第33話 新入部員を確保せよ
新入生が入って、僕と里井は二年生へ、部長は三年生へ進級して少ししたある日のこと。
静かな部室で、僕達三人がキーボードをたたく音だけが聞こえてくる。
大きく開け放たれた窓からは、春の爽やかな風が時折吹き込み、僕の頬を優しく撫でて通り過ぎていく。
とても穏やかで、気を抜けばすぐにでもうとうとしてしまいそうになるくらい、平和な時間。
そんな春の午後の穏やかな時間に、部長がごくごく軽い感じで……、そう、まるでその日の晩御飯を決めるような、とても気軽な声で爆弾を投げ込んだ。
「あ、来週末までに新入生が最低一人入部しないと、廃部らしいから……」
「へぇ……そうですか………」
世間話のように投げかけられたそれに、僕も軽い調子で受け答え、自分の作業を続ける。
――かたかたかたかたかた……
…………………ん?
なんか変な言葉が聞こえた気がしたけど……、気のせいかな?
なんとなく部長の台詞に違和感を感じた僕は、ちらりと里井や部長に視線を向けてみるけど、そんな違和感は気のせいとばかりに、二人は自分の作業に集中している。
……なんだ、やっぱり気のせい…………じゃない!
「あの……部長?」
恐る恐る声を掛けると、部長はパソコンのモニタに視線を向けたまま受け答えをする。
「ん? 何かな?」
「ああ、いや……、さっき言ったこと、もう一回言ってくれませんか?」
「む? 君も変な趣味があるんだな。仕方ない、もう一度だけだぞ? 何かな?」
「そこじゃねぇよ!」
なんだか、とっても懐かしいやり取りだけど、問題はそこじゃない。
「すごく既視感を感じるやり取りですけど、今聞きたいのはそこじゃないですよ!?」
「む? ならどこだというのだ? 私はてっきり君が声に興奮を覚える、ちょっと変わった趣味なのかと……」
「そんな趣味ねぇですよ!? 僕はいたって普通! ノーマルです!」
「本当にそうか?」
「…………は?」
「君は本当に自分がノーマルだと言い切れるのか?」
「……? 言い切れますけど?」
「では、今一部で話題沸騰中の、〈文隆君と直重君〉のホモ疑惑について君はどう弁明するんだ?」
「……はっ!? そんな疑惑があるんですか!?」
「うむ。ちなみに、これに対する直重君のコメントは……」
そう言って部長がエアマイクを里井に突き出すと、里井はにっこり笑って答えた。
「それは光栄ですね」
「ちょっと待て! 里井、お前には美弥子という許婚がいるだろ?」
「それについては問題ないよ。彼女に許可は得ているからね」
「嘘だ!!」
「ひ○らしとはまた懐かしいネタだな」
「違うな! 間違っています部長! 僕がツッコみたいのはそこじゃない!」
「分かっている。皆まで言うな。君はこういいたいのだろう? 『あんな謎に正解できるわけがない』とな」
「自信満々で答えてくれたところ悪いですが、違いますよ!?」
「そうですよ部長。西村君が言いたいのはそういうことじゃないです」
そうだ里井。部長に僕が伝えたいことをガツンといってやってくれ!
「西村君が言いたいのは、『結局、どっちが魅○でどっちが詩○なのか』ってことですよ」
「違うよ!? ノってボケてるんだろうけど、今僕が言いたいことはそういうことじゃねぇよ!?」
「そうだ、それは間違っているぞ直重君」
部長……。やっぱり僕の言いたいことを分かってくれて……。
「彼が言いたいのは『結局あの村の医者はロリ○ンだった』ということだ」
なかったよコンチクショウ!
