敗北
以龍は九龍の後に続いて街の外に出る。――着いた場所はグランの街の外、クルスへ続く街道の外れにある草原だった。
「ここなら邪魔モンはこーへんやろ? ――ほな、始めよっか」 両手に鎖鎌の鎌を持ち、身構える。
(……やるしか、ないのか) 以龍も竜封剣を抜いた。
「ほう……。あんさんが得物を使うのかいな」
(様子を見ている余裕はない。――しょっぱなから全力でいくしか)「――Delight」 竜封剣を光の刃が包み込む。
「……この前の光の星は使う必要あらへんってわけか。ほな、わいも様子見とさせてもらおか」
九龍が鎌を両手に以龍に斬りかかってくる。――以龍は向かってくる九龍に対し竜封剣を振り上げる。狙いは、鎌の刃だ。
以龍の竜封剣は空を切り、九龍は視界から姿を消す。
(速いっ。――くっ) 攻撃を回避されたと素早く判断し、すぐさま回避行動に切り替える。
以龍は地面を転がり、九龍の攻撃を回避する。――が、以龍が転がった先に鎖でつながれた鎌が飛来してくる。
「なっ!?」 咄嗟に竜封剣の峰で鎌を受け止める。
九龍は鎌を引き寄せ、再度身構える。
「渚さんっ」 街道の方から、イリア、ラビッシュ、サレントの三人が駆けつけてくる。
「! ――来るなっ」
「……邪魔が入りおるな。――ChaosDelight」 九龍が赤黒き光に包まれる。
「やめろ、九龍っ」
「――邪魔をしいなや」
イリア達が赤黒き光に包まれて、その場にうずくまる。
「な、なに? 身体が、動かない」
「……なんなんだよ、これは?」
「相手の自由を奪う、カオスディライト能力?」
「――イリア、ラビ、サレントっ」
「安心しいや、動きを封じさせてもろうただけや。――さて、お遊びはここまでやな。互いに本気でいこうや」 カオスディライトに包まれた九龍の身体とは別に、九龍の鎖鎌はディライトの光に包まれる。
九龍の鎖鎌が、まるで命を持ったかのように宙に浮く。夢の中で見た、九龍のディライト能力だ。
以龍は竜封剣を構える。
「あんさんはカオスなしかい? ――えろうなめられたもんやな」
(今の俺に、何ができる? このままだと――) 考えがまとまる前に鎖鎌が襲い掛かってくる。
鎖鎌を剣で受け止め、そのまま弾き返そうとするが、鎖鎌はその位置からびくともしない。――以龍の背後に回った鎖鎌が、以龍の背中を斬りつける。
「ぐっ」
今の以龍では、ディライトに包まれた鎖鎌にさえ歯がたたない状態であった。鎌を防ぐ事さえままならず、以龍が次々に身体を切り刻まれていく。
「渚さんっ」
「……なんの真似や? はよう、力をださんかいっ」
(……ちくしょう。俺は、この程度なのかよっ?)
「……カオス、ディライト」 以龍のカオスディライト宣言。――だが、カオスディライトは発生しない。
鎖鎌のディライトが解除され、鎖鎌は地面に転がる。そして、九龍がゆっくりと歩み寄ってきた。――九龍の拳が以龍の頬をとらえる。
「わいをおちょくんのもたいがいにしいや? ――わいが本気だしとういうんに、あんさんはまだ本気ださへんいうんかっ!」
九龍の拳が以龍の身体を何度も叩きつける。――以龍は無抵抗にその拳を受け続けていた。
「もうやめてくださいっ。――今の渚さんは、力を失っているんです」
イリアの声に、九龍の手が止まる。
「なんやと?」
「……今の渚さんはディライト能力に目覚めたばかりで、あなたの望む力はないんです」
九龍が鎖鎌に再度ディライトを込める。――鎖鎌が宙に浮く。
「……そないわけか、しゃあないな」 納得してくれた? ――いや、九龍の表情が語っている。……納得などしてはいない。
「――なら、無理やりでも力、取り戻してもらおうか」 鎖鎌が狙いを定める。――刃が向いている先は、イリアのいる場所だった。
「!? 何を、する気だ?」
九龍のカオスディライトの光が以龍を包み込む。
「――くっ」 九龍のカオスディライトが以龍の自由を奪う。
「わいのカオスが効くとわなぁ。ほんま、弱なりおったんやな?」
九龍が腕を振り下ろすと、鎖鎌はイリア向かって飛んでいった。――九龍のカオスディライトにより、イリアは身動きすることさえ出来ない。
「やめろっ、九龍!」
「だったら、わいのカオスをほどいてみいなや!」
もがけど、以龍の拘束は解けない。
「――イリアっ」
――イリアの顔に、大量の血液が付着する。イリアの目に映った光景は、目をそむけたくなるような光景だった。
ラビッシュが九龍のカオスディライトをほどき、イリアの目の前に立っていた。――ラビッシュの胸を、鎖鎌が貫いている。
「ラビッシュっ!」
「ラビくんっ!」
ラビッシュは声を発することなくその場に倒れこむ。
「……なんや。いまのあんさんより、あのガキの方がよっぽど見込みあるようやわ」
「――今すぐ拘束を解いてっ」 必死な表情で九龍に訴えるが――
「……出来へん相談やな。――あんさん、はよ治療せえへんと、あのガキ死ぬで?」 以龍を挑発。力づくで解除させてみろと言わんばかりに。
「貴様ぁっ」 九龍のカオスディライトの弾き飛ばす。
竜封剣の光の刃が、燃え盛る炎のように激しく吹き上がり、以龍の感情を映し出す。
「うぉぉぉぉぉぉぉ」 その剣で九龍に斬りかかった。
九龍の左手が竜封剣の刃を掴む。
「怒りに身を任せてもこないもんか……」
以龍が剣を動かすが、まったく動かない。
「……」 九龍の右拳がディライトの光に包まれる。
以龍の鳩尾にその拳が直撃する。以龍は竜封剣を手放し、その場に崩れ落ちた。
「……そないあんさん、みとうなかったわ」 竜封剣をその場に捨てると、九龍はカオスディライトを解除した。
拘束が解かれると同時に、イリアはラビッシュに治療魔法を施し始める。
この場を去ろうとしている九龍の前にサレントが立ちはだかる。――怒りか恐怖か、その手を震わせながら剣を構える。
「……やめとき。わいのカオスがほどけんかった地点で勝ち目はないで?」
「――Delight」 サレントがディライトの光に包まれる。
「やめなさい、サレント」 イリアが声を上げる。
「イリア、さん?」 普段のイリアからは想像できない迫力に、サレントはディライトを解除する。
「それが賢明や」
九龍はサレントの横を通り、この場を去っていった。
「……なんで、止めたんですか?」
「わかっているのでしょう? 今のあなたじゃ勝ち目のない相手だって」
「でも――」
「それより、ラビくんの治療の方が先。……もう、私じゃ手に負えない。このままじゃ、ラビくんが――」 イリアの治療魔法を弾くかのように、血が噴き出してくる。
「ギルドに運びましょう」




