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幻想冒険談 別世界譚 アドベント編  作者: いりゅーなぎさ
別世界譚 アドベント編
2/9

初めてのギルドクエスト

 ――再び、ギルド。

「――充分な報酬を考えると、『グリズリー』かなぁ。でも、私一人で勝てるかなぁ?」

 多数の張り紙の前でイリアは考え込んでいた。――しばらくして、イリアは覚悟を決める。

「……よし、勝ち目がなかったら撤退しよう。その場合は野宿かな?」 一枚の張り紙を破り、それをギルドの受付に持っていく。

「この依頼をお願いします」

「お一人ですか? こちらはあなたお一人では少々荷が重いかと……」

「やれるだけやってみます」

「せめて剣の使える方がいらっしゃればいいのですが……。誰か呼びかけましょうか?」

「すいません、他の方の手を借りようにも雇うお金がないんです」

「うーん、弱りましたねぇ。どうしてもと言われれば、こちらとしても受理するほかないのですが……、少々危険ですからねぇ」

「……お願いします」

「剣が使える奴がいれば問題ないんだな?」

 イリアの背後から声がかかる。イリアが振り返ると、そこに以龍の姿があった。

「! 渚さん」

「お知り合いですか? でしたら――」

「待ってください。――すいませんが、渚さん。いまはあなたに払えるお金がないんです」

「それは俺のせいだろ? 俺には無償でいろいろしたくせに、俺を無償で使うには抵抗があるとでも言う気か?」

「ですが、あなたは――」

「どうせあてなしだ。その依頼、二人で受けるぜ」

「了解しました。――依頼内容を確認させていただきます。今回の依頼内容は『グリズリー』というテットの討伐になります。詳しいことはこちらに書かれておりますので、出発の前にでも確認してください。では、御武運を」


 ――ギルテ山、麓。

「さて。――協力するって言っておいて悪いが、これからどうすればいいんだ?」

「今回は指定されたテットを退治するだけですから、特に難しいことはないと思います」

「テット?」

「あ、テットっていうのは、人以外の生き物を総称してそう呼んでいるんです」

「そうか。――で、ターゲットのグリズリーってのはどこにいるんだ?」

「ちょっと待ってください」 そう言ってイリアはギルドからもらった紙を広げた。

「これによると、どこかに巣にしている洞穴があるそうです。まずはそれらしい洞穴を探してみましょう」

「洞穴か……」

「あ、そうそう。もし洞穴を見つけて、そこにグリズリーいたとしても、洞穴の中での戦闘は避けましょう。一旦、外に誘い出してから戦いましょう」

「だな。洞穴の中じゃ戦いにくそうだ」


 以龍とイリアは警戒しながら山道を進んでいく。途中、猪のようなテットや鳥のようなテット等、名前も知らないようなテットと戦闘になったが、たいして苦戦せずに戦いをこなしていった。

 ただ、以龍にとっては戦いで自然に身体が動くことは不思議な感覚でしかなかった。

(――まぁ、記憶がなくてもアドベントってやつってことか)

