バウンティ
三人は階段を上がり、鍵にかかれた番号と同じ部屋の扉を開ける。
そこは八畳くらいの小さな部屋だった。部屋の奥、左右それぞれの壁に密着するようにベッド二台、離して置いてある。入り口付近には小さな化粧台があり、その奥に洗面所や浴室に続いている扉があった。
イリアが左奥のベッドに自分の荷物と杖を置き、腰掛ける。以龍は右のベッドの脇に剣を立てかけて、そのベッドに腰掛けた。そして、ラビッシュは勝手知るかのように、化粧台の小さな椅子を引き出して二人の中間の位置に置き、そこに腰掛けた。
「じゃあ、頼みってのを聞かせてもらおうか」
「面倒な駆け引きとかは嫌いだから単刀直入に言うよ? ――おいらが追ってる『バウンティ』を手伝ってほしい」
「バウンティ?」
「? グリズリーを倒したのにそんなことも知らないの?」
「……渚さんは訳ありなんです」
「……ま、詮索はしないよ。――バウンティってのは、早い話が賞金首のことだよ。依頼をもらわなくても、賞金首を倒せばそれだけで報酬がもらえる」
「その分、対象はものすごく強いテットが多いし、さらにまずその対象を探すことから始めなくちゃいけないから、ものすごく日数がかかる事が多いの」
「それは大丈夫。もうすでに見つけてあるし、シグナルも打ち込んである。……問題は、おいらの攻撃じゃ致命傷をあたえられないってことなんだ」
そういってラビッシュは右腕を以龍の前に差し出した。
差し出したラビッシュの右腕が光の粒子に包まれる。そして右腕には先ほどの変わった銃が装着される。
「アームガンのフォースウェポン!?」
「? フォースウェポンがそんなに珍しい? ――そういえば、兄ちゃんも姉ちゃんもリアルウェポン持ってるね?」
「……なんか、お前と話していると知らない言葉ばかり出てくるな?」
「フォースウェポンっていうのは、今のラビくんみたいに魔法で自分の武器を作り出す能力のことなんです」
(……もしかして、俺が丸腰でいたのはその能力を持っていたからか?)
「――まぁ、私もフォースウェポンの生成をみたのは初めてなんですけど……」
「……なぁ? そこまでの力を持っていて、なんで俺たちなんだ?」
「私も理解しかねます。強い同行者をさがしているのなら、もっと他の方だって――」
「……対等の条件で同行してくれるアドベントでないと意味がないんだ。――腕のいい人を雇っても、それはその人の手柄になってしまう。おいらみたいな子供ならなおさらだ」
「俺が手柄を横取りしないとも限らないと思うが?」
「それはないね」
「なぜ言い切れる?」
「――面白い話を聞いたよ。兄ちゃんと姉ちゃん、互いにグリズリーの報酬を譲りあったんだってね?」
「あ、あれは渚さんが――」
「おいら、その話を聞いてその人たちしかいないって思ったんだ。よこしまな考えなしに共に戦ってくれると」
「俺みたいな奴にその評価はありがたいが……。お前の話、悪いが少し考えさせてくれ」
「……明日、チェックアウトの時間に受付の所で待ってるからさ。――いい返事を期待してるよ、兄ちゃん」
ラビッシュは以龍たちの部屋を後にした。
「どうするつもりなんです? まさか、受けるつもりですか?」
「『まさか』? ――意外だな、そんな言葉が出てくるなんて。とりあえす信用は出来る奴だと思うが?」
「私もあの子は信用できる子だと思いますよ?」
「じゃあ、なんで『まさか』なんだ?」
「……あの子、テットの特徴もバウンティの内容も言わずに帰っちゃいましたよ? 私が言いたいのは、仕事の内容も知らずに引き受ける気ですかってことです」
「……追うぞ」
「はい」
二人はあわただしく部屋を出て行った。
――ラビッシュは宿の手配のしようとしていたらしく、受付で発見することが出来た。そして、食事がてら詳しい話をするために三人で宿の食堂へとやってきた。
