後味が残る2人。
襲撃事件から1日が経った。
あの後、ミラは魂の状態に戻ってホワイトデイへと報告、無事にアーバンとセナ、そしてイザベルは誰1人欠けることなく、事なきを得た。
人数的に見れば、完全勝利だ。けれど、代償はもちろん、ある。
アーバンは数日はまともに動けないと申告され、セナは視覚を失った。
命からがら生き延びたというのに、素直に喜べないのは誰もが思う事だろう。
そしてそれは、セナの部屋へと向かっていくイザベルも同じ気持ちだった。
「ふぅ──、よし」
学園は1週間近く休校になった、悪魔の襲撃を許した事により、学園の警備を今一度見直すための時間だった。
それを利用して、大半の生徒が実家に帰省した。
「セナ〜、いるー?」
「いるよー」
コンコンとノックをして、イザベルは部屋の中で安静にしてるセナを呼びかける。
「入っていい?」
「うん、鍵は空いてる」
不用心過ぎると呆れながらも、イザベルはこの扉を開いて、ベッドで横になっている友達を見つける。
「お邪魔します」
「いらっしゃい」
セナの部屋は、とても綺麗な部屋だった。机には魔法の本が重なっていて、訓練用の剣と支給で貰った銀のナイフがセットで置かれていた。
「体調はどう?」
「元気だよ。イザベルは?」
「・・・私も元気よ」
目を包帯でぐるぐる巻きにされているセナは、イザベルが目を背けたくなる程に痛々しかった。
何よりも辛いのは、セナがそれを大きく思っていないのが酷だった。
「元気だけど、退屈かな。勉強できないし、魔法の授業、みんなとちょっと遅れちゃう」
ちょっと所の話ではないだろう。
「・・・イザベル?」
「ぐす、うっ、んー?」
「泣いてるの・・・?」
「ごめんね──、セナが、1番、辛いのに・・・」
自分が泣いてどうするのか、今辛いのは誰でもなくてセナだというのに。
「大丈夫・・・?」
セナはイザベルの頭を撫でた。少しぎこちないその手つきは、普段撫でる事に慣れていないセナの手だった。
「ふふ、こうやってイザベルを撫でるの新鮮だね」
楽しそうにイザベルの頭を撫で続けるセナは、本当に失明の事をなんとも思ってなさそうだった。
この子にとっての辛い事は一体なんなのだろうか、とイザベルは考えてしまう。
「アーバンは、大丈夫なの?」
「ええ。数日は安静にしてろって言われてたわよ、本人は鍛錬したいと悲しそうだったわね」
「あはは、アーバンらしいね」
「・・・ねぇ、セナ?」
セナの撫でる手が止まる、いや、イザベルが止めたのだ。その冷たい手を取って、必死に暖めようと指を絡ませて、握る。
「なに?」
「セナは・・・悪魔に憑かれてるの?」
「──うん」
握ったり、緩めたりしていた手の動きが止まる。また、泣き出してしまいそうで、我慢しないと溢れてしまいそうだった。
「ごめんね。ミラ・・・、私に憑いてる悪魔から聞いた、イザベルは、その、悪魔が憎いんだよね」
「──ええ」
街を焼き払い日常と兄という存在を奪ったのは、紛れもなく悪魔だった。イザベルが憎しみにかられるのも当然の顛末だった。
「わ、悪い悪魔じゃないの。あ、いや、人は殺してるんだけど・・・」
必死にミラを弁明しようとしても、セナには叶わなかった。
──人を殺した数ならセナの方が多いから。
「ミラさんは、人間を4人しか殺してないのよね」
「・・・うん」
「──、すぅ、はぁ〜」
「イ、イザベル?」
唐突に行われる深呼吸にセナは困惑する、何度か繰り返しているうちに、覚悟を決めたイザベルは問うた。
「セナは・・・何人、殺したの?」
「──っ!!」
「教えて」
覚悟がのった人の顔だった。視界の無いセナは、それを知る事はないが、声色の鋭さに萎縮する。
聞いてきたのだ、セナが抱えている傷の理由を。
「そ、れは・・・」
「セナ・・・お願い」
死の香りに包まれたセナの事を、イザベルは知らなければいけないと思った。セナは、理解せずとも傷を忘れられる存在を友達と言った。
けれど、イザベルの友達はそうじゃない。
「セナ、話せ」
ミラがそう言い放った。いやだ、そんなの出来るわけない。嫌われるに決まってる。
「イザベルは悪魔の事を知りたいのではない、お前という友を知りたいのだ」
「・・・」
「あ、あの。悪魔、さん、ありがとう、ございました」
「ああ」
「それと」
「ん?」
それはミラが魂に戻る直前だった。
イザベルは少しだけ恐怖に怯えながらも、助けてくれた悪魔にお礼を言った。
「セナは・・・何者なんですか?」
「──臆病者め」
「んなっ」
「自分で聞け」
ミラは知っている。イザベルは臆病であり、人の痛みを自分の痛みとして抱えてしまう人間だと。
どこかのお人好しの勇者と、どこか似ていた。
