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学園襲撃 九


「イザベル・ステイン。そこの2人を見てろ」

「え?」

「あと離れろ、邪魔だ」

 簡素な二言がイザベルに向けられる、それに抵抗する意思はなく、言われるがままイザベルはセナとアーバンを抱えて、距離を取った。

「何、あの子・・・セナとそっくり」

 アーバンの身体の穴を塞いで、セナの背中を撫でるイザベル。目の前で行われる戦いに、目が離せないでいた。



「さて、まずは聞こう。なんの用だ?青二才」

「随分な挨拶だなぁ、俺達は仲間じゃないか?」

「面白い事を言うな?死際の言葉にしては随分と間抜けだ」

 まず始まったのは舌戦だった。

 互いに腹の底を探るのではなく、どのようにして嘲笑うかを探し合っている。性格の悪い悪魔らしい戦いだった。

「ひど、人間に負けた癖してよくそんな偉そうにモノが言えるな」

「ダメか?それよりも下等なお前には充分な態度だったが」

「・・・言うね。魂だけの存在が」

「今からお前もなるのだ。あぁ、違ったな。お前は魂すら残らん、先にあるのは暗闇だ」

 その言葉を皮切りに、辺りの重圧が更に重さを増した。

 悪魔の魔力が、解き放たれた合図だった。

「あははは、流石は魔王様だね。魂だけなのに、偉ぶった態度は相変わらずだ」

「相変わらず?我を知った様な口ぶりだな、下を見る機会がないのでお前の事など知らんが」

「[君に飛ぶ斬鉄(リッジ・シュバルツ)]」

 先程の魔法だった。

 魔法陣から剣が現れて、射出されていく。しかし、先ほどとは違う所がある。

「なんて量なの・・・!」

 イザベルはその数に圧倒される、せめて出来るのは2人に覆い被さって、当たらない様に守る事。

「うぐっ!?」

 一本がイザベルの背中に当たった、そう。当たった。

 ──刺さる事がない。


「無様な魔法だ」

「なんだと・・・?」

 その様子を一瞥したミラは、吐き捨てる様に悪魔の魔法を嘲笑った。

 ミラの周りに剣が落ちて、消えていく。

「ダメだな。貴様、その程度で我に勝つつもりか?」

「ちっ・・・、人間に負けた悪魔が、俺を侮辱すんじゃねぇ──ッ」

「したくもなる。その次元で我に致命所はおろか、傷を与えれると思っている時点でお粗末だ」

「黙れっ!!」

 また剣の魔法が発動される、今度は空中にではなく地面から生えて、ミラへと向かっていく。

「・・・はっ、必死だな」

「なん──、で」

 剣はミラに向かっていくも、その推進力は失われてまた地面に落ちていく。

 

「イザベル・ステイン」

「え、な、なに・・・」

「お前の復讐は我が頂く。その詫びとして、今から我の本気を見せてやろう」

「え──?」

 ミラが実体を得たのは、何よりもイザベルへの礼節だった。

 魂のままでも、目の前の悪魔は殺せる。しかし、それはミラのプライドが許さなかった。

「は、はは、人に負けた悪魔が・・・。俺に勝てるだと?」

「逆に聞こう、お前。どうやって我に勝つのだ?」

「黙れ・・・。コケにしやがってッ!!」

 怒りに震えるが、悪魔の対抗手段はひとつもない。

 自分の持つ絶対が、目の前の相手に通用しない、それ即ち、己の限界を突きつけられているのだ。

「魔法使いの原則を知らぬから、恥を掻くのだ」

「なんだと・・・」

 どうやら本当に知らないのか、悪魔は顔を歪めている。

 いや、知らないのも当然だった。なぜなら、この悪魔は上見ないで、ずっと、下を見ていたのだから。

「魔法耐性」

「は・・・?」

「この絶対がある限りお前は我はおろか」

 ミラは指を指す、その対象は・・・イザベル

「イザベル・ステインにすら、魔法が届かぬ」

「んな──、なんだと!?」

「わ、私にも・・・?」

 ミラは魔法陣で地面から玉座を作り出して、そこへ座った。戦いの場だというのに、分かりやすく説明しようと頭を捻る。

「魔法への耐性は、その生物が持つ魔力量によって決まる。いいか?魔力というのは液体だ」

 ミラは手遊びで魔力を浮かべる、ホワホワと白いモヤが宙を漂っている。

「謂わば、水の掛け合い。魔法で傷をつけたいなら、相対する存在が持つ魔力の絶対量を超えねばならん」

 そのモヤが、小さいナイフの形となって飛んでいく。

 イザベルに。

 

「──っ!?」

 頬を掠めて、血が垂れる。


「諦めろ。お前は弱い」

「・・・ッ、[君に飛ぶ斬鉄]」

「はぁ・・・。[破戒の叡智(ア=クタ)]」

 100にも並んだ魔法陣が一瞬にして壊されていく。

 それはまるで花火の様で、イザベルは綺麗な光景に目を奪われた。

「そして、お前が何よりも劣っている理由は、真理から程遠いからだ」

 空気が剣呑を孕み始める、まるで全ての空気がミラの指先に集積している様な感覚だった。

「あの召喚、お前のではないな」

「は、ははは、それが、なんだってんだよ」

「いや?我には関係のない事だ」


 そして出来上がったのは、一本の剣だった。

「見よ、これは我を負かした人間の剣だ。神々しいと思わんか?」

「はっ、それがなんだよ。ただの剣だ、俺のと変わらない」

「若いな・・・。確かに、お前は人を沢山殺した存在だ、人からすれば恐怖の対象になり得るだろう」

「そうだ、お前とは違うんだ・・・。知ってるぜ、お前は人間を4人しか殺してない最弱な悪魔だってな」

 悪魔の目に活力が戻る、己の自信を取り戻したのか、それを誇り始めた。

「俺は1000人近く殺した!!何度も街の襲撃に同行して、悪魔の世の一歩に貢献したんだ!!」

「殺した蟻の数を覚えているのか、律儀なやつだ」

「人に負けたカスが!!俺を舐めんじゃねぇ!!」

「死の重みを知らぬ悪魔よ。学習の機会を与えてやろう」


「「[君に飛ぶ斬鉄(リッジ・シュバルツ)]」」


 互いに同じ魔法が放たれる。

 千の刃が、嵐の様に向かっていく。ミラはそれを少し面白そうに笑って見つめて、己が創り上げた真理の剣を嵐に向ける。


 飛んでいく。風に流れない矢になって──。


「が、は──!!?」

「輪廻の先、揺れる籠の中で今は眠れ」

「ま、まて!!まって──!!」

「そしてまた、果てで出会おう。我が子供」


 それは、優しい封印の歌だった──。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

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