
「僕との待ち合わせ場所にいた時からあの恰好だったよ」
「ツッコめよ! そこで流すなよ!」
「まぁ、いいじゃないか。休日にどんな格好で過ごそうと、別に問題ないさ」
「そうだけど! それは確かにそうなんだけど!」
里井の話に何だか釈然としないものを感じながら、僕はついつい絶叫してしまった。
「だからって、何でメイド服なんだよ!!」
そう、冨和ちゃんが来ていたのは黒いロングスカートのワンピースの上から、白いエプロンドレスを重ねてきて、頭にひらひらの付いたカチューシャ(後で訊いたら、正式名称はホワイト・ブリムというらしい)を付けたどこからどう見てもメイドの格好をしていたのだ。
「せ、せっかく歓迎会っていうから……、わ、私なりの精一杯のおしゃれ……。へ……へん?」
自信無げに問う冨和ちゃん。
うん、正直に言えば、結構似合っている。
それは認めよう。
だけど……。
「うん、十分にあってはいるんだけどね……。さすがにその恰好のまま、ここまで移動するのは変だと思うんだ。秋葉原じゃあるまいし……」
ツッコミとも呆れとも言えないことを言っていると、部長がキッチンからひょっこり顔を覗かせた。
「おお、よく来たな。彼女の格好は私が指示したものだ」
ふんすと胸を張る部長に、僕は呆れた視線を送る。
「いったい、後輩に何やらせてるんですか? いじめですか? ごめんね冨和ちゃん、嫌なら着替えてもいいんだよ?」
そういうと、部長と冨和ちゃんが声をそろえてこう言った。
「「セクハラです」」
「何で!?」
まさかの疑惑だった。
「せ、先輩……けだもの……。お、襲われる~」
冨和ちゃんが全く危機感のない口調でそう言いながら逃げようとし、
「文隆君、君を見損なったぞ。いくら可愛い後輩ができたからと言ってセクハラを働くとは……」
そう言いながら、部長が頭を抱えた。
「何でそうなるんですか、二人とも……。僕はただ、冨和ちゃんが嫌なら着替えを……」
「き、着替え……持ってきてない……。それなのに先輩が着替えろという……。着替えがないのに着替えろ……。つ、つまり脱げということ……。やっぱり先輩はけだもの……」
「すんませんでした!」
冨和ちゃんの説明を聞いて、ついつい土下座をしてしまった。
里井はそんな僕をやれやれと見つめた後、僕を無視して部長に声を掛けた。
…………里井後で殴る……。
「部長、メンバーもそろったことですし、そろそろ始めませんか?」
「む? そうだな。ほら、文隆君も、いつまでも土下座してないで、来たまえ」
「……………はい……」
文芸部は新入部員が入ろうとも、いつも通り平常運転だった。
ともあれ、テーブルに所せましと並べられた料理の前に座った僕らは、一斉に部長に注目する。
しかし、部長はというと時計に何度も視線を送って、一向に始めようとしなかった。
「…………部長?」
僕が変に思って声を掛けた時だった。
――ぴ~んぽ~ん
玄関のチャイムが鳴らされ、部長の顔が急に華やいだ。
「来たか」
それだけつぶやいた部長はそそくさと立ち上がって、来訪者を出迎える。
やがて、部長ががっくりと肩を落としながらリビングに戻り、その後ろで心外そうな顔をした沙条先生が現れた。
先生は勝手にテーブルの傍に座りながら、全員をぐるりと見回した後、部長を軽く睨み付けた。
「まったく……。顧問の私を差し置いて、新入部員歓迎会なんて楽しそうなことをやるとは何事だ」
先生の問いに、部長はふてくされたように口を尖らせて応える。
「先生は呼びたくなかったんですよ。お酒を出せとうるさくなるし……」
「それは心外だ! 私だってマナーや常識くらいあるさ」
「常識があるなら、いきなり人の家に出現しないでください」
部長の言葉に、その場の全員が全くだというように頷いた。
「お前ら……そろいもそろって……」
先生がぴくぴくと頬を引きつらせていると、再度、玄関のチャイムが鳴らされた。
