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凍土の国フロエシア


「本当ですか!?」

 イザベルが声を上げて、ホワイトデイに詰め寄る。

 その瞳には希望と歓喜が住んでおり、先程まで涙で赤くなっていた目はそこには無かった。

「はい。フロエシアなら、セナさんの目は治ります」

「〜〜!!聞いた!?セナ、目が治るわよ!!」

「う、うん」

 ぐわんぐわんと肩を揺らすイザベルに、されるがままのセナは苦笑を浮かべてしまう。

「良かった・・・。でも、なんでフロエシア?」

「フロエシアは治癒の魔法が発展した国です。その中でフロエシアの女王、リュシエ様はその中でも随一の治癒師」

 魔力の法典に載っている治癒魔法のほとんどは凍土の国フロエシアが残した遺産であり、それは大昔から改良される事なく、残り続けている。

 そして、そんな国の頂点。

 リュシエ・レディア・フロエシアの治癒魔法はホワイトデイも舌を巻く程のものだ。

「目を治した前例もあります。安心して下さいね」

「セナ〜っ!!よ゙かっ゙たぁ゙ぁ゙ぁ゙」

「よしよし・・・。ありがとうございます、ホワイトデイさん。安心しました」

 泣きじゃくるイザベルの頭を撫でながら、それを伝えてくれたホワイトデイに感謝を残すセナ。

「出発は速めにしたいのですが・・・大丈夫ですか?」

「明日です」

「・・・治療は、すぐに終わりますか?」

「ふむ、恐らく・・・。3週間は必要ですかね」

 その言葉を聞いてイザベルの肩が反応する。

 だって、夏期の長期休暇、詳しくいえばイザベルが実家に帰省する時期と被っている。

 セナと遊ぶと約束した日程と、丸かぶりしている。

「夏期休暇が潰れちゃう・・・。ホワイトデイさん、休暇が終わってからでも、いいですか?」

「セナ!?」

「何か約束が?」

「あ、ぅ・・・」

「そうでしたか・・・。言いづらいのですが、今のセナさんの瞳は、薬草で誤魔化してる状態です。この学園の治癒師が言うには・・・腐るのも時間の問題です」

 かなり深くまで抉られ、人狼の不衛生な爪が瞳というデリケートな部分を傷つけたのだ。

「──セナ!フロエシアに、行くべきよ!!」

「え、でも」

「私との予定はまたいつかがあるわ!でも、貴女の目にいつかは無いの!!」

 一瞬気落ちしたが、最も大切なのはセナの体調だ。

 腐ると言われてしまった以上、イザベルの約束が二の次になるのは当然。

「・・・わかった。ごめんね、イザベル」

「もうっ、謝らないの。また、元気な姿を見せてね」

「うんっ」

「──じゃ、私はそろそろお暇しようかしら!それじゃあセナ、新学期、待ってるわよ!」

 イザベルは嬉しそうにセナの部屋を後にした。

 そして、ここに残ったのはホワイトデイ、セナ、そして悪魔であり魔王のミラ。

「ホワイトデイ。それだけでは無いだろう」

「・・・静かだと思ったら、急に喋るんですから」

「貴様とは違い、我は空気が読めるのだ、ほら、話せ、他に何を企んでる」

 ぐるぐるとしつこくホワイトデイの周りを回って煽るミラ。その態度に青筋を浮かべながら、ホワイトデイは答える。

「はぁ、襲撃してきた悪魔達の目的。ミラ、貴方は分かりますよね」

「セナだろう」

「そうです。今の状態のセナさんが、襲撃によって慌てふためている学園にいれば、今度は助からないかもしれません」

 今回は運が良かった、でもその幸運が続くとは限らない。現に今、この学園には戦える者がいても、守るべき子供達が沢山いるのだ。

「それで、フロエシアに行かせてセナの存在を隠すわけか。上手くいくのか?」

「知りませんよ、今出来うる最善の手です。目の事もあるし、これが最適解なんです」

 それに、とホワイトデイは続ける。

「なんと、今フロエシアにはですね?優秀な私の教え子、アニ・ラプラスさんと、豪傑と呼ばれたガイア・エバーテイルさんがいますからね!」

「え!?そうなんですか!!!」

「わ、びっくりしました・・・」

 今まで沈黙を貫いていたセナが、ガイア・エバーテイルの名前を聞いて嬉しそうに食いついた。

「ど、どうしました?」

「ガイアとやらに憧れてるんだ。こいつ」

「・・・ああ。魔法と武力を同時に扱うから──、ええ?でも・・・、うーん、憧れるのは少し・・・」

 どこか言葉を濁し続けるホワイトデイだったが、何に憧れるかはその子の自由だと割り切った。

「まぁ、良いと・・・思いますよ」

「何故、遠い目をしている」

「具合悪いんですか?」

「イイエ・・・」

 ひとまず、伝える事は済んだ。ホワイトデイは椅子から降りて、セナの頭を撫でた。

「今回の事件、よく頑張りましたね」

「は、はい」

「では、私もそろそろ行きますね。セナさんの荷物はこちらで用意しますので、今日はゆっくりとお休み下さいね」

「はぁ〜い」

「では、また明日」

 パタリ、とホワイトデイらしく静かに閉じたドアを、セナとミラは見つめていた。


「ミラって、フロエシアには行った事あるの?」

 そして始まるのはセナの暇つぶし。

 休めと言われても、沢山寝てしまったしご飯だって食べてしまった。視界が塞がれている分、勉強だって出来ない。

「ないな。あんな所、行っても何も無いぞ」

「そうなんだ?」

「まぁそれも昔の話だ。今は変わっているかもな」

「へぇ〜、ふわぁ〜」

 眠くはないけど、欠伸が漏れてしまう。思ってた以上に、身体は疲れているのだろうか。

「おい、セナ」

「ん?」

「口を開けろ」

「んー?・・・あー」

 突如、ミラはそんな事を言い出した。口の中、というより、そこにある歯が気になった。

「お前、そんなに歯が鋭かったか?」

「え?・・・確かに、ちょっと噛み合わせ悪かったかも」

 犬歯が、かなり鋭い物となっていた。

 食事をしていた時、上手く食べ物を噛めないなと思ったのはこのせいだったのか。

「体調に変化はないのか?」

「無いよ」

「そうか」

 どこか不審に思いながらも、気にしても仕方ないと思ったミラはそれ以上言及する事は無かった。

 そして、セナが眠くなるまでお喋りの相手を務めるのだった。

 

 

 

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