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幻想冒険談 別世界譚 アドベント編  作者: いりゅーなぎさ
別世界譚 アドベント編
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22/32

ラビッシュの正体


 ――ラビッシュをグランのギルドに搬送する。ギルドスタッフがラビッシュの状態を見ると、すぐに集中治療室に運ぶよう指示が出された。

 集中治療室の扉が閉ざされ、以龍、イリア、サレントの三人は扉の前で待つこと以外出来なくなる。

 治療室の中では、治療を始めようとした医師がラビッシュの身体に触れた瞬間、その手が止まる。

「これは……。――誰か。大至急、ガルラ王室に連絡を入れてくれ」

 治療室内が慌ただしくなる。――看護士が治療室内の端末を操作し、メッセージを送信する。

 返答はすぐに返ってきた。

[緊急時につき、手術を許可する。但し、術後は身柄の引渡しを要求する]


 待つこと約三時間。以龍たちの前に赤い鎧を纏った女性が姿を現す。

「ラビッシュ様のお連れの方々ですね?」

「……あんたは?」

「私はガルラ近衛師団のエリザと申します。ここに搬送された我が主『ラビッシュ・ガルラ』様お迎えに上がりました」

「ちょっと待って? 近衛師団って……、じゃあ、ラビッシュは――」

「はい。ラビッシュ様はこのガルラ王国の正当なる王位継承者――つまりは王子にあたる御方です」


 以龍たちは馬車の荷台に揺られていた。――ほろの合間から見える景色には、夕焼けに染まりつつあるギルテ山が見えている。

 馬車の先頭では、エリザというラビッシュを迎えにきた女性が馬の手綱を握っている。――そう。以龍たちは今、二日がかりでやってきた道を引き返して、ガルラに向かっていた。

「イリア。ラビは?」

「大丈夫です。今は落ち着いています」

 ラビッシュは、毛布にくるまり静かに寝息をたてている。――手術は無事に終わり、後は体力が戻り次第目を覚ますらしい。

「――この先は少し道が荒れますので、しっかりつかまっていてくださいね」

 馬車の振動が激しくなる。どうやら馬車が山道に差し掛かったようだ。

「――しかし、こうも早くギルテ山につくとはな……」

「馬車移動ってこともあるのかも知れませんが、この馬車、普通の馬車に比べても物凄く速いみたいです」

「急ぐ必要がありましたからね。早馬を用意いたしました」

「迎えはあなたお一人なのですか?」

「……私はむしろ、ラビッシュ様があなた方と行動を共にされている方が不思議に感じています」

「それはどういう意味ですか?」

「お気を悪くさせてしまいましたのなら、すみません。そういう意味で言ったわけではないのです。――ラビッシュ様はいつもお一人でおられました」

「一人? だって、ラビッシュは王子なんでしょう?」

「王子ゆえに、です。城の中でも信用を置いている人間は多くはありません。……接する人全てが偽りのように見えてきたのでしょうか? 結果、ラビッシュ様は城を出て行ってしまったのです」

「出て行ったって、すぐに捜索はしなかったのですか?」

「捜索はしました。――いえ、捜索をするまでもなく、すぐに居場所はわかりました。ラビッシュ様がギルテでアドベントの刻印を刻まれた地点で」

「じゃあ、その地点で呼び戻したのか?」

「いえ。ラビッシュ様の父上であらせられるラーン王は私達にひとつお願いを出されたのです」

「お願い? 命令ではないのですか?」

『お願い』です。王としてではなく、一人の父親としての」

「そのお願いって言うのは?」

「ラビッシュ様の自由に。そして、一切手を貸さないようにと」

「それって……」

「ラビッシュ様はラーン王を恨んでおられるかも知れません。ですが、ラーン王はラビッシュ様を思ってそうされたのです。自分の事を知らない街で、自分の力だけで生きていくことの幸せを知っていただくために」

「……多分、ラビは恨んでなんかいないさ」

「そう言っていただけると助かります」

「でも、それならなんで今回はラビッシュを迎えに来たの?」

「しいて言えば、『きっかけ』でしょうか」

「きっかけ?」

「理由なくラビッシュ様を呼び戻すことは出来ませんからね。ラビッシュ様からガルラに足を運んでいただければ別なのですが」

「それでラビッシュはガルラに行きたくないって言ってたんだ」

「……で、ラビをどうする気なんだ?」

「どうもいたしません。体調が戻るまでゆっくりしていただいたら、あとはラビッシュ様のご意志のままに」


 ガルラの街が見えてきた頃には、すっかり日が暮れていた。馬車は照明魔法で道を照らしながら、街道を駆け抜けていく。

 ガルラの街に入ると、家の灯りが街を照らし、馬車の照明がなくても道が確認できるほど明るかった。

 馬車はゆっくりと進み、そして、ガルラ城の門をくぐった。


 城内に入ると、エリザはラビッシュを抱えて階段を上がっていった。――その階段はとても一国の城の階段とは思えないほど狭い階段だった。どうやら、この先は城の関係者以外は利用できない場所なのだろう。

