破滅の光
セピア色の世界から、だんだんと色づいていく世界。――また、夢の世界が広がっていく。
「待ちいや、『破滅の光』」 独特のなまり口調の男がもう一人の男を呼び止める。
その腰には鎖鎌が二つ。どうやらそれがこの男の武器らしい。
「……やれやれ。またお前か、『九龍』」 破滅の光と呼ばれた男が振り返る。
その男の顔には見覚えがあった。――いや、見覚えどころの話ではない。その男は以龍 渚本人なのだから。
「この前の借りを返しにきたで?」
「そのこの前って言うのが、どのこの前をさしているのか聞かせてもらいたいな?」
「全部や。今日でいままでの借り、全部返したるわ」
「前回の時もそんなことを言ってたな? いいかげん、しつこくないか?」
「わいにコンテニューの制限はないんや。クリアするまでやらせてもらうで?」
「やれやれ。――Delight」 以龍は光の剣をつくりだす。
この以龍は今の以龍とは違い、剣を持っていない。どうやら以龍本来のディライト能力は剣を強化する光の刃ではなく、光の剣を生成できる能力だったようだ。
「ようやくゲームスタートっちゅうわけや。――Delight」 二つの鎖鎌が蒼き光に包まれ、九龍のまわりを浮遊する。
二つの鎖鎌が以龍に襲い掛かってくる。それはまるで獲物に食らいつく蛇のようだった。
以龍の光の剣が二つ鎖鎌を瞬時に切り払う。――が、鎖鎌は切断されず、弾き返されるだけにとどまった。
「……斬れないか。たった数日でずいぶんと力をつけたもんだな?」 ……これはディライト能力全般に言えることだが、充分に能力を発揮するにはある程度の能力差が必要となってくる。鎖鎌が切断されなかったということは、以龍と九龍のディライト能力にあまり力の差がないということだ。
「今のわいをこの前のわいと同じだと思うんやないで」
弾き返され、地面を転がっていた鎖鎌が再度宙に浮き上がる。
鎖鎌が以龍に襲い掛かると同時に、九龍が駆け出した。――鎖鎌を払う隙を狙う作戦のようだ。
以龍が鎖鎌をなぎ払った。――しかし、九龍は以龍の懐に潜り込んでいる。九龍の肘が以龍の腹部を強打する。
「いつまでもわいを下に見いなや」 完全に肘を決め、笑みをこぼす。
そして、鎖鎌が以龍に襲いかかる。
「……お前は自分の攻撃の隙は考えなかったのか?」
以龍の光の剣が九龍の身体のまわりに円を描く。九龍のまわりには光の輪が残る。――以龍は鎖鎌を弾くと、九龍から距離を取った。
「な、なんやこれは?」
「『光輪縛』。――もう動かないほうがいいぞ。その輪に触れれば、触れた部分が切断される」
勝負は決した。――ように見えていたのだが。
「……こん程度で勝ったつもりか、破滅の光?」
「やめておけ。ディライトに包まれた鎖鎌ならともかく、身体が触れれば、仮に切断を免れたとしても衝撃による内部の損傷は避けられんぞ?」
「――ChaosDelight」 九龍を包む蒼白き光は、赤黒き禍々しい光に変わる。
「無駄だ、俺にお前のカオスは通用しない。……わかっているはずだ、お前のカオスは並みの能力差では発動させられないことは」
「驕りもええとこやなぁ? ……と、言いたいんやが、あんさんの言う事ももっともや。たしかにあんさん乗っ取れるほどわいの能力は高うない。せやけど、わいのカオスディライトにはこういう使い方もあるで?」
九龍を囲んでいた光の輪が、九龍のカオスディライトの光に包まれていく。――光輪縛の輪が解け、光の縄となる。
「! 光輪縛を乗っ取ったか」
「よーやく表情変えよったか。せやけど、これで――」 光の縄が以龍に向かって飛んでいく。
今度は以龍が光輪縛に束縛される。
「――形成逆転やな」
……以龍は光の輪の間から右腕だけを解放する。そして、掌を九龍に向けた。
「……なぁ、九龍? どうして俺が『破滅の光』の通り名で呼ばれているか知っているか?」
「なんや、いきなり? ――そないなこと、興味あらへんわ」
