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幻想冒険談 別世界譚 アドベント編  作者: いりゅーなぎさ
別世界譚 アドベント編
7/12

ギルテ山の異変

 フォルクスは以龍を振り落とそうと暴れながら上昇していく。対して以龍は振り落とされまいと、剣を両手でしっかりを握っていた。

 剣から左手をはなし、ホルダーに手を入れる。残っている魔法は炎と雷が一枚ずつだった。

(……合わせて撃ったところでダメージは期待出来ないか。何か、爆発的に――!)

 思考中に目に入ったのは逃走用にもらった霧の魔法のカードだった。

(水、雷、炎……) 以龍の脳裏に浮かんだのは、霧をそのまま爆発させるイメージ。……以龍の脳裏にはその方法まで思い浮かんでいた。

(……俺も、ただでは済まないな。――まあいい。後は運任せだ) 霧の具現化魔法カードを取り出し、イメージを固める。フォルクスを取り囲む霧のイメージを。

 以龍を中心に発生した霧が爆発的に広がり、一瞬で以龍とフォルクスを包み込む。

「霧の魔法? 兄ちゃん、何をする気?」

 手にした二枚目のカードは雷。イメージは、漏電。

 霧全体に電気が流れる。フォルクスは電撃を受け、より暴れ狂う。が、その電撃は以龍にも流れてくる。以龍は電撃に耐えながら右手で剣をしっかりと握る。そして、最後のカードを発動させた。

 ――大爆発。霧は以龍とフォルクスを飲み込んで炎上した。爆風で以龍のホルダーが空を舞うのが見えた。……炎が煙に姿を変えた時、その中からフォルクスが墜落していくのを確認した。――以龍とフォルクスはなすがままに地面に激突していく。

「渚さんっ」 イリアがフォルクスに駆け寄っていく。

 以龍はまだフォルクスに刺さった剣を握り締めていた。――いや、どうやら握りこんだまま硬直しているようだ。

「……勝ったぜ」 そうは言うものの、以龍の身体はところどころ黒くこげていた。

「まったくあなたという人は……。昨日あれほど言ったのに」

 イリアが癒しの魔法を発動させる。まずは剣を握っている右手。硬直していた拳が回復し、剣から右手が解放される。それと同時に、以龍がフォルクスの上から地面へと仰向けに倒れこんだ。

「……やっぱり、爆発のダメージが響いているみたい」

 と、イリアの隣でラビッシュが癒しの魔法を発動させる。

「あんまり得意じゃないから回復力は弱いけど、ないよりはマシでしょ?」

「ううん、助かるよラビくん。――とりあえず、手足をお願い。私は一番ひどい腹部に集中するから」

 数分間、回復魔法を受けて少し傷が回復した以龍は、回復魔法を制止させるため、二人に対して掌をむけた。

「……もういい。とりあえず動ける」 そういいながら重々しく身体を起こした。

「渚さん、まだ動いちゃだめです」

「大丈夫だ。――それより、剣を取ってもらえるか?」

「あ、おいらが取るよ」 フォルクスの亡骸に乗っかり、フォルクスに刺さったバスタードを引き抜いた。

「――でも、兄ちゃん? あんな無茶しなくても……」 剣を以龍に手渡す。

「……やっぱ無茶だったか?」 

「あたりまえですっ! ……だからあなたは目が離せないんですよ。渚さんのことです、きっと自分がどうなるかわかっててあんな無茶をしたんでしょ?」

「……面目ない」 こうなると以龍は平謝りしかなかった。

「ま、まぁ兄ちゃんを攻めるのはそのくらいにしてあげようよ。結果的には目的を果たしたわけなんだしさ。――さ、終了作業といきますか」 刻印を擦り、完了報告の準備に入る。

 ――その時だった。木々がざわめくとともに、巨大な羽音が聞こえてきた。

「な、なんだぁ?」

「っ――またこの感じ。胸を押さえつける、この嫌な感じ」 いままででもっとも強い嫌悪感。

 木々の間から巨大なドラゴンが姿を現す。それは『フォルセティ』と呼ばれているこの山に住む翼竜の一種だった。

「フォ、フォルセティ? ――まずい、ノーマルのおいら達じゃドラゴン種に勝ち目なんてないよ?」

 勢いよく舞い上がったフォルセティは口に火球を溜めだした。

「? ――どういうことだ? あのドラゴン、俺たちに気付いていない」

「なにいってんの? ほら、攻撃を仕掛けて――」

 火球は以龍たちのいる場所とは全く違う方向へと放たれた。――火球は木々をなぎ倒し、遠くで激しく炎上した。

「……何かと、争っている?」

「……渚さん、早くこの場を離れましょう。ものすごく嫌な予感がするんです」

「……ああ、そうしたほうがいいな。ラビ、ここを離れるぞ」

「ちょ、離れるって――」

 その判断は少し遅かったのかもしれない。――炎上した木々の中からフォルセティの倍もの大きさがある黒い何かが上空に飛び立った。いや、飛んだのではない。あれは、跳躍だ。