 先を歩いていたイリアが足を止める。

「ありましたよ、洞穴が」

「よし、俺が先に行こう」

「あ、待ってください。――これを使ってください」 そういって、なにやらカードのような物を以龍に手渡した。

「これは?」

「照明魔法を具現化したものです」

「具現化?」

「魔法をこういうカード状にして誰でも使用できるようにしたものです。――カードを持って魔法を使うイメージをすれば魔法が発動しますよ?」

 言われたとおりにイメージすると、カードが照明の光を放ち始めた。

「不要になったらそのまま捨てて問題ないですから。……どうせ私の魔法力じゃしばらくしたら消滅するでしょうしね」

「アンタはいいのか?」

「私は直接使いますよ。――じゃあ、行きましょうか」 イリアが掌を光らせる。どうやら直接照明魔法を発動させたようだ。


 その洞穴は自然にできたものではなく、何者かが掘り進んで作られているようだった。細い通路をしばらく進むと、すぐに行き止りとなっていた。

「ん? ――もう行き止まりか」

 照明を足元に向ける。そこにはわらや枯葉、木の実や農作物と見られる野菜のくずなどが散乱していた。

「どうやらここがグリズリーの巣でまちがいないみたいですね。――一旦外に出て戻ってくるのを待ち伏せましょう」

 二人は洞穴を引き返す。

 出入り口の光が見え始めた時だった。先ほどまで見えていた出口の光が突然消えた。

「あれ?」

 洞穴を折り返したため、イリアが前を歩いていたのだが、突如出口の光が消えたためイリアは足を止めた。

「? どうした?」

「――いえ、さっきまで出口が見えていたと思ったんですが……」 照明魔法で先を照らしてみる。

 岩壁に混じり、一箇所だけ色の違う壁を発見する。――鮮やかな灰色の壁。そのカタチは洞穴の出入り口とまったく同じモノだった。

 そして、その灰色の壁が動き出す。――そこに現れたのは光る二つの眼球。

「イリア、どけっ」 以龍はイリアを押しのけ、照明魔法のカードを現れた眼球に投げつける。

 照明カードはその何かに当たって砕け散る。――砕け散る前に照明が照らし出したのは、巨大な熊の顔だった。

 以龍はその熊に向かって体当たりを仕掛ける。顔から先に洞穴に入ってきた熊は、爪を洞穴の中に入れることが出来ない。体当たりにひるんで熊は洞穴から一歩下がった。

 その隙に以龍とイリアは洞穴から脱出する。

「渚さん、気をつけてください。グリズリーです」

「わかってる」

 グリズリーの大きさは予想していたより少々大きかった。体長は二メートル半近くはある。巣に帰るのを邪魔されてかなり気がたっているようだ。

 グリズリーが雄たけびを上げる。――だが、以龍はすでに剣を抜いてグリズリーに斬りかかっていた。

 雄たけびを上げる際に威嚇動作をしたため、グリズリーの腹部は無防備となっている。そこへ以龍がバスタードソードで攻撃を仕掛ける。

 だがそれは致命傷どころかグリズリーの体勢を崩すことすら出来なかった。腹部に横一文字の傷が描かれ、そこから血を吹き上げてもなお、グリズリーはその爪を以龍に対し振り下ろす。

 いかずちの矢が振り下ろすグリズリーの爪を弾いた。放ったのはイリアだ。

 以龍はその隙にグリズリーから距離を取った。

「――悪い」

「いえ。――でも私の魔法じゃあまりダメージは期待できないみたい」

「山で会った雑魚とはここまで強さが違うのか?」

「でも渚さんの攻撃は効いていますよ?」

「そうか……。悪いがちょっと無茶をする、援護を頼む」

「無茶、ですか? ……わかりました」

 グリズリーの腕の痺れが取れ、グリズリーは再び以龍を睨みつける。

 以龍はバスタードソードの先端を土につける。――剣を地面にこすりつけながら、低い体勢でグリズリーに向かっていく。

 振り下ろされるグリズリーの両腕と、振り上げられる以龍のバスタード。――グリズリーに最初につけた横一閃の傷に縦一閃の傷が追加される。だが、剣を振り上げて無防備となった以龍に対し、グリズリーの爪が襲いかかる。左の爪ははずれたが、右の爪は以龍の胸元に爪あとを刻み付けた。

「――っ、まだだぁっ!」 振り上げた剣をさらに振り下ろす。

 気迫の一撃はグリズリーを後方へとのけぞらせた。

「離れてっ」 杖を振り上げ、雷を呼び寄せる。

 杖を振り下ろすと同時に、落雷がグリズリーを襲う。

 グリズリーの身体を雷撃が巡る。――グリズリーはその場に倒れのた打ち回る。

「うぉぉぉぉぉぉぉ――」 以龍がのた打ち回るグリズリーに対し剣を突きおろしにいく。

「! ちょ、渚さん。いまはまだ――」

 グリズリーに剣を突き刺すと同時に、グリズリーの身体を駆け巡っていた雷撃が剣を伝って以龍にも襲いかかってくる。

 しばらくすると、グリズリーはぴくりとも動かなくなった。

「……終わったか」 まだ痺れの残る身体でグリズリーから剣を抜き、剣を振って剣についた血を飛ばす。

「渚さんっ!」 ――グリズリーは倒したはずなのに、なぜかイリアはご立腹のようだった。

「? なに怒ってるんだ? それより、ここの治療を頼めるか?」 そう言って血の垂れる胸元を指差す。

 イリアが以龍の傷ついた胸元に手を当てた。

「……私が怒っているのは、最後の一撃です」 治療の光を放ちながら、イリアは以龍に説教を始める。

「なんであんな無茶をするんですか?」

「無茶はすると言ってあったが?」

「違いますっ。私が言ってるのは、まだ私の魔法がかかっているのになんでとどめを刺しにいったのかって事です。――今の渚さんのダメージは胸元の傷よりも、雷撃の後遺症の方がひどいんですよ?」

「……悪りぃ」

「いいですか? 今度からそんな無茶はしないでくださいね」 回復が終わったのか、治療の光が消える。

 イリアはグリズリーの亡骸に近づく。そして、その亡骸に手の甲のアドベント刻印を触れさせた。

「渚さんも刻印を」

「? それは何の意味があるんだ?」

「ま、まぁ報告みたいなものです。一応、渚さんも同じ事をしてください。そのあと、完了処理をおこないますから」

 以龍もイリアと同じように刻印を亡骸に触れさせる。――刻印が一瞬輝いた。

「じゃあ、完了の処理をしますね」 イリアが自分の刻印を軽くこすると、手の甲の上に光の文字が浮かび始める。

 その文字の一部に触れると、また別の文字が現れる。それはギルドで以龍の刻印を認証した機械を操作しているのと同じように見えた。

 最後に確認らしきの文字に触れると、それと同時にグリズリーの亡骸が光の粒子となって消えていった。

「――さぁ戻りましょうか、渚さん」


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