学園襲撃 五
「・・・凄い」
アルマデルは開いた口を手で覆って、目の前の景色にただ驚きを隠せない。
白い吐息を溢しながら、空に向かって伸びた氷塊に目を奪われて。
「ま、さか・・・ワシが、一歩も、届かぬとはな・・・」
身体を凍らせ、頭だけが自由になったダドゥは己の弱さと、目の前の強者への賞賛を漏らしていた。
どこか楽しそうなのは、魔法使いとして新しい知見でも獲れたからなのだろうか。
「さて、ほとんど戦闘不能と言っても差し支えありませんね?」
目を淡く光らせながら、宙を漂っていたホワイトデイが地上に降りてくる。
その光景が地を愛する天使の佇まいの様で、より一層、この人間の神秘性に磨きをかけている。
本当に、御伽話から出て来た登場人物みたいだった。
「それで、目的は話してくれないんですか?」
「くはは、無論」
「その気高さには恐れ入りますが、ただ面倒ですね。探し物は見つかりましたか?」
指を指す、ダドゥの眉間に人差し指を向ける。
「!」
「[零の空間]」
ホワイトデイとダドゥを囲う様に、結界が結成される。
音を遮断する結界、これから先話す内容を後ろのアルマデルには聞かせられないのだ。
「魔王の魂。より正確にいえば、その依代」
「気づいていたか」
ケラケラと笑う事に少しの苛立ちを覚えるが、ホワイトデイはいつもの調子を崩さない。
ただ少し、彼女の周りに冷気が立ち込める。
「何故、ここにいると?誰が情報を?」
「・・・。純白の魔女よ、お前は人だ」
「はあ?当然ですが」
「長く生きたのであろう、魔法を扱う者として尊敬すら覚える。ただ、そんなお前はやはり人・・・」
まるで要領を得ない、もう死ぬのみだと云うのにどうしてこうも余裕なのか。
「目的には気づいたが、お前は我ら魔物を過信し過ぎた」
「・・・は?」
「愚か者よ、密音の魔法を使うから、お前は悲劇に気づけぬ」
「──っ!!」
その言葉の意味を知って、ホワイトデイは後ろを振り返る。
なんて事だ、ホワイトデイはすぐさま結界を解いた。
「アルマデルさん!!」
「ほ、ホワイトデイ・・・様っ!!すみません!」
骸骨兵に今も善戦している自分の生徒が、ホワイトデイに謝る。
一度斬られてしまったのか、右腕から血を流している。
「[銀の氷刻]ッッ!」
焦りと怒りのまま、ホワイトデイの独自魔法が骸骨兵に向けられる。
足元に魔法陣が展開され、氷というには金属感が強いトゲが伸び、骸骨兵を次々と突き刺していく。
「アルマデルさん・・・ごめんなさい。無事ですか?」
「はい、ただ腕を斬られただけです」
致命傷は無かったのか、アルマデルは腕を抑えるだけで他に怪我の後は見えなかった。
「・・・私に治癒魔法が使えたら、良かったのですが」
「あ、わ、私使えるので。ホワイトデイ様は、あの魔物に集中してください、聞く事があるんですよね」
なんて聞き分けの良い子なんだろうか、言った通りアルマデルは、自分で治癒魔法を扱って自分の傷を治していた。
「・・・本当にごめんなさい」
今度は、アルマデルを結界で隠す。
また再び、話に夢中で危険に気づかないなんてあってはならない。
「ご忠告、ありがとうございました」
「なに、お前のそんな顔が見れただけでも、お釣りが来ると言えよう」
本当に、今にも殺してしまいたかった。
けれどそうしてはいけない、自分は大切な事を見落としている。
「何故、召喚の魔法が?いつ唱えたんですか」
「いつ?唱えた?ワシは何も喋っておらんし、魔力も扱っていない、それはお前が1番わかってるだろうて」
「じゃあ何故、あなたの魔法が・・・」
「あなたの魔法?はっはっは、歳の割には純粋だな、すぐに言葉を信じる子供の様だ」
ホワイトデイは気づいた。
魔物が魔法を扱える様になった、それは確かに脅威でしかない、その脅威にホワイトデイは頭を引っ張られ過ぎた。
未熟な封魔結界しか展開出来ないのに、命の再現なんて出来るのか?
「この召喚は・・・あなたのでは、ない?」
「はっはっはっ!!!」
笑っているダドゥに魔法を展開する。
「[射てさす氷槍」
氷の槍は、憎たらしい魔法使いを殺した。
頭を貫通した氷は、その先端に黒い血が滴る。
「アルマデルさん、こちらに」
「は、はいっ」
結界を解いて、アルマデルを近くに寄せて、今この場に優秀な程、魔力操作を行える生徒がいて良かった。
「セナさんの魔力を一緒に探してください」
「え?」
「お願いします」
学園の私有地はかなりものだ、ホワイトデイの魔力探知ですら、全てを探すなんて事は難しい。
「わ、わかりました!!」
言われるがまま、アルマデルは何度も触れたセナの魔力を探す。
暖かくて、どこか寂しげな友人の魔力を探すも、集中出来ない。
そもそも、魔力の痕跡が多すぎるし、隣のホワイトデイの魔力が多すぎて自分の魔力が乱れる。
「あ!」
「見つかりましたか!?」
「あ、いえ・・・これはイザベルの」
一際大きい魔力を見つけるが、これはイザベル・ステインの魔力だった。
「イザベル・・・さん?確か剣術科の?」
「はい、何故か森に──ッッ!!」
突然だった。
落雷の様な一瞬、水飛沫の様な一瞬、空を切り裂く流星の様な一瞬。
アルマデルの魔力と、得体の知れない魔力が重なった。
先程のダドゥよりも重たくて、冷や汗が収まらない。
「はっ、あ──、はっ」
「隠すのが上手いですね・・・。アルマデルさん、休んで下さい。森の方に、イザベルさんがいるんですね」
苦しくて、胸を抑える、ホワイトデイの言葉に頷いて、その場に項垂れる、荒い呼吸を数度繰り返して、なんとか意識は保つ。
「無駄に広いんですから、ウチの森は・・・」
悪態をついて、ホワイトデイは意識を森に向ける。
いる筈、この森のどこかにいる筈なんだ。
──悪魔が。




