エターニアの真実
セピア色の光景。真っ暗な空間に二人の人影。そこにいるのは、シフラスとリネクだった。
「……やはり、いろいろと不都合が出てしまいますね。時間も、十二年が限界になってしまいました」
「どういうことだ? 時を暗黒竜の螺旋まで戻すんじゃなかったのか?」
「あなたが禁忌を犯したせいですよ」
「俺のせい?」
「新たな時人が誕生した以上、それ以前に時を戻すことが出来ないのです」
「サレント、か」
「……ま、過ぎたことを責めても仕方がありません。それに、サレントさんは渚さんの螺旋に深く関わる人物ですから」
「しかし、十二年か……」
「それでも本来渚さんのおられる時間ではありませんよ? ……問題は別にあります」
「別の問題?」
「……さかのぼる時が十二年しかないということは、いま現存されている方全ての記憶をいじる必要が出てきたということです」
「? けど、いじるのは新たな世界に作ったアドベントとディライト能力に関してだけだろ? だったら――」
「出来れば、渚さんの螺旋が始まる時に存在する人間全てが、新しい世界に順応した者のみにしたかったです」
「ま、あとは世界が出来てから調整するしかないだろ? 俺と以龍がいれば、いままでよりは簡単だろ?」
「はぁ。他人事だと思っておりますねぇ。まぁ、いいでしょう。リネクさん、これからが大変になりますよ?」
以龍の目が覚めて、最初に目に入ってきたのは岩肌の壁だった。
「ここは、どこだ?」 ベッドから岩壁が見えるというのも妙な話だ。
隣の部屋からだろうか? 声が聞こえてくる。話の内容はよく聞こえないが、話をしているのはラビッシュのようだ。
以龍はベッドから身体を起こし、寝室らしきこの部屋を出る。そして、声のする部屋の方へ。
その部屋では、椅子に座ったラビッシュが右足の感覚を確かめるかのように、何度も床を踏みつけていた。
「――調子はどうですか?」
「どうもなれないんだよねぇ。これ、義足って言うの? この人工足首さぁ、しっかりくっついてはいるんだけど、外れそうな感覚がしてならないんだよね」
「大丈夫ですよ。そんなに簡単に外れていたら、義足の意味がありませんから」
以龍がこの部屋に入ってくる。
「お目覚めになられましたか?」
「ここは、どこなんだ?」
「ここはエターニアの拠点だよ」
「とは言っても、実際はただの私の家なんですけどね」
「……サレントとリネクは?」
「お二人はこういう機会でもないと、ゆっくり話が出来ませんからね。いまは別室で積もる話でもしてらっしゃるのでしょう。水を差さないであげてください」
「そうか……。――シフラス、あれからイリアはどうなったんだ?」
「……その話は皆さんが揃ってからでお願いできますか?」
「兄ちゃん。いま、外がどうなってると思う?」
「外?」
「お見せしましょうか? いま、この世界がどうなっているかを」
シフラスが水晶のような物を取り出し、そこに映像を映し出す。
映像はアルセイドの街を映し出していた。
だが、そこに人の姿はない。いや、ないのは人の姿だけではなかった。街路樹があった場所は石の通路から土を覗かすだけになっている。
映像は、冷たい石の建物を残した無人の街を映し出していた。
「なんだ、これは?」
「消滅の光は、命あるもの全てを消し去りました。人やテットだけではなく、草や木々、そして全ての水にいたるまで」
「……なにを言っている。それが本当なら、もう世界は――」
「はい。この世界はもう終わります」
「なにを言って――、ラビ、なんでお前は何も言わないんだ?」
「ラビッシュさんもサレントさんも、状況の理解が早くて助かりました。本来、こんなことを普通の人間に話してしまえば、混乱が回避できない状況になりかねなかったのですが……」
「シフラスの兄ちゃんの話だと、もうすぐここも消えるそうだよ」
「ま、ここが消えるのは最後の最後なのでもう少し時間はありますがね」
「消えるって……、なんでそんなに冷静に言ってるんだ? 助かる方法を画策しないのか?」
「画策しなくても、助かるだけならいくつも方法はあります」
「ならなんで行動に移さない?」
「言ったはずです。世界はもう終わってしまうと。あなたは終わった世界に一人お残りになるおつもりなのですか?」
「……兄ちゃん、この世界のほとんどの人はなすすべなく消え去っていったんだ。親父もエリザも、他の街で出会ったいろいろな人たちも」
「……なんで、こんなことになったんだよ」
「なにも知らずに消えた人々はまだ幸せな方です。一番つらいのは、最後まで残ることとなったラビッシュさんとサレントさんですよ」
