第28話 大晦日
十二月三十一日、大晦日。
一年間三六五日の最後の日であり、一年を締めくくる日。
そんな重要な日に僕は……、相変わらず部長の家に招待されていた。
目の前には部長おすすめの信州産の蕎麦が美味しそうな湯気を立てており、テーブルの中央にはこれまた美味しそうなすき焼きが、ぐつぐつと音を立てていた。
そのすき焼き鍋を囲うのはいつものメンバーである、部長、里井、生徒会長の美月さん、副会長の黒野さん、書記の向井さん(いつものようにセクハラを仕掛けて縛られている)、そろそろ皆と顔なじみになった、空、六花、楓、そして今回も部長命令でつれてこられた里井の許婚の松本さん。
それに僕を含めた総勢十名が、いつものように部長宅に集まってわいわいと騒ぎながら、夕食を共にしていた。
「しかし、毎度毎度すいません、部長」
割り下が程よく染み込んだ牛肉に舌鼓を打ちながらいうと、部長はなんでもないように笑った。
「別にかまわないさ。私だって、こうやって皆でわいわい騒ぐのは嫌いじゃない。それに、美弥子君も手伝ってくれたから準備も楽だったしな」
部長の話によると、予定の時間より早めに来た里井と松本さんが準備を手伝ってくれたのだという。
その松本さんといえば、今は料理を奪い合う男子組みと六花を見てくすくすと笑っている。
前回のクリスマスパーティー以降、どうやらすっかりこの騒がしいメンバーになじんだようで、部長はそれをほほえましそうに見ていた。
「さて、それでは文隆君。我々も思う存分、この時間を楽しもうではないか」
にやりと笑う部長に「はい」と応じた僕は、部長と一緒に肉争奪戦に参戦した。
結果?
……はい。とても美味しかったですよ? 野菜が……。
その後、一通り食事を終えて片付けも済ませた後は、皆で和やかに〈紅白○合戦〉や、〈絶対に○ってはい○ないシリーズ〉でも見るのかと思いきや、誰かが持ってきた人生ゲームをやろうという話になり、でもさすがに人数が多いからどうせならチーム戦をやろうという流れになった。
そんなわけで、現在。
公平を期すために黒野さんが急遽用意したくじ引きを前に、全員が妙な緊張感を纏っていた。
「皆、準備はいいな?」
部長の確認で全員が一斉に頷く。ちなみに今回のくじ引きは長い紐を五本用意してそれぞれの両端を引っ張って同じ紐の人がチームという形式であり、今は全員が紐の両端をつかんでいる。
「それでは皆。誰と当たっても恨みっこなしだ」
またもや全員が揃って頷いたのを確認した部長が、宣言した。
「よし、それでは全員……、引け!」
途端一斉に両端を引っ張られて紐がぴんと伸び、組み合わせが決定した。
僕と六花、部長と美弥子(彼女にこう呼ぶように全員が言われた)、里井と美月さん、空と黒野さん、そして楓と向井さんだ。
こうして一部でかなり珍しい組み合わせになったことに驚きつつ、後に全員の記憶から抹消されることになる人生ゲームが始まった。
最初は和やかな雰囲気で進められていた。
だけど、誰かがどこからか持ち出したお酒を飲み始めたところから、徐々に全員が壊れ始めた。
六花が目を据わらせながら、「金魚って金色じゃないのに何で金魚というのか」とか、「信号機の青は実際は緑なのになんで青というのか」とかをぶつぶつと言い出したり、お酒に強い部長と美月さんが飲み比べをしているところに、向井さんが酔った振りをして突撃した結果、見事に叩き伏せられて縛られた挙句、床に転がされたり(これはいつものこと)、同じく酒に強かった楓が適当に作ったつまみが美味しかったり、暴走した空がゲーム版をひっくり返した挙句、ケタケタ笑いながら眠ってしまったり(これはさすがに不気味だった)、美弥子が里井を正座させて懇々と説教したりと、もうゲームどころではなくなっていた。
そのうち、酔っ払った人間が一人、二人と眠ってしまい、気が付けば酒を飲まなかった僕と黒野さん、そして酒にやたらと強かった部長と美月さんだけが起きている状態になってしまった。
誰も見てなかった〈紅白○合戦〉はとうに終わり、今は〈行く○来る○〉でどこかのお寺の様子が中継されている。
そのテレビのそばの床で雑魚寝をしている人たちを見た部長が、やれやれといった様子で苦笑すると、どこからか毛布を引っ張り出してきて一人ひとり掛けていく。
そうして全員にかけ終わって美月さんのところへ戻った部長は、僕と黒野さんに杯を掲げる。
「君たちもどうだ?」
部長の誘いを、僕が戸惑いながら断ろうとしたときだった。
「まぁ、たまにはこういうのもいいか……」
といいつつ、黒野さんが参加した。
