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番外編 〜羽をもがれた蝶々〜


「シャル様、おはようございます」

「・・・もう朝?」

 朝の日差しとメイドのシフォンからの言葉で、シャルは目覚めた。

「お昼でございます」

「そう」

 座っていたソファから立ち上がって、完成した絵を見つめて、蹴飛ばす。

 荒々しい音が響いて、地面に転がった。

 

「身体洗う」

「準備出来ています、お着替えも」

「そう、ありがとう」

「・・・少しは片付けをしてはどうですか?」

 散らかった絵と、床のカーペットに飛び散った絵の具を見てシフォンはため息を吐いた。

「何のために貴女がいるの?」

「はぁ」

「・・・何?」

「それはこちらの台詞です。どうして、完成した絵をいつもこんな風に・・・」

 先程蹴った絵だけではない、他の絵達も地面に転がっている、素人であるシフォンから見ても、絵の完成度は高いのに。

「別に、気に食わないから」

「画材も高くは無いんですよ。お金を無駄に消費してるのと変わりません」

「いくらでもお金はあるし、いいでしょ」

「シャル様・・・」

 主人であるシャル・ツアンサは、一言でいえば荒れに荒れていた。

 人を殺す訳でもないのにいつも殺気に溢れているし、絵を蹴っ飛ばしたり刃物で引き裂いたり散々だった。

「ご飯は?」

「モノリス様がお作りになっていますよ」

「そう」

 原因は知っている、あの日発令された奴隷解放令。

 これのおかげでレヴァーティアという国から奴隷という階級はなくなった。

 それは当然、この屋敷も例外では無い。

「・・・この絵は、大事にしてますよね」

 端っこに飾られた風景画、アトリエの窓から見える景色を描いたその絵だけは綺麗に原型を持っていた。

 他にあった過去の絵は、全て切り裂いたのに。

「触らないで」

「──っ、は、はい」

「・・・じゃ、行ってくる」

 来ていた分厚いドレスを脱ぎ散らかして、シャルは下着姿になる、大人らしい真っ赤なレースは、シャルにはとても似合っている。

「脱ぐなら脱衣所で脱いでください」

「うるさいな・・・」

 ぼやきながら、扉を開けて下着姿のまま浴室へと向かっていくシャル。

 その少女の様な佇まいは、ここにいた奴隷の少女と姿が重なった。


「ねえ、シフォン」

「はい、ここに」

 浴室から聞こえた主人の声が聞こえて、シフォンはその言葉に反応する。

「ドレスと下着、違うの持ってきて」

「・・・」

「速く」

「失礼しました、今日の気分をお聞きしても?」

「ドレスは白、下着は赤」

 それだけを聞いて、シフォンは再びシャルの自室へと向かった。

「・・・」

 シャルは姿見に映る自分の身体を見つめる。

 背は高いが女性としての印象は成長しなかった、枝の様に細い、世間ではスレンダーと言われるその身体。

 綺麗に伸びた癖ひとつない灰色の髪。

「・・・くだらない」

 傷ひとつない自分の身体を抱きしめて、シャルはぼやいた。



 シフォンは少し早歩きで長い廊下を歩いていた。

「あ、モノリス様」

「シフォン様、おや。どうして着替えを?」

「今日の気分を外してしまいました」

 そう言えば、モノリスは苦笑いと優しい声で笑った。

「・・・シャル様がここまで荒れるとは」

「そうですな。私も、長い間シャル様の執事としてこの屋敷にいますがね・・・。ここまで荒れたシャル様を見るのは初めてです」

 モノリスとシャルは長い付き合いだった、そんなモノリスが初めて見たと言うのだから、今回の件は相当こたえたらしい。

「シャル様、大丈夫でしょうか」

「どうでしょう、何とも・・・。おっと、すみません。引き留めてしまって」

「あ、いえ。では」

 止めていたのはシフォンだったが、モノリスは一言を残して去っていく。

 そうだ、湯冷めしてはまた機嫌を悪くしてしまう。

「・・・今の私に出来ることは、ただ支えるだけ」

 その事がとても歯痒くて仕方なかった。

 

 

 

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