カオスディライト
映像は山道でイリアとラビッシュが合流したところから始まった。――以龍の姿を確認できず、山道を引き返すイリア。そして、それを追いかけるラビッシュ。二人が駆けつけたとき、以龍はすでに倒れていた。――イリアとラビッシュがドラゴンバクに向けて最後の一撃を放つ。そして、死の覚悟を決めて、以龍を抱きしめながら目をつむる。
「……お・ま・え・ら・なぁ? 先に逃げたんじゃねえのかよ?」
「兄ちゃん。約束約束」
「それに、このことに関しては渚さんも人のことは言えませんっ。――自分一人が犠牲になろうとしていたんですから」
「……」 それを言われてしまっては言い返す事はできなかった。
「……いい仲間に拾われたな、以龍」
さて、問題なのはここからである。――映像は、覚悟を決めたイリアにドラゴンバクが襲い掛かろうとしている場面だった。ゆっくりと、そして確実にイリアへと歩み寄ってくる。
――と、意識を無くしていた以龍が、突然イリアの抱擁を解き、立ち上がる。
「! な、渚さん?」
「兄ちゃんっ、無事だったの?」
「……離れていろ」 以龍の声はいつもとは違う、冷たい感じの声だった。
「なぎさ、さん?」
いや、声だけではない。その瞳も、かもし出す雰囲気も冷たくなっていた。
「――『ChaosDelight』」
ChaosDelightの掛け声と共に、以龍の身体が赤黒き光に包まれ始める。
「……なんだ、これは? 俺はこんな力、知らない」
「知らないって、でも兄ちゃんが使ったことはたしかなんだよ?」
「……あれは本当に俺なのか? 本当に、俺が戦っているのか?」
「! リネクさん、あなたならなにか知っているのではないですか? あの禍々しいディライト能力について」
「カオスディライトについてか? ……まぁしかし、以龍がカオスディライトするとはな。ドラゴンバクぐらい、普通のディライトで簡単に倒せたんじゃねぇのか?」
「普通のディライト?」 以龍はその普通のディライトというものさえ知らない。
「うん。普通、ディライト能力ってのは蒼白い光に包まれるんだ」
「でも、このときの渚さんは、あんな禍々しい光に包まれていた」
「カオスディライトはディライトの上位能力だ。――ディライトは自分ならではの特殊能力を開放する。で、カオスディライトはさらにその特殊能力を限界まで引き出す能力だ」
「ちょっと待ってよ。そんな能力があるなんて聞いたことないよ? ――ディライト能力は知ってるよ? たまにハイクラスが使っているところを見るからね。でも、それ以上の能力なんて――」
「ハイクラス程度じゃカオスディライトまでたどり着けないさ」
「!? それって、アドベントにはまだハイクラスより上のクラスがあるってこと?」
「それ以上は自分で調べてみるんだな。――映像を見てみろ? 以龍が能力を使うぞ」
以龍がドラゴンバクに左の掌をかざす。
「……制御印、五芒星――」
以龍とドラゴンバクとの間に巨大な光の五芒星が現れる。
「――『光輝破神衝』」
光の五芒星から強烈な光の衝撃波が放たれる。――光は巨大なドラゴンバクの身体を飲み込んでいく。
光が消えた後、ドラゴンバクの姿はそこになかった。
「す、すげぇ。すげぇよ兄ちゃん」
――が、その後すぐだった。以龍の左手は右肩を押さえていた。
「渚さん!?」
以龍はその場に倒れこむ。――止血したはずの右肩からは大量の血がにじみ出してきている。
「傷口が開いたんだ。姉ちゃん、もう一度――」
「……」 イリアが首を振る。
「! そうだった。もう、魔法力がないんだった」
イリアは倒れた以龍を抱きかかえる。
「――ラビくん、麓までの道はわかる?」
「! 姉ちゃん、まさか兄ちゃんをギルドまで抱えて行く気なの?」
「そうでもしないと、このままじゃあ渚さんが――」
「そんなんで間に合うかよ」
その男はどこから飛び降りてきたのだろう。突如、以龍とイリアのそばに着地してきた。
――その男は、いまここにいる『リネク・フィナル』である。
「しかし、以龍の気配を感じて飛んできたら、まさか以龍が手負いとはな。――なにがあった?」
「……私もあなたに聞きたいことがいろいろあります。ですが、今はそれどころじゃないんです」
「――だな。おい、坊主。ちょっとこい」
「坊主ってなんだよっ? おいらには――」
「急ぎなんだろ? とっととこいっ」
リネクの迫力に押され、ラビッシュは渋々リネクのもとへ。
「お前たち、拠点は?」
「今はギルテのギルドです」
「よし、じゃあそこに飛ぶ。俺から離れるなよ。――Delight」
リネクの身体が蒼白き光に包まれる。――次の瞬間には、以龍、イリア、ラビッシュ、リネクの姿がその場所から消えていた。
そして、映像はここで終わる。
「……おい。おまえ、何をしたんだ?」
「見ての通りだ。俺のディライト能力『瞬間移動』を使った」
「おいらも初めて知ったよ。あんなディライトがあったなんて」
「ディライトは人それぞれだ。お前もディライトすれば思わぬ能力を使うかもしれんぞ?」
「……あの後、渚さんをギルテギルドにある医療施設に運んで治療をしてもらいました。ここはギルドの二階にある医療所の病室なんです」
「――とりあえず、今に至る経緯は理解したな? 何か聞くことはあるか?」
「『ディライト』についてはとりあえずわかった。……もうひとつ、『エターニア』ってなんだ?」
「あれ? 俺、エターニアの事を口にした?」
「ああ。俺が開けなかったメッセージがエターニアがどうこうって」
「……そうか。――さて、どこまで話していいものか」
「? どういう意味だ?」
「察しはつくだろ? 俺からのメッセージを開けなかったんだから」
「……ノーマルのアドベントが知っていい内容ではないということですか?」
「まあ、そういうことだ。……お前は今、ノーマルになっちまってやがるしな」
「ねぇ? さっきから気になってるんだけど、その言い方だと兄ちゃんは元々ハイクラスだったのが記憶をなくしてノーマルになったって風に聞こえるんだけど?」
「誰が以龍がハイクラスだなんて言った? ――俺たちエターニアはクラスに縛られていない」
「! 待て。俺たち? どういうことだ? そのエターニアってのは何かの組織なのか?」
「それにクラスに縛られないって? ……じゃあ、兄ちゃんもリネクの兄ちゃんも元はハイクラス以上のアドベントだって言うの?」
「俺は『元』なんかじゃないんだけどな。――しっかし、ちょっと口がすべったか。まあいい。エターニアは組織ってわけじゃない。……さすがに詳細の説明はやばいんでここまでにさせてもらうが、お前はエターニアの一人だった、とは言っておく」
「……それは、今の説明で納得してくれって事か?」
「悪いな、そういうことだ。――エターニアに関してはここまでだ。もう聞く事はないな?」
「あと一つだけお願いします」
「言えないことは伏せるぜ?」
「いえ、そういう質問ではないんです。――リネクさん。あなたが渚さんの仲間の人だというのはわかりました。その上でお聞きします。このあと渚さんはどうなるのですか?」
「? 質問の意図がよくわからんな?」
「あなたは渚さんを連れ戻しに来たのかと聞いています」
「……そういうことか。――さて、どうしたものか」