 その黒い何かはそのまま上空にいるフォルセティに食らいつき、フォルセティをくわえたまま四本足で地面に着地する。

 以龍たちのいる場所からでは何が起きているのかは確認できない。確認できるのは、フォルセティの断末魔らしき悲鳴と、なにかをむさぼるような物音だけだった。――が、想像の材料としてはそれだけで充分だった。

「……」 想像だけで言葉を失う。こういう経験はそうあるものではないだろう。

「……に、逃げましょう。いまならまだ気付かれていません」

「……で、出来るかぎり気配を消して逃げよう。あんな化け物、勝ち目どころか気付かれたら逃げることだって困難だよ」

 フォルセティの断末魔が消えた。その直後に地響き。そしてそれは徐々にこちらに近づいてくる。

「こっちに、来る?」

「走るぞっ」

 もう気配どうこう言ってる場合ではなかった。三人は全速力で山を駆け下りていく。

 地響きが止まる。そして、また何かをむさぼる物音が聞こえてくる。――それは、フォルクスの死骸をむさぼる物音なのだが、以龍たちの耳にその音は入ってこない。当然だ、三人は逃げることに必死なのだから。

 この時、全力で逃げるのではなく、気配を消しながら慎重に逃げていれば無事に山を下りれていたのかもしれない。黒い何かが近づいてきたのは、フォルクスの死骸のにおいによせられただけだったのだから。

 フォルクスの死骸を食べ終わると、黒い何かは以龍たちの気配を感じ取った。――そして、その場から再度跳躍する。

 着地と同時に木々をなぎ倒し、四つん這いの黒い何かが以龍たちの目の前に立ちはだかる。――もう、逃げることすらかなわない。

 五メートル近い大きさの生物が突然目の前に現れた。三人の身体が震えて動かない。武者震い? そんなわけがない。これは純粋な……恐怖だ。

 黒い何かは動きを止めて以龍たちを観察する。――以龍が二人に対し話しかける。

「奴から目をそらすな。――目をそらせば、……食われるぞ」

 嫌な汗の流れる緊張の時間が流れていく。黒い何かはその場を動かず、ただ三人を見続ける。そして以龍たちは隙を見せないよう、奴の目を追っていく。

「……兄ちゃん。このままじゃ食われるのを待つだけだよ」

「……ラビ。炎の具現化魔法を一枚俺によこせ。威力は弱くてもかまわん」

「どうするの?」 背中越しに具現化魔法カードを手渡す。

「イリア。俺が合図をしたら全力で雷の魔法を放て」

「渚さん、まさか戦うつもりなんですか?」

「だったら、おいらも全力で――」

「いや、ラビは霧の魔法を頼む。イリアと同時に放ってくれ。――いいか、魔法を放った後は全力でこの場を離れるぞ? ……それぞれに散って逃げるんだ」

「バラバラに逃げるの? もし誰か一人が狙われたらどうすんのさ?」

「……それは大丈夫だ、俺に考えがある。――いくぞ? イリア、放てっ」

 イリアとラビッシュが一斉に魔法を放つ。――霧と雷が黒き生物に向けて放たれた。

「これで仕上げだっ」 ラビッシュから受け取った具現化魔法カードを霧の中に投げつける。――フォルクス戦で使った爆発コンボだ。

 霧が炎上する。

「イリア、ラビ。いまのうちに山を下りるぞ。多分、奴は山を出てまでは追ってこない」

「わかったよ」

「ギルテのギルドで落ち合おう。――散れっ」

 三人は獣道をそれぞれの方向に走り出した。

(なぁラビ、知ってるか? この状況で散り散りとなった仲間が確実に逃げ出せる方法を)

 走り出した以龍がゆっくりと足を止めた。

(――それはな、誰か一人が犠牲になればいいんだよ) バスタードソードを握り締め、以龍は振り返る。――黒き生物と目が合った。


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