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学園襲撃 八


「この量・・・」

「ホワイトデイ様!──きゃっ!!」

 骸骨兵がアルマデルに切り掛かろうと剣を振り上げるも、それよりも速くホワイトデイの氷槍が骸骨を貫いた。

「──なるほど、骸骨兵というのは厄介ですね」

 何度倒しても蘇ってくる亡者達に、ホワイトデイは顔を顰める。

[切り裂く烈風(エール・スウェイプ)]!」

 アルマデルも足を引っ張らない様、骸骨兵を何度も倒している。その度に起き上がってくるから、厄介でしかないだろう。

 氷で閉じこめてもまた新しい骸骨兵が召喚される。そして、氷を残しておけば屋上という狭さでは、それは返って邪魔になる。

「・・・面倒です」

「ホワイトデイ様、ここは私が」

 アルマデルの烈風がまた1体を吹き飛ばす。

 何度も魔法を発動させているのに、そこには疲れもなければ魔力消費により気怠さも感じさせない。

「セナ達が、危ない目に遭っているんですよね。だから、ホワイトデイ様は森へ行ってください」

 立派な魔法使いだ、その能力もさることながら、その覚悟を頼もしく思ってしまう。

「──私は、なんて愚かな教師なのでしょうね」

「え?」

 頼もしく思っては駄目なのだ、ホワイトデイは少し自傷気味に笑って、アルマデルの頭を撫でた。

「大丈夫です。私はここにいますよ」

「し、しかし!!」

 赤い結界はもうない、魔法は充分に扱える。

 理想体現を使うのは無しだ、無尽蔵に近い魔力を持つホワイトデイでも、何度も連発してはすぐにガス欠になる。

「私の役割は、貴女を守る事です。アルマデルさん」

 そもそも、この場に連れて来たのはホワイトデイだ、本物の魔法使い同士の戦いを見せ様としたのだが、それが仇になった、そのツケが回って来ている。

 これは、ホワイトデイの傲慢さが招いた結末だった。

「セナ達は──」

「それなら、大丈夫です。やっと・・・起きたみたいですから」

「え?」


 ホワイトデイは空を見る、もうそろそろ夜が明けそうだった。



「凄い形相だね。俺に恨みでもあるのかな」

「──ッ」

 あまりにも軽薄、ローブに手を突っ込んで、こと無しげに微笑んでいる。

 その貼り付けた様な笑みが、イザベルの神経を逆撫でる。

「ヘルサス。貴方、この名前に聞き覚えはあるかしら」

「んー?無いけど」

「・・・私が、住んでいた街よ」

「いや、知らないって。街は何度も襲撃したし、ひとつひとつの名前なんて覚えてないし、俺らが知る理由もないでしょ?」

 その言葉に、イザベルの中にある何かが切れた。

「ふざけるなッッ!!貴方は、いくつもの命を奪って、私の・・・私の兄を殺した!!」

「それで?」

「──は?」

「まず言いたいんだけど、君の兄とか言われても知らないけど、ま、そこはいいか・・・。俺が、その兄を殺して恨まれる理由はどこにあんのさ」

 何を言っているのか。

 本当に、まるで何も分かっていないかの様に、眉を下げている目の前の悪魔は何を言っているんだ?

「死んだのは、弱いからでしょ?」

「本気で、言ってるの・・・?」

 信じられない、吐き気を催す邪悪とは正にこの事だった。

 恐怖と怒りが混濁した感情に、イザベルは震えてしまう。

「──と、君と話してる場合じゃないんだよ。そこで血を吐いて気絶してる子、渡してくれない?」

 悪魔が指差したのは倒れているセナだった、黒い血は吐き終わったのか、今は眠る様に気絶している。

「ダメ、だ・・・イザベル」

「あれ、そっちの男の子は生きてるんだ。しぶといねぇ」

「アーバン・・・」

「君が、悪魔を、恨んでいるのは知っている。けど、セナは・・・」

 そう言いかけて、アーバンも眠ってしまった。

 冷や汗が垂れる、時間が・・・無い。

「──あ、そうだ。じゃあこうしよう?俺にその灰色を渡してくれたら、すぐにここから手を引こう。約束だ」

「ふざけないで、誰がそんな戯言を信じるの」

「悪魔にとって契約は絶対だ。ま、信じるかどうかは、君次第だけど」

 今、イザベルは天秤で揺れている。そんな事してはいけないと分かっている、けれどこれは、人間として当たり前の機能だった。

 悪魔を孕んだ少女と、今にも死にかけている人間。

 ──どちらも、イザベルにとって大切な人だ。

 