「お前の友情を押し通すな、イザベルの友情も理解してやれ」
「・・・私、は」
「うん」
セナの手は震えている、握りしめているイザベルにはその感触が伝わっている。
怖いのは、イザベルも一緒だ。
「──97、人」
「・・・」
静寂が訪れる、セナの言葉は文字通り空気を切り裂ける程に残酷な言葉だった。
「レ、レヴァーティアで、奴隷だったの。それで、闘技場で、沢山、殺した」
セナは止まる事なく、全てを吐き出した。
何も知らなかったこと、死という概念すら自分には無かった事、何度も酷い言葉を使って力を貰っていた事。
「私、そんな人間だよ・・・。イザベルが思ってる程、綺麗な人じゃないの──っ」
「そうね・・・」
「ごめんね、黙ってて・・・」
セナの手が離れる、イザベルに伝わっていた冷たさは消えて、2人にあったのは間だった。
「イザベルの優しさに、私は甘えてたの・・・。本当は、誰かを、人と友達になる資格なんて無いのは、私なの・・・っ」
「セナ・・・」
イザベルはずっと明るかった。
それをセナは、暖かいと思っていた。
優しくて、日向の様な優しい温度にずっと寄り添ってしまっていた。
ズルをして、優しいイザベルの隣に立ち続けた。
「アーバンと、アルマデルの隣に立つ資格だって無い。私はずっと・・・臆病だったの」
包帯が涙で滲んでしまっていた。
滲んで、セナの涙が包帯から溢れた。
「甘えてごめんね・・・、嬉しいと思って、ごめんね・・・。私は──」
その先は、言えなかった。
セナの唇に、何かが触れたから。
「んむ・・・っ」
「──、その先は言わないの」
唇が離れた、何に塞がれていたのかセナにはわからない、ただあったのはイザベルの優しい声色と、抱擁だった。
「そんな貴女が、私は大好きよ。セナ」
「イザ・・・ベル・・・?」
「97人も殺したって貴女はちゃんと覚えてる。貴女はちゃんと人なのよ」
「ほ、んと・・・?」
「そう。過去は過去よ、忘れて当然の物。でも、貴女はちゃんと覚えてる。どうやって殺したのかも、覚えてる。最期の顔も、覚えてる」
セナは死を知らないと思っていた。けれど、違うのだ
どうにかその死に触れようと、頑張って手を伸ばし続けたのだ。
知らないなりに、分からないなりに、この傷を抱えて今を生きてきたのだ。
そんな必死な少女を、誰が責める事が出来ようか。
「私達は友達よ。アーバンも、アルマデルも、もちろん私も、貴女の過去を受け入れる人達よ」
「私・・・、まだ友達でいいの?」
「ええ。もちろん、私達は・・・ずっと一緒!」
本当の悪は、何も知らないままでいる事だ。けれどこの子は、己の中の悪に気付いたのだ。
「どんな貴女でも、私はずっと大好きよ」
「──ありがとう・・・っ」
傷を忘れられる友達であり、傷を抱きしめられる友達でありたい。
それが、イザベルにとっての友達だった。
「あらあら、友情というのはなんと綺麗なんでしょう」
「きゃぁぁぁ!?」
優しい声色が聞こえてきた、それがホワイトデイの物だとセナはすぐにわかった。
「な、ななな、なんでここにホワイトデイ様!?」
「セナさんに用があったので、ふふふ」
「・・・あの、どこから見てたんですか?」
「1番美味しいところを見てしまいました」
「〜〜〜ッッ!!!」
今にもイザベルは逃げ出したい気持ちに駆られたけど、それが叶わない、ぎゅっとセナがイザベルの袖を掴んでいた。
「──イザベル?」
「あら〜」
「ち、あ、のいや違くて・・・」
「大丈夫ですよ。そういうのもありますよ、私はちゃんと秘密にする人間ですよ」
「勘弁して下さい・・・」
その場に座り込むしか、イザベルには出来なかった。
これで一応、一幕の終わりを迎えました。次の舞台はどこでしょうかね〜、楽しみですね〜。
後書きという場ですが、ひとまずここまで見てくれた皆様に感謝を伝えたいです。ありがとうございます。
毎日PVが伸びないな〜なんて思っていると同時に、一桁でも見てくれる人がいると人ってここまで頑張れるんですね、すげぇや。
それと、ブクマとリアクション、評価を付けてくれた人、とてもモチベーションになっています。大好き。
これからの投稿頻度なのですが、相も変わらず不定期で、貯めていた分を出すと思います、本当にごめんなさい。理想は3個ずつ出したいんですけど、一旦の区切りまで書きたい衝動に駆られて、いつもこんなんになってしまいます、本当に時間を頂いてしまい、申し訳ございません。
そんな私の作品ですが、これからも楽しんでいたたげると幸いです。
(キャラにどんな印象があったかとか、ストーリーの構成についてコメントしてくれたら嬉しいですっ!もちろん、誤字脱字、その言葉の意味ちげぇよ馬鹿。でも嬉しく思いますっ!)




