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幻想冒険談 別世界譚 アドベント編  作者: いりゅーなぎさ
別世界譚 アドベント編
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以龍の選択

「どうしたことかって、じゃあリネクの兄ちゃんはなにしに来たんだよ?」

「じゃあ逆に聞こう。――もしお前がある宝を探していて、それが入っている宝箱を見つけたとしよう。ところが、箱を空けたら中身がなかった。さあ、お前ならどうする?」

「? なんの質問だよ?」

「俺なぁ、今そんな状況なんだわ。――以龍を探して、ようやく見つけたと思ったら、以龍は記憶と能力を失ってやがった。なあ、どうすりゃいい?」

「! ……とりあえず、ゴメン」 今のたとえでリネクの心情を理解できたかどうかはわからない。だが、雰囲気がラビッシュに謝罪の言葉を言わせていた。

「……仕方ない。あまり使いたくはなかったんだがな」 左手の刻印を擦り、刻印を光らせる。

 宙に浮く文字に触れ、刻印に登録してあるなにかの機能を起動させたようだ。

 この世界ではまず聞く事の無い、電話の呼び出し音のような音がなり始める。

「――はいはい。どうしました、リネクさん」 刻印から男の声。

 声の後、刻印が映し出していた文字が消え、代わりに男の顔の映像が映し出された。

 以龍やリネクと同じくらいの歳の男。この男が声の主だろうか?

「通信会話機能? なんでそんなレアな機能を?」

「おや? お一人ではないのですか?」 映像が周囲を見渡す。

「やや。渚さんじゃありませんか? どうやら渚さんを見つけたようですね?」

「!? ――あんたも俺を知っているのか?」

「っていうか、それ、こっちが見えるの?」

「はいはい、よーく見えていますよ? といっても、リネクさんの刻印が映す範囲内にかぎりますが。――しかし、渚さん? 妙なことを言いましたね? どういう意味です?」

「……記憶がないんだとよ」

「記憶が、ない?」

「どうすりゃいいかわからんから、お前に聞いてるんだ。どうすりゃいい、シフラス?」 どうやら映像の男は『シフラス』と言うらしい。

「で、渚さんは何と?」

「何ともなにも、勝手に話が進んでいる」

「おやおや。リネクさん、まずは渚さんがどうしたいかが先でしょう?」

「記憶がないやつに聞いてどうする?」

「渚さんが今、『螺旋』の渦中におられているとしてもですか?」

「……これが始まりと言いたいのか? 贖罪しょくざいの螺旋の」

「贖罪の螺旋?」

「……ところかまわずはあなたの悪いとこです。リネクさん、贖罪の螺旋については誰彼話せる内容ではありませんよ?」

「話を振ったのはお前だろ? ――ああ、もう。お前はこれからどうするかだけ答えろ」

「ですから、それは渚さんの決める事です。渚さん、あなたはどうしたいのですか?」

「どうしたいもなにも――、それよりあんた、あんたは俺の記憶が消えた原因を知っているようだな?」

「……その質問だけに答えるのであれば、『知っている』とお答えしましょう。ですが、お教えすることはできませんよ? ――他の方もいらっしゃることですしね」

「私たち、席をはずしましょうか?」

「いえ、それには及びません。どうせ言ってはいけないことになっていますしね。――それに、今は渚さんの答えを聞くのが先でしょう?」

「だから、答えもなにも――」

「少なくとも今、二つ選択肢がありますよ?」

「二つの選択肢?」

「はい。――私たちの元に来るか、今のお仲間と行動するかです」

「!」 後者の選択肢を聞いて、イリアの表情が変わる

「そちらの彼女は後者がお望みのようですね」 表情の変化はわずかだったのだが、このシフラスという男はそれを見逃さなかった。

「待て。以龍をこのままにしようっていうのか?」

「リネクさん、選ぶのは渚さんです。――しかし、こんな重要なことに即答を求めるのは酷というものでしょう。今日一日、そちらの方々と話し合って、ゆっくり考えてみてはどうです?」

「渚、さん?」

「……」 以龍は発する言葉が見つからない様だ。

「リネクさん、あなたの口出しは禁止ですからね? それこそ、またあの悲劇を繰り返すことになりますよ?」

「……わかってる。――以龍。一応肩の治療は終わっているが、今日一日はここで休んでいけるはずだ。今日はここに泊まってゆっくり考えろ」

「では、退室しましょうか。――リネクさん、まだ通信は切らないでくださいね。あなたにはまだ話がありますんで」

 リネクが部屋を出る。――この部屋は、以龍、イリア、ラビッシュの三人だけとなった。

「……兄ちゃん。ここでお別れなんて言わないよね?」

「……私は、リネクさんと行くべきだと思います」

「姉ちゃん、何言ってんだよ? 姉ちゃんだって本当は――」

「わかってますっ。でも、渚さんの記憶が戻るかもしれないんですよ?」

「姉ちゃん……」

「……答えはもう決めてある。俺は――」


 セピア色の光景が広がっていく。……以前にもこんな光景を見たような気がする。世界は次第に色付き始め、その光景が動き出した。

 そこは以龍が空を見上げていたギルテ山の頂上付近の場所だった。――そこでも以龍は空を見上げていた。

 一人の男が以龍に近づいてくる。その男は、リネク・フィナルだった。

「目が覚めたか、以龍?」

「あんたは?」

「俺か? 俺はリネク・フィナル。お前を迎えに来た」

「俺を、迎えに来た?」

「そうだ。お前は血の色の堕天使の螺旋を巡るために異世界からこの世界に呼ばれた時人だ。俺は同じ時人としてお前を迎えに来ている」

「待て待て。血の色の堕天使? 異世界から来た時人? なんの事を言っている?」

「やれやれ。一から説明しなくちゃならんのか? ――面倒だ、自分で勝手に想像してくれ」

「おいっ!?」

「それよりこれから俺に付き合ってもらうぞ? ――このあと、会う約束をしている奴がいるんだ」

「この状況で、人と会う約束なんかしてんじゃねぇ!」

「無理言うなよ。――じゃあ、行くぞ。俺の近くに来い」

「なんなんだよ、お前は?」

「来ないと置いていくぞ?」

 以龍が渋々リネクのそばに寄る。――一瞬で周りの景色が変わる。いきなり山から街の中に景色が変わっていたのだ。

「な、なにが起きたんだ?」

「ああ。俺の時人能力を使わせてもらった」

「時人能力?」

「ま、早い話が特殊能力だ。俺は瞬間移動の特殊能力を持っている」

「特殊能力ねぇ。……俺にも瞬間移動が出来るのか?」

「お前の能力は別モンだよ。――さあ、いくぞ」

「お、おい。行くってどこにだよ?」

「俺の友人はこの先の城の主だ。お前も会っておいて損はないぜ?」


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