新しい仲間
――そして、翌日。イリアの疲れもなくなり、四人そろったところで、サレントの事情を改めて説明する事になっていた。
「……ご迷惑をおかけしました」 イリアに対して最初に言った言葉は、誠心誠意の謝罪の言葉だった。
「そんなに気にしなくてもいいですよ。……それより、あなたのお名前聞かせてもらえますか?」
「あ、サレントです。サレント・フィナルと申します」
「サレントちゃんね。私はイリア、よろしくね。――ラビくん、私の言ったとおり、いい娘だったじゃないですか?」
「それより『フィナル』って名前にツッコミはないの?」
「フィナル? そういえばどこかで聞いた名前ですね?」
「は? 姉ちゃん、本気で言ってる?」
「大丈夫、わかっていますよ。サレントちゃんはリネクさんの妹さんなのでしょう?」
「いや……、リネクとは親子らしい」
「え!? 親子、ですか?」
「昨日の以龍さんと同じ反応ですね?」
「だ、だって、リネクさんって、渚さんと同じくらいの歳じゃないですか? とてもサレントちゃんのような娘がいるようには――」
「姉ちゃん。おいらたちも昨日、その質問で本題に入るのが遅れたんだ。だから姉ちゃん、そろそろ本題に移ろうよ?」
「本題、ですか?」
「ああ。昨日に話したことだ」
サレントの口からリネクとの関係が明かされた後、いくつか意味のない質問が繰り返された。――そして、ようやく本題に取りかかる。なぜ、以龍に斬りかかったのかと。
「――じゃあ、何で兄ちゃんを襲ったか答えてもらうよ?」
「……以龍さんの背中に竜封剣を見たからです」
「なんで剣を見ただけで斬りかかってくるんだよ?」
「いくらあなたが武器を失ったからって、あの人が竜封剣を貸し出すなんて信じられませんよ?」
「だから、リネクじゃない者がこの剣を持っていたから襲ってきたと?」
「とっさに思い浮かぶのは『不正な手段で手に入れたのでは?』という考えしかありませんでした」
「それで返り討ちにあって気を失われちゃ世話ないよ?」
「まさかあなたのような人からあの人の名前が出てくるとは思いもよりませんでしたから」
「……リネクの名を聞いて動揺したんだな?」
「動揺しなかったとしても、お前は兄ちゃんに負けていたよ」
「……いや、まともにやりあえば俺が負けていた」
「!? ……正直、驚きました。力の差を認めるなんて」
「残念ながら、俺にはディライトとかいう能力はないからな」
「何言ってるんだよ、兄ちゃんにはドラゴンバクを一撃で仕留めたあの力があるじゃないか」
「ドラゴンバクを、仕留めた? あなた、何言ってるの? ドラゴンバクが相手じゃ、ハイクラスでさえ命からがら逃げだすのがやっとだって言うのに、ノーマルのあなた達がドラゴンバクに遭遇して無事でいられるわけがないじゃない?」
「なんだよ? おいらが嘘を言ってるとでもいうのかよ? 証拠ならあるんだぞ?」 そういって刻印に手を当てる。
「……だったら見せてもらえる? その、証拠ってのを?」
ラビッシュは刻印のメニューを映し出し、戦闘記録映像の項目を選択する。
「またあの映像を流すのか……」
「だってぇ。こいつがおいらを嘘つき呼ばわりするんだよぉ?」
「わかったわかった。だからそんな声をだすな」
――映像が流れはじめる。イリアとラビッシュが逃亡をあきらめ、死を覚悟した場面から、以龍が冷たい瞳で目覚め、ドラゴンバクを消滅させる場面までが映し出される。
「カオス、ディライト? ――なんで、ノーマルのあなたが?」
「……あれは俺の力じゃないんだ」
「どういうこと?」
「……兄ちゃんは昔の記憶がないらしいんだ。いまわかっているのは、リネク兄ちゃんが昔の仲間だったってくらいで――」
「! もしかしてあなた、エターニアなの?」
「……ああ、そうらしい。だが、今の俺は記憶も力もなくしている。昔の俺が何者なのかを聞かれても答えようがない」
「お前はエターニアについてなにか知っているのか?」