「・・・アーバン、もう少し耐えてね」

 一歩、前に出る。

 震えを誤魔化し、それでも。勇気をくれたこの2人を失いたくない。

「へぇ、君、悪魔が憎いんだろ?そっちの子、悪魔に心蝕されてるんだよ?」

「うるさい」

 正しさとか、そんなのはどうだっていい。

 これは選択ではない、ずっとイザベルの中にあった一本の道だった。

「渡さない、逃げない。私は・・・この道を進むだけ」

 構える、握るのに慣れた細剣の剣先は揺れている。

「今度は・・・私の番よ」

 共に進もう、背中を見るだけの私とは今、ここで決別する。

 ──勇気を持つのよ。・・・イザベル・ステイン。


「来い、悪魔」

「交渉は、決裂・・・か」

 愚かだな〜、なんて思いながら悪魔は口を開いた。

 

「リベグ、ユスア、ダーヘン、ロゴス」

 

「・・・っ!」

 魔法が来ると、直感が告げた。周りの森達がざわついた様が気がする。

「[君に飛ぶ斬鉄(リッジ・シュバルツ)]」

 魔法陣が展開されていく、数は10個。

 そこから新芽のように剣の剣先が現れて、その1個が射出された。

「──はぁっ!」

 力のまま、イザベルは剣のを振り抜いた。

 バリーンというガラスが割れたような音と共に、剣は砕け散る。

「へぇ、やるね。じゃ、どんどん行こう」

「っ、んのっ!!」

 3個、4個、12個とイザベルの元に飛んでいく剣達をイザベルは、後ろで倒れているセナとアーバンに飛び散らぬ様に、弾き続ける。

「・・・そうか」

「ぁ──、うぐっ!!」

「おっ、やっと命中・・・」

「かは・・・ッ、けほ、かほ」

 捌き切れなかった剣が、イザベルの腹部へと刺さった。

 しかしそれは、身体のそこを貫く程ではなかった。剣ではなく、拳で殴られたかの様な衝撃のみが走った。

「──なんで剣士なんかやってんだ?」

「けは、ごほ・・・」

「まぁいい。それなら、俺自ら、お前を殺せば良いだけだ」

「しまっ──」

 息を整えているほんの一瞬の油断だった。

 突然の突風に、意識を引き戻したイザベルの目前に迫らんとした悪魔は、腕に力を込めて手突でイザベルの腹を貫かんとする──。

「・・・あらら、来ちゃった」

 直前で立ち止まり、詰めていた距離を無駄にするかの様に後ろへと下がっていく。


「起きちゃったか、ま、こんだけ派手にやったら当然だよね」

「な、なに・・・?」

「にしても、あんなに強大だったあんたが、そこまで小さくなるなんてね」

 独り言を話し始める悪魔に、イザベルは困惑してしまう。

「とりあえず、名を名乗るよ。俺は・・・興味ないだって?」

「だ、誰と話してるの!?」

 

 その瞬間、夜明け直前の空に闇が広がった。


「全く、そこにいる我が依代は、ホワイトデイの忠告を忘れたのか」

「──」

 声が聞こえた、それは、イザベルの目前に広がった闇の結晶から聞こえた残響だった。

 ピリ、と肌が焼けそうになる。身体にある水分が今にも無くなってしまいそうなぐらい、灼ける。

 身体が動かない、辺りの空気を支配するオモリがイザベルを離してくれない。

「──、な、に。これ」

「ひとまず、学園開始まで時間はある。鐘が鳴る前に」

 そして、その闇の結晶から生まれた少女の様な見た目の存在に、イザベルは目を見開く。


「さっさと終わらせるか」


 こちらを振り向いた、セナと瓜二つの謎の存在が辺りを黒く染め上げた存在だと知ったのは、もう少し先の話だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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