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幻想冒険談 別世界譚 アドベント編  作者: いりゅーなぎさ
別世界譚 アドベント編
6/10

フォルクス討伐戦

 ――翌朝。

 以龍はベッドの上でバスタードソードの手入れをしている。一方イリアは必要なアイテムを背負い袋の中に入れていた。

「兄ちゃんたち、起きてる? 入るよ?」

 声と同時に扉が開く。そして、ラビッシュが入ってきた。

「お、もう準備は出来てるみたいだね。――兄ちゃん、これつけてみて」 そういって紙袋を以龍に投げ渡した。

「? なんだ、これは?」

「おいらからのプレゼント。開けてみて」

 紙袋から出てきたのは、なにかを入れるホルダーのついた黒い革のベルトだった。

「ベルト? これをなんで俺に?」

「その反応、やっぱりホルダーは持ってなかったんだね?」

「ホルダーって……、これはいったいなんなんだ?」

「それは具現化魔法を携帯するためのホルダーですよ。具現化魔法は使い捨てですからね。その都度生成できれば問題ないのですが、戦闘中にそういうわけにはいかないでしょう?」

「魔法使いをパートナーにするアドベントなら、かかせないものだよ?」

 以龍はホルダーのベルトを腰に巻く。

「なんか恥ずかしいな。似合ってるか?」

「ええ。とても似合っていますよ」

「そこのポケットに具現化魔法のカードを入れるんだよ。――あと、ベルトにいくつかカードを差し込む穴があるでしょ? それはすぐに使う魔法を挟んでおくと便利だよ」

 以龍はベルトのカードホルダーやカードスロット部分をいじってみる。

「たしかに便利かもな。ためしになにか魔法をもらえるか?」

「ちょっと待ってくださいね。今――」

「ストップ。今魔法を出したらどんどん威力が弱くなっちゃうよ? 魔法はフォルクスに近づいてからね」

「そういうものなのか?」

「はい。具現化魔法は便利ですけど、カード状態でも徐々に魔力を消費していきますから」

「じゃあ、そろそろ出発しようか」


 ――二度目のギルテ山。以龍たちはテットを蹴散らしながら山道を進んでいく。

「……なぁ? さっきから適当に進んでいるように見えるが、道は合ってるのか?」

「道? 道なんてわかるわけないじゃん?」

「……おい?」

「――今度はこっちだよ」

 先頭を歩くラビッシュは、紋章を見ながら獣道に入っていく。

「待て待て。こんなんじゃ道に迷うだけだぞ!?」

「大丈夫ですよ。ラビくんはシグナルを見ながら進んでいますから」

「そういうこと。けど、おいらのシグナルじゃ対象の位置しか確認できないんだよ。地図データは追加するのに金がかかっちゃうし、まめに更新しないとすぐに役にたたなくなるからね、面倒なんだよ」

「地図データ?」

「今は細かい説明はなしにして。――そろそろボス戦の準備をするよ。奴が、近い」

「魔法の具現化ですね。相手は空を飛んでいますから、渚さんが遠距離攻撃できるよう攻撃魔法がけっこう必要になりますね?」

「魔法力の配分には気をつけて。形成した魔法より、属性魔法そのままを具現化したほうが生成にかかる魔法力が節約できるし、威力も上がるよ?」

「そうですね」 雷の具現化魔法を十枚生成し、以龍に手渡す。

「――渚さん、今回は私の雷がそのまま入っていますんで使うときに注意してください」

「注意?」

「具現化魔法を使うとき、なにかをイメージしながら使うんだよ。たとえば、飛来する矢をイメージして使用すれば、具現化した魔法が矢のように飛んでいくから」

「前みたいに発動するイメージだけで使うと、魔法がその場で発動して自滅しちゃいますよ?」

「難しいな……」

「兄ちゃんなら大丈夫だよ。――おいらの方は炎だよ、色が違うからわかるよね?」

 ラビッシュから具現化魔法を受け取った。たしかに、よく見てみるとカードの外枠の色がイリアのカードは黄色、ラビッシュのは赤となっていた。

「あと、これも渡しておくよ」 そういって差し出したのは、水色の具現化魔法カードだった。

「これは?」

「霧の魔法だよ。……これはもしもの時に使ってね。たとえば、撤退が必要になった時の目くらましとかね。――こっちはそのまま使っても問題ないよ? けど、イメージして使ったほうが効率はいいけどね」

「わかった」 以龍は革ベルトのホルダーに雷と炎のカードを入れた。

「――っと、これはこっちの方がいいか」 霧の魔法はいざという時のために、カードスロットの方ににセットする。

 ラビッシュが紋章から球体を映し出す。そこには赤と白の点が光っている。どうやら近距離用のシグナル探知機みたいなもののようだ。

「……不思議だね、兄ちゃん。昨日までは勝てる気のしなかった相手なのに、今日はなんか負ける気がしないや」

「そういうことは終わってから言え。……だが、お前の言うこともわかる。たしかに不思議だ。戦ったことのない敵なのだが、本当に負ける気がしない」

「……本当に変な感覚。わかってる、負ける気がしないのは。でも、負ける気はしないのに、嫌な予感がおさまらない。――ううん違う、それどころかどんどん強くなってきている」

