遭遇
以龍はとりあえず他の人の迷惑にならないように精算機から離れた。――出てきた二十五万相当の金貨はラビッシュから袋を借り、その中に入れてある。
ギルドの一角、椅子と机の置かれた休憩所の一席を陣取った以龍たちは、精算機から出てきた金貨について話し合っていた。
「二十五万、ですか?」
「うん。ちょうど二百五十枚、二十五万あるよ」
「なんか、『緊急クエスト報酬』の項目が二つあったから、そのうちのひとつを選んだら出てきた」
「緊急クエストの項目が二つあった?」
「あ、おいらもそれがひっかかってんだ。おいらは項目の選択なしに報酬が出てきたよ?」
「……履歴を見てみませんか? それでなんだったのかがわかるかもしれません」
「それはいいが、この金はどうすればいいんだ? こんな重いもの、持ち歩くわけにも――、そういえば、お前たちはどうしてるんだ? 金貨が多くなると、行動に差支えが出るだろ?」
「兄ちゃん、刻印の標準機能の中に預金のメニューがあるの知ってる?」
「預金?」 刻印を操作し、メニューをさぐってみる。
[預金]
「――あった。これだな」 項目を選択し、次の画面へ。
[残高照会]
「? 残高照会しかないぞ?」
「当たり前だよ。兄ちゃん、刻印の中に直接金貨を入れるつもりなの?」
「入金も履歴の紹介も照合機でできます。とりあえず照合機のところに移動しましょう」
以龍たちは照合機と呼ばれる機械のある場所に移動する。――機械に手を入れて、刻印を読み込ませる。
『――以龍 渚、認証しました』
「なんか、懐かしい感じがするな? この機械を初めて利用してからまだ数日しか経っていないのに」
「それだけいろんなことがありましたからね」
『――以龍様。申し訳ありませんが、しばらくそのままでお待ちください』
「? なんだ? 前に使ったときはこんな台詞なかったぞ?」
「! これって、まさか……」
「なんか知ってんの?」
「私も一度、こういうことがありましたから。……これは、刻印の更新です」
「刻印の更新? おいら、そんなの一度もやったことないよ?」
「更新には条件があるんです。たとえば、功績を認められ――」
『お待たせしました。当ギルドは以龍 渚様をハイクラスと認定致しました。これより、刻印をハイクラス用に更新いたします』
「俺が、ハイクラス?」
「以龍さんはハイクラスの条件の満たしたんです」
「条件を満たしたって……」
「ディライト能力ですね?」
「はい。基本、ディライト能力に目覚めたらハイクラスになれますから」
『更新が完了いたしました』 このアナウンスが終わると、照合機はメニューを映し出した。
「あ、終わったみたいですよ?」
「でも、ハイクラスになってなにが出来るんだ?」 刻印がちょっと派手になった程度の変化しか見られないようだが……。
「とりあえず、用事だけは済ませといたら? これでやること忘れちゃあ世話ないよ?」
「そうだな」 メニューを操作し、履歴を照会してみる。
以前は禁則事項と表示されたのだが、いまはグリズリー以降の履歴が表示された。
[通常クエスト『グリズリー』賞金6000÷2、清算済み]
[バウンティ『フォルクス』詳細不明]
[緊急クエスト『森の牙』賞金50000÷5、未清算]
[緊急クエスト『ドラゴンバク討伐』賞金250000、清算済み]
「なんだ、これ? ドラゴンバクが緊急クエストになってる」
「じゃあ、あのお金はドラゴンバクの賞金?」
「それにしても、二十五万を独り占めかぁ……」
「いや、これはお前にも受け取る権利があるぞ? じゃあ、この賞金はイリアと三等分で――」
「ラビくんっ。――渚さん、その賞金は受け取れません。それは渚さん一人の賞金です」
「ま、実際おいら達は何もしてないしね。――じゃあ、忘れないうちに入金しちゃいなよ」
「全部入金しちまっていいのか? やっぱ、少しは手元に――」
「全部入れても大丈夫なんじゃないですか? まだ、森の牙の賞金がありますし……」
「そうだな。とりあえず10枚あればなんとかなるか」
金貨の袋をひっくり返し、機械の中に金貨を入れていく。
[刻印入金:250000]
入金額を確認し、刻印に二十五万を入金した。
「じゃあ、あとはもう一度賞金の機械の方へ――」
現在、精算機には列が出来ていた。
「……しまったなぁ、ちょっと待たされるのかぁ」
「じゃあ、とりあえず先にどこかゆっくり話が出来る場所を探しませんか?」
「今の場合、もう一回宿に部屋を取ったほうが早くない? 無理に仕事を取る必要もなくなたわけだし、これからどうするかもゆっくり決めたいし……」
「じゃあ、先に宿を手配しましょう。渚さん、とりあえず精算機の方は後にして――」
「いや、俺は並んで待ってるよ。イリア達はこの間に部屋を取っておいてくれないか? 終わったら俺もすぐに行くから」
「そうですね。――じゃあ、私達は先に宿の方に行きましょう」
「兄ちゃんの名前で部屋を取るから、受付で部屋を確認してから来てね? ――間違っても昨日の部屋に行ったりなんかしないでよ?」
「わかってる。――じゃあ、ちょっと並んでくるわ」
以龍は精算機の最後尾に並んだ。――機械の数が多いだけあって列はスムーズに流れていく。
「この分だと思ったより早く済みそうですね?」
「……受付を済ます前に兄ちゃんが宿に来たりして」
「じゃあ、私達も行きましょう」
イリア達はギルドを後に宿屋に向かっていった。
「……やっぱ、大きい街だけあってずいぶんと賞金を受け取るアドベントが多いな」
ラビッシュからもらった袋に金貨十枚を入れ、懐にそれをしまう。
「さて、じゃあ宿に向かいますか」
以龍がギルドの扉を出ようとした時だった。
「――待ちいや、『破滅の光』」 背後から声がかかる。
(!? 破滅の、光だと?) その声には聞き覚えがあった。――いや、実際に出会ったわけではないから、『聞き覚え』はおかしな言い方か。
以龍はゆっくりと振り返る。
「探したでぇ。ようやくコンテニューっつうわけや」 その男は、先日の夢に出てきた男『九龍』だ。
「九龍……」
「ちょいと、わいに付き合ってもらうで?」
「……嫌だと言ったら?」
「わいは別にここで始めてもええんやで?」 そう言いながら、腰の鎖鎌に手をかける。
以龍は周囲を見渡す。――もしここで九龍が力を解放したらどうなるか? わかりきったことだった。一部の能力者を除いて多数の巻き添えが出ることになるだろう。
「どないするん? わいに付き合うか、ここで始めるか?」
「――移動しよう」 これは仕方のない選択だった。