がばりと顔を上げた部長が、再び玄関に出迎えに行く。
そして、今度は満面の笑みを浮かべて戻ってきた。
その腕に、何故かぐったりとした六花を抱えて。
「ろ、ろろろ、六花!? 一体どうしてここに!?」
予想外の人物の登場に僕が慌てていると、六花を膝の上に乗せた部長が六花を抱きしめながら答えた。
「実はな。先日、六花君から申し出があったのだ。自分も文芸部に入れてほしいとな」
「マジですか!?」
衝撃的事実だ。
最初に体験入部した時はあれほど嫌がっていたのに……。
「六花……一体何で……。ま、まさか部長に弱みを握られて!?」
「私がそんなことするはずないだろう?」
「じゃ、じゃあ、何か圧力を掛けられた?」
「君は一体私を何だと思っているんだ?」
「それじゃあ……」
「違うよ、文君……」
僕の言葉を遮って、六花が話す。
「本当に私から頼んだんだよ。文芸部に入れてくださいって……」
「なんで……?」
「だって……、文君も里井君も部長さんも……、それに生徒会の人たちも、空君も楓ちゃんも、みんな文芸部の人と一緒にいると、楽しそうなんだもん」
「だったら、今までみたいにときどきイベントに参加でも……」
なおも食い下がろうとする僕に、部長が珍しく真面目な声で言ってきた。
「文隆君。君は少々、六花君に対して過保護になりすぎだと思うぞ? 彼女も高校生だ。自分でいろいろと判断して、行動するんだよ。君は純粋に彼女を心配しているだけなのだろうけど、君は彼女の親でも兄弟でも恋人でもないんだ。彼女が自分で決めたことに、君が口出ししていいわけではないぞ」
正論すぎるほどの正論を言う部長に、僕はつい押し黙る。
その場に少し険悪な空気が流れ始めたところで、六花がおろおろし始める。
「ほ、ほら、部長さんも、文君も仲良く、ね?」
おろおろしながら僕と部長を交互に見る六花を無視して、僕は重々しく口を開いた。
「部長……」
「何だ、文隆君?」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「お腹すきました」
僕の発言に、六花がこけ、里井と先生は苦笑して、冨和ちゃんは目が点になっていた。
「それもそうだな。いい加減始めるか」
部長は何事もなかったかのように、六花を横に置いて立ち上がると、ジュースの入ったコップをゆっくりと掲げた。
全員がそれに習ったところで……。
「んん! それじゃあ、亜衣君、六花君。二人とも、ようこそ我が文芸部へ! 乾杯!」
部長の音頭に合わせて、全員がグラスを合わせて唱和した後、思い思いに料理を楽しんだ。
それかしばらくして、全員のお腹が膨れたころを見計らって、部長が、冨和ちゃんと六花に改めて自己紹介をお願いした。
まずは冨和ちゃんがそれに応じる。
「ふ……、冨和亜衣、一年。しゅ……趣味はBLに関すること全般。も、妄想したり、書いたり……。よ、よろしくお願いします。でゅふふ」
冨和ちゃん、なぜ最後に僕と里井を見て、にやりと笑いますか?
僕が若干頬を引きつらせていると、今度は六花が元気よく立ち上がった。
「私は、粟飯原六花! 二年生! 趣味は食べること! よろしくね、亜衣ちゃん!」
冨和ちゃんの手を取って、ぶんぶん上下に振る六花は「えへへ」と笑顔を向けた。
「よ、よろしくお願いします……」
冨和ちゃんもぺこりと頭を下げ、微笑んだ。
うんうん、二人とも文芸部で仲良くやっていけそうだ。
あと、僕の苦労が減るといいなぁ……。
~~おまけ~~
文隆「いやぁ、まさか六花まで文芸部に入るとは思わなかったよ……」
部長「だがそれも彼女の意志だ。私はそれを尊重するさ。何せ文芸部のモットーは来るもの拒まず、去るもの追わず、だからな」
文隆「え? じゃあ僕が今すぐやめるといったら部長は了承してくれるんですか?」
部長「え?」
文隆「え?」