「……来るよ」 球体の二つの点が徐々に重なり始める。

 巨大な影が三人の頭上を横切った。

 以龍はバスタードを抜き、イリアは十字の杖を身構える。そしてラビッシュはアームガンを生成する。

「狙いは翼の先端だ。気づいたら翼が動かないような状況にするんだ」

「あいよ、兄ちゃんっ」 銃口をフォルクスに向ける。

 殺気を感じたのか、フォルクスは旋回しこちらに向かってきた。

「兄ちゃん、姉ちゃん。左翼に攻撃を集中するよ」 炎の具現化魔法カードを生成し、アームガンにセットする。――炎を収束し、圧縮された火球が発射される。

 それにあわせてイリアが杖から雷を放つ。――爆撃と雷撃がフォルクスの左翼に直撃する。

 フォルクスは雄たけびを上げ、わずかに体勢を崩した。以龍はその隙を見逃さない。スロットから三枚、炎の魔法を抜き取り、矢をぶつけるイメージを固める。炎の矢はフォルクスに命中するが――

 フォルクスはダメージを受けながらも、攻撃の対象を選んでいた。――そして、狙いは被弾ダメージが一番軽かった以龍のようだ。

 フォルクスが鋭い爪を以龍に向けて急降下してくる。

「爪か。それは願ったりだ」 フォルクスの降下に合わせて、以龍は剣を振り上げる。

 それは斬るという感覚とは程遠いものだった。鋭い爪とバスタードがぶつかり合い、金属音を響かせる。互角、とは言いがたいだろう。フォルクスの巨体は以龍の剣を徐々に押さえ込んでいく。

「――ちぃ、なんて力だ」

「! 兄ちゃん、右――」

 ラビッシュの言葉は間に合わなかった。フォルクスはその場で強引に旋回行動をとる。巨大な右翼で以龍ははたかれ、茂みの方へと弾き飛ばされる。

「兄ちゃんっ」

 以龍を弾き飛ばしたフォルクスは再度上昇する。そしてくちばしから無数の針を吐き出してきた。

 無数の針がラビッシュに降りそそぐ。――その針を弾き返したのはイリアだった。背丈ほどあるイリアの杖は降りそそぐ全ての針をなぎ払う。

 フォルクスの後方、以龍が飛ばされた茂みの中から炎の矢と雷の矢がそれぞれ五発、計十発がフォルクスの左翼目掛けて放たれた。

「まだだぁ」 茂みから飛びだした以龍は攻撃の手を緩めない。雷のカードを手に雷のイメージを固める。

 以龍が放ったのは赤い雷だった。以龍の手から炎の具現化魔法カードが一枚消えていくのを確認した。

 赤い雷がフォルクスに命中すると、炎がフォルクスの身体を巡って消えていった。それはまるで電気が体内を通過していく様だった。

「なんだ、今の? おいら、あんな魔法知らないよ」

「……今のは、雷? ううん、あれは雷状の炎なの?」

 一番驚いてるのは、放った本人である。

(今のは、カードを間違えて使ったのか? ……だが、これは使える。イメージ次第でここまで変化するなら――)

 以龍は雷の具現化魔法カードを身構える。そして、頭に縄のイメージを固めてそれを放った。

 縄状の雷がフォルクスの左翼を襲う。――しかしそれは縄が左翼にぶつかっただけにすぎなかった。雷の縄は落下しながら消えていった。

(長さが足りないか。――あと重心も必要だな)

 フォルクスが以龍に気づき、旋回。再度以龍に向かってくる。

「気をつけて、兄ちゃん。そいつ針を吐くよ」

「……ラビくん、強力な魔法を準備して」 そう言いながら、イリアが杖先に魔法力を集めだした。

「どういうこと? いまデカイのを打ったら、また逃げられるだけだよ?」

「大丈夫。多分、渚さんがどうにかしてくれます」

 突撃しながらフォルクスは以龍に向けて針を吐いた。――が、ラビッシュの助言を聞いて、以龍はすでに回避行動に移っていた。

(位置と距離。この隙は逃さない)

 突撃により、今フォルクスは以龍と絶妙の間合いになっていた。

「――これでどうだっ」 以龍の手には三枚の雷魔法カード。イメージしたのは分銅付きの投げ縄だ。

 雷の分銅縄がフォルクスの左翼に巻きついていく。そして放電。フォルクスの左翼に電気が流れて縄が消える。

 フォルクスは悲鳴を上げ、上昇していく。――が、翼の羽ばたきがおかしい。左翼を下にして右翼だけで羽ばたいている。細かく旋回しながら、竜巻状に上昇していく。

「! ――イリア、ラビ。攻撃制限解除だ、一気に仕留めるぞっ」

 以龍の言葉を聞く前に、イリアの杖先にはすでに巨大な雷の塊が生成されていた。

「……言ったとおりでしょ? 渚さんならなんとかしてくれるって。――ラビくん、一気に決めるよっ」

「……本当に姉ちゃんと兄ちゃんって昨日今日の仲間なの?」 そう言いながらも、ラビッシュの手には強力な爆発魔法の具現化カードがあった。

 二つの巨大魔法がフォルクスの顔面に向けて放たれた。――爆雷爆炎とともにフォルクスが墜落していく。

「か、勝った……」

 フォルクスの墜落を見ている限りはそう思っていた。――が、地面に激突する寸前、最後の力を振り絞ってか、満足に動かせない翼をむりやり羽ばたかせ上昇を開始し始めた。

「なっ!?」

「ラビくん、追撃を――! 待って」 追撃のため杖を身構えたが、イリアの手が止まった。

 飛び上がろうとしているフォルクスの上方から以龍が跳躍、フォルクスの身体に飛び乗ると、剣をフォルクスの首筋に突き立てた。

 絶叫を轟かせ、フォルクスは暴れながら徐々に上昇していく。――以龍を乗せながら。

(――まだ動けるのかっ? ちっ、もう一撃でかいのを食らわせないと)


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