魔力の森にて 三
書類が送られてきて、目を疑った。
少女がひとりで、災害にもなる黒竜の幼体を仕留めた、そう綴られている文字は、はっきりと濃く記された黒いインクでしかない。
「・・・何かの間違いでは?」
「そう思う気持ちはわかります、けれど、どうしても結論を変える事は出来ません」
ボクは知っている、竜の恐ろしさを。
「セナさん。君の存在を看過出来ない、ボクと一緒に来てもらいたい」
2人の間に、風が吹く。
穏やかに流れているそよ風は、ルリが放っている圧力なのではと、錯覚してしまう。
「・・・っ」
セナの姿勢が低くなる、降伏の宣言ではない、どこからでも来いと構えた臨戦体制。
「もう1度、聞くよ。君は何者だ」
「・・・何者でもありません、私は、ただの生徒──」
論ずるに値しなかった。
「ただの生徒ならば、真夜中にここまで来るなんて非常識な事はしない。魔物が活発になるこの時間、魔物が寄り付くこの森に」
ただひとりで訪れる訳がないだろう。
「何が、いるんだ。君の背後に」
「──っ!!」
ピリッと、ルリの身体を殺意がなぞる。
それが目の前の少女から渡された殺気だと気づくのに、数秒遅れてしまった。
「馬鹿な事をっ!!」
セナが突進にも近い速さで接近してくる、それに応戦するため、腰に携える剣に手を伸ばす。
──抜いていいのか、相手は子供だ。
それは果たして騎士としての矜持か、己が本来持ち合わせている倫理観か、けれど、ルリが戸惑うには十分な理由だった、そして、セナが間合いに入るにも十分だった。
「ふ──っ」
少女は両手を、腰の両端にあるふたつの刃に伸ばす。
右手で、左腰の剣を。
左手で、右腰のナイフを。
どちらで来る──?
相手の一挙手一投足を読んでしまうのはルリの癖だった、けれどその癖がルリをこの地位へと引き上げた。
考えうるのは、両刃から来るニ刀の挟撃、けれどそれを行うにはナイフの間合いが短い。
斬撃を予測する、まずは、後方に下がって直剣を避ける──。
目にも止まらぬ抜刀、ルリの細身の剣がセナの訓練用の剣を阻まんと構える・・・しかし。
「っ!?」
まず、ニ刀による挟撃は来なかった、あったのは直剣を鞘から引き抜き、抜刀の勢いのまま速度の乗った──。
・・・足か!
防御体制を変える、手首を器用に翻して、下段に放たれた直剣を受け止める。
よりも前に、セナの直剣が地面に刺さる。
おおよそ、45度の角度を保った剣に、ルリは意識が逸れる、視線がそこに向く。
なぜ?
変だった、セナの刃には力が籠っていない、ルリの刃に当たるよりも前に、地面に刺さっている。
なぜ──。
「うっ──!?」
2度目の思考に陥ろうとした瞬間、鈍い音と共に、こめかみに衝撃が走る。
よろめきながら、何が起こったのかを確認してみれば、それをすぐに理解した。
回し蹴りだった、厳密にいえば左足の踵を大きく回して放たれた、後ろ回し蹴り。
なんて器用な子なんだと、同時に驚く。
先程地面に刺した剣は支えになっていた、右手で軸を取りながら、突進の勢いを殺さずに、流れる様な2撃目。
「──は」
それはルリの溢した息か、セナが吸い込む息の音かは認識できない。
銀色が光る。
命中を確認し、倒れそうになったルリへと追撃を決めようと、空いている左手で、ナイフを鞘から抜く。
「──っ!」
これは本気の眼差しだった、一切の揺れを見せないセナの無機質な金色の瞳は、ルリの顔ではなく、その細く綺麗な首筋を捉え続ける。
支えにしていた右手に力を込め、離す、僅かな跳躍。
身体を無理矢理捻って、空中で順手から逆手に持ち帰る。
数秒の事だった、その一連の動作を瞬間に行われた。
「ぁ」
なんて、綺麗なんだと思った。
曲芸にも似た動きで、目の前の小さな少女はそれをやってみせる。
衝撃が走る、己の身体が地面に伏した──。
「ふ・・・っ!」
セナの息を入れる声がした、月を背にして、逆手持ちにしたナイフを首元で構えている。
空中で体勢を整えた。
慣れた身体捌きだった。
こんなにも、綺麗に人を殺せる人がいるのか──。
戦闘描写か苦手すぎる、、、。分かりづらかったら本当にすみませんでした




