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学園襲撃 四


 私の住んでいた街は、悪魔の襲撃によって一度、壊滅したといっても差し支えない被害を受けた。

 燃え盛る家、逃げ惑う人々達、いつもあった日常がいとも容易く、悪魔の言葉によって壊されていく。

 怖くて、悔しくて、無力感に襲われた。

「──逃げろ、イザベル」

「兄様っ!!」

 騎士の背中であり、私の前を歩き続けた兄の言葉に、私はただ泣き叫ぶしか出来ない。

「もうじき応援が来る。大丈夫、死にはしない。ただ、時間を稼ぐだけだ」

「やだっ・・・。やだよ!!兄様も、一緒に逃げようよ!!」

「馬鹿言うな」

 ──兄として、この街の騎士として、目を背けるなんて事はしたくないんだ。




「万事休すってやつだ!!そこの2人は使い物にならなくなったぜ〜?なぁ、おい!!」

 豪快な笑い声が轟く、開いた穴から血を垂れ流すアーバンと、切り裂かれ閉じてしまった目を気にかけるセナ。

「作戦会議でもするか?俺はいいぜ待ってやるよ!!次にやられるのは誰だ?」

「くっ・・・。うぅっ!!」

「あ、アーバンダメよ!動いたら、血が!」

 穴を手で覆っても、ほんの僅かしか止血出来ない。

 抑えているアーバンの右手が、赤く染まっていく、それでもなお顔色を変えない様にしているのは、アーバンの意地だった。

「・・・とは言っても、動かないと死ぬからな」

 汗は止まらない、それでも立ち上がり、アーバンは次の手を考える。

「おぉ?そんな風穴開いても動くなんて、気概があるな、坊主?そこの臆病者とは違ってな」

「誰のことだ」

「そこの紫髪の女だよ、仲間が気持ちを奮わせて戦ってるのに、見てるだけの腰抜け野郎だろ?」

 イザベルはその言葉に反論出来ない。

 その通りだ、戦わなければいけないと分かっているのに、気持ちがついていかない、何度も2人の様に心を奮い立たせようとしても、出来ない。

 

「臆病の何が悪いの」

「あ?」

 人狼の言葉を真っ先に否定したのはセナだった。

 目元の疼きが止んだのか、覆っていた手を離している、痛々しい傷跡、余韻を与える様に血は垂れ続けている。

「誰だって怖いものぐらいあるよ」

「ああ、そうだな。その通りだ、だがな?ここ1番で命を賭けれねぇ奴は、馬鹿にされて当然なんだよ」

 大きい獣の手とそこに付随された鋭利な爪で、目が閉じたセナを指差す。

 セナ自身、指を刺された事には気づいて無いが。

「それはてめぇが1番分かるだろ、灰色野郎。この中で、お前が1番死臭がするんだよ」

「・・・」

「なぁ、どうなんだ?」

「耳を貸すな、セナ」

「死戦を潜り抜けて来たてめぇから見て、そこのビビりはどう見えるんだ?」

「黙れ!!」

「一緒に戦ってくれない人間を!!テメェは仲間って言えんのかぁ!!?」

「くっ・・・この狼風情がっ!!」

 なんと外道な奴かと、アーバンの怒りは頂点に達する。

 今にも殺してしまいたいと、剣に力を込めるが上手く力を伝えられない。

 

「イザベルは・・・仲間じゃないよ」

 