「……詳しくは知りません。ただ、この世界の管理を任されているという噂は聞いた事があります」
「世界!? また、ずいぶんと大きな話だな?」
「だから、あくまで噂です」
「……世界の管理者、ねぇ。その噂が本当だとすれば、俺はとんでもない人物だったってことになるな?」
「そう? エターニアってリネクの兄ちゃんやシフラスって兄ちゃんたちのことなんだろ? とても想像がつかないよ」
「……以龍さん、ひとつお聞きしてよろしいですか?」
「俺に? 答えられることは少ないと思うぜ?」
「答えられればお願いします。――あの人の連絡先はご存知なのですか?」
「連絡先? ……悪いが知らないな」
「あれ? 兄ちゃんってたしかリネク兄ちゃんからメッセージを受け取ったって言ってなかった? だったら、連絡先はわかるんじゃないの?」
「……もしかして、お聞きしてはいけない事でしたか?」
「いや、別に口止めされているわけじゃないから教えても問題はないと思うんだが……」 そういって刻印を操作し、メッセージのメニューを開けてみる。
『禁則事項です。レベルの低い方にこの情報は開示できません』
「――ま、こういうことだ。つまり、俺が力を取り戻さない限りリネクに連絡を入れることは出来ないんだ」
「……そうですか」
「――なぁ? もしかしてリネクの兄ちゃんになにか用でもあるのか?」
「用ってほどではないのですが、伝えたい事があるんです。――以龍さん、もしよろしければ私をあなたたちに同行させていただけませんか?」
「なっ!? お前、おいらたちについてくるって言うのかよ? 兄ちゃん、こいつは兄ちゃんを襲ってきたんだよ? つれていくなんて言わないよね?」
「……その誤解はもう解けているだろ?」
「じゃあ――」
「――だが、早くリネクに会いたいのであれば、俺たちについてこない方がいい」
「……それはどういう意味です?」
「……ギルテで俺はリネクの元に来ないか誘われた。だが、俺はそれを断ったんだ」
「へへ。おいらを選んでくれたんだ」
「あなたじゃなくて、私の治療をしてくれたあの人でしょう?」
「……まあ、それもあるとだけ言っておこう」
「おお。意味深発言」
「あなたは話の腰を折らないで」
「だから、俺の方からリネクに会いに行く事はない。力を取り戻し、竜封剣を返しに行く事になれば話は別だがな。――そういうわけだ。リネクに会いたいなら俺たちと行動しない方がいい」
「……私の用件が急ぎではないものだとしたら?」
「? お前はリネクの兄ちゃんに伝言があるんじゃないのかよ?」
「……伝える内容はもう三年も前の出来事なのです。ただ、どんな形であれ耳に入れてもらえればいい内容なんです」
「もしかして、三年以上もリネク兄ちゃんを探しているのか?」
「旅先でもし出会ったのならば、伝えようとしていることです。あの人を探す目的で旅はしていません」
そう言いながらサレントは、部屋の隅に置かれている自分の剣に手を伸ばした。
あの状況からそのまま回収してきたので、剣は刃の崩れた鞭剣ままだった。
「あ、悪いな。その剣の戻し方がわからなかったんで、そのまま置いていた」
刃を下に向け、剣の取っ手を高く上げる。刃が真っ直ぐになったところで取っ手にある小さなレバーを上げると、鞭剣は普通の剣の形で固定された。
「なんなんだ、その剣は?」
「この剣は『ドラゴンテイル』。取っ手のレバーを操作することで、鞭状に変化する特殊剣です」
「特殊剣って……、そんな剣どこで売ってたんだよ?」
「私はあの人から竜封剣を託されるほどの人物であるあなたに興味があるんです。お願いします、決して足手まといにはなりませんから」
「……兄ちゃん、どうするの? 確かにこいつ、腕はいいみたいだし」
「――わかった。そこまで言うなら一緒に行こう。ただ、一つだけお願いを聞いてくれるか?」
「なんでしょう?」
「ラビとは仲良くしてくれよ」




