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学園襲撃 二


 魔法を使える人間を、総じて天才と呼んだ。

 その天才達が、口を揃えて敵わないと口にした魔法使いがいた。

 名は、リリステラ・フロエシア。

 魔法文明の全盛期ともいえる時代に突如として現れ、数々の偉業を成し遂げた、大魔法使い。

 魔法の一般化、彼女の提唱した理論は魔法の敷居を下げ、貴族にしか扱えなかった、特別だと思われていた魔法を平凡な物へ、既存の魔法体系のレベルを下げ、魔力を持つもの、即ち全ての人間が魔法を扱える様に組まれた凡夫な理論。

 そして、今ある魔力の法典は、彼女が一度燃やし尽くした焦土の上に咲いたものだった。


 

「・・・ただの魔法使いが、今この現状を打破できるのか?」

 ダドゥが薄気味悪く微笑む、赤い結界内にいる限りは魔法使いなど取るに足らないとでも言いたいのだろう。

「それは、あなたも同じでは?魔物の魔法使いさん」

「分からぬのか?今、地上にいる人間を見よ」

 地上、今はグィル達が骸骨兵と対峙している。

 

「・・・なんだあれは」

 気持ちの悪い魚の様なギョロ目が揺れる、グィル達の技術を見たからだ。


 