「……そうか、知らないのか。なら、俺からの言葉は一言だ。『死ぬなよ』」
「こない状況でまだそない口を叩くかぁっ」 光輪縛の輪がせばまっていく。
「――ChaosDelight」
以龍がカオスディライトの光に包まれると同時に、光輪縛の輪が硝子のように砕け散る。
「制御印五芒星――」 巨大な五芒星が以龍の前に現れる。
「『光輝破神衝』」
巨大な光線がまわりの風景ごと九龍を包み込んでいく。
九龍は声を出すことなく、光の中に消えていった。――光に飲まれ消え去ったのか、それとも激しい衝撃をうけ彼方へと飛ばされたのか。それはこの夢の中で知る術はなかった。
――翌日。以龍が目を覚ましたのは昼過ぎだった。
「――あ、おはようございます渚さん」
他の三人はすでに起きていて、各自荷物の整理や装備品の点検をおこなっている。
「おはようじゃないよ姉ちゃん。もう太陽は昇りきってんだよ?」
「……もうそんな時間なのか?」
「兄ちゃん、いくら起こしても起きないんだもん」
「以龍さんも起きたことですし、とりあえずギルドを見に行きましょうか?」
「兄ちゃん、早く準備してね?」
「ラビくんっ。……いいですよ渚さん、ゆっくり準備して。まだチェックアウトには時間がありますし」
「いや、大丈夫だ。すぐに準備できる。――行こう」
ここはギルドは、ギルテのギルドとは比べ物にならないくらい大きなギルドだった。
「ここがギルド、なのか?」
ギルテのギルドしかしらない以龍には衝撃的な光景だった。
「お。見て見て、照合機も精算機も何台も置いてある。ギルテには一台ずつしかなかったのに」
「とりあえず、森の牙の賞金を精算しましょう」
「そうだな。それでサレントに借りた宿代を返さなきゃいかんしな」
「だから、それは気にしなくていいです。――港でご迷惑をかけたお詫びとして受け取ってください」
「……でも、それとこれは別な問題です」
「兄ちゃん、姉ちゃん。もし、サレントを仲間と認めているんだったら、これは受け取っておくべきだよ? じゃないと、立場が対等じゃなくなる」
「ラビッシュ……」
「……わかりました。では、宿代の件はサレントちゃんの世話になったことで終わりにしましょう。でも、そのかわりこちらからも条件を出します」
「条件、ですか?」
「港の件はこれで終わり。もう口にしないって約束してください」
「あ、……わかりました。ありがとうございます」
「渚さんもよろしいですね?」
「……俺の方がサレントにひどい事をしたんだがなぁ?」
「以龍さん、気にしないでください。あれは私のほうが悪いのですから」
「渚さん、その件はもうなしですよ?」
「……そうだな」
「じゃあ、賞金を受け取ろうよ。おっちゃんは期待するなって言ってたけど……」
精算機はバラバラではあるがちょうど四台空いていた。四人はそれぞれ精算機に手を入れる。
グリズリーの時は手を入れただけで賞金が支払われたのだが、今回、以龍が手を入れるとメニューが空中に投影された。
[緊急クエスト報酬]
[緊急クエスト報酬]
よくみるとおかしな表示だ。同じメッセージが並んでいる。
「おい、ラビ――」 ラビッシュに聞こうと思ったが、ラビッシュは別の機械で賞金を精算している。
「……いまは無理か。しかし、なんで二つあるんだ? まあいい、二つとも押してみるか」
そう思って、下の項目を選択した時だった。――けたたましい金属音を轟かせ、大量の金貨が精算機から放出されだした。
「な、なんだ、これ?」 金貨の放出は止まる様子を見せない。
尋常ではない光景に、以龍のまわりに人が集まりだす。
「ちょ、兄ちゃん? なにやったの?」 人をかき分け、ラビッシュがやってくる。
「なにって、俺はなにも――。ただ、報酬の項目が二つあったからひとつずつ試そうと――」
「項目が二つ?」
「ああ。で、下の項目を選んだらこうなった」 ようやく金貨の放出が止まった。
精算機からは二百五十枚もの金貨が吐き出されていた。




