エターニアの記憶
――食事を終え、以龍たちはラビッシュをつれて部屋へと戻ってきた。
「じゃあ、再生するよ?」
紋章を擦り、紋章を光らせる。――その光を部屋の壁に当てると、壁に映像が映し出された。
映像のラビッシュは左手の紋章から何かを映し出していた。それは球体の中に、二つの光の点が点滅している映像だった。中央には赤い点、そしてその右上方に白い点が点滅している。
「……上か。近いな」
球体の映像を消すと同時に、ラビッシュの頭上を黒い影が横切っていく。
右腕にアームガンのフォースウェポンを生成し、銃口を影の主に向けた。
影の主は「フォルクス」だった。ただ、以龍が会ったフォルクスとはある一点が違っていた。――圧倒的な大きさである。翼を広げたその大きさはゆうに三メートルは越えているだろう。
「……なんだ、アレは?」
「だから、あれがおいらの追ってるフォルクスだよ」
「昼間のグリズリーよりデカイじゃねぇかぁっ!」
「まるでドラゴンみたい……、あんなフォルクスがここの山にいるの?」
「なんであんなフォルクスが存在するのかはおいらにもわからないよ。――ただ、大きさだけでなく強さも桁違いなんだ」
ラビッシュが炎の魔法を具現化し、生成されたカードをアームガンのカードスロットに挿入する。――銃口から炎の弾が連続で放たれる。
炎の弾は巨大フォルクスの腹部に命中する。――が、フォルクスは何事もないように飛行を続ける。
ラビッシュのアームガンから炎の弾の射出が止まる。カードスロットから炎の具現化カードが排出され、灰となって風に消える。
炎の弾が止まると同時に、フォルクスは旋回をしラビッシュに向かってきた。
「――くっ」
ラビッシュは新たな魔法を具現化する。出来たカードをすばやくセットし、回避行動と同時にフォルクスに銃口を向ける。――が、攻撃を外したフォルクスはそのまま上空へ。ラビッシュは攻撃の機を逃したと判断し、セットした魔法をアームガンのカードスロットから排出させた。魔法の具現化カードを懐に入れると、別の魔法を具現化しアームガンにセットする。
上空から再度フォルクスが旋回する。ラビッシュは冷静に銃口を構えフォルクスを待ち構えていた。
向かってくるフォルクスの顔面に狙いを定める。――どうやら新たにセットした魔法は一撃必殺の魔法らしい。
「くたばりやがれっ」 ――銃口から巨大な火球が放たれる。
ラビッシュは反動でその場に仰向けに倒れこむこととなったが、火球が命中したフォルクスは爆炎に包まれた。
ラビッシュは爆炎を見上げ勝利を確信していた。アームガンを消し、バウンティの終了処理に入るため紋章を擦る。
次の瞬間、フォルクスが爆炎を突破し姿を現した。フォルクスはラビッシュに向かってくる。
倒れているラビッシュに攻撃が届かなかったのか、フォルクスはラビッシュの上を通り過ぎていく。
「! ――まずいっ、シグナルを」 ラビッシュは紋章をフォルクスに向けた。
紋章から小さな光の球が放たれる。それはフォルクスに付着すると、規則正しく点滅を繰り返す。
フォルクスはそのまま飛び去っていった。
ラビッシュの映像はここで終わる。
「――見ての通り、奴はダメージが蓄積するとすぐに逃げ出しちゃうんだ。だから、おいらの攻撃だけじゃ歯が立たないんだ」
「どう思います、渚さん?」
「……なぁ? なんで最後の攻撃は頭部を攻撃したんだ?」
「なんでって、頭部はすぺての生物に共通する弱点じゃないか。一撃で仕留めるならそれしか――」
「それが間違っている」
「? どういうことです」
「俺がお前と同じ能力で戦うなら、まず翼を狙う」
「翼って……、集中攻撃でも歯が立たないってのに、攻撃を拡散してたら――」
「なんで拡散する必要がある? ――狙うのは片方の翼だけ。そこに集中してな」
「そんなことしてなんの意味があるのさ?」
「……正直、あのサイズの相手に俺の考えが通用するかはわからんが――」
そういうと以龍は立ち上がり、部屋に備え付けてあるメモ用紙を一枚破り持ってきた。
「メモ用紙? ……書いて説明するのでしたら、もっと大きな紙がありますよ?」
「そんなまどろっこしい事はしねぇよ」
