スキルイーター
「なんの不思議もない。ただ、お前が自分の能力の許容範囲を理解していないだけだ」
「能力の許容?」
「覚えておくんだな、自分の能力で出来る範囲を。――悪いが、そろそろ俺の用を済まさせてもらおう。右目と左目、どちらを残したい?」
……それは片目を奪うと言っているのと同じことだった。
「……なんで、私の目を奪う必要があるの?」
「別に目の必要はないさ? 腕でも足でも、俺はかまわない。――目は、俺からのせめてもの情けだ」
サレントが網の一部に手をかける。
「やめておけ。お前が網から抜ける前に俺の爪がお前を貫く。目を差し出せばそれで終わりだと言っている」
サレントが網を真上に放り投げる。その瞬間、イーターの鉄の爪がサレントを襲う。
宙に舞ったのは、イーターの右腕だった。鉄の爪と化したイーターの右腕が切断され、打ち上げられる。
イーターとサレントの間に、ディライトした以龍が割り込んでいた。
「……パラは足止めにもならなかったか」
「――イリア、サレントを頼む」
「あ、はい」 イリアがサレントに駆け寄ってきた。
「お前の相手は俺だ」
「ま、そうなるわな。やれやれ、なんの取り得のないエレメント系ディライトには興味はないんだがなぁ」
「エレメント系ディライト?」
「おやおや。どうやらディライトに疎いようだな? ――いいだろう、少し教えてやろうか?」
そういって、イーターが勝手に話し出した。
「ディライトには大きく分けて四つの種類がある。一つ目は『ディレクト』系。条件を満たした対象を支配する能力だ」
(九龍の能力みたいなやつか)
「この能力は条件次第でかなり使える場合もあるんだがな。――二つ目は『クリエイト』系だ。これは無から何かを作り出したり、何かを巨大化させたりする能力だ」
(森の牙の時に会ったリグみたいな能力か)
「さっきまで俺が使っていた能力もクリエイト系になるな?」 そういって、斬られた右腕を以龍に見せる。
「三つ目が『エレメント』系。アンタみたいに自然の力を借りて発動する能力だ。ほとんどの場合は魔法と同程度しか使えないんだが、たまにいるんだよ、その特性を理解し魔法以上に能力を使ってくるやつが」
話を聞いているサレントが、なにか違和感を感じていた。
「最後はそれ以外の能力だ。俺はめったに出会えないことから『レア』と呼んでいる。ディライトするなら欲しいとは思わないか? そういった能力が」
斬られた右腕からガドリングガンが出現する。
「どうやら話は終わったようだな」
「そういうことだ。さて、アンタはどの程度の使い手かな?」
ガドリングガンが火を吹いた。――以龍は襲い掛かる弾丸をくぐりぬけ、ガドリングガンを右腕ごと切り捨てた。
「ほう。やはり、この程度の能力じゃ歯が立たんか」
「この程度の能力? ――! 以龍さん、気をつけてくださいっ。その人、別に能力を隠し持っています」
「隠しているわけではないんだが、な」
以龍の足元の土が二本の手の形に変化し、以龍の両足首を掴む。
「なっ」 足首を掴まれ、以龍の動きが封じられる。
「そいつはアンタと同じエレメント系の能力だ。射程に難のある能力だが、こういう使い方には向いている。悪いが、そう簡単にほどけないぜ?」
イーターの言うとおりだった。もがいてもびくともしない。――さらに地面から二本の腕が伸びる。今度は以龍の両腕を封じられた。
「これで終わりだ」
「以龍さんっ」 助けに動こうとしたサレントの前にイリアが立ちはだかる。
「イリアさん、なんで止めるんですか?」
「――アンタはそこでおとなしくしてんだよっ」 イリアが突然ディライトの光に包み込まれる。
「な、なに?」
ディライトの光が消えると、イリアはその場に倒れこんだ。
サレントはそんなイリアに手を差し伸べることなく立ち上がる。
「イリアっ」
「安心しなよ、その女はすぐに目を覚ますさ」
「! ――お前、誰だ?」 それはサレントに向けて言う言葉ではなかった。
「まだわからないのかい、光使い?」
「! おまえ、さっきの女か?」
サレントの身体だが、かもし出す雰囲気やその口調がサレントではないと言っていた。
「そういうことだよ。……まさか、あの程度で勝ったとでも思っていたのかい?」
「……イリアとサレントに何をした?」
「そうさねぇ。ま、イーターの言葉を借りて言えば、アタイはディレクト系ディライトなんだよ。これでわかるだろ?」
「しかし、なんでいままで表に出なかった?」
「この女は危険な香りがするんだよ。長く乗っ取っていると、アタイがこの女の奥底にあるなにかに飲み込まれそうになる」
(……イリアが、危険?)
「それにアンタにとってもこの方が都合がいいんだろ?」 そういいながらダガーのフォースウェポンを生成する。
サレントが――いや、サレントを操っているパラというべきか。パラが突然、ダガーでサレントの右腕を切りつけた。
「貴様、なにを!?」
かなり深い傷なのだろう。止め処なく右腕から血が垂れる。
「イーター、これが欲しいんだろ?」 血の垂れる右腕を振り、サレントの血液を飛ばす。
イーターがその血を口に入れた。――イーターのディライトの光が一瞬だけ強く輝いた。
「パラ、もういいぞ。用は済んだ、あとは去るだけだ」
サレントがイーターに近づく。
「待ちなよ。アタイはあの光使いにお気に入りの身体を壊されてんだ。借りぐらい返させなよ?」
「そうか。なら、今のうちに終わらせな」
「――ああ、そうさせてもらうよ」 サレントがディライトの光に包まれる。
だがそれは、サレントのディライトではなかった。ディライトの直後、サレントが倒れる。
「! 貴様、最初からこれを?」
「――いつまでも腕を斬られたままにしておくからさ? アンタは知ってんだろ? アタイが能力を発動させる条件を」
「傷口からの、体内侵入……」
「いくら能力のおかげでダメージを受けない右腕でも、損傷は損傷。放っておくアンタが悪いのさ」
「そう簡単に俺が乗っ取れると思うなよ?」
「無駄さっ。一度体内に侵入したら、あとはアタイ次第さ」
「……何が、起きている?」
イーターの動きが止まる。
「――待たせたね、光使い。じゃあ、始めようか」
「仲間を、乗っ取ったのか?」