「──セナ、お前っ!!」

「セナ・・・」

 セナの言葉に2人は言葉を失う、そして、対峙する人狼は大声で笑った。

「あっはは、くく、はっはははははは!!!!そうだよなぁ!!そんな奴、仲間じゃねぇよな!!」

「セナ、取り消すんだ。君は、そんな事を言う人間じゃないだろうッ!!」

 セナはイザベルを見る、目は潰されたけど、確かにそこにイザベルはいると、セナは分かっている。

「友達。私の、初めての友達」

「──っ!!」

「怖くて動けなくて良い。私はイザベルに、一緒に戦って欲しいんじゃない」

 ナイフを構える。

 視界が見えないはずなのに、それでもなお折れずに、セナは勝つ気でいる。


「生きていて欲しい。守るために、私は戦うよ」

「・・・くだらねぇ」

 心底つまらなそうに、冷ややかな言葉を投げかける。

「人間のつまんねぇ所だ、守るだの誰かの為だの。結局はそれで争ってるのがお前ら人間だ」

「それがあるから、人は前に進めるんだよ」

「じゃあ、ここがお前らの行き止まりだ。俺が殺すからな」

「なら、私は構わず進むだけだね。私が殺すから」

 互いに鋭く、濃度が増す殺気。

 アーバンとイザベルはセナの背中を見て、同じ事を思う。

 ──どうして、まだ立ち上がれるのか。

 視界はもうない、暗闇に囚われているのにセナという少女は一切の勝機を捨てていない。

 闇を恐れず、まだ進むというのか。

「ぐっ・・・。ああ、セナの言う通りだ」

 腹から絶えず血液が流れながらも、セナの言葉に感化されたアーバンは笑う。

「勝つぞ」

「うん」

「くは、うはははは!!!馬鹿な奴らだ、そんな重症を負ってまだ勝つ気でいんのかよ?そこにいる腰抜けを囮にして逃げりゃいいのにな」

 無論、全員殺すが。もしかしたら逃げる為の時間は稼げたかもしれないのに、なおも向かってくる2人に人狼の身体は震える。

「いいぜ、なら俺もとことん付き合ってやる。そう簡単に死ぬなよ」


「セナ。どうする?」

「・・・」

「どうした?」

 人狼は余裕ぶってこちらに襲いかかる気配はない、ただこちらを見つめて、不適な笑みを浮かべている。

 セナは、別のことに気を取られているのか、アーバンの声には答えない。

「結界・・・」

「え?」

「それがどうし──」

 セナの言葉を聞いて、アーバンとイザベルが結界を見れば、それは確かに壊れている。

「あぁ?おいおい、なんだよ。ダドゥの奴やらかしてるじゃねぇか」

 人狼の意識が逸れる、パラパラと砕けていく結界を見て、呆れた様にため息を吐いていた。

「セナ、どうして結界が壊れたって気づいたんだ?」

 目が見えない筈なのに、どうやってそれを視認したのか、アーバンは気になった。

 もしや、完全には潰れていないのか?

「魔力が、見えるの」

 残念ながら潰れている、しかし、視界が無いからこそセナの頭に入ってくる情報は限りなく少ない。

 魔力の痕跡みたいな、淡く揺れる小さな炎達が先程まで結界が張られていた学園に、ある。

「まぁいい。撤退はするだろうが、お前ら3人を始末してからでも──っ!?」

 人狼の背中に、悪寒が走る。

 自分の中にある存在証明が、何者かに握られる感覚に陥る。

 その隙を見逃さない、アーバンはセナを抱え、イザベルの腕を取った。

 

「走るぞ!」

 一瞬、痛みに顔を歪めながらも、アーバンは2人を連れて森へと駆け出していく。

 人狼はただ、目の前の鹿を見つめる事しか出来ない。

 見つめて、涎を垂らして笑う。

 ご馳走がいた、己の血となり肉となるのに相応しい人間が、いた。




「ユリウス先生、ご無事でしたか」

 剣術科に到着したグィルは、無数もの骸骨兵の上に立つ剛剣、英雄ユリウスを見据える。

「当然。この程度、俺からすればどうって事はない」

 剣を鞘に戻して、辺りを見渡す。

 怪我を負った生徒、それを面倒見る生徒。

「移動するぞ、こいつら時間が経てばまた立ち上がってくる」

「生徒達は?」

「屋上に動かした。──歩けない者はいるかぁ!!」

 ユリウスの声に手を挙げるものはいない。

 皆、力強い眼差しで頷いて、しっかりと己の足で立ち上がる。

「グィル先生、結界の破壊を確認しました」

「・・・よし、では急ぎましょう」

 逃げ遅れた生徒達の安全を確保し、ユリウス達は足並みを揃えて屋上を目指す。

「──っ!!魔力を感知!!」

 アズハンの言葉に、全員に緊張感が走る。

 視線と首を動かして、魔法がどこから来るかを予想して、現れた。


 地面に魔法陣が描かれる、骸骨兵が現れる。

「これは・・・召喚魔法!?」

「そんな、術師は今、ホワイトデイ様が対処してるのでは!?」

 一斉に思い浮かべるのはホワイトデイの敗北、けれどそんな筈はない、あの人が負けるなんて、まず有り得ない。

「グィル先生、ここは俺が。生徒達を頼む」

「ユリウス先生・・・」

 気が遠くなる様な骸骨兵達が目の前に立ち塞がる。

 魔法を扱える人間であれば、そんな芸当を行える魔力量に畏怖を感じてしまうだろう。

「いえ、自分も残ります。アズハン先生、ミュエラ先生、別行動です」

 それに頷き、上の階を目指せる別の通路を目指す。

「きっと、他の階にも召喚されるでしょう。皆さん、生徒達の安全を第一に」

「・・・グィル先生、貴方も残った方が良かったのでは」

「いいえ、目の前の敵を速攻で片付けて、早急に合流できる様にしましょう」

 ホワイトデイ様は、元凶を対処できたのか。

 それを思案する前に、グィルはユリウスと共に、目の前の阿鼻叫喚を一掃せんと、臨戦体制を取るしか、道は無かった。

 

 

 

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