以龍はメモ用紙は二つに折り、それをまた広げる。そして、真ん中についた折り目を指で挟むようにメモ用紙を持った。
メモ用紙を上下に振ると、まるで鳥が翼をはばたくかのようにメモ用紙が動く。
「これを鳥と思って見ててくれ。……今は普通にはばたいているよな? けど――」
メモ用紙の左側の一部を破り捨てる。そして、もう一度上下に振ると、今度はメモ用紙がうまくはばたかなかった。
「つまりこういうことだ」
「片方でも欠けさせれば、はばたけなくなる、ってこと?」
「じゃあ、兄ちゃんは勝てると思うの?」
「実際に遭遇したわけじゃないからわからんが、少なくとも俺は勝てると思っている」
「それを聞いて安心したよ。やっぱ兄ちゃんはすごいや。――じゃあ、明日の用意もあるしおいらは部屋に戻るね。――明日の朝に呼びに来るから、それまでに準備は済ませておいてね」
ラビッシュが部屋を後にした。
「……でも、大丈夫ですか? 私、なにか嫌な予感がするんです」
「まぁ、仮にも賞金首になるくらいだ。一筋縄でいく相手ではないだろうな。……だが、今度は三人だ。もしかすると、グリズリーより楽かもしれん」
「そうだといいんですが……」
ラビッシュは部屋に戻らず、街の武器屋にやってきていた。
「――おう、坊主じゃねぇか。珍しいな、今日はなんだ?」
「おっちゃん、『ホルダー』見せてくれる?」
「ホルダー? 魔法を使うお前さんには必要のないものだろ?」
「へへっ、おいらが使うんじゃないんだよ」
「上機嫌だな。……ついにお仲間さんが見つかったのか?」
「まあね。――とびっきりかっこいいのを頼むよ? 兄ちゃんに似合いそうな奴を」
――セピア色の光景が広がっている。これが現実の光景ではなく、夢を見ているということにはすぐに気づいた。夢の世界と気づくと同時に、色のない世界が色づいていく。
真っ暗な空間の中、そこにいた二人の男の姿だけははっきりと見えていた。
男たちの視線の先には光の柱が存在している。――その光の中には以龍の姿があった。
「本当に以龍の封印を解くのか、シフラス?」
「リネクさん、あなたにもわかっているでしょう? いまの私達には渚さんの力が必要なのですよ?」
「以龍は前の螺旋で世界を滅ぼしたんだぞ? ――この螺旋の脅威は血の色の堕天使ではない。以龍 渚こそが本当の脅威だってことがわかっているのか?」
「充分に承知していますよ。ですが、渚さんの存在はわれわれ時人にとっても欠かせない存在だっていうのもお分かりでしょう?」
「……完全に覚醒した以龍は俺でも手に負えない。また以龍が堕天使に惹かれたらどうするつもりだ? 次はこうやって以龍を封印できる保障すらないんだぞ?」
「――渚さんから時人に関わる全ての記憶を消去します」
「そんなことをしたら、以龍は俺たちの力にならんぞ?」
「だから、代わりの記憶を入れておきます。――我々は時人とは別の存在として世界を崩壊から守るために活動しているという記憶を」
「……だが、時が進めば以龍は堕天使と出会う。出会ってまた堕天使に惹かれたらどうするつもりだ? そんなことになれば、結局は前の螺旋と似たような結末を迎えるだけだ」
「渚さんが血の色の堕天使と接触した地点で、今度は全ての記憶を消去します。――その地点が、新しい螺旋の始まりと認識してください。渚さんの、贖罪の螺旋です」
「――つまりは、以龍の協力が得れるのは制限時間付きってわけか」
「さて。じゃあ、新しい私達の呼び名が欲しいですね。――『エターニア』ってのはどうですか? 異国の言葉で『悠久』って意味になります」
「なるほど。永遠の時間を生きる俺たち時人にふさわしい呼び名だな」
「『元』時人です。私達はこれからエターニアとして長い時間を生きていきますよ? これから始まる新しい螺旋の世界も、そのように修正しますから。――時間も、出来る限り戻しましょう」
「出来る限りか……。戻る時間は、暗黒竜の螺旋が終わった直後か?」
「本来は渚さんのおられる時間ではないのですが、記憶をいじる以上、このくらいの変更はよろしいですよね?」
「……俺にどうこう言う権利はねぇよ」
「では、渚さんの封印を解くといたしましょう」