「おいらは大丈夫だよ。このまま最後を迎えようとも、兄ちゃんが傍にいるから」
「ラビッシュ……」
「――渚さん、あなたに一つ確認をしなくてはいけないことがあります」
「確認?」
「あなたは――いえ、今のあなたはどこまで前回の終末を知っておられるのですか?」
「前回の、終末?」
「……結構です。どうやら失われた記憶の一部を夢として見ていただけのようですね」
「待て。前回の終末ってなんだ?」
「そのことに関しても、皆さんが揃い次第お話いたしますよ」
リネクとサレントが部屋に入ってきた。
「もう、よろしいのですか?」
「ああ」
「では、皆さん。少し長いお話をいたしますので、楽な体勢になってお聞きください。……残りわずかな時間ではありますが、包み隠さずお話しましょう」
そういってシフラスは話を切り出した。
「あなた方はエターニアについて、どこまでご存知ですか?」
「……あくまで噂ですが、この世界の管理者だと耳にしています」
「今この状況になって見て、それが噂じゃないって理解してるよ」
「世界の管理者ですか……。また、随分と面白い噂が流れていますね」
「あながち、間違ってはいないな。――だが、正確にいえば、管理者と呼ばれるのはシフラス一人だ」
「じゃあ、リネクの兄ちゃんはなんなのさ?」
「それに答える前に、次の質問です。――現在、エターニアが何人おられるかご存知ですか?」
「……そういえば、他の人間を見てないな?」
「これだけの事態だよ? 拠点に残っていたメンバーなんて――」
「そういうわけではないんですよ。エターニアは今現在二人しかいないのです」
「二人って、まさか……」
「シフラス兄ちゃんと、リネク兄ちゃんだけ?」
「それは違う。エターニアは俺と以龍だけだ」
「じゃあ、シフラスは何者だ?」
「エターニアとは、かつて『螺旋の時人』と呼び、何度も世界の終末を経験し、その終末を防ぐために時の螺旋を巡る者の事です」
「時の、螺旋?」
「リネクさんはかつて、暗黒竜と呼ばれる存在と何度も対峙し、世界消滅の危機を乗り越えました」
「暗黒竜? そんな存在知らないよ?」
「当然です。すでにその時からは数百年の時が流れています」
「数百年!?」
「じゃあ、リネクの兄ちゃんっていくつなんだよ?」
「歳なんて数えちゃいないさ。俺たち時人は、俗に成人と呼ばれる二十歳以上の歳はとらないんだ」
「ですが、リネクさんは一つの禁忌を犯しました」
「禁忌? そんなのがあるのか?」
「基本的にはなにをやっても自由です。ただ、時の螺旋に干渉する行為だけは禁忌とさせていただいております」
「時の螺旋に干渉する行為? リネクの兄ちゃんはなにをしたのさ?」
「後の世に時人の血を残す行為です。リネクさんは、今から十五年ほど前に一人の女性と恋に落ちてしまいました。名を、『ティナ・フレリア』と言います」
「!」 サレントの表情が変わる。
「? なんで恋に落ちるのが禁忌なのさ?」
「恋愛を規制する気はありませんよ。問題は、その後です」
「私が、生まれたから?」
「はい。……残念ながら、私はリネクさんにペナルティを与えましました」
「……私と母に会えない、という事ですね」
「ただし、あなたから会いに来た場合や、今回のように緊急時は除外してあります」
「禁忌を犯したのは、以龍、お前もだ」
「俺も?」
「あなたの記憶がないのは、そのペナルティです。あなたは前回の螺旋でこの世界を滅ぼしました」
「! ……あの夢のことか?」
「どんな夢を見られたのかは存じません。ただ、あの時のあなたは血の色の堕天使――イリアさんより脅威の存在になりました」
「? あなた方はどうしてイリアさんをそのような名で呼ぶのですか?」
「いまさら隠しても仕方ありませんから、お話しましょう。イリアさんは、世界を滅ぼす存在です」
「そして以龍は、そのイリアを止めるために選ばれたエターニア――螺旋の時人だ」
「すでに渚さんは幾度も血の色の堕天使の螺旋を繰り返しました。ただ、前回だけは違いました」
「悲しみと怒りに我を忘れた以龍は、クリファーでイリアの放った消滅の光と同じような光を放ち、世界を消滅させた」
「私は世界を作り直す事にしました。しかし、そのためにはリネクさんと渚さんの協力が必要だったのです」
「だが、以龍の記憶を残したままでは、また以龍が世界を滅ぼす危険がある」
「だから私は世界を新しくし、渚さんの記憶を改善しました」
「さらに、イリアと会って暴走した記憶を取り戻さないよう、イリアと出会う瞬間、お前は全ての記憶をなくすように二段階で記憶をいじられていたんだ」
「それが、今の俺か……」