「いやぁ、ゴメンゴメン。おいらとしたことが肝心なことを言うのを忘れていたよ。――お詫びといっちゃあなんだけどさ、ここの代金はおいらが持つからさ、好きなの頼んでいいよ」
注文を取りにきた給仕人に以龍たちはそれぞれの注文を告げる。給仕人は注文内容をメモにとると、食堂の奥に消えていった。
「ったく、お前は。人に頼みごとを持ってきておいて、用件を言い忘れるとはどういうことだよ」
「……そういう渚さんだって私に言われるまで気づかなかったくせに」
「――でも、わざわざおいらを呼びにきたって事は、いい返事をくれると解釈していいのかな?」
「そうだな、まどろっこしい駆け引きはなしにしよう。――率直な意見だ、俺たちはお前を信用してもいいと考えている」
「じゃあ――」
「その前に、話しておくことがある」
「話?」
「さっき、イリアが『俺は訳あり』って言ってたのを覚えているか?」
「! 渚さんっ」 イリアが以龍を制止しようとするが――
「いい。――俺は自分が何者なのかがわからないんだ。気づいた時は、ただ空を見ていた。それまでの経緯はわからずにな」
「それって、記憶喪失ってこと?」
「らしいな。――グリズリーを倒したのだってなりゆきだ。彼女にはずいぶんと世話になったからな。その恩返しのつもりだったんだ。……報酬は譲り合ったんじゃなく、彼女が受け取るべきものだっただけの話だ。もっとも、イリアはそれを知ってか知らないか、俺をだましてまで報酬を折半にしたんだがな」
「グリズリーの討伐に同行していただいただけで、恩返しはもう十分です」
「――そういうわけだ。で、話を聞いてどうだ? まだ俺を信用するのか?」
「……兄ちゃん、改めてお願いするよ。おいらの――いや、おいらを兄ちゃんたちの仲間にしてほしい」
「私たちの仲間って……、年はともかく、アドベントとしてのレベルはラビくんの方が上じゃない?」
「話を聞いて、やっぱり兄ちゃんたちしかいないと確信したよ。おいらのバウンティが終わったら、兄ちゃんたちに同行させてほしい」
「同行もなにも、俺は記憶がないんだぞ? これからどうするかなんて決めてないし、なによりイリアの意見も聞く必要があるだろ?」
「私はいいですよ? ……もとより渚さんの記憶が戻るまで一緒にいるつもりでしたから」
「じゃあ、おいらもそういうことでいいよね? ――よろしくね、兄ちゃん、姉ちゃん」
「記憶が戻るまでって……、戻るかのあてなんてないんだぞ?」
「そんなこといってもダメですからね。――今のあなたから目をはなすと、とんでもない無茶をしかねませんから」
「やれやれ、俺に選択権はないのかよ。――さて、今度はきちんと話してもらうぞ? お前が追っているバウンティとやらについてを」
「わかってるって。――兄ちゃんたち、『フォルクス』ってテット知ってる?」
「フォルクス?」
「ギルテ山に住む鳥のテットです。――昼間のグリズリーの時にも遭遇しましたよ? ほら、あの白い小さな――」
「――ああ、あの剣ではたいただけで倒れた鳥のようなやつか」
「ま、知ってるなら話は早いよ。そのフォルクスがおいらの追ってるバウンティなんだ」
「……はい?」
「まあ、話の流れからいくとその反応は当たり前だよね? ……ちょっと待って、今――」
ラビッシュが左手の紋章を擦ろうと紋章に指を当てるが、指を当てたところで動きを止める。
「っと、ここで映像を流すのはちょっとまずいかな? ――あとでまた兄ちゃんたちの部屋に行っていい?」
「それはかまいませんけど……」
「映像ってなんだ?」
「百聞は一見にしかずってね。ごたごた言うより一度ターゲットを見たほうが早いでしょ? だから、昼間のおいらの記録を見せようってわけ」
食堂の給仕人が三人の机に料理を運んできた。それぞれの前に注文の品を並べていく。
「ま、細かいことは後。とりあえず食べちゃおうよ」