「[雷点(ヴァルザ)]!」

 グィルが魔法の名前を唱えた途端、何も描かれていなかった魔法陣に一説が浮かび上がり、雷特有の裂くような音の後、大勢の骸骨兵へと雷光が向かっていく。

 それに続いて、アズハンとミュエラも同様に何も描かれていない魔法陣を駆使して火、同じく雷を展開する。


「何故、この内側で魔法が使える・・・」

 ダドゥが疑問が悩んでいる間に、3人は剣術科へと到達する。

 骸骨兵を倒し切る事は出来なかったが、それでも本来の役目を果たしたといえよう。

「理論の描かれていない魔法陣・・・。ふむ、そういうのもあるのか」

 空の魔法陣が発動する工程、それを至ってシンプルなものだった。

「名前か。理論を飛ばし、引き起こされる現象、結果から生まれた技術・・・?」

「正解です、理論を飛ばす分、大量の魔力と微細な魔力操作を必要としますけどね」

「──ふふはははは、驚いた。ワシの知らぬ事がいまだにあるとは」

 ケタケタと笑うダドゥ、ホワイトデイの後ろで、アルマデルはただ震えている。

 なんて、悍ましい魔法使いなのか・・・。

「アルマデルさん、魔力を出してはいけませんよ」

「・・・っ!」

「ほう、探知に引っかからん。面白い、その若さでそれほどの魔力操作を行えるか」

 また、嗤う。

 面白い玩具を見つけた化け物の笑みは、アルマデルを後ろに下がらせるには十分な不気味さだった。

「して、どうする?あの奇妙な技術も、ワシの兵士達相手では分が悪いだろう?」

「無論、あなたを殺します。そのために来ましたから」

「かっはっはっは!!!まだ言うか?」

「ええ、何度だって言いますよ?」

 ホワイトデイが人差し指を立てる。

 なんの変哲もない、一本の指だった。

「その前に、あなたの目的を喋りなさい?そしたら、私が優しく殺してあげます」

「断ると言ったら?」

「あなたの自尊心を折った上で、殺します」

「断る」

 間髪入れずの拒否、ホワイトデイは短いため息を吐いて憐れむかの様にダドゥへと視線を向ける。

「はぁ、いいでしょう。・・・確約が欲しかったのですが、応じてくれる気配は無さそうなので」

「何をする気だ?」

「なんだと思います?」

「貴様はいちいち質問で返してくるな」

 今度はホワイトデイがクスクスと笑う、上品な彼女らしい、素敵な笑みだった。

「破戒の魔法は、よく扉と鍵で例えられます」

「・・・?」

 ホワイトデイは後ろのアルマデルに視線を移す、まるで授業で教え、実践を披露してくれる、学舎の日常かの様に。

「魔力は鍵で、扉は魔法。錠前に鍵が合わなければ、扉は開きませんよね?」

「は、はい」

「この錠前に合う鍵を作らなければいけない訳です」

 今度は、ダドゥに向き直る。

「流石は先生殿だ、今この時でも授業の一環か?」

「あはは、良いお手本になれれば良いのですが」

 笑っている、というよりも目前の愚か者を嘲笑う笑みだった。

「無駄なことを」

 開錠、それ即ち理論の解剖。

 幾重もの理論で塗り潰された複雑な結界を、壊せる者など存在しない。

 砂の中から砂糖一粒を探せと言っている様なものだ。

「出来ないと思いますか?」

「ああ」

「何故?」

「・・・不可能だ。演算が間に合わんだろう、ワシの魔法は、錠前自体が変わっているのだ。絶え間ない変化を崩せると言うのか?」

「私に、鍵を持たせた事が敗因ですよ」


 どこからか、亀裂が走る音が聞こえる。

 壊れる間際の現象なのに、癖になってしまう程、心地の良い音。

 パラパラと、赤い薔薇の花が落ちてくる。

 風に攫われる事なく、重力のままに花弁が落ち続ける。

「・・・!」

 そして、音が響く。


 ままに割れた。


「[破戒の叡智(ア=クタ)]」

「馬鹿なっ!?」

 もはや破壊を止めれるものは存在しない。

 赤い箱に、ヒビが入り続け、次々と穴が空いていく。

「なぜ、そ、その魔法を扱える!?人間が扱えるものでは無いはずだ!!」

「最近、見る機会がありまして。私なりに改良したものです」

 存在だけが独り歩きしている魔法、[破壊の叡智]。

 今は無き法典の初版、人類最古ともいえる魔法の技術を何故扱えるのか。

 なぜ、改良できるのか。

「──おのれ・・・!」

「さぁ、魔法使いの戦いを始めましょう」

 ホワイトデイは静かに浮遊する、さながらモンシロチョウのように。

 それに反して、アルマデルは震えが止まらない、今にも身を縮めるか、この場から逃げ出したい。

 ダドゥの粘つく様な魔力が解放されている、アルマデルの数倍はある魔力量と、ドス黒い悪意。

「勝った気になるな・・・。純白の魔女」

「勝つ?何度、言わせるんですか?」

「・・・なんだと?」

「殺す。それも徹底的に」


 御伽話、というものがこの世には存在する。

 ガラスの靴、赤と狼、お菓子の家。

 それはあくまで空想の話であり、本によって閉じ込められた物語、あるわけないと分かりながら、描かれた存在。

「この地で生きる以上、理に縛られるのが世の絶対です」

 ダドゥはただ、浮かぶ蝶を見上げている、そこに恨めしい気持ちを孕ませて。

 しかしどうか、彼女の言葉に耳を傾けてしまう、この魔物もまた、魔法使いの一端。

「人類も、魔物も、この地も空も、そして魔法も」

 刺す様な風が吹いた、凍てつくと言った方が正しいか。

 春も終わり、夏を迎えようとする今なのに、まるで真冬の様な寒さが訪れる。

「・・・雪?」

 アルマデルが呟く、手を広げてみれば、確かにそれは掌の上に落ちた。

 小さな白、積もれば銀。

「まさか、ここまでとは・・・」

 ダドゥただひとり、それを理解した。

 ──現在の異常を。

「雪の暖、銀の抱擁、止まぬ歓声、永遠(とわ)の白鳥」

 頭に響く、ホワイトデイの声が脳に直接渡される。

 魔力を繋がれたと、ダドゥは今、理解した。

理想体現(イデア・スペル)──。」


 もし、何にも縛られない魔法が存在したら、誰がそれを縛る事が出来ようか?

 第三者に暴かれる事のない、己が秘めた本質を暴けるのは、誰でもない、唯一の我。

 理想の暴露。

 魔法使いの本質は、世界ですら侵食できる。

 

 その昔に存在した魔法使い、名前も忘れられた愚か者が掲げ、今では深い地中に生まれた御伽話。

 誰も掘り起こす事なく、存在だけは知っていながら、ある筈ないと決めつけた寓話。


 掘り起こした人間がいた。

 リリステラ・フロエシア、またの名を──。


 [白日(ホワイトデイ)]



 思わず、息を呑む。

 雪の様に空を漂う魔法使い、重力に逆らい飛翔を続ける白の蝶、そして、どこまで広がっているのか図れない程に大きな、魔法陣。

「頂を共に登りましょう、魔物さん」


 ──夏に訪れる、銀の世界。



 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

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