「だから、そんなことじゃねぇですよ!? というか、いい加減、ひ○らしから離れてください! 今は関係ないですから、ひぐら○!」
二人がかりのボケにツッコミ疲れて、僕はぜぇぜぇと息をする。この一年で二人のボケのコンビネーションスキルに磨きが掛かった気がする……。
僕は一度コーヒーを飲んで落ち着きを取り戻した後、話を再開させる。
「とにかく部長、さっき廃部がどうとか言ってませんでした?」
「ん? ああ、言ったな。正確には『あ、来週末までに新入生が最低一人入部しないと、廃部らしいから』だが……」
「……ああ、やっぱり気のせいじゃなかったんですね……」
一年前を髣髴とさせる台詞に、僕はがっくりと肩を落とす。
「で? そんなに落ち着いてるってことは当てがあるんですか?」
僕が訊いてみると、部長は胸を張って言い切った。
「ない!」
……ああ、やっぱり……。
予想通りの答えを聞いて項垂れる僕に、部長はさらに続けてこういった。
「私は今、締め切りが近くて忙しいのでな。すまないが、君たち二人で新入部員を探してくれないか?」
僕と里井は、お互いに顔を見合わせた後、同時に頷いた。
まぁ、この居心地のいい部がなくなるのはいやだし、仕方ないか……。
こうして僕と里井は、ほかの部活との新入生争奪戦に参加することになった。
◆◇◆
その翌日。
新入生争奪戦に参加する前に、まずは作戦会議をすることにした。
「ただ文芸部だとアピールしたところで、多分新入生は来ないよなぁ……」
僕の言葉に里井も頷く。
「そうだねぇ。何か、インパクトがあるアピールをしないと。文芸部は地味なイメージしかないからねぇ……」
インパクトか……。
インパクトと聞いて、一瞬、鼻の長い狙撃手が敵に手のひらを向けて「インパクト!!」と叫んでる映像が浮かんだけど、そのイメージを頭を振って追い払う。
「インパクトねぇ……。気ぐるみでも着てチラシ配りとか? 〈けい○ん!〉みたいに……」
「それは新入生が引くからやめたほうがいいと思うよ?」
「じゃあ、新歓ライブ」
「楽器弾けるのかい? というか、文芸部に関係ないよね」
「漫才」
「もはや何部なのかわからなくなるよね」
「そうか……、そうなると…………もう手はなくなった!」
「諦めがいいねぇ……」
「……………」
「……………」
僕がボケて里井がツッコむ。新鮮なんだけど違和感がありまくった。
「あー……、里井……」
「うん?」
「その……正直すまんかった……。お前にツッコミは向いてなかったな」
僕が誤ると、里井は軽く肩をすくめた。
なんだか余裕なその様子が気になるけど、今はまぁ置いておこう。
気を取り直すように、気合を入れるように、一度頬を叩いた僕は、改めて里井に提案する。
「やはりここは文芸部ならではの魅力をアピールすべきだろう」
「というと?」
「部長はプロのラノベ作家だ。それを行かさない手はないと思う」
「……うん、そうだね。やっぱり僕達にとって最良の手は……」
どうやら僕と里井で珍しく意見が一致したらしく、僕たちは声をそろえて答えを導いた。
「部長の本を配る!」
「部長のサイン!」
やっぱり一致してなかった。
「……………………」
「……………………」
「本!」
「サイン!」
ぐぬぬ……。せっかく意見があったと思ったらこれか……。
里井としばらくにらみ合っていた僕は、ふっと笑うとゆっくり立ち上がった。
「里井……。やはりお前とは決着をつけるべきだな……」
里井もにやりと笑って応じる。
「そう……、ちょうど僕も同じことを考えていたよ……」
「そうか……。だったら……」
「うん」
「いざ……」
「尋常に……」
「「勝負!」」
そうして勝負をすることになった僕と里井は、部長がいる部室に向かった。
そして部室のドアを勢いよく開けて中に踏み込んだ途端、僕と里井は固まった。
部長と机をはさんで反対側に見知らぬ女子生徒が座って、所在投げにコーヒーを飲んでいたのだ。
「む? 遅かったな」
入り口で固まる僕と里井に気付いた部長が声を掛けてくる。
ある種の予感に襲われながら、僕はゆっくりと部長に訊ねた。
「あの……部長……」
「何だ?」
「つかぬ事を聞きますが……。その子は?」
僕が視線を向けると、見知らぬ女子生徒はびくりと身をすくませる。
部長は苦笑すると、コーヒーを一口含んで、こういった。
「ああ、彼女は一年生で、わが文芸部の新入部員だ」
紹介された新入部員が、ゆっくりと立ち上がって自己紹介をする。
「あ、あの……、新入部員の冨和亜衣と……いいます……。よ、よろしくお願いします……でゅふ……」
「「勧誘する前に来ちゃった!」」
僕と里井の叫びが響いた。
こうして文芸部に新たな部員が加わり、今まで以上に混沌とした部活が始まることになる。
~~おまけ~~
文隆「僕が文芸部に入って一年が経ち、このタイミングで新キャラだと!?」
部長「まさかとは思うが文隆君、キミは自分のポジションを取られると危惧しているのかな?」
文隆「ふっ……ちがいますよ部長……。僕が危惧しているのは、作者がこれだけの大人数を操りきれるかと言うことですよ」
部長「なるほど、それは確かに危惧すべき問題だな……。何せ作者の文章力だからなぁ……」
文隆「ええ、あの作者ですから……」
作者不在によりツッコミ放棄