 二階に上がり、その中の一室の扉を開ける。

 部屋に入ると、その部屋のベッドにラビッシュを寝かした。

「……お医者様の話ですと、明日には動けるようになるそうです。――それでは皆様、私についてきてもらえますか?」

「? ついてこいって、どこにだ?」

「皆様のお部屋の準備が整うまでの間、お会いしていただきたい方がいるんです」

「会わせたい方?」

「はい。――こちらです」

 ラビッシュの部屋を出ると、先ほどの階段を三階に上がる。――廊下を進み、一番奥の部屋の扉を叩いた。

「ラビッシュ様のお仲間をお連れしました」

「どうぞ、お入りください」 落ち着いた感じの男性の声が返ってきた。

「失礼します」

 部屋の中では、以龍より少し年上の感じの男性が机に向かっていた。――以龍たちが部屋に入ると、男性は手を止め、こちらに振り返った。

「――!」 サレントを目にし、その男性の表情が変わる。

「? ――どうかされましたか?」

「……いえ、失礼しました。私はラーンと申します。息子のラビッシュがお世話になったそうで、まずは礼を言わせてください」

「そんな、お礼を言われることなんて……」

「あんたがラビの父親なんだな?」

「ちょ、ちょっと以龍さん? いくらなんでも、その口ぶりは王様に対して失礼ですよ?」

「いえ、かまいませんよ。ここでの私はただのラーン――ラビッシュの父親です、礼儀に重んじる必要はありません」

「……やっぱあんたは出来た人間だ。――ひとつ、確認させてくれ」

「ラビッシュのことですね?」

「ああ。――もし、ラビがまだ俺たちと行動したいって言ったら、あんたはどうする」

「ラビッシュが自分の意思で決めたことならば、私にとやかく言う権利はありません。――それに、エターニアの方と行動すると言うことは、ラビッシュにとってもプラスになりますからね」

「! 何故、以龍さんがエターニアと?」

「私も幼い頃、エターニアの方と旅をしていたころがあるのです。……あなたは、サレントさんですね?」

「! 私を知っているのですか?」

「『ティナ・フレリア』という方を知っておりますよね?」

「! 何故、あなたの口からその名前が?」

「私が共に行動したエターニアの方はリネクさんなのです」

「では、あの人の連絡先とかは知っていますか?」

「……ティナさんのことならば、すでに承知のはずです、リネクさんは」

「なら、なんで会いに来てくれないのですか!?」

「サレントちゃん、落ち着いて」

「……くわしくは話せませんが、リネクさんはエターニアの禁忌を犯しました。その戒めとして、リネクさんからあなたに会うことは出来ないのです」

「そう、だったんですか……」

 と、部屋の扉が叩かれる。

「どうぞ」

「失礼します」 入ってきたのは城の給仕人の衣装を纏った女性だった。

「お部屋の準備の方が整いました」

「そうですか。では、客人をお部屋のほうに案内して差し上げてください」

「かしこまりました。お客様、どうぞこちらに」

「あ、ああ」

 以龍、イリア、サレントが給仕人の案内でラーンの部屋を後にする。

 部屋はラーンとエリザの二人となった。

「……どうされました? 先ほどからずいぶんと悲しげな表情をしておられるようですが?」

「……少し、昔を思い出してしまったようです」

「ティナ様の事ですか?」

「あの時はリネクさんとティナさんが私の周りにいました。……いつか、あの以龍と言う方の存在も、ラビッシュにとっては私達と同じようにかけがえのない存在になっていくのでしょうね」

「以龍様は私にもラビッシュ様の事を質問されていました。今後、ラビッシュ様がどうなるのかを」

「……エリザ。私は父親失格なのでしょうか?」

「以龍様はこうもおっしゃっておりました。『ラビッシュ様はラーン様を恨んでなどはいない』と」

「……ラビッシュが目を覚ましたら話をしたいですね。――私の昔話を」


 以龍は部屋に入ると、すぐにベッドに転がる。――部屋はあまり広くはないが、一人部屋として充分に落ち着ける空間になっていた。

 なにより、以龍にとって、ギルテ山から初めて一人の時間を迎えることになっていた。

 一人になって巡ってくる考えは、九龍との戦いであった。……自分の力不足で、ラビッシュを傷つけてしまったこと。そして、九龍が本気だったなら、最悪全員が殺されていたという可能性も頭を巡る。

 そんな考えを巡らせながら、以龍はいつのまにか眠りについていた。


 以龍の部屋の扉が叩かれる。

「渚さん、食事の用意が出来たそうです」

 中からの反応はない。

「渚さん?」 イリアは扉を開け、中に入る。

 以龍は布団もかけずにベッドで眠りについていた。

「……そうですね、今日はいろいろありましたからね」

 イリアは以龍に布団をかけると、部屋を後にした。


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