前座
「おっはよ〜ございま〜す!グィル先生」
「・・・おはようございます。ホワイトデイ様」
アルディン魔法技術学園の教員達の朝は速い、早朝と言える時間でも、教員室には大勢の教師が訪れていた。
「おはようございます、ホワイトデイ様」
「おはようございま〜す」
通りすがる教師達は、尊敬と憧れを抱えて挨拶をする。
それを一瞥した後に、グィルは一枚の紙との睨めっこを再開した。
「あ、課題ですか?」
「ええ」
「ふむふむ・・・。わ〜、凄い式の長さですね、こちらはセナさんのですね」
「こんな破茶滅茶に理論を書くとは・・・」
普通の生徒達とは2、3倍以上の長さを誇る数式だった。
「解読が難航していると」
「お恥ずかしながら」
「ふむふむ、なるほど〜」
覗き込む様にセナの魔法を解読し始めるホワイトデイ。
真剣な表情、かと思えば面白そうに笑っている。
「大変面白い魔法でしたね」
「・・・流石ですね。解読出来たと?」
「はい、もちろん」
やはりというか、この人の魔法使いとしての素質は段違いだった、グィルも相当に優秀な魔法使いであるはずなのに。
「解説しましょうか?」
「・・・いえ。イディアルが私に提出した物ですので、これは一種の挑戦状でしょう」
彼もまた、教師である前にひとりの魔法使い。
解けない魔法に躍起になる男であった。
「1組を担当するのが、グィル先生である理由が分かった気がします」
「はぁ・・・?」
「学園長も、分かってますね〜」
「──そういえば、今日はセイロス学園長を見ていませんね」
「ソルガラックの方に足を運ぶそうですよ」
いつもなら室内でお茶でも啜っている老人が、今日はいなかった。
セイロス・ハバークライ。
魔法協会から学園の長という形に収まった彼は、ホワイトデイと同等、数々の魔法使いから尊敬の念を集めている。
当の本人の性格は、穏やかで物腰柔らかい老人である。
「ソルガラックですか・・・。先月はフロエシアにも伺ったらしいですが」
「時世が時世ですしね」
「・・・やはり、魔物が?」
「魔物と、悪魔です」
その言葉を聞いて、グィルは眼鏡を外す。
目頭を押さえながら、今この世に起きている異常事態を思案する。
「魔物の異常行動、頻繁な悪魔の出現・・・」
「人類が負けるのも、時間の問題かもですね〜」
「笑えませんな」
「ふふ」
ホワイトデイは自分の席に座って本を開く、最近発行された魔法協会の著書だった。
「今年はどうですか?」
「難航してますね。二重構造の実現は、まだ先の話でしょうね」
「・・・貴女が研究に加われば、こんなに時間をかける必要ないんですがね」
「えぇ〜?人類の魔法に大いに貢献したんですよ?そろそろ、私自身の趣味に時間を費やしてもいいと思いません?」
「人類の発展よりも大切なんですか?」
「結果的に人類は前に進む──、・・・あら?」
ホワイトデイの視線がグィルから窓へと移った。
それを不審に思いながらも、その数秒後にグィルも気づく。
「これは・・・っ」
背筋を撫でる様な悪寒と、あまりにも莫大な魔力に。
「──!!」
先に動いたのはホワイトデイだった、魔法使いとは思えない身軽さで、換気のために開けられた窓に向かって飛んで──。
「きゃっ!」
飛べなかった。
窓まで届かず、思いっきり倒れ込む様に床へと転んでしまった。
「ホワイトデイ様!?」
「・・・やられましたね」
むくりと起きながら、ホワイトデイは気だるそうに窓を睨む、この学園を囲むかの様に、赤色の結界が構築されていく。
「皆さん、集まってください」
教員達の視線がホワイトデイに集まる。
今回の異常事態を解決すべく、教員から魔法使いの眼差しに切り替わっていた。
「どうですか?」
「ダメです、どの発動方法も解体されます」
試しに、教員の1人が魔法を発動しようとすれば、バチッと火花の様な物が散って、魔法が消されてしまう。
「破戒魔法でしょうか」
「・・・お粗末な破戒魔法ですね」
ホワイトデイが試しに魔法を発動しようと、陣を展開すればまた同じ様に火花と共に霧散する。
「恐らく、組み上がった魔法に反応する破戒魔法でしょう。魔力には一切の反応を示しません」
「魔導石なら扱えますね。取ってきます」
魔力を流せば現象を発動できる魔導石、人類が発明した叡智、学園には緊急用にそれらが準備されている。
「皆さんは学生寮へと行って生徒達の保護を」
幸いにも、教員室と学生寮は同じ棟にあった。
「ホワイトデイ様は?」
「元凶を潰しに行きます」
冷徹な言葉に、頂の寒さを感じてしまう。
なんと頼り甲斐のある魔法使いなのかと感嘆していると、窓際に居たひとりが声をあげた。
「おい!!骸骨兵が向かってくるぞ!?」
その言葉の通り、ゾロゾロと人体の慣れ果てがこの学園に向かってきていた。
「どういう事だ・・・。この結界内は魔法が掻き消されるんじゃないのか!?」
「──順序が逆なのでしょう」
簡単な事だ、結界を張る前に骸骨兵を召喚した。
この世に生まれ落ちたという現象に成ったのなら、結界の破戒の判定には入らない。
「召喚魔法・・・馬鹿な。では、あの骸骨兵は過去の記録の再現ではない?」
「どちらにしろ、人類の魔法体系を追い抜いた技術ですね。完全な生命の再現といえましょう」
──召喚魔法。
この世界に空想の生き物、及び世の万物の記録を生み出す魔法であり、人類が手を出せない技術でもある。
「グィル先生、剣術科まで行き応援を」
「了解しました。アズハン先生、ミュエラ先生、私と一緒に」
「わかりました」
「了解〜!」
この場にいるホワイトデイを除く最高戦力を、別棟である剣術科に向かわせる事に。けれど、それに反発する人間も無論いる。
「剣術科にたった3人で!?だめです、俺も行きます!!」
「いいえ、ダメです」
「何故!?」
魔導石の箱を開けて、使える事を確認したグィルはその全てを他の教員に渡す。
「お粗末な破戒魔法と言った筈ですよ」
ホワイトデイは指に魔力を込めて、宙に魔法陣を描く。
「破戒・・・されない」
「空の魔法陣。これを扱えるのは、アズハン先生、ミュエラ先生。そして、それの開発者であるグィル先生だけですから」
「し、失礼します!!」
驚くのも束の間、ヒースクリフの令嬢、アルマデルが息を切らせながら教員室にやってきた。
「アルマデル嬢!?」
「あ、アズハン先生。おはようございます・・・。ではなく!!」
「考えてる暇はありませんね。では、私の指示の元、皆さん動いてください。アルマデルさん」
「え、あ、はい!?」
「貴女は、私と一緒に来る様に」
「・・・はい?」