「意外だな。君なら未成年だから酒を飲むなと逆に怒ると思っていたが……」
部長が意外そうな顔をすると、黒野さんは苦笑した。
「別に俺だって、いつでも堅物でいるわけでもないです。今日はこういう場ですからね。たまには羽目を外すのもありだと思っただけですよ」
「そうか……」
部長から杯を受け取った黒野さんは、部長、美月さんと軽く杯を合わせてから一気にあおった。
その様子を見て、僕はどうしようか迷っていたけど、三人に手招きをされ、結局参加することにした。
初めて飲んだ酒は、ただ喉がひりつくだけで味なんて分からなかった。
そうしているうちに、テレビからもうすぐ年が明けるという声が聞こえてきた。
「あ、もうすぐですね。みんな起こしますか?」
僕の提案に頷いた三人が、床に寝転がっている全員を起こそうとする。
「おい、六花、、空、楓、里井、起きろ! もうすぐ年が明けるぞ?」
それぞれを揺り起こそうとする。
しかし。
「うぅん……」
六花がぐずるようにうなるだけ。
「「……………」」
空と楓は何も反応しないし、里井にいたっては……「うふふ。西村君……」と気持ちの悪い笑みを浮かべていたので、とりあえず適当に転がすことにした。
「いい加減、起きないと年が明けるって言ってるだろ!」
里井を転がしながら叫んでいたそのときだった。
『五、四、三、二、一……。新年明けましておめでとうございます!』
「「「「あっ……」」」」
全員で年越しを迎えようとしてたのに、結局グダグダなまま新年になってしまった。
「やれやれ……」
部長が苦笑する。
「仕方ないですね」
美月さんが困ったように笑う。
「まったく……」
黒野さんが呆れたようにため息をついた。
「ま、何はともあれ……、あけましておめでとう。今年もよろしく頼むよ」
部長がそういうと、僕達はお互いに顔を見合わせた後、くすりと笑って、声をそろえていった。
「「「新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」」」
その後、少しだけ起きていた僕たちだったけど、遅い来る睡魔に勝つことができず、結局、皆そのまま眠ってしまった。
◆◇◆
数時間後。なんとなく目が覚めた僕が室内を見回してみると、部長の姿が見当たらないことに気付いた。
不思議に思っていると、冬の冷たい夜気が部屋の中に流れ込んでくるのに気付いて、ふと窓のほうに視線を移すと、ベランダへ続く窓の一部が開け放たれている。
なんとなく予感がしてベランダに出てみると、案の定、少し白み始めた空を部長が眺めていた。
「部長……」
「やあ、起こしてしまったかな? すまない」
「いえ。大丈夫です。それより、何をしていたんですか?」
「決まっているだろう? 初日の出を見ようと思ってな」
「ああ、なるほど」
視線を空に戻した部長に倣って、僕も濃紺から白に変わりつつある空を見上げた。
そのまま二人で黙って空を見ていた、そんなときだった。
「ああ、二人ともここにいたんですか……」
後ろから里井の声が聞こえて振り返ってみると、里井をはじめ、全員が僕達を見て笑っていた。
「皆も来るといい。もうすぐ初日の出だ」
部長の誘いに応じて、皆がベランダに並んだ。
「ちょ、狭い! 里井、もう少し詰めろ」
「無理を言わないでくれ」
僕が文句を言って、里井が肩をすくめる。
「六花君。君は私が抱えてあげよう」
「ひゃわっ! 抱えなくても大丈夫です! 見えます!」
部長が六花を抱え上げ、六花がそれに抵抗する。
「それじゃあ、私は美弥子さんを抱えてあげますね」
「やっ……あっ!」
「それじゃあ僕は会長を抱えて……」
「九条さん、やるぞ」
「了解だ。黒野先輩」
「あ、ちょっ! 待って! 縛ってもいいけど、さすがにベランダから吊り下げないで!」
「やれやれ……」
美弥子を会長が抱きしめて、後ろから抱きつこうとした向井さんを、黒野さんと楓が見事な連携で縛り上げ、ベランダからつるし、空がそれを見てため息をつく。
「あ……、初日の出が……」
誰かがつぶやいて全員が慌てて空を見ると、すっかり太陽は昇ってしまい、初日の出を見逃してしまった。
今年もグダグダな一年になりそうだと予感した。
~~おまけ~~
部長「時に文隆君?」
文隆「どうかしましたか、部長?」
部長「今、現実では6月も終わろうとしている時期だろう? そんなときに大晦日とは時期はずれにも程があるんじゃないか?」
文隆「ああ、それは仕方ないですよ。だって作者が書くのが遅くて話が現実に合わないんですから」
作者「もう止めて!?」




