亡者の墓地
真っ先に行動をとったのはイリアだった。グローニがこちらに対して身構える前に、イリアの十字杖がグローニを殴打する。
だが、イリアの攻撃はグローニの身体をすり抜ける。空を斬る感覚。イリアに攻撃の手ごたえはなかった。
「おやおや、何をそんなにご立腹で? ――ああ。先ほどの少年のことですか。でしたら、そんなに気にされることはありませんのに。もともと、死んでおられたのですから」
イリアは無言で杖を振り返す。――やはり攻撃はグローニの身体をすり抜ける。グローニが回避行動をとったようには見えない。
「無駄ですよ、何度こられても。私に攻撃は当たりません」
「――なら、こいつを喰らいなっ」 ラビッシュのアームガンが炎の魔法を放つ。
火球はグローニの身体をすり抜け、暗闇の彼方に消えていく。
「何度言えばわかっていただけるのですかねぇ? 今の私にはどんな攻撃も効果がありませんよ。――それより、ご自身を心配されたほうがよろしいのでは?」
「あなた、なにを?」
「あなた方、その家を出た事で私の思惑から逃れたと勘違いされていませんか? ――残念ですが、その家に何か仕掛けてあったわけではありません。……賢明なあなたならもうお気づきになられているでしょう? この村自体が私の作り出したものだということに」
「――Delight」 以龍の竜封剣が光の刃に包まれる。
以龍がグローニに斬りかかる。
「やれやれ。まだ無駄な事を続けるおつもりですか……」
以龍の剣がグローニを斬りつける。踏み込みが浅かったか、切り裂くことはできなかったが、その剣はグローニの胸部に一文字の傷を刻み込んだ。
「なっ!?」 先ほどまでの余裕が、グローニからなくなる。
一文字の傷から、赤い血が垂れたからだ。以龍の剣はすり抜けることなく、グローニを斬ったのだ。
「透過物質をも切り裂くディライト能力ですか。まさか、私の身体を傷つけるとはねぇ」
「どうやら俺の能力はなんでも斬れる能力みたいだな?」
「……まぁいいでしょう。どうせ私は顔見せだけでお別れするつもりでしたから」
「逃げれると思ってるのか」
「思っていますよ? これからあなた方はそれどころじゃなくなりますから」
さまざまな方角から、村人たちがこちらに集まってくる。その手には、月明りに照らされた銀色の真新しい農具。殺傷力だけみれば、下手な刀より遥かに高いだろう。
そんな物騒な物を手にした村人たちが、うつろな目をしてこちらに集まってきている。
「な、なんだよ、こいつら?」
「おやおや。もう私の能力をお忘れですか? ――ああ。すみませんねぇ、ここがどういった場所かの説明を忘れていました。ここは、街道離れの墓地ですよ?」
「! それじゃあ――」
「ええ。かれらは私の作り出した村の村人ではありません。ただの『傀儡』です」
「あなた、どこまで死者を愚弄するの?」
「転がってる肉の塊をどうしようと、あなたにとやかく言われる覚えはありませんねぇ」
「貴様っ」
「おっと、あなたの攻撃は私に効いてしまいますからねぇ。そろそろ消えますか」
グローニがその場から姿を消す。
「! 瞬間移動か?」
「違います、姿を消しただけですっ。まだ気配があります」
「ですが、私を見つけるのはもう困難でしょう? ――あとはあなた方が今日の宴の幕をきれいに降ろしておいてください。上演に失敗した舞台の面倒までは見きれませんからね」
「グローニっ!」
「生きていたら、またお会いしましょう。――では」
グローニの気配が消える。
「……以龍さん、逃げられました」
「それより兄ちゃん、これ、まずいよ」
村人たちが以龍たちを完全に包囲している。
村人の一人がフォークのような農具を投げつけてきた。それが戦闘開始の合図だった。
飛来するフォークの農具をサレントの鞭剣が弾き飛ばす。
「――Delight」 サレントのディライト。
直後、瞬間移動を発動し、村人たちの背後に移動する。――そして、相手が振り返る暇を与えず、躊躇することなく鞭剣で村人の首をはねた。
「以龍さん、イリアさん。この方たちのことを思うなら、少しでも早く解放してあげるのが礼儀です」
「……おいらには声かけはなしかいな」 アームガンから放たれる火球は、確実に村人の胸元を貫いていく。
「どうもあなたは、こういう場になれているみたいでしたのでね」
村人の一人が鍬を振り上げ、イリアを襲う。――イリアの十字杖が、村人の頭部を破壊する。
「――ごめんなさい。あなた方は静かに眠っていただけだっていうのに」
以龍もイリアも迷いは捨てたようだ。――以龍の光の剣は、村人たちを次々と切り裂いていく。
「……甘いですねぇ。本当の恐怖はここからというのに」 グローニの声。
「どこだ、グローニ!?」
「以龍さん、声だけです。さっきの家の中と同じ、村人を通してこちらの様子が見えているだけなんです、惑わされないでください」
数十人いた村人たちは、すべて地面に転がっていた。ある村人は首がなく、またある村人は黒く焦げている。
「……後味が悪い」 ディライトを解除し、剣を収める。
以龍が剣を収めた直後だった。首なしの村人が立ち上がり、以龍に襲い掛かってくる。
「なっ!」 以龍はとっさに村人の腹部を蹴飛ばし、距離をとる。
以龍に蹴られた腹部が激しく損傷し、崩れ落ちるようにその場に倒れる。だが、立ち上がってきたのは、この村人だけではなかった。黒焦げの村人、首やその他の部分が欠落している村人など、原型をとどめている村人は全て立ち上がったのだ。
以龍は再度、剣を抜く。
「なんなんだよ? なんで、まだ動けるんだよ?」
「お忘れですか? その方たちはすでにお亡くなりになられているのですよ? そんな、首がなくなったくらいでいまさら――」
「……Delight」 声を震わせながら、再度以龍がディライトの光に包まれる。
「兄ちゃん、このままじゃきりがないよ?」
「……わかってる。これで、終わらせる」
残酷ではあるが、以龍にはこの方法を取る以外の術が見つからなかった。――光の剣が、村人の両腕両足を胴体から切り離した。
村人を、動けない肉塊に変える。これが以龍の思いつく唯一の決着方法。
「――イリア、ラビ、サレント。……終わらせるぞ」
「……はい」 方法を察し、イリアはそれを承諾した。
月がこの夜で最も高い位置に来るころ、以龍たちは墓地へと戻ったこの場所を後にした。
以龍たちがグランの街に着いたのは、草木も眠るような時間だった。宿を取り、以龍たちはそれぞれのベットへと倒れこんだ。――結局、今夜の宿代はサレントに負担してもらう事となってしまった